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92話
しおりを挟む深呼吸をしたおかげで、なんとか落ち着くことは出来ましたがキーン様のことはまだまだ終わっていませんわ。
はぁ......再び黙り込んでしまったので、また待っていないといけませんし.......本当に何がしたいんでしょうね?
もしかして、自分が不幸だから、と仕返しにでもきましたの?
なんて思いながらキーン様を睨みつけていると、流石のお父様も痺れを切らしたみたいで
「一体何を言う為に来たんだ?ヴァイオレットは殿下とは婚約していないし、恋仲でもない。聞きたいことは以上か?」
とキーン様に声を掛けていますわね。
ですが、この状況だとまるでお父様がキーン様を虐めているかのように見える、というのが複雑な気持ちになりますわ。
まぁ、ここには3人しかいないのでいいんですけど......。
なんて思っていると、お父様の言葉に一瞬驚いた顔をしたキーン様ですが、
「あ、あの.....その..........」
モゴモゴと話し始めましたわね。
やっと会話が進む、ということでしょうか。
そう思いながら、お父様と2人でキーン様の言葉に耳を傾けて待っていると
「こ、婚約を........」
蚊の鳴く声、という言葉がピッタリと当てはまる、気を抜いていたら聞き逃してしまうのでは、というほど小さな声でそう呟きましたわね。
お父様が思わず
「は?」
と間抜けな声を出していたので笑ってしまいそうになりましたわ。
そんな中、やっとのことで覚悟を決めたんでしょう。
急にバッと顔を上げたキーン様は私とお父様を交互に見た後にこう言ってきましたの。
「俺とまた婚約してくださいっ!」
もちろん、これに対する私の回答は決まっているので
「嫌ですわ」
と即答しましたけどね。
ただ、しっかりと頭を下げて私とお父様に敬語を使って頼んできたのを見ると、キーン様も切羽詰まってきているのがわかりますわ。
まぁ、だからと言って私の答えは同じですけど。
なんて思っていると、頭を下げるキーン様を見たお父様は、はぁ......と深いため息をつきながら
「私としては長年婚約していたから、という情がないわけでもないが.....自分から婚約破棄したくせにあまりにも勝手すぎないか?」
そう言っていますわね。
いやいや......確かに私とキーン様は長年、婚約をしていましたわよ?
ですが、望まない婚約でしたし、我が家になんの利益のないものだと言っていたではありませんか。
それなのに、情がある、って........。
こう言っては可哀そうですが、情なんてかけらもありませんわよ?
驚きのあまりお父様のことをチラッと見ると、真剣な顔をしてキーン様のことを見ているので私の視線には気付いていないみたいですわね。
一方、キーン様はお父様の言葉に
「そ、その......それは..........」
再びモゴモゴとしながら下を向いていますわ。
はぁ.....こんなのと誰が結婚したい、と思うんですのよ。
正直、今のキーン様は私の知っているキーン様とは全く違いますわ。
私の知っているキーン様は自信に満ち溢れていて、常に威張っている人だったので、目の前にいる人が同一人物だと思えなくなってきました。
どちらも嫌いではありますが、前の方がハッキリと言葉を発してくれるのでマシですわね。
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