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93話
しおりを挟むあのように婚約破棄をしておきながら、自分の都合で再び婚約して欲しい、などと言ってくるキーン様に苛立ちを感じますが、なんとかグッと堪えて、お父様がどのような反応をするのか任せよう、と大人しく椅子に座り直しましたわ。
だって、今はお父様がキーン様に話しかけていますしね。
ここで私まで前に出てしまうとまとまる話もまとまらなくなってしまいますわ。
とはいえ、正直話すこともありませんし、ただ一言
「無理だ」
で良いと思いますけど。
そう思いながら、キーン様を睨みつけて様子を窺っていると、再び黙り込んだキーン様に対してお父様は何を思ったのか
「私がいたら話しにくいこともあるか」
と呟きましたわね。
これには流石に驚いて、お父様の顔を凝視してしまいましたわよ。
だって、お父様がいるから話が進まない、というよりは、なぜかキーン様が黙り込んでしまうから話が進まないだけです。
それなのに、苦笑しながらもキーン様を責めることなく、自分が原因で、と話すお父様........。
流石に優しすぎるとは思いませんか?
なんて思いながら、どうするのか、とお父様の様子を窺っていると、なぜか椅子から立ち上がって、私たちに背中を向けましたわね。
そんなお父様の様子を見て、キーン様も驚いているのか目を大きく見開いていますわ。
勿論、私も驚いて呆然としています。
そんな中、お父様だけは優しくニッコリと微笑んで私とキーン様を交互に見ていますわ。
な、なんですの?
お父様は一体どういうつもりでこのようなことをしているのか.....。
そう思った私は、何か話そうと口を開きましたわ。
すると、それとほぼ同時に
「2人で話をした方がまとまることもあるだろう。私は執務室にいるから話しがまとまったら呼びに来てくれ」
お父様はそう言うと、応接室の扉の方に向っていくではありませんか。
これには流石に驚いて、思わず
「そんなことをしなくても私の答えは決まっていますわよ」
と遠慮することなくお父様にそう言いましたわ。
言った後で、マズいと思いながらキーン様を見ると、案の定悲しそうな顔をしていましたが.......別に知ったことではありませんわよね。
自業自得ですわよ。
なんて思っていると、そんな私の考えを察したのかわかりませんが、お父様は寂しそうに苦笑したかと思ったら
「ヴァイオレット......一応話くらいは聞いてやりなさい」
そう言ってきましたの。
話くらいは、とは言いますが同じような事しか言わないことはわかっていますのよ?
それなのに、話を聞いて、と言いますの?
なんて思いながらお父様を見ると、苦笑して小さく頷いていますわ。
はぁ......そんな顔をされたら断れませんわよね。
「.........わかりましたわ」
と私が返事をすると、お父様は苦笑していましたがゆっくりと応接室を後にしましたわ。
すると次の瞬間
「はぁ..........」
今まで黙っていたキーン様の方から、これでもか、というくらいの長いため息が聞こえてきたではありませんか。
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