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第1章 異世界転生と魔の森

1-4 あ、不法侵入だ。

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 異世界に召喚されたあの日から、もう1年が経過した。

 1日のほとんどは、戦闘の訓練に明け暮れている。あとは魔法の研究も続行中。手札をもっと増やさないと、おそらく聖域外では生きていけないだろうから。
 幸い俺の身体は、ルクスという存在と一心同体であることから、寿命という概念がなく、所謂不老というやつらしい。つまり、焦ってすぐに領域外に飛び出す必要は無い。じっくり力をつけていこう。




『そんじゃ戦闘始め!!』
「どんとこいやぁぁぁぁぁ!!!」

『【人形生成】』

 ルクスが唱えたのは土属性魔法【人形生成】。複数のゴーレムを瞬時に作り出す魔法だ。
 これらは俺にとっての仮想の敵。すべて俺に向かって攻撃をしかけてくる。

「【火槍】」

 俺は同時に複数の【火槍】を生成し、ゴーレムの頭めがけて、適格に攻撃をする。大規模魔法で殲滅……というのも一つの手ではあるが、その間もルクスは、【人形生成】によってゴーレムの数を増やし続けている。
 そのためなるべく魔力の消費を抑えつつ、瞬時に、確実に相手を倒すという手段が合理的になる。
 
『まだまだ来るよ!!』

 正面に4,後ろに5ね……。正面のゴーレムは魔法を準備しているな。風の刃でも飛んできそうだ。

『【風刃】』

 やっぱり、攻めてきた。いや、弾幕張って時間稼ぎか?
 とりあえず正面の攻撃を防いで、同時に後ろのやつらを殲滅で。

「【障壁・硬】、【氷鎖縛】」

 防御のために【障壁・硬】で対応。魔力によって壁を作り出すだけだが、強固な上、魔法と物理の両方が対処可能。汎用性の高い無属性魔法という立ち位置。

 それと同時に後ろのゴーレムに放ったのは、氷属性魔法の【氷鎖縛】。氷でできた鎖をイメージし、あいての脚を止める。氷属性は捕縛にかなり向いていると思う。

 そして、瞬時に近づき的確に打撃を入れる。「近接できない魔法使いは雑魚」ってルクスと同じ結論に至ったんだよな。そこからは【身体強化】の練り上げ、瞑想と近接の訓練がメニューに加わった。今ならマラソンで天下が取れそうだ。

 本当は剣とか刀とか、金属製の武器が欲しいんだけど、今のところは作れそうにない。聖域内にレア鉱物とかがあればまだやりようはあったかもしれないが……。


「ふんっっ!!」

バキッッッ!!

「まだまだッッ!!」

ドゴッッッ!!

 おっし。後ろのゴーレムは攻略。
 ん……?なんかでっかい魔法打つ気だな?

『【雷撃弾】ッッ』

 ルクスが大好きな雷魔法か。ロマン溢れるってずっと言ってたな。やっぱりさっきの弾幕はブラフね。でも何か仕掛けてくるってのは最初からわかっていたよ。

「【術式破壊】」

 無属性魔法の【術式崩壊】。元々はルクスの固有能力の【解析】が、敵の魔法解析もできるってことが発覚してから生み出された魔法。【雷撃弾】は解析かつ共有済みだからね。打ち消せちゃうよ。
 それ、ルクスの魔法全部を破壊できるんじゃね?って思うかもしれないけど、そうさせないために、ゴーレムに挟み撃ちをさせてかつ弾幕も張ってきた。絶対何か狙ってるって察することができたから、なんとか対処できたという所か。

『むうううう!読まれてたかぁぁぁ……』

「ほいッッ!【氷槍】!」

 そして残りのゴーレムを一気に片づける。この訓練は、聖域を囲う森における魔物との戦闘をイメージしている。そのため、複数の敵を同時進行で相手し続けなくちゃいけない。

 他のパターンとしては、最大1000体程を相手に、ルクスと協力して対処する対軍用の訓練。後は1対1の対人戦の訓練も行ったり。
 ただ、全部自分で魔法を自分に打って追い込んでるだけなので、別名「超過激自重トレーニング」。別にドМってわけじゃないんだけど。何度か自爆しかけたこともあった。でも俺はかなり楽しんでいる。
 あれ…、やっぱりMなのか?


「ふぅ……。今日の訓練はこの辺にして、あとは魔法の実験でもしよっか」
『賛成!僕は今、収納魔法の構造を考えていたよ!』
「それ欲しいわ…。今後狩りにでかけるなら必須だな」
『でしょ!期待して待っててね!』






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『うん……?』


「どうかしたか?」
『何者かが聖域内に侵入してきたみたい……』
「えっ……?」

 魔法の研究に勤しんでいた中。ルクスは聖域の中に何かが入り込んだ感覚があったみたいだ。
 聖域内に侵入ってやばくね?

「聖域に魔物は入ってこれないよな?」
『うん。ついでに魔物を含め、悪意のある者の侵入を妨げるのがこの聖域の結界だよ』
「とりあえず見に行ってみよう。一応最大限の警戒を。ルクスは捕縛系魔法の発動準備を頼む」
『了解!ガッチガチに練り上げておくよ』

 俺は侵入者のもとへと向かう。めっちゃ強い魔物とかだったら、最悪ここを放置して逃げも視野にいれなくちゃいけない。


 そして視界に、その存在を捉えた。

「あれは……、何だ?黒い光の玉に見えるんだが?」

 俺の目に入ったのは、黒い光の玉のようなものが、ふわふわと彷徨っている様子。
 最初にイメージしたのはまっくろく〇すけ。あ、もう少しモフモフで可愛らしいな。

 ってあれ……?なんかこっちに近づいてきてないか!?

『おそらくあれは精霊だ……!僕以外は初めて見たよ…』
「え、ルクスと同類なのかあれは?」
『そんな気がする。害は無いと思う!』

 ルクスは自分以外の精霊と出会いのも初めて出会ったが、自分と同類であるという確信に近い感覚を覚えているようだ
 とりあえず挨拶でもするか。他の精霊もいるなら仲良くしておきたいし。

「おっっ、ずいぶん元気な精霊だな」
『なんだか楽しんでいる感情が伝わってくるよ。間違いなく精霊だと思う!』

 目の前へとやってきた黒い精霊は、俺の周りをくるくる回り始める。
 本当に楽しそうだな……。

「でもなんで今更やってきたんだ?今まで来たことはなかったんだろ?」
『うーん……。考えられる原因としたらセレーネの存在かもしれない。普段から言っているけど、セレーネの魔力は僕にとってすごく魅力的なんだよ。それは他の精霊にとっても同じなのかも……』
「俺が精霊ホイホイの可能性があるってことか」

 まあ、精霊に好かれるといわれて嫌な気分はしないな。この黒い精霊も悪い奴って感じはしないし。なぜかさっきから俺にくっついて離れない。

「なんか凄くなついているし、このままにしておくか」
『そうだね、害はないと思うよ』

 俺が普段寝泊まりしている場所に向かおうとすると、黒い精霊もくっついてきた。
 なんかかわいいな、こいつ。

「俺たちはもう寝るから、自由にしてていいぞ?」

 ふるふるっ

『なんか了承してるっぽい』
「んじゃ一緒に寝るか!」

 寝てる間に襲われるってこともないだろうし。今日はもう寝てしまおう……。

 フラグじゃないからな?本当に襲ってこなくていいからな?
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