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戦争編〜第三章〜

第170話 娯楽としては一級品

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 トリアングロ王国 要塞都市 王城──



「──あ゛ーーーーッッ、はっっっっらたつぅーーーーッッ!」

 とある女装男子が唸り声を上げた。

「(かち合ったな)」
「(魔法関連か)」
「(あの娘と出会ったか)」

 バァン、と力強く机を叩くその姿を見て、幹部達は色々察した。

「血圧、高くなるぞ」
「デリカシー!」

 サーペントの指摘にシンミアが吠える。
 シンミアは大きな音を立てて椅子に座った。

 場にいる幹部は7人。
 猿シンミア、蛇サーペント、海蛇アダラ、犬シアン、鹿べナード、蛙フロッシュ、鶴グルージャである。戦闘能力に特化している面々ではないとはいえど、逆に言えば搦手が得意なため近付きたく無い。

「ねぇ、あの小娘本当になんなの!? 俺の神経を思いっきり爪たてながら逆撫でするんだけど!?」
「お前は魔法ならなんでも逆撫で物だろ」
「うるさいな、黙ってなよ!」
「聞いたくせに黙らせるのか色々忙しいやつだなお前」

 会いたくないとばかりの様子だった猿が思いっきり出会ってしまったことに愉悦を抱けばいいのか同情を抱けばいいのかちょっと迷ったが大半は愉悦を抱いた。

「それで、リィンがなんかやったのか」

 べナードが携帯していた蒸し鶏をむしゃむしゃ食べながらシンミアを見た。

「俺の玩具殺した、ってのもあるけど。というか何かしたって言うか存在が生理的に無理。煽ったら煽り返してくるしあの偽物臭い笑顔とかむしょーーーに腹が立つ」
「(なるほどつまり同族嫌悪)」

 キャッツ(?)ファイトに男は口を出さない方がいいと言うのは古代より伝わるものなのだ。この場合片方が男であるのだが。

「それで、報告は?」
「あぁ、あいつは通商街道の集落に居たよ。仲間は黒髪と赤髪。黒い方は魔法なしで赤い方は魔法あり」
「む、その黒い方、シラヌイ・カナエだな。異世界人の」
「道理で! ふふん、やっぱり俺の目は間違えてなかった! いいよなぁ、魔法を使ったことがない、使えない本物の人間。そこそこ美人だし、あーあ、デブスなんかじゃなくて俺が囲っとくんだった」

 フロッシュが眉間に皺を寄せた。
 睨むような視線を受けても、綺麗じゃない人間にシンミアは欠片も興味が無い為、素知らぬ顔をする。

「あ、そういえば」

 シンミアはリィンの言葉を思い出した。

「王都にいるライアーってのに伝えて欲しい事があるって言ってたっけ」
「「「っ!?」」」

 その言葉に、まずサーペントが噛み付いた。

「そういう大事なことははよ言え!」

 存在を見せびらかすような言葉。何を企んでいるのか、考える必要がある。

「で、内容は……?」

 べナードがワクワクさを隠しきれない様子で身を乗り出した。
 ゴクリ。誰かが唾を飲む音がする。

「──聞いてない!」

 聞いてない。

 思わず脳内を反芻した言葉は、サーペントを激情へと駆り立てた。

「聞けドアホーーーーッッ!」
「うっっるさ」
「敵の情報源だぞ!? おま、その話題が出たってことは交渉の余地ありってことだろうが! 内容、聞け!?」
「伝言の内容は聞いてないけど、他のことなら3割覚えてるっての」
「10割覚えんかこの猿頭!」

 拳骨。
 参謀は色々大変なのである。情報の取りこぼしが致命的な欠陥に繋がることを、よく知っている。

 まぁ最もリィンの内容はその場で考えられた欠陥住宅の骨組みレベルの雑な構築情報なので、ぶっちゃけ覚えても覚えなくても支障は無いのだが。

「なんか、トリアングロに害は無いって言ってた気がする」

 ブツブツと絞り出すような情報。

「(害は……無い?)」

 ドM疑惑を植え付けられたべナードは首を傾げ。

「(害は無い?)」

 屋敷で毒をばらまかれたグルージャが首を傾げ。

「(害とは?)」

 カナエを連れ去られ担当する基地の計画をパーにされたフロッシュが首を傾げた。


「……それ本当に真実か?」
「ならてめぇで聞いてこいよ!」

 シンミアは普通にキレた。真実なのに疑われた。

「はぁーー。とりあえず砦に居るクラップを呼び戻すか。執着しているようだし嬉々として出迎えてくれるだろう」

 断片的な情報から考え、リィンが王都に向かってくるのは確定している。そして恐らく、そう敵対の心は無いのだろう。口ぶりだけは。
 交渉を挟む可能性がある。

「シアン、そいつ用に処刑の準備を」
「分かった」
「べナード、お前は早く資金を寄越せ」
「ハイハイ」
「フロッシュは城の火薬物の最終チェックを」
「あぁ、分かったのだね」
「シンミア、お前はその腐りきった脳みそからさっさと情報を絞り出せ」
「聞いてないものをどう搾りだせと」
「アダラ、ヴァッカに作戦変更だ。俺のチビ助に伝令を出させる」
「うちのヘビちゃんに手配しとけばええんやな」

 トリアングロの王は事細かに作戦を練る男だ。全貌を把握するのが難しいとは言え、出来ないことは無い。それを可能とするのはサーペントただ1人であった。
 そのため、サーペントが指示を出す。

「幹部は半数がこちらにいるとはいえ、兵士の殆どは砦にいる。……砦へ来た大部隊を叩き、猛攻を仕掛けるぞ」

 そういえばクアドラードを率いているのはあの第4王子らしいな、と考え込む。

「フロッシュ」
「なんだ」
「第2王子殿下から第4王子の情報を出しておいてくれ」
「分かったのだが、ルナールはどうする気だ?」

 サーペントは少々考えた後、結論を出した。

「リィンの事は一切伝えるな、下手に関わらせない方がいい」

 その日、隕石が再び降り注ぐ。





 そしてその翌日。

「たのもーーーーう! こちらなるはクアドラード出身Fランク冒険者、リィンぞりー!」

 なんて大声を上げながら城門に堂々と現れた金髪の悪夢の姿を確認することになる。


「忍べ潜入者!!!!」

 関わりたくないとあのべナードが言っていた理由が、わかった気がした。

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