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捨てられた命

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    高校卒業後、とりあえず大手だからと物流会社に就職した佐藤萌衣。思えばこの時から人生の選択を間違っていたのかもしれない。
   重い荷物をスリムカートに積み上げ、行き先別の指定の場所まで引いていく。
「佐藤さん、トラックはまだですかね?」
  疲れた表情の契約社員に話しかけられ、カートが通路近くまで繋がっている事に気がついた。
「とりあえずこれは向こうに逃がしておきますね」
   体力勝負の物流業界。それでも2年は頑張った。
「と、思ったら来たじゃん」
   シャッターを上げて、ドライバーの所に行く。
   このごま塩髭のドライバーも佐藤さん。いつも冗談交じりに話しかけてくるけど、今日はお疲れみたい。
『佐藤さん』
   今ちょっと、変な聞こえ方したかな?私も疲れてるんだろう。
「はい?」

   嘘…でしょう?意識が遠のく。視界が暗転し、私の体はコンクリートの床に倒れた。

「な?!ちょっと!あなたは誰ですか?」
   黒い布を纏った小さな骸骨?私の方が聞きたい!もしかして幽霊?
「失礼な。私は死神です。まさか、この私が失敗を?佐藤祐三さん?」
   私は佐藤萌依…え?声がでない。
「はあ…まさかの佐藤違い。紛らわしいんですよ!あなたは…それにしても、どうするべきか…いっそのこと無かった事に」

   死神は、界の狭間でしばし迷い、萌依の魂を投げた!
   何がどうなってるのー?誰か説明して!てか、助けて!

   惑星に吸い込まれるように落ちた萌依の魂は、そのままそこにあった池の底に。

   
「…うん?何か異物を感じたわね?」
    しっとりと濡れたように輝く黒い髪に、吸い込まれそうな深い銀の瞳の綺麗な女性は、自らの管理する世界を見つめる。
「何か落ちたみたいだね!ボク、見てくるよ!」
    短い巻き毛の金の髪とくりっとした大きな瞳の男の子は、元気に飛び起きた。
「ユリース、気をつけて」

   巨大な森の中心には、神々が聖地と定めたうちの一つ。聖なる泉がある。
「異物っていうか、人の魂…しかも元々この世界の物じゃなさそう?」
   ユリースが手を差し出すと、泉の中から魂が浮き上がってきた。
「うーん。このまま捨てておく訳にもいかないし…本当なら魂のままで居られる訳ないんだけどな」
   ユリースはそれを持ち帰る事にした。

「アルミネア、人の魂だよ」
「そうね?…ユリース、エルダンに調査を依頼してもらえる?異界の人の魂が落ちてくるなんて、普通ないもの」
「うん。それはどうするの?輪廻の川には流せないし」
「そうね…異界の神の痕跡が僅かに感じられるわね…魂自体には問題は見当たらないし、人に戻してもいいけど」

「ちょっと待ってよ。子供が一人で生きられる訳ないでしょ」
   現れたのは、ゴスロリ風の服を着たブルーグレーの長髪が印象的な女の子。
「でも、いつまでもこの姿は可哀想だわ。ネリー、手伝って」
「…もう。仕方ないわね」

  それから約半年。訳が分からないままにアルミネアとネリーに育てられた萌依。
「アルミネア、色々と分かった」
  エルダンは、ぼろ布に包まれた小さな死神を降ろす。
「全く、乱暴な人ですね。私はこれでも一応神なのですよ」
「死者の魂を狩る死神らしい。だが、その赤子は間違って魂を狩られたようだ」
「ええ。ええ。お陰で減給ですよ。そこに来てこの扱い。全く、同じ名字の人物が側にいるなんて普通考えないじゃないですか」

「その異界には、同じ名字が多くいたと聞く」
「そうですけど!普通返事します?本人だと思っちゃうじゃないですか」
「そこでこれを見つけた」
   エルダンが取り出したそれを見て、萌依は必死に手を伸ばした。
「なあに?それ」
「メイの持ち物でスマホというらしい。魔力を使わずに電力?で動いて、離れた者と話したり、情報を見たり色々出来るらしい。処理される前に、持ってきた」
「とりあえず私が預かるわ」

「あの、私は解放して貰えないので?」
「向こうの主神からはどうせ資格停止されているのだ。する事もあるまい。それにメイの事だけではなさそうだしな?」
「む…そりゃ、結果的にこちらの世界に面倒はかけてしまいましたが、単なる業務上の過失ですよ?こんな扱い、あんまりじゃないですか!」
「うるさい、骸骨」
「わ、私にもシュールという名前があるのですよ!」
「そんなの知らない。メイはおねむの時間なの」
  ネリーは、追い払うように手を振る。

  ん…あの時私を捨てた骸骨がいる。ここの人達の言葉の全てはまだ理解できないけど、私にとても良くしてくれる。
 
  これって転生?でもお母さんみたいな人が二人もいるし、普通の家庭じゃなさそう。家具も見えなくて、白くてふわふわしか見えないのは、乳幼児だから?
   何故か私が佐藤萌依だった頃の記憶はしっかりあるけど。

  ここは外国なのかな。私、英語苦手だったんだよな…。

  半年が経ち、ようやく寝返りが打てるようになった。
  視界も少しずつ良くなったし、言葉も喋れないだけで理解できるようになってきた。

  私の名前は前と同じメイ。
  私をよく抱っこしてくれるのは、お母さんじゃなくて、お姉ちゃんなのかな?どうやら10代前半位?ただ、年齢に似合わぬ落ち着きがある。ブルーグレーの髪は染めたのかな?名前はネリー。

  同じ位の年齢のお兄ちゃん?はユリース。見事な金髪だ。
  お母さんは綺麗な黒髪で、忙しそう。時々スマホをいじっている。
  でも名前はアルミネアらしい。日本人の名前じゃない。
   お父さんは…男の人は何人か見かけたけど、どの人か分からない。
  まあ、あの骸骨だけはないだろう。一番口煩くて、文句ばかり。
  それでも、そのお陰で言葉も覚えた。

  みんな忙しいみたいで、ずっと側にはいてくれない。
「まさか、メイを預けられるのが骸骨しかいないなんて」
「シュールです!それと私には抱っこなんて芸当は出来ませんからね!何しろ赤子よりも小さな体ですので」
「無能」
「キーッ!誰が無能ですか!見てるだけなら出来ますとも!」

  ネリーが行ってしまうと、骸骨と二人きりだ。
「あうー!」(池ポチャされた事、忘れてないからね!)
「うあ?」(私はどうして死んだの?佐藤祐三さんは?)

「おや?あなた…まさか記憶があるのですか?確かに三途の川には流していませんが。しかし確かに意思を感じますね…なら」
(メイさん。分かりますか?)
「…う?」(頭の中に声が?)
(ちゃんと私に向けて喋って下さい。これは念話といって、相手に言葉を伝えるスキルです)

  は?スキル?
「うー」(スキルなんて、ラノベの読み過ぎじゃない?)
(まあ、無能な赤子のあなたには無理でしょうか)
「うう!」(馬鹿にしてるの?)
(大体、あなたのせいで私はここでタダ働きさせられているんですからね?)
(うっさい!黙れ骸骨!)

(それが念話です。それにしても、やはり記憶を持ち越してましたか。あと、私は死神で骸骨ではありません。シュールという立派な名前もあります)

  頭の声で話せる?…なんなんだ。これは。

    
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