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第二章 外国漫遊記
第七話 カルメリタ
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娘が、おかしくなってしまった。
今朝早く、『今アンドロッツォ邸にジャービー国からの大切なお客様、グイスト王弟公爵殿下がいて、今から聖女に会いに行くから用意しておいてくれ』と領主夫人から報せが来た。
グイスト王弟公爵閣下…、グイスト様……!
グイスト様が、聖女、……いいえ、私に? 私に会いに来る?
私は慌てて、自分が一番魅力的に見えるドレスを用意した。
メイドに言いつけて、風呂に入り体中を磨き、髪もつやつやに仕上げて、コルセットでウエストを締め上げドレスに身を包んだ。
セントリュッツ学園で同級生だった王弟殿下、グイスト様…。
ああ、あの頃の気持ちが蘇るわ……。
グイスト殿下とはほとんど話をしたことはなかったけれど、彼の熱い想いは伝わっていたわ。だけど、あまりにアプローチ下手というか、してくださらないから、当時居た私の取り巻きの中でも一番爵位が高かった侯爵家の令息と良い仲になってしまったのよね。あの人はあの人でとても魅力的だったから、グイスト殿下には悪いと思いながらも何回も関係を持ってしまった。
そのせいで、その令息の婚約者である侯爵家を怒らせてしまって…。
「ハイメ家では、いったいどんな淑女教育をしているんだ」
「はっ、ほんとうに申し訳ございません」
「体を使って男を篭絡するなど、まるで娼婦だな!」
「はっ、おっしゃる通りで…」
「この落とし前、どうつけてくれようか」
「すぐに、娘は…他国にやります」
「ほう?」
「えー、他国の、そうです、どこか爵位がーー」
「爵位だと?」
「いっ、いえ! 平民! 平民の、後妻にでもしますので!!」
「……ふん」
その婚約者の家の当主が納得する方法をとらなければ、ハイメ家は取り潰されていた。だけど、『他国の平民の後妻にする』と言ったお父様は、できる限りでいい条件の相手を選んでくれた。
爵位はないけれどお金はあるモーニシュ家。当主のサロマン・モーニシュは、見目もたいして良くない子持ちだったけど、領地持ちでお金に困らない生活ができる。生活水準が保てるならいいか、となんとか受け入れたわ。
でも、私が相手をするのは、見目の麗しい男だけ。もちろん、この男には指一本触れさせていない。直系の娘がいるんだから、婿でも取れば家は存続するしね。
娘になったビトリアは、まあまあ可愛かった。
男性受けするお化粧の仕方や、しぐさなんかも楽しそうに聞いてくるから、いろいろなことを教えたわ。
そして、それなりに楽しく暮らしていたのに、ポワリアがやってきて、気分は一変した。
聖女はいいわ、聖女は。でも孤児ですって? そんなもの認められるわけない。
どこの馬の骨ともわからないものを家族にするなんて、断固反対よ!
幸い、ビトリアもポワリアを拒んでいたから、サロマンには縁組み反対と言い張って今に至る。
それが、聖女の後見人になると名乗り出ておきながら、縁組みの手続きをしていないことが罪になるですって? そんなこと私は知らなかったわ!
なのに今さら責められても…、だってそれは、私は、もともと伯爵家の娘よ? それが金持とはいえ平民に嫁がされて、さらには孤児の後見人だなんて耐えられないわ! 悪いのは平民のくせに聖女に選ばれたポワリアよ! 平民でさえなければ、養子縁組だって受け入れていたわ!
でも、ここでまたあの人と再会できるなんて思ってもみなかった幸運だわ。
ああ…これが、そう、これが運命なのね!
私とグイスト殿下こそが、運命の赤い糸できつく結ばれた恋人同士なのね!
待っていた、待っていたのよ?
貴方が迎えに来てくれるのを…
他国にひとり放り出されて、結婚相手はさえない子持ちのおじさん。
ああ、でも、これでやっと解放されるのね…
私は、ジャービーに戻って公爵夫人として社交界に返り咲く…
そう、こうしゃくふじん…
あのおんなより、こういだわ…
ふふ…
しかもおっとはグイストさま…
わたしの、わたしのかち…
今朝早く、『今アンドロッツォ邸にジャービー国からの大切なお客様、グイスト王弟公爵殿下がいて、今から聖女に会いに行くから用意しておいてくれ』と領主夫人から報せが来た。
グイスト王弟公爵閣下…、グイスト様……!
グイスト様が、聖女、……いいえ、私に? 私に会いに来る?
私は慌てて、自分が一番魅力的に見えるドレスを用意した。
メイドに言いつけて、風呂に入り体中を磨き、髪もつやつやに仕上げて、コルセットでウエストを締め上げドレスに身を包んだ。
セントリュッツ学園で同級生だった王弟殿下、グイスト様…。
ああ、あの頃の気持ちが蘇るわ……。
グイスト殿下とはほとんど話をしたことはなかったけれど、彼の熱い想いは伝わっていたわ。だけど、あまりにアプローチ下手というか、してくださらないから、当時居た私の取り巻きの中でも一番爵位が高かった侯爵家の令息と良い仲になってしまったのよね。あの人はあの人でとても魅力的だったから、グイスト殿下には悪いと思いながらも何回も関係を持ってしまった。
そのせいで、その令息の婚約者である侯爵家を怒らせてしまって…。
「ハイメ家では、いったいどんな淑女教育をしているんだ」
「はっ、ほんとうに申し訳ございません」
「体を使って男を篭絡するなど、まるで娼婦だな!」
「はっ、おっしゃる通りで…」
「この落とし前、どうつけてくれようか」
「すぐに、娘は…他国にやります」
「ほう?」
「えー、他国の、そうです、どこか爵位がーー」
「爵位だと?」
「いっ、いえ! 平民! 平民の、後妻にでもしますので!!」
「……ふん」
その婚約者の家の当主が納得する方法をとらなければ、ハイメ家は取り潰されていた。だけど、『他国の平民の後妻にする』と言ったお父様は、できる限りでいい条件の相手を選んでくれた。
爵位はないけれどお金はあるモーニシュ家。当主のサロマン・モーニシュは、見目もたいして良くない子持ちだったけど、領地持ちでお金に困らない生活ができる。生活水準が保てるならいいか、となんとか受け入れたわ。
でも、私が相手をするのは、見目の麗しい男だけ。もちろん、この男には指一本触れさせていない。直系の娘がいるんだから、婿でも取れば家は存続するしね。
娘になったビトリアは、まあまあ可愛かった。
男性受けするお化粧の仕方や、しぐさなんかも楽しそうに聞いてくるから、いろいろなことを教えたわ。
そして、それなりに楽しく暮らしていたのに、ポワリアがやってきて、気分は一変した。
聖女はいいわ、聖女は。でも孤児ですって? そんなもの認められるわけない。
どこの馬の骨ともわからないものを家族にするなんて、断固反対よ!
幸い、ビトリアもポワリアを拒んでいたから、サロマンには縁組み反対と言い張って今に至る。
それが、聖女の後見人になると名乗り出ておきながら、縁組みの手続きをしていないことが罪になるですって? そんなこと私は知らなかったわ!
なのに今さら責められても…、だってそれは、私は、もともと伯爵家の娘よ? それが金持とはいえ平民に嫁がされて、さらには孤児の後見人だなんて耐えられないわ! 悪いのは平民のくせに聖女に選ばれたポワリアよ! 平民でさえなければ、養子縁組だって受け入れていたわ!
でも、ここでまたあの人と再会できるなんて思ってもみなかった幸運だわ。
ああ…これが、そう、これが運命なのね!
私とグイスト殿下こそが、運命の赤い糸できつく結ばれた恋人同士なのね!
待っていた、待っていたのよ?
貴方が迎えに来てくれるのを…
他国にひとり放り出されて、結婚相手はさえない子持ちのおじさん。
ああ、でも、これでやっと解放されるのね…
私は、ジャービーに戻って公爵夫人として社交界に返り咲く…
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あのおんなより、こういだわ…
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