【第二章完結!】妹?義妹ですらありませんけど?~王子様とは婚約破棄して世界中の美味しいものが食べたいですわ~

井上 佳

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第二章 外国漫遊記

第五十八話 王と王弟と、

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「エリシャ嬢とはどこまでいった?」

「ザル島だな」

「そういうことではない」


昨日、ジャービーの王都に到着してエリシャとビトさんと別れた。私とベジックさんはそのまま城でひと晩過ごして今朝、エリシャを迎える準備をしていたら兄に呼ばれたので執務室までやってきた。
そこでいきなり「どこまで」などと言われても、言えるわけないだろう。以前幕間で同じようなくだりがあったとは思うが、エリシャと違って私は完全にわかったうえでとぼけている。


「結婚の話は?」

「まあ、いずれは」

「手ぐらい握ったか?」

「まあ、それくらいは」

「キッスは?!」

「近い、兄上…いえ陛下、鬱陶しいです」

「言い直してひどくなっているが」

「わざとだ」

「そうだろうな」


真面目な話、私は臣籍降下していて公爵位を賜ってはいるが、王弟であることは変わりない。継承権第一位のギザークはすでに王太子として認められているいるが、第二位だったギースは先の騒動で平民となり王籍をはく奪されている。

私は、エリシャを迎えに行くと決心して、王位がどうだこうだのごたごたに巻き込まれないよう18歳のときに継承権を放棄している。


いるのだが、それでも未だに騒がしい者たちがいる。


国王レオカディオは豪胆、王らしくあるのかないのか極端すぎてよくわからないようなまつりごとをしている。それは、完全に民たちの方向を向いていて、民たちにとってのより良い国を目指している。
ギザークもそれによく似ているため、このまま即位すると、自分だけが甘い汁を吸いたいような腐った貴族連中にとっては面白くないという御代がまだまだ続くことになる。

それはわかるのだが、だからといって私が王に担ぎ出されても、そんな連中に使われるような器ではないということが………まさか、伝わっていないのか? 私が無能で傀儡にでもできると?

そうだとしたら、それは由々しき問題だ。


「もしかしたら、このまま冒険者として世界中を周る夫婦、というのが一番いいのだろうか」

「止めはしないが、いてくれたほうが嬉しい」

「兄上に喜ばれてもな」

「お前の世話は、俺がしていたんだ。それこそ、おむつを替えたり夜泣きに付き合って庭園を散歩したり、離乳食を初めて食べさせたのも俺だ」

「覚えていない」

「そうだろうな」


15も年上の兄上が、私が生まれたときに弟ができたとたいそう喜んで世話を焼いていたという話は、耳にタコができるくらい聞かされている。まあ、それくらい大事にしてくれてありがたいが、もう思春期という歳ではないが正直鬱陶しいだろう。兄と弟なんてそんなものだろう、正常な反応だと思う。


「もう行っていいか? エリシャが着く前に準備があるのだが」

「あー、わかった。ひとつだけ答えてくれ」

「うん?」

「エリシャ嬢が好きか?」

「もちろんだ。何を当たり前のことを」

「そうか……、わかった」

「? では、またのちほど」

「ああ」


即答も即答、そんな当たり前のことを聞いてくるなんてなんだというのだ。

私はそもそも、10年以上前からエリシャと結婚するつもりでいたのだ。途中、すでに退場済みの兄上の側妃ジャデリアの子、ギースとの婚約により予定は狂ったが、しかし今は順調にいっている。いっているはずだ。

わざわざ聞いてくるというのは、何か懸念事項があるのだろうか。

いや、今はそれどころではない。
エリシャが到着する前に、準備を済ませなければ。





「失礼いたします」

「ああ、待っていたぞコーネル殿」


昨日王都に戻ってすぐ、コーネル殿の元を訪ねていた。
そのときにで依頼したものがあるのだが――


「お約束の品、完成したのでお持ちしました」


間に合ったようだ。どうしても今日、必要だった。


「無理を言ってすまない」

「いえ。ほかならぬ閣下のおねがいですから」


思い立ったが吉日。
これさえあれば、きっと成功するだろう。


「これでついに……!」


受け取った品を持つ手が震える。


「すべてがうまくいきますように、お祈りしております」

「ありがとう」


私はそれを、大切に懐にしまった。




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