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戦争編〜第四章〜

第171話 負の感情は人を強くする

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「ごっふぁ!?」

 クアドラード王国国境前。
 1人王子が誤嚥して噎せた。

「──なっ、なんでお前ってやつは!」

 トリアングロ城だよなそれ!?

 周囲の目があるにも関わらず叫び声をあげてしまったので咄嗟にクロロスの頭にチョップを放った。まるでクロロスがミスをして咎めたように見える。ミスは挽回した。クロロスの名誉と引き換えに。

「殿下酷い……ッッ!」


 ==========


 これまでのあらすじ。
 幹部はめんどくさい、以上。


 なんやかんやあって隕石の翌日。私達は超高速で要塞都市にやってきたのであった。

「たのもーーーーう!」

 城門前、大声で名乗りを上げる。

「ばっ! バカバカ! 何やってんだよリィン!?」
「リィンさん? 本当に何してるんですか?」
「ぎゃーーーっ! ちょっとぉ!? せっかくここまで見つかってなかったのにぃ!?」

 パーティーメンバーが悲鳴を上げたような気がしたけど多分気のせい気のせい。

 バタバタとトリアングロの兵士が慌ただしくなり始めた。


 要塞都市は城の周辺には街というより軍事施設が乱立しており、時折貴族の屋敷みたいな建物が建っていたり宿舎らしきものも見えた。
 城壁には大砲が外を向いて乱立しており、壁の中に一定間隔穴が開いていたりと、火器を使う気満々。要塞都市、本当にそのまんま要塞に特化しているな……。
 これ、クアドラードがトリアングロに攻め込んでも魔法無しでこの防衛を突破出来ると思えない。

 攻めるは個人、守るは組織。お国柄が出るねぇ。

「ねぇ、リィン聞いてる? もしもーし? おっかしいなもしかして次元が違うの!?」

 カナエさんの呼び声にふぅとため息を吐いて振り返った。

「良きですか、今から起こることにおきて、決して抵抗しないでください」
「へ……?」
「敵の本拠地で下手に抵抗するとやばきです。めちゃくちゃやばきです」

 特に幹部が何人いるか分からない状況だとね。


 バタバタと慌ただしかったトリアングロだったが、城門が大仰に開かれ、そこから幹部らしき男が出てきた。

「……。お前達が例の」
「こんにちは!」

 私が笑顔で挨拶をすると恨みの籠った様な瞳で私を見下す男。その風貌はイケメンというか、美形で女ウケが良さそうだ。
 癖の無い銀髪。オレンジの瞳。
 ただ、彼は右目を眼帯で隠していて、さらに眼帯を隠すように右側に長い前髪がかかってあった。

 黒い軍服はスタンダードな着方。気崩しのない服装だ。武器は片手剣と盾。ザ、王道といった様子。

「私はトリアングロ王国陸軍幹部、犬の称号を持つ。メランポス・シアンだ」
「そうですか、では改めるすて。クアドラード王国出身、Fランク冒険者リィンです」
「忌々しい……」

 小さくボソリと呟いた言葉は確かに私の耳に入った。

「お前達の目的が一体なんなのか興味も無い。だがひとつ。お前達にチャンスを与えよう」

 シアンは剣を引き抜いた。

「私は処刑人。罪人を捌く者。──罪ではないというのならそれを証明しろ。この国のやり方は、既に学んだだろう」

 つまり、コーシカ式ミッション。
 幹部を殺せば幹部。正しいと証明したいなら、勝者になれ。

 私は剣を抜いた。
 こちらの剣はノッテ商会からぶんどった剣です。

「単純明快、良きですね!」

 私は他の5人を下がらせた。

 シアンの見た目から30代の前半辺り。クラップやコーシカといった化け物クラスよりレベルは下だと思うけど、癖が無く堅実な戦闘スタイルを取っている以上、下手したら彼らより攻略は厄介……。

「ひとつ、聞きたきです。貴方が処刑人になるすて、無罪放免で終わるすた罪人は何人ですか?」
「……? おかしなことを聞くな。──ゼロだ。私が生きているのだから、ゼロに決まっているだろう」

 ……。
 ですよね。

「処刑の時間だ」

 シアンがそう宣言すると真正面から切りかかってきた。
 私は件を両手で構えて受ける。あ、足に来る……!

 ザリッ、と砂が擦れる音。ブーツが地面で悲鳴を上げている。

「くっ、らえ!」

 私は袖口から投げナイフを5本取り出して顔面目掛けて投げた。攻撃力の無い攻撃は盾で簡単に防がれる。
 その隙にザッ、と足音を立てて後ろに回り込んだ。

 切り込む。振り向きざまに剣を回され剣が弾かれる。
 体勢を立て直す僅かな時間で重たい一撃が振り下ろされる。それを私が受け流す。

 ……私、片手剣持ってるはずなんだけど攻撃重すぎて両手持ちじゃないと支えきれないって何?

 盾で殴られる様な感覚。振るわれた盾が私に直撃する前に剣をねじ込ませ後ろに飛び下がりながら威力を殺す。

「ぜぇ……はぁ……」

 剣を構える。
 見上げる私を、シアンは見下ろしていた。

「弱い」
「…………」
「その程度でこの国に来たというのか? あまりにも無謀で無策」

 うるせぇな前衛じゃねぇんだよ。

「そもッ、そも、私戦う為に来訪した訳ではなくッ、話ぞしに来たと……!」
「そのための処刑だ。……やはり、所詮はクアドラード王国。魔法しか考えられない国など、用はない」

 背筋がビリビリ震えるほどの怨念。
 この人、魔物とか魔石とか、そういう理由じゃなくてただ純粋にクアドラード王国が嫌いな人なんだろう。

 思わず頬が引き攣る。

「運が悪かったな、お前達。恨むのなら、生まれた国を恨め」

 シアンが一歩踏み込んだ。
 私は勘で横に転がり避ける。

 盾持ってその速度かよ……っ!

 私が先程まで居た場所にはえぐれた地面があった。

「ヒェッ」
「リィンさんっ!」

 エリアさんが思わずと言った様子で駆け寄ろうとするのを私は手で制した。

「お願いです」
「……」
「彼らに処刑はしないでください」

 抵抗すれば処刑は確定だろう。この戦闘をさせるのはちょっと無理が過ぎる。怪我ひとつさせたくない。

「はっ、随分お優しい精神だ。反吐が出るよ、クアドラードのプリンセス」

 カッチーーーン。

 私はそろそろ声を大にして言いたい。

「王女じゃねぇって、言ってんだろうがトリアングロっっっ!!!!」

 お口が悪くてごめんあそばせ!!!! 

「判決を下す」

 その圧倒的な隙に、後ろに回り込んだシアンが呟いた。

「──お前の敗北だ」

 首筋に重い鈍痛。剣の柄だ。

 いっっっっ……!

──ドサッ

 地面に倒れる。
 視界が霞む。

「……お優しい姫に感謝するんだな。陸軍! こいつらを……──! ……!」

 シアンの指示を出す声を聴きながら、私は眠りに落ちていった。




 ==========




──ガシャン

 牢屋の鍵が閉まる音。


「全く、殺せばいいというのに」
「シアン大佐が死刑にしないのは珍しいよな」
「あぁ」
「クアドラードの鼠だ、得られる情報もあるんだろうよ」
「鍵よし、拘束よし。厳重だな……。手枷に足枷に、特に金髪の女の子なんか鎖でぐるぐる巻なんだけど……」
「ふん、クアドラード、手も足も出ないとはこのことだな」
「良かったなお前ら、この後はきっと拷問の時間だ」
「おい、もう行くぞ」
「おう」


 見張りが去る音を聞いて、私はムクリと体を起こした。

「……! リィン……!」

 首筋がズキズキする。
 それ以外はまあ、正常。

 私を心配する瞳が降り注ぐ。
 カナエさん、エリアさん、エリィ、グレンさん、リックさん。

 全員いることを確認して私は口を開いた。

「──はい、トリアングロ城、潜入成功です」
「拘束で雁字搦めだけどな!?」

 トリアングロ城内の牢屋に、罪人として潜り込めたのでよし。

 グレンさんのツッコミを聞き流しながら、地下牢の中でにやりと笑った。

「ふっふっふっ、ようやくここまで来たぞり、ルナール」




 城内で狐がくしゃみをした気がした。
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