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第1章 異世界転生と魔の森

1-5 合法的モフリ方のススメ

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 うん……?何かに包まれてる気がする。


 これはなかなかに良き抱き枕だ……。


 モフモフがたまりませんな……


 ………


 ん?


「え、ナニコレ?」

『おはようセレーネ!これすごいよね!』

 目が覚めてまず視界に飛び込んだのは、一面の黒。もふもふとした黒。
 どうやら俺はこの巨大な黒いモフモフを抱き枕状態らしい。

『この子、昨日会った精霊ちゃんだよ!』
「一晩で一体何があったっていうんだ!?」

 昨日は結構小さかったじゃん。確かこぶし大くらい。一夜で何をしたらここまで急成長するんだよ。
 想像以上に大きいな。ミニウサギって書いてあるのに全然ミニじゃないってくらいのスケール感だ。あ、飼う人は一応大きめのケージにしておいた方がいいよ。本当にでかくなるから。


『この子ね、やっぱりセレーネの魔力が大好きみたいなの。だから一晩中くっついて魔力を吸い続けてたら、こんなに成長しちゃったみたい!』
「そんなことがあるのね……。
 ん?つまり俺が魔力をもっとあげれば、合法的にこのモフモフを堪能できるってことか?」

 やばい。なんて魅力的なモフモフなんだ。俺好みのモフモフを育て上げようではないか。

「よし!精霊ちゃん!今日の夜また寝るときに、俺の抱き枕になってくれ!思う存分俺の魔力を吸っていいぞ!!」


 ふるふるふるっっ


 うん。言葉はしゃべれないが喜んでいるのが分かる。
 急に俺の周りで荒ぶりだしたもん。狂喜乱舞ってやつだ。
 かわいいやつめ。今夜は浴びるほど俺の魔力をくれてやろう。

 ちなみに、試しに俺が水魔法でつくった水を飲ませたら、身体ごと突っ込んでいった。流石に俺も心配になった。 飲み水のつもりが水浴びになっていたよ。


『せっかくだし、名前を付けてあげたら?』
「そうだな。といっても性別があればつけやすいんだけど……。おそらくだが女の子だよな?」
『うん。僕もそんな気がする。僕の精霊レーダーが女性だってビンビンいってる』

 なんか挙動だったり、纏っている雰囲気が男のそれではないんだよな。
 後、精霊レーダーには突っ込まないぞ俺は。
 ルクスはとても楽しいバトルを終えたばかりなのだろう。


「うーん。折角だから日本的な名前を付けてあげようか……。あとは黒を連想させる名前を……。
 よし!漆(うる)葉(は)ってどうだ?漆のような綺麗な黒色から連想したんだが……?
『おっ!なんかいい感じの名前だね!』

 個人的に結構しっくりきた名前だった。さっそくつけてみよう。

「精霊ちゃん。君の名前は今日から漆葉だ!よろしくな!」

 すると、まるで俺の魔力が抜き取られるような感覚がした。どうやら漆葉が、俺の魔力をさらに吸収したようだ。  これ、魔力をかなり持っていたな……。
 そんなに名前を喜んでくれたのか。

「なんか魔力もってかれたんだが?」
『結構吸っていったね。名前が気に入ったっていう証かな?』
「そういうことにしておくか。気に入ってくれて何よりだ」

 その後も、ルクスと普段通りに訓練に励んだ。
 その間に漆葉は、事前に大量に放出しておいた水で遊んだり、俺にくっついてきたりしていた。愛嬌があっていい感じ。
 
 もちろんその夜は、宣言通りに漆葉を抱き枕にして、モフモフを堪能しながらおやすみしたよ。






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 うーーん。もふもふだ。


 でも……、すべすべもあるな。安心する。


 もう少し眠ろう……。このモフモフとともに。


 そういや、なんか…もふもふ以外の成分多いな。


 うん……?


 ……


 え、誰?


「おはようございます。ご主人様」
『おはようセレーネ!なかなかに刺激的な朝だね!』

 目の前にいたのは、綺麗な黒髪をした、顔の整った美女。え?俺は女性を抱きながら寝ていたのか?

「すまん!寝ぼけて抱き着いていてしまった!」

 即座に俺は彼女から離れる。

「いえ。好きなだけ私を堪能してくださいませ。私もご主人様の濃厚な魔力と香り、その他諸々を頂いております故」

 “その他諸々“がとても気になります。

「え、もしかして漆葉なのか!?」
「はい!漆葉でございます。素敵な名前を頂戴致しました!」
『すごいよね!気づいたら人になってたよ!』

 昨日の夜から抱き枕にしている最中に成長したらしい。ルクス曰く、俺と漆葉の間には、魔力やら何やらがつながっている状態のようだ。ルクスともつながっており、言葉漆葉に伝えることができる。
 ちなみに漆葉は「ルクス様」と呼んでいた。精霊にも序列みたいなのがあるのだろうか。
 その場合、ルクスは間違いなく高位に位置付けられると思う。世界樹と聖域を護り続けてきた存在なのだから。

 どうやら名付けによって精霊との契約のようなものの条件を満たし、主人である俺の形に寄せられた結果、ヒト型に進化したようだ。俺もルクスも常識がないから、とりあえず現実を飲み込んでいるだけだが。

 擬人化という異世界テンプレに出会うことができたよ。何で毎回擬人化するんだろうって思っていたけど、そのツッコミもできない立場になってしまった。


「嗚呼、私はご主人様と運命の出会いを致しました。夢見心地でございます……」

 漆葉はそう言って、俺にしな垂れ掛かってくる。というか体格が大人の女性のそれだから、とにかくやばい。やばちゃん。やばたにえん。


 うん。語彙力が崩壊してきた。耐えろセレーネ。


「お、おう……、喜んでくれて何よりだよ。ところで、どうやってこの聖域にやってきたんだ?ルクスが言うには一度も他の精霊がやってくることなんて無かったみたいなんだが」
「それはもちろん、ご主人様に導かれてでございます。ご主人様のその魔力ッッ!今までに感じたことのない、濃厚で力強い、芳醇なその魔力を、私は遠くからでも感知いたしました!」
「おおう。俺の魔力なのか。まあ、ルクスの予想通りだったな」
『そのようだね!
 ちなみに漆葉は人里からやってきたのかな?僕たちこの聖域からまだ出たことがないから、外の情報が何もないんだ』
「いいえ、ルクス様。私も生まれた時からこの周辺の森に住んでおります。人里はみかけたことがありません……」

 新住人も常識が無いのかッッ。

 マジで?ここ辺境にもほどがあるんじゃないか?探索を始めたとしても、森を抜けるのは年単位はかかってしまいそうだな。

『これはかなり準備して臨まないと、森は抜けられなさそうだね……!』
「本当にそうだな。
 漆葉も俺たちと一緒に戦ってもらうことになるかもしれないんだが、大丈夫か?」
「お任せください!ご主人様のお役に立つためなら、私はなんでも致します!」

 俺はここで、「ん?今何でもするって言った?」とかは言わないよ。紳士だから。
 



 その日以降、ルクスとの戦闘訓練や魔法研究に漆葉も加わり、いずれ来るであろう聖域外への探索の時に向けて、着々と力をつけていくのであった。
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