わるいむし

おととななな

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 大学に着いた新汰はどこで時間を潰そうかと考えていた。
 奏汰には一限からと言ったがあれはその場を凌ぐための嘘。
 兄を騙すことに少々心苦しさを感じるが仕方ない。
 本性がバレてしまうよりマシだ。
 長時間いても良さそうなカフェテラスに決めると、新汰はそこへ向かった。
 昼食時は満席が多いが、朝の時間帯は比較的人も少なく席も空いている。
 新汰は端の方の席を選ぶと、スマホをいじりはじめた。
 しかし、数分もしないうちに誰かが話しかけてきた。
 「新汰くん!おはよ~」
 鼻にかかったような声に新汰は俯きながら舌打ちをする。
 だが、すぐに笑顔を貼り付けると顔をあげた。
 「おはよう、杏菜あんなちゃん」
 杏菜は了承も得ず、テーブルに荷物を置くと新汰の隣の席を陣取った。
 ズルズルと椅子を引くと新汰の方へ寄せてくる。
 「新汰くん早いね~今日って三限からじゃなかったっけ?」
 「うん、ちょっと早く目が覚めて。杏菜ちゃんは?」
 「一限から~。杏菜ね、ちょっと単位足りなくってピンチなんだ」
 杏菜は唇を尖らせるとシュンとした表情になる。
 そして新汰のことを上目遣いに見てきた。
 普通の男なら、女の子のこんな表情を可愛らしいと思うのだろう。
 だが新汰は違う。
 目を大きく見せるためのカラコンや素肌感のない厚い化粧、過剰なくらいつけた甘ったるい香水の匂い。
 男に媚びる服装や態度。
 その全部が嫌いで、可愛いなんて一度も思ったことがない。
 「新汰くんってすごいよね。成績も良いし、友達多いし優しいしかっこいいしコミュ力高いし」
 「そんなことないよ」
 「え~~嘘。新汰くんのこと狙ってるって子、杏菜の知る限り五人はいるんだけど」
 「そうなの?」
 誤魔化すように笑うと杏菜が詰め寄ってきた。
 「杏菜もその一人なんだけどな」
 両拳を顎の前でくっつけて杏菜が新汰を見上げてくる。
 パチパチと不自然な瞬きをする偽物のまつ毛に覆われた目。
 異様に濡れた唇。
 どれもが見ていて気持ち悪い。
 顔を背けたい気持ちをグッとこらえながら、新汰は訊ねた。
 「でも杏菜ちゃん、兄さんのことまだ好きなんじゃないの?」
 新汰の言葉に杏菜のぶりっこが一瞬揺らいだ。
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