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わたくしの婚約は破棄される予定だそうです。計画を知ったので、婚約相手の弟ぎみと手を結ぶことにしました。
3.弟君は熱弁する
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(ま……待って。いろいろと理解が追いつきませんわ)
思っていた方向と、何か違うような?
呆然と固まるわたくしに、ゲオルク殿下は言い募ります。
「兄上はアデリナ嬢や俺に甘いですから、全力で縋れば、絆されて思い直してくださるかもしれません」
いつの間にか握りこぶしまで作って、ゲオルク殿下が熱弁中ですが。
わたくしは口の端に出すのも憚られることを、確認せずにはいられませんでした。
「殿下……あの……。今回のお話、ゲオルク殿下ご自身が王太子になられたい、ということではなかったのですか?」
「俺が? とんでもない! 俺は幼い頃、兄上に救われて以来、兄上に尽くすと心に誓ったのです。これまで研鑽を積んできたのも、ひとえに兄上のお力になるため。なのに兄上に出奔されてしまっては、俺の努力は無意味です」
「無意味、ということはないはずですが……。その、ゲオルク殿下? ヴィラント殿下が婚約破棄を宣言されて、王家を出ようとされている、というのは、確証のあるお話なのでしょうか? ヴィラント殿下は、なぜそんなことを?」
あまりに突拍子のない事柄です。うかつに妄信するわけにはまいりません。
わたくしの疑問に、ゲオルク殿下は頷かれました。
「たった一度だけのことですが、俺が5歳の頃、兄上がお話し下さったことがあります。この世界には"悪役令嬢"がいて、兄上は18の時に"ざまぁ"されて城を出ることになるのだと。兄上は"それが原作だから"とおっしゃっていました」
ゲオルク殿下が5歳の時と言えば、ヴィラント殿下は7歳です。
(そんな頃に、そんな会話を?)
信じられない思いに包まれながら、わたくしはゲオルク殿下のお話に聞き入ります。
「どういう意味かわからぬまま、"兄上がいなくなるなんて嫌だ"と大泣きしたので覚えていたのです。そして今回、理解しました。兄上はきっと、この未来を予言をされていたのだと思います」
つまり、悪の令嬢が"マルテ嬢"で、"ざまぁ"とは"魅了"。
"原作"は、"定め"や"運命"を意味するのではないかと。
「兄上は以前より、王位を避けようとしている節がありました。敢えてマルテ嬢の"魅了"に乗っかり、"原作"とやらにそって、城を出てしまおうと目論まれている。俺はそう感じています」
そしてゲオルク殿下が探った情報によると。
もし平民として生きることになっても、ヴィラント殿下は偽名で商団を隠し持っておられるそうです。
彼が十分に生きていけるだけの備えをしていることに気付いたのは、最近。
けれど、それこそヴィラント殿下が未来を見越し、何年もかけて準備していた証左だろうと、ゲオルク殿下はおっしゃいました。
「兄上は本気です! 俺は、兄上に去られたくない! 必死に頼めば、未来を捻じ曲げて残ってくれるかもしれない。"魅了"を覆すほどの"好き"をぶつければ、イケると思うのです。そのためには俺だけではダメだ。同じく兄上のことが好きな、アデリナ嬢の力をぜひとも貸していただきたい」
「えっ、あっ、ええ?」
押し負けてしまうくらい、めちゃくちゃな熱量でお願いされました。
(なんということでしょう。ゲオルク殿下のお話は、わたくしの予想をはるかに超えていましたわ。けれど冗談をおっしゃる方ではないし、そんな空気は微塵もない)
それにしても。
(ゲオルク殿下は以前同様、お兄様大好きっ子だったのね)
ちょっと、重くて心配になるくらいだけど。
あっ、いえ、微笑ましく喜ばしいことだわ。ええ。
彼はそのまま主張を続けています。
「かの男爵令嬢は奔放で自由だと聞きます。おそらく何度も、愛の言葉を兄上に捧げていることでしょう。俺たちは自分を抑えすぎていると思うのです。もちろん王族や貴族として場を見る必要はありますが、私的空間がないわけではない。兄上には、もっと素直な気持ちをお伝えすべきです」
(男爵令嬢……、マルテ嬢)
「──ヴィラント殿下は、平民となってマルテ嬢と生きたいと思っておられるのでは……?」
思っていた方向と、何か違うような?
呆然と固まるわたくしに、ゲオルク殿下は言い募ります。
「兄上はアデリナ嬢や俺に甘いですから、全力で縋れば、絆されて思い直してくださるかもしれません」
いつの間にか握りこぶしまで作って、ゲオルク殿下が熱弁中ですが。
わたくしは口の端に出すのも憚られることを、確認せずにはいられませんでした。
「殿下……あの……。今回のお話、ゲオルク殿下ご自身が王太子になられたい、ということではなかったのですか?」
「俺が? とんでもない! 俺は幼い頃、兄上に救われて以来、兄上に尽くすと心に誓ったのです。これまで研鑽を積んできたのも、ひとえに兄上のお力になるため。なのに兄上に出奔されてしまっては、俺の努力は無意味です」
「無意味、ということはないはずですが……。その、ゲオルク殿下? ヴィラント殿下が婚約破棄を宣言されて、王家を出ようとされている、というのは、確証のあるお話なのでしょうか? ヴィラント殿下は、なぜそんなことを?」
あまりに突拍子のない事柄です。うかつに妄信するわけにはまいりません。
わたくしの疑問に、ゲオルク殿下は頷かれました。
「たった一度だけのことですが、俺が5歳の頃、兄上がお話し下さったことがあります。この世界には"悪役令嬢"がいて、兄上は18の時に"ざまぁ"されて城を出ることになるのだと。兄上は"それが原作だから"とおっしゃっていました」
ゲオルク殿下が5歳の時と言えば、ヴィラント殿下は7歳です。
(そんな頃に、そんな会話を?)
信じられない思いに包まれながら、わたくしはゲオルク殿下のお話に聞き入ります。
「どういう意味かわからぬまま、"兄上がいなくなるなんて嫌だ"と大泣きしたので覚えていたのです。そして今回、理解しました。兄上はきっと、この未来を予言をされていたのだと思います」
つまり、悪の令嬢が"マルテ嬢"で、"ざまぁ"とは"魅了"。
"原作"は、"定め"や"運命"を意味するのではないかと。
「兄上は以前より、王位を避けようとしている節がありました。敢えてマルテ嬢の"魅了"に乗っかり、"原作"とやらにそって、城を出てしまおうと目論まれている。俺はそう感じています」
そしてゲオルク殿下が探った情報によると。
もし平民として生きることになっても、ヴィラント殿下は偽名で商団を隠し持っておられるそうです。
彼が十分に生きていけるだけの備えをしていることに気付いたのは、最近。
けれど、それこそヴィラント殿下が未来を見越し、何年もかけて準備していた証左だろうと、ゲオルク殿下はおっしゃいました。
「兄上は本気です! 俺は、兄上に去られたくない! 必死に頼めば、未来を捻じ曲げて残ってくれるかもしれない。"魅了"を覆すほどの"好き"をぶつければ、イケると思うのです。そのためには俺だけではダメだ。同じく兄上のことが好きな、アデリナ嬢の力をぜひとも貸していただきたい」
「えっ、あっ、ええ?」
押し負けてしまうくらい、めちゃくちゃな熱量でお願いされました。
(なんということでしょう。ゲオルク殿下のお話は、わたくしの予想をはるかに超えていましたわ。けれど冗談をおっしゃる方ではないし、そんな空気は微塵もない)
それにしても。
(ゲオルク殿下は以前同様、お兄様大好きっ子だったのね)
ちょっと、重くて心配になるくらいだけど。
あっ、いえ、微笑ましく喜ばしいことだわ。ええ。
彼はそのまま主張を続けています。
「かの男爵令嬢は奔放で自由だと聞きます。おそらく何度も、愛の言葉を兄上に捧げていることでしょう。俺たちは自分を抑えすぎていると思うのです。もちろん王族や貴族として場を見る必要はありますが、私的空間がないわけではない。兄上には、もっと素直な気持ちをお伝えすべきです」
(男爵令嬢……、マルテ嬢)
「──ヴィラント殿下は、平民となってマルテ嬢と生きたいと思っておられるのでは……?」
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