「愛さない」と告げるあなたへ。ほか【異世界恋愛短編集】

みこと。

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冷酷な王弟殿下のふたりの花嫁。~なんでも一緒を望む妹が、私と同じ相手に嫁ぐと言ったので、こうなりました~

本編「後編」

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「……え?」

「本当は死ぬ定めでした。だが私はあなたが、その……とても気に入ってしまい、あちこちからほんの少しずつ生気を拝借して、あなたに注いでまして……。花や木から、上澄みをすくうように細々と」

(! それで部屋や庭の花がすぐに枯れて)

「そして今は、そこの"クズ野郎"の生気をあなたに移したので──」

 転がっている"ぐちゃぐちゃ"に、"双つ影"が目を向ける。

「え!?」

 "クズ野郎"って言った。
 ラ、ライオネル様のこと?
 確かにリサを殺し、私まで殺そうとした最低最悪人間だけど。

「たぶん、人の寿命分くらいには普通に生きれると思います」

 うん、と頷きながらライオネル様の姿をした"双つ影"が言う。

 同じ姿かたちなのに、まったく印象が違う。
 ライオネル様の長身を見上げているのに、どちらかと言えばずっと親しんできたリサの空気が強い。

 全身から私に寄せられる思いが伝わってくる。
 それはとても馴染み深く、覚えがある感覚で。
 戸惑いを感じながらも、自分がどこか安心しているのを実感していた。

 目の前にいるのは、間違いなく私が知るリサ。
 私のことが好き・・・・・・・なリサ。

 ポッ

 急に頬が赤く染まったのを感じた。



「ただ、困ったことがありまして」

 静かな声が、落胆のを帯びる。

「困ったこと?」

「私は、"双つ影"として禁忌を犯しました。人の命を奪い、あなたの命を延ばすという行為は、本来禁じられたものです」

(!!)

「そのため、"双つ影"の力が使えなくなりました……。つまり私はリサの姿に戻れず、当面・・"ただの人間"として、この"クズ野郎"の姿で過ごさなくてはいけないのです」

 心底忌々しそうに、"双つ影"が言う。
 でも、当面ということは……。

「力は戻るんでしょう?」

「ええ。ですがおそらく、数年はかかるかと」

「禁忌を犯しても数年で無効なんだ……」

 思わず、ぼそりと本音が漏れる。

 だ、だって。"双つ影"、すごくない?

「それでも数年といえば、リサがいないことは誤魔化せません。それにリリアを怯えさせた姿でいなくてはならないなんて、こんな……こんなッ……。あなたに嫌われてしまう!」

 "双つ影"が泣きそうに表情を歪めて吐露したけれど。
 それは確かにさっきまで恐怖の対象だった、ライオネル様のお顔なんだけど。

(捨てられた仔犬みたいで可愛い)

「!!」
 ふいにそう思ってしまった自分に驚いた。

「平気よ。あなたのことは怖くないわ。私は大丈夫みたい」
 
 嫌うわけがない。
 だって、姿が違っても"リサ"だもの。

 伝えた途端、ぱっ、と"双つ影"が顔を上げる。
 希望をともしたキュンとした

 あうっ。
 もともとライオネル様の造形はズバ抜けて良かった。
 中身は酷かったけど、いま、この中身は、私が子どもの頃からの味方。私の命の恩人。

(そ、そう。だから慌てることはないの)

 ドキドキと早鐘を打つように響く心音は、事件と真相を知った動揺だから。


 気持ちを落ち着けようと、私と"双つ影"は血の臭いが充満する地下室を出た。
 "ぐちゃぐちゃ"は放置されているけれど、原型を留めてなさ過ぎるので、"双つ影"は後でどうとでも出来る・・・・・・・・・・と言い切った。

 それ・・、ライオネル様のなれの果てなんですけど……。こわ……。


 階段をのぼりながら、私たちは話をする。

 王弟殿下ライオネル様のことを国王陛下にどう報告したらと悩んだ私に、リサはあっさり言った。「話したところで信じて貰えないでしょうから、そのままで良いのでは」と。

 えええ?

 さらに「こんな話を信じてくれるのは、あなたのご両親くらいですし」と付け加えた。

 ええええ?!

「お父様とお母様はご存じだったの?!」
「それは……娘が急にひとり増えたわけですから」
「────。それで、なんでもリサと一緒に動けとおっしゃってたのね」

 私のそばには常にリサがいた。どこに行くにも、嫁入り先にまでも。

「私があなたの命をつないでたのを、彼らは知ってましたからね」

 なんてこと。
 里帰りした時には、きっちり詰め寄らなくては!!

「あなたが私を遠ざけないなら、しばらく"ライオネル"で良いです」

 "双つ影"はそう言うと、嬉しそうにはにかんだ笑顔を見せた。
 
 ぐはっ! び、美形すぎるっ。
 ライオネル様の容姿で、この微笑みは反則だわ!!

 リサだった頃の話し方は面影もない。
 高貴で落ち着いた口調。ライオネル様の外向きの態度そのままだ。

 なのに、あんなに感じていた"他人"を感じない、この距離感。
 う~~っ。ど、どうしたら。なんだかとても体が熱いわ。生命いのちを注がれたせい?
 
「数年後のことは、また明日にでも考えましょう」

 火照る顔を手であおぎながら、私たちは問題を先送りにした。



 こうして。
 ライオネル様に成り代わった"双つ影"と私は、ハーリッド大公領での生活を続けることになった。
 ふたりの大公妃のうちの一人、リサが事故死したという発表は、"またも大公家の呪いか"と人心に哀しみを落としたものの。

 喪も開けた頃、人々は王弟ライオネル・ハーリッドの人柄が、すっかりあたたかく変わっていることに気づく。
 彼が、国に民に心を配る名君となったのは、花嫁、大公妃リリアの影響あってのことだろうと領民は喜びあい、大公夫妻は広く慕われることになった。

 大公妃との間に子が出来ないことだけは惜しまれたが、優れた養子を迎え、ハーリッド領は末永く栄えたと歴史は語る。

 いま、"神の影ドッペルゲンガー"がどこにいるのか。それは城の鏡たちさえも知らぬ話だ。




《冷酷な王弟殿下のふたりの花嫁》本編・完 次話番外編です
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