「愛さない」と告げるあなたへ。ほか【異世界恋愛短編集】

みこと。

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欲望には忠実に。~私が虐げられるのは今夜までです!

5.今日もダンスを

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 ◇




 殿下は。
 パーティーでお会いした時すでに、私が"シエラ・グレイフォルド"だと分かっていたらしい。

「あれほど見事な赤い目は、皇家の血を引く者にしか現れませんので」

(それでパーティー会場で、多くの人が私を見て驚いていたのね)

 皇家の方々を間近で見たことがない私は、知らなかった。


「シエラ嬢の母君は、我がイトコ叔母です」

 そこまで血が近いとは、聞き及んでなかったけど。


 ひとめ見て私の身元を察し、さらに私がの状態であることを見てとったらしい。

「僕の血を少しお分けしたら、すぐにもあなたが"種族の力"に覚醒するかと思ったのですが、僕のほうが夢中になってしまって、思わず血を交わしてしまい……。了承もなく失礼しました。でも責任は取らせていただきますので。……その……僕はずっとあなたが良いなと思っていて……」

 幼い頃に会ったことがある殿下は、私との再会を待ち望んでくださっていたとか。

(ごめんなさい殿下。二歳差が大きかったのか、私はお会いしたことを覚えておりませんでした……!)

 覚醒すると様々な能力が行使出来るけれど、一般的には秘されていて、覚醒していない相手にその秘密を明かすことは出来ないらしい。

 殿下のお話によると。

 力の一部には、"血を交わす"ことで互いの心臓の一部を、互いが保管出来るというものもある。
 そしてそれは、"夫婦の誓い"となる。

 心臓さえ隔離しておけば、何度でも、何回でも、蘇生出来る。──たとえ灰からでも。

 皇族に伝わる"再生の力"。

 
 実母のドレスは、母の血から作られた服だったらしい。
 私の血に反応して、私に応じて復活した。
 母が亡くなっていたため、その再生時間に限界があり、帰り道で塵と消えてしまったけれど。


 父が言った。

「辛い思いをさせてすまなかった、シエラ。お前の成長のために用意したペルラとモニカは"ニエ"だったんだが……。お前が彼女たちに従って辛抱強く、ここまで耐えたとは」

 ペルラとは、義母の名前だ。


ニエ……」

「ああ。彼女たちの血を使って、シエラが力に目覚めればよいと」


 父が私の手を握りながら頷く。
 それでギリギリまで私に手を貸さず、ただ、馬車は父の命令で蝙蝠たちが修繕したらしい。
 
(あの黒衣の御者は、父の部下だったなんて)

 私のドレスが消えたせいで、"肌着姿を見るわけにはいかない"と去ったのかしら。
 そういう時こそ助けて欲しかったのだけど……。

 状況を思い出しながら、推測する。




 殿下と父と私。

 その足元には、物言わぬむくろと化した義母と義姉。
 廊下に倒れるのは、血を失った使用人たち。

 私は久方ぶりに満腹を覚えた。

 
("浅ましさ"じゃなくて、本能だったのね……。でも) 


「"眷属けんぞく"にされなくて良かったのですか? お義母かあ様の故国を眷属化するのが、お父様のお仕事だったのなら」

 先ほど、聞いたばかりの話。
 父が三年間、隣国で行っていた仕事は、人知れず我が国の影響力を増す作業だった。

 吸血行為で配下を広げる能力も、種族の力。

 諸外国はおろか、国民の多くは知らない。
 覚醒していないと知らされない。


 秘密の秘密の支配国。


 こうして私は、夜の帝国の皇太子妃となった。
 血を交わした、皇太子殿下の希望によって。


 ガラスの靴は、私の力で作られたものだった。
 覚醒した今は、自由に作ることが出来る。

 ふたつ揃って私の足で。

 今日もダンスを踊るのだった。



《欲望には忠実に。》完
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