【第二章完結!】妹?義妹ですらありませんけど?~王子様とは婚約破棄して世界中の美味しいものが食べたいですわ~

井上 佳

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第二章 外国漫遊記

第三十八話 ビト

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久しぶりの一人称変更は、俺、ビト・カートナー。
ジャービー国の貧乏男爵家の次男で、出稼ぎで世界中を周る冒険者だ。


貧乏でも領地持ちのカートナー家は、兄が継ぐことになっている。
弟がいるんだけど、騎士として生計を立てている。いや、立てていた。今は花屋だったね。


俺たち三兄弟は、父親のせいか、やたらと顔がいいんだ。これを言うと自慢みたいになっちゃうんだけど、事実なんだ。それに嬉しいことより面倒事のほうが多かったしね。

領地では、兄と弟と俺とで災難は三分の一だった。だけど、冒険者になってひとりで行動するようになってからは、それまでの顔のせいで起こる災難が三倍になってしまった。

ギルドでは受付嬢が誰が受付に立つかで毎回揉めるし、そのせいで並んでる冒険者たちに白い目で見られる。女性とパーティなんて組もうものなら、全員俺を好きになる。
ひとりでやってても、パーティの申し込みは後を絶たないし、さすがにソロは寂しいなってのもあってとりあえず男だらけのパーティに入ってみたら、女性からは遠巻きにされるようになったけど、メンバーが戦わなくなるんだー。

何組か渡り歩いたけど、ほぼそうなる。

さすがに、戦うの俺だけで傷を負っても自前のポーションで治してるのに、ドロップアイテムとかポイントとか報酬とか山分けなんて、ありえないでしょー?

結局はまたソロで、寂しいとかいう気持ちはおいておいて長期間潜れるところに稼ぎに行くようになって、今回はまだ挑戦したことがないザル島に渡るため、ゼノヴァーに来たんだ。


ここでも受付嬢は俺の前で揉めたんだけど、ため息をつきながら隣の受付を見ると、そこでも受付嬢が揉めていた。
どうやら、男女連れだけど男がイケメンが過ぎるらしい。女性のほうもキリッとしててカッコイイ! と辺りがざわついている。
そういわれると、見てみたくなるのが人間で。俺も、受付してもらったあと彼らを見に行ったんだ。
あまりにも高貴なオーラで遠巻きにされているふたりだったけど、俺は声をかけてみた。こんにちはーって、普通にね。


「ごきげんよう」

「こんにちは」


そう、普通に返してくれた。普通に。


それがたまらなく嬉しくて、ふたりと話をしてみたくなった。

俺と同じくザル島は初めてみたいだったから、噂話とか、調べてあった魔物のことを話していたんだ。普通に。


「ビトさんは物知りですのね」

「そうだな。魔物の情報は調べていたが、鉄仮面の囚人だなんて、興味深い噂だ」


媚びるでもなく蔑むわけでもなく、普通に微笑みかけてくれるふたり。
嬉しくて、もっと一緒にいたいと思って、ソロって寂しいからパーティ組んでくれないかなーって、言ってみた。


「どうする?」

「そうですね、結界は見てみたいかもしれません」

「じゃあそうするか」


ふたつ返事でOKしてくれた。

どうやら、エリシャさんに主導権があるらしい。

そうして、ギルドでパーティ申請して、次の定期便が出るまでの間雑談していた。


「では、ビトさんも?」

「そうそう! ジャービー」

「まあ、偶然ですわね」

「そうだな」

「ふたりも?」

「ええ。ジャービー出身ですわ」

「いやーなんか嬉しいね、同郷! パーティ名ジャービーにする?」

「いいな」

「ええ、そうしましょう」


同郷の、ってとこで気づかなかった俺も俺だけど、まさか侯爵家のご令嬢と王弟公爵殿下がイーパで冒険者やってるなんて思わないよね?


エリシャさんは、弟のリノが長年仕えていたお嬢様。

グイストさんは、その護衛で…護衛?
ちょっとよくわからなかったけど、なんだっけ、確かリノが里帰りしてきたとき俺も帰ってて居合わせて、話したことがあったな。


「お嬢さまが通ってる学園のさ、学園長が王弟殿下なんだけどさ」

「へえ」

「すごいんだよ、お嬢様が快適に過ごせるようにって、食堂メニューに好きな食べ物増やしたり嫌いな食べ物なくしたり、それまでなかったアフターヌーンティーまで始まっちゃったし、初年度の球技大会でボールに当たって怪我したら翌年から大会廃止。どんだけ溺愛してんだよって」

「王弟殿下がー? だって、王子の婚約者なんでしょ? んー、家族愛とか?」

「いやー、そんな感じじゃなかったな。なんなら婚約者変更してくれないかな、いいひとなんだよ。俺キライ、あの王子」

「不敬だぞー」

「家でくらい許せー」


過保護な溺愛殿下なんだなって思ったんだった。

だから、冒険者やってるエリシャさんの護衛っていうのも、そうか、納得できるな。



ふたりは、俺の外見に惑わされないから好き。

ふたりは、俺に寄りかからないから好き。

ふたりは、弟も信頼していた相手だから好き。



ザル島に行くのが、楽しみになったな。




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