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74話
しおりを挟むそんなことを思いながらも、既に過ぎてしまったことは仕方がない、ということで、これ以上は何も言わないでおこうと思いますわ。
まぁ....ため息くらいは許しておいて欲しいですけどね。
全く.....私の婚約を何だと思っているのか。
好きでキーン様と婚約していたわけではありませんし、悪びれる様子もなく笑っているお父様を見ると、どうしても苛立ってしまいますわ。
なんて思いながら、私宛のキーン様の手紙に手を伸ばしました。
お父様の手紙の内容から察するに、きっと私の方も復縁して欲しい、ということがダラダラと書かれているんでしょうね。
そう思うと、一気に気分が憂鬱になってきますが、このまま破り捨ててしまう訳にもいきませんし、一応何が書かれているのか、だけは確認しておかないとですわ。
はぁ.......仕方ないです。
自分にそう言い聞かせるように一度机の上に置いた便箋を再び手に取りましたわ。
『親愛なるヴァイオレット』
という寒気のする言葉から始まった手紙は、一言で言うなら想像通り。
『あの時の自分は普段は感じない大人の魅力に現を抜かしてしまった』
『心はずっとヴァイオレットにあって、今でも婚約破棄だと言ってしまって後悔している』
なんて今更過ぎる言葉が並んでいましたわ。
はぁ.......何が大人の魅力に現を抜かした、ですか。
確かにキーン様の隣にいた女性は胸も大きくてとても綺麗な方でしたが、私に貧乏人とか婚約してやっている、と言う態度は常に、だったではありませんか。
それに私をエスコートしたくない、とも言ったことがありましたわね。
なので、今更そんなことを言われても全く心は動きませんし、逆に寒気がしてくるくらいですわ。
しかもなんですの?
『どうせ俺のことが恋しくて再び求婚されるのを待っているんだろう?』
って、バカですの?
散々、反省の言葉を並べたなら最後まで謝罪の意思だけを見せておけばいいものの、どこからそんな自信が出てきますのよ。
そんなことを思いながら、キーン様の手紙をグシャっと握りつぶしている私に、お父様は焦ったような表情で
「おいおい、そんなことをしたら読めなくなってしまうじゃないか」
と言って私の手から、キーン様の手紙を取り上げましたわね。
読めなくなってしまう、って.......
「別に私たちは読んだんですから捨ててしまえばいいのでは?」
お父様の言っていることが理解できず、首を傾げながらそう言うと
「いや、何かの役に立つだろうから一応取っておこうと思ってな。こんな恥ずかしい手紙を晒される、となると大人しくなるとは思わないか?」
私の質問にそう言ったお父様は、いたずらをする子供のようにニヤッと笑いましたわね。
まるで、これから起こることを想定しているかのような言い方ですが.......たまにお父様が私にも理解が出来ないことを考えるので驚きですわよね。
ただ、私としてはキーン様の件が片付くのであればなんでもいいので、お父様にお任せしておこうと思いますわ。
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