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王様はおネエ様

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    狩りを行う獣人達を何組も見たけど、魔法を使っている人はいなかった。
   やっぱり、獣人は魔力を体外に出すのは苦手なのかな?
    その分、魔族が魔法が得意なのかも?

    やっと王都が見えてきた。
    入り口で止められたけど、オルグさんの書状を見せたらあっさり通してくれた。
    おおお!ここはもふもふ天国か!多種多様な獣人の方々が、耳や尻尾もそのままに、歩いていく。

    もふりたいもふりたいもふりたい!!辛抱たまらん!
「落ち着くにゃ。いきなり触ったら痴漢にゃ?」
    シュガーは、目の前に自分の尻尾を出してくれた。
    シュガーの手触りのいい尻尾に触れて気持ちを落ち着ける。

    獣人はサイズがまちまちな為か、既製服が売っていない。魔族の人も大概体格がいいから、仕立て服になるみたい。
    どのみち、尻尾穴が開いているから私には上はともかく下は着られない。

「シュガーに合いそうな服があるよ?」
「ワンピースは戦闘には向かないにゃ?」
「普段着にはいいと思うけど…」
「にゃーはお洒落には興味ないにゃ。綺麗な服はメイが着ればいいにゃ?」
    本当に残念だよね…シュガーは美人なのに。

「私はこんなに目立ちそうな服は似合わないよ」
    ああ、でも今はアルミネア似の顔立ちだから、そうでもないのか…自分の事はつい二の次になっちゃうからな。

「主の美しい姿は見たいが、周囲の視線を考えるとな…」
    何を言ってるんだか。アロカシアもヤブランも、はっきりとした目鼻立ちで、それこそ人目を惹く顔立ちなのに。

「アロカシアの時はもっとお洒落してもいいんじゃないかな?」
「それは、余計に視線が煩くなりそうだな」
    ああ。自覚はあったんだね。徹底的に無視してるから、無自覚かと思ってたけど。

    あ、甘芋(さつまいも)が安売りされている。私も好きだけど、ランスも良く食べるんだよね。買っておこう。
「ね、手紙はいいの?メイ」
「特に日付け指定はないし、折角の王都だから、観光したい」
「フレイムの言うように、先に面倒を済ませた方がいいだろう」

    城の門番に手紙を渡したら、このまま少し待つように言われた。
「ダンジョンには入りたいけど、一々許可が必要なんて、どんなダンジョンなんだろう?」
「我は把握していないが、この国には確かもう一つダンジョンがあったな」

「へえ。そっちも行ってみたいね!」
    というか、面倒な手続きが必要なダンジョンより、簡単に入れた方がいいかも?

    暫くしてようやく、文官らしき獣人が来てくれた。
「お待たせして申し訳ありません。この後、陛下がお会いになられます。どうぞこちらに」
「へ?…陛下って王様だよね!どうして?!」

「どうぞこちらへ」
「ちょっと待って下さい…どうして王様に?」
「それは、私には分かりません…ですが、試練のダンジョンは、色々な意味で重要だから…でしょうか?」
「えええ…でも人族の私が行って、いきなり牢屋行きになったりしないかな?」

「…そのカードを持っているという事は、人族ではないでしょう」
(大丈夫だ。主に何かあれば必ず我が助ける)
(我らが、だ)
    うん。ヤブランもランスも信用しているよ。
(メイ、きっと大丈夫なの)
    フレイムには何か思う所があるのかな?

    まあ、もうすぐそこに王様はいると思うし、今更だけど。

    大扉の向こうには、玉座に座る…女性?ええと…王妃様…いや、偏見はだめだけど。
「いらっしゃい。緊張する事はないわよ?」
    野太い声だ。
    男性…だよね?

    謁見の間の雰囲気はとても甘い。両手で抱える程の花が活けられ、絨毯は美しい刺繍が入り、カーテンは薄紅色から赤へのグラデーションになっていて、フリンジ飾りまでされている。
    壁は生成り色の優しい雰囲気だけど、天井から下がるシャンデリアは細かい装飾がされていて、暗い時に灯りを着ければさぞかしロマンチックな空間になるだろう。

「ふふっ…とても可愛らしいお姫さまね!ワタクシ、美しいものは大好きよ!」
    おネエ様だった…。
    
    王様になるのは一番の実力を持つ魔族だと聞いた。
   という事は、この方が一番の実力者なんだよね? 偏見は良くないけど。
「本来なら、実力者でも断る所だけど、丁度ダンジョンを定期的に掃除しないといけない所だったし、ワタクシと一緒に行くなら許可してあげる」

    バチン、と音を立てそうなウインクをして、あっさりと許可を出してくれた。
「しかし陛下!我が国の至宝が眠るダンジョンに、余所者を入れるなど!」
    側着きの銀狼の獣人が抗議する。

「お黙り。この子の価値はアナタには分からないわ!しかもこんなに小さいのに、実力はアナタ以上よ!」
「そんな…まさか!」
「ワタクシ、もう五百年は生きているけど、こんな清冽な魔力を感じたのは初めてよ。それにこんなにも可愛らしくて」

「俺の娘に変な目を向けないで貰えるか?」
「ふうん…ま、そういう事にしておいてあげるわ!じゃあ、今夜はここに泊まって、明日の朝から攻略でいいかしら?」

「え…ダンジョンて、この近くにあるんですか?」
「あら、知らなかったの?ダンジョンの場所は王宮の中庭よ」
    それって、スタンピードとか起こった時に危険なんじゃないの?…でも王様が一番強いんだから、却って安全なのか。

    通された客間でやっと一息つけた。…ここもやっぱり甘い雰囲気の部屋だ。ベッドの上の天蓋は、緻密なレース編みだ。とてもいち冒険者に貸し出されるような部屋じゃない。

「王様、みんなが獣人族じゃないって気がついていたのかな?」
「恐らくは。魔族は魔力を読む事に長けている。少なくともランスと親子ではないと知られただろうな。シュガーも」

「にゃーの妹じゃないって?けど、そんなの関係ないにゃ。にゃーがメイを大好きな事には変わりないにゃ」
「ボクだって。あの王様には悪意はないよ。例えボクが魔物だと知られても、討伐されるような事はないと思うの」

    うーん。万が一問題が起こっても、対処出来る自信があるからなのか、それとも、信用されているのか。
「でも、流石にヤブランの方が強いよね…」
「我が向ける忠誠心が確かなものだと分かるのかもしれないが」
「俺達は眷属だしな」
「それ、我の目の前で言うのか?…嫉妬心を必死に抑えているのに…」

「もう…だからってみんなの扱いに差はつけてないでしょう?」
    もふもふから離れてヤブランと一緒に眠るようにもしているし、頼りにしてる。

    明日攻略するダンジョンはかなり難関なダンジョンみたいだし、気合い入れなきゃ。
    もふもふ従者の人は不満そうだったけど、あの人も充分強そうだ。魔法抜きにしたら勝てないだろう。

    晩餐で出た鶏肉は、シンプルな味付けながら凄く美味だ。ダンジョンで狩れるレッドコークという魔物からドロップする肉らしいけど、私も欲しい!とどめを差したら貰えるかな?

    王様の名前はエーリッヒ様っていうらしいけど、従者の人はエリー様って呼ぶ。私達にも…てか、私にはエリー姉様って呼んで欲しいみたいだ。
    不敬…じゃないんだよね?本人希望なんだから。王様って呼ぶと拗ねるし。

    色々と不安はあるけど、レッドコークの肉は是非とも欲しいから、頑張ろう。






    
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