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婚約破棄が期間限定ってありですか? 年下王子が溺愛してくるのですが!!
後編
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「クラリス?!」
ぎょっとした殿下が、2歩で私との距離を詰める。
「蜘蛛、クモ、くも!! 肩に蜘蛛! いやぁぁぁ」
「平気だ、クラリス。ただの蜘蛛だ。ほら、もう除けた」
速攻で殿下が、蜘蛛を払ってくれていた。
(うっ、ううう、すごく恥ずかしい……)
淑女たるもの、何があってもこんなに騒いだりしてはいけないのに。
この十数年の貴族生活で、そう叩き込まれているのに。
でも、蜘蛛だけは無理。絶対無理。
前世のトラウマが、私を縛る。
そう、私は多分、蜘蛛に噛まれて、その毒が原因で命を散らした。
あの日、呼吸が出来なくなって、それで目の前が暗くなって──。
ガチガチと震え続ける私を包んだのは、温かな体温だった。
「大丈夫だから、クラリス」
柔らかな声が、私を支える。
「屋外だから、風に乗って飛んだんだろう」
言いながら木立を見た彼の全身が、緊張する。
「メリザンド! 梢だ! 潜んでる!」
アラン殿下の鋭い声と同時に。
ゴオッ!
先ほどまで殿下と共にいた令嬢から強い風が放たれ、木の枝ごと人影が落ちて来た。
即座に警備兵が取り囲み、不審な相手を捕らえる。
「えっ、えっ、えっ、何?」
メリザンド?
聞いたことがある名前。それに今のすごい魔力。
「北の、大魔女様……?」
「そうだ。俺の臨時の護衛だ。なのに"ご令嬢と祝福します"だって?」
はぁ、と殿下が溜息をついた。
あれ? 顔の位置が、私の頭より高くない?
身長を抜かれたことは知っていたけど、いつの間にこんなに差が……。
「実は密告があったんだ。今日の園遊会で、俺を狙う刺客が潜むと。それがメリザンドとも因縁のある背後らしくてな。彼女が急遽護衛を申し出てくれたから、伴ったわけだが……」
眉間にしわを刻んで殿下が言う。
「おかしな勘違いをされるとは思わなかった」
「だって、"婚約を破棄する"って言いながら、女の子を連れてたら誰だってそう受け取るわ」
「するわけないだろ! "破棄"なんて!」
っはぁぁぁ──?? 最初のセリフは、じゃあ何よ?
「俺のそばにいて、お前まで刺客の刃に巻き込まれたらと思ったから! "今日は離れてろ"という意味を込めて、今日だけ破棄だ、と言ったじゃないか」
「言ってない! 今日だけなんて言ってない」
しかもそんな破棄、有り得ない!
「言ったよな、俺」
と、急に近くのご友人たちに首を向けてるアラン殿下。
今日の会は本当に、顔なじみばかりが揃っている。
「いいえ、おっしゃってませんでしたよ、殿下。"今日"、までは言っておいででしたけど」
「殿下、クラリス嬢のご反応を期待したお気持ちもあったのではないですか? 焦るクラリス嬢が見たかったのでしょう?」
「ぐっ」
「ですが、クラリス嬢からあの返しが来るとは、僕たちも思いませんでした」
「さすがにあれは……。殿下がお気の毒で、場の温度が微妙になりましたよね」
え゛。
憐みの空気、あれ、アラン殿下に向けられたものだったの?
てっきり"婚約破棄"された私への視線だとばかり。
ん、待って。
「つまり"婚約破棄"はしてない、の?」
「当たり前だろう。刺客も捕らえたし、もともと茶番なんだから、あの言葉は無効だ」
"そもそも父上や公爵家を通さずに、破棄や解消は成立しない"。
殿下が、そうつけ加える。
それはまあ、そうなんだろうけど。
「でも年の差……」
「クラリス。お前はいつも年のことばかり言うけど。お前が俺とくっつけようとしたメリザンドは300歳なんだからな」
「え! 300?!」
(あの可愛い女の子が??)
ぱっと北の大魔女様を見ると、額に青筋が浮き出て見える。
殿下、女性の年齢を言うの、まずかったんじゃない?
いくら数百年前からの伝説で、名を知られた魔女様とはいえ。
「な? 俺とお前の年の差なんて、ないみたいなもんだろ?」
う、うーん?
確かに300歳とか言われると、数十年差もそんなに気にならない?
肉体的にはもともと同年代なわけだし。
あう、でも良心の呵責が。
「大体、俺が幼い頃から"めっちゃ好き"って目で見続けておいて、いまさら距離を置くとか、何なんだ、お前は」
「"めっちゃ好き"?! 私、そんな目で見てた??」
「見てた。"めちゃくちゃ好き"って、ずっとお前の目から聞いている」
かあああああ、と顔が火照る。
くっ、私め。そんな趣味丸出しで殿下のこと見てたなんて!!
アラン殿下の顔が良すぎるのがいけない!
好み過ぎるのがいけない!
どんな行動も可愛すぎるのがいけない!
それで最近近づくのを我慢していたら、婚約破棄っていうから、ああ、そうなんだって……。
一抹なんて、嘘。
本当はすごく寂しく感じた。
そんな私に優しい眼差しを落として、殿下が熱い声で囁いた。
「待ってろ。俺はすぐに育つから。お前が"年の差"なんて持ち出せないくらい、頼もしい男になるはずだから。変な壁とか作らずに、今みたいに委ねててくれ」
「!!」
言われて気づいた。
私、蜘蛛の件からずっと、殿下の腕の中だった!!
加速を繰り返した心臓が、今度は大きく鳴り響く気がする。
この心音、絶対彼にも伝わってる。
「な?」
にこりと微笑む殿下にトドメを刺され、思わずコクリと頷いてしまう。
ああああ、犯罪に。犯罪になりませんように。
「俺を夢中にさせた責任を取ってもらう日が楽しみだ──」
"蜘蛛よけ"にと殿下が庭にハーブを配し、"虫よけ"にと自身で私につきまとうようになったのは、刺客の黒幕を暴いて、真の犯罪者を押えた翌日からのことで。
──男の子が青年になるのは、びっくりするほど早かったのだった。
《婚約破棄が期間限定ってありですか?》完
ぎょっとした殿下が、2歩で私との距離を詰める。
「蜘蛛、クモ、くも!! 肩に蜘蛛! いやぁぁぁ」
「平気だ、クラリス。ただの蜘蛛だ。ほら、もう除けた」
速攻で殿下が、蜘蛛を払ってくれていた。
(うっ、ううう、すごく恥ずかしい……)
淑女たるもの、何があってもこんなに騒いだりしてはいけないのに。
この十数年の貴族生活で、そう叩き込まれているのに。
でも、蜘蛛だけは無理。絶対無理。
前世のトラウマが、私を縛る。
そう、私は多分、蜘蛛に噛まれて、その毒が原因で命を散らした。
あの日、呼吸が出来なくなって、それで目の前が暗くなって──。
ガチガチと震え続ける私を包んだのは、温かな体温だった。
「大丈夫だから、クラリス」
柔らかな声が、私を支える。
「屋外だから、風に乗って飛んだんだろう」
言いながら木立を見た彼の全身が、緊張する。
「メリザンド! 梢だ! 潜んでる!」
アラン殿下の鋭い声と同時に。
ゴオッ!
先ほどまで殿下と共にいた令嬢から強い風が放たれ、木の枝ごと人影が落ちて来た。
即座に警備兵が取り囲み、不審な相手を捕らえる。
「えっ、えっ、えっ、何?」
メリザンド?
聞いたことがある名前。それに今のすごい魔力。
「北の、大魔女様……?」
「そうだ。俺の臨時の護衛だ。なのに"ご令嬢と祝福します"だって?」
はぁ、と殿下が溜息をついた。
あれ? 顔の位置が、私の頭より高くない?
身長を抜かれたことは知っていたけど、いつの間にこんなに差が……。
「実は密告があったんだ。今日の園遊会で、俺を狙う刺客が潜むと。それがメリザンドとも因縁のある背後らしくてな。彼女が急遽護衛を申し出てくれたから、伴ったわけだが……」
眉間にしわを刻んで殿下が言う。
「おかしな勘違いをされるとは思わなかった」
「だって、"婚約を破棄する"って言いながら、女の子を連れてたら誰だってそう受け取るわ」
「するわけないだろ! "破棄"なんて!」
っはぁぁぁ──?? 最初のセリフは、じゃあ何よ?
「俺のそばにいて、お前まで刺客の刃に巻き込まれたらと思ったから! "今日は離れてろ"という意味を込めて、今日だけ破棄だ、と言ったじゃないか」
「言ってない! 今日だけなんて言ってない」
しかもそんな破棄、有り得ない!
「言ったよな、俺」
と、急に近くのご友人たちに首を向けてるアラン殿下。
今日の会は本当に、顔なじみばかりが揃っている。
「いいえ、おっしゃってませんでしたよ、殿下。"今日"、までは言っておいででしたけど」
「殿下、クラリス嬢のご反応を期待したお気持ちもあったのではないですか? 焦るクラリス嬢が見たかったのでしょう?」
「ぐっ」
「ですが、クラリス嬢からあの返しが来るとは、僕たちも思いませんでした」
「さすがにあれは……。殿下がお気の毒で、場の温度が微妙になりましたよね」
え゛。
憐みの空気、あれ、アラン殿下に向けられたものだったの?
てっきり"婚約破棄"された私への視線だとばかり。
ん、待って。
「つまり"婚約破棄"はしてない、の?」
「当たり前だろう。刺客も捕らえたし、もともと茶番なんだから、あの言葉は無効だ」
"そもそも父上や公爵家を通さずに、破棄や解消は成立しない"。
殿下が、そうつけ加える。
それはまあ、そうなんだろうけど。
「でも年の差……」
「クラリス。お前はいつも年のことばかり言うけど。お前が俺とくっつけようとしたメリザンドは300歳なんだからな」
「え! 300?!」
(あの可愛い女の子が??)
ぱっと北の大魔女様を見ると、額に青筋が浮き出て見える。
殿下、女性の年齢を言うの、まずかったんじゃない?
いくら数百年前からの伝説で、名を知られた魔女様とはいえ。
「な? 俺とお前の年の差なんて、ないみたいなもんだろ?」
う、うーん?
確かに300歳とか言われると、数十年差もそんなに気にならない?
肉体的にはもともと同年代なわけだし。
あう、でも良心の呵責が。
「大体、俺が幼い頃から"めっちゃ好き"って目で見続けておいて、いまさら距離を置くとか、何なんだ、お前は」
「"めっちゃ好き"?! 私、そんな目で見てた??」
「見てた。"めちゃくちゃ好き"って、ずっとお前の目から聞いている」
かあああああ、と顔が火照る。
くっ、私め。そんな趣味丸出しで殿下のこと見てたなんて!!
アラン殿下の顔が良すぎるのがいけない!
好み過ぎるのがいけない!
どんな行動も可愛すぎるのがいけない!
それで最近近づくのを我慢していたら、婚約破棄っていうから、ああ、そうなんだって……。
一抹なんて、嘘。
本当はすごく寂しく感じた。
そんな私に優しい眼差しを落として、殿下が熱い声で囁いた。
「待ってろ。俺はすぐに育つから。お前が"年の差"なんて持ち出せないくらい、頼もしい男になるはずだから。変な壁とか作らずに、今みたいに委ねててくれ」
「!!」
言われて気づいた。
私、蜘蛛の件からずっと、殿下の腕の中だった!!
加速を繰り返した心臓が、今度は大きく鳴り響く気がする。
この心音、絶対彼にも伝わってる。
「な?」
にこりと微笑む殿下にトドメを刺され、思わずコクリと頷いてしまう。
ああああ、犯罪に。犯罪になりませんように。
「俺を夢中にさせた責任を取ってもらう日が楽しみだ──」
"蜘蛛よけ"にと殿下が庭にハーブを配し、"虫よけ"にと自身で私につきまとうようになったのは、刺客の黒幕を暴いて、真の犯罪者を押えた翌日からのことで。
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