わるいむし

おととななな

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 「いいよ」
 新汰はそう言うとバッグからファイルを取り出し、レジュメを杏菜に渡した。
 「ありがとう~!すぐコピーしてくる」
 「あ、それ持っていっていいよ」
 「いいの?」
 「よく見せてって言われるからコピーして余分に持ってるんだ」
 「さすが新汰くん!!イケメン!!好き!!彼氏にしたい!!」
 杏菜はそう言うと、新汰の腕に抱きついてきた。
 化粧品と香水の強い匂いに鼻が曲がりそうになる。
 その時ふと、升谷から漂ってきた香りを思い出した。
 こんなに強い香りじゃなかったのに、なぜだか嗅覚がしっかりと覚えている。
 甘いのに嫌味な感じがしない、不思議な香りだった。
 そういえば升谷とはキスをしたんだよな。
 香りが升谷の唇の感触を思い出させる。
 一瞬だったが、彼の唇はしっとりとしていて、今右腕に押し付けられている胸の感触よりずっと柔らかかった。
 あの時は勢いで突き飛ばしたが、突き飛ばさなければどうなっていたんだろうか。
 新汰は考えた。
 グラスも倒れなかったし、服も濡れなかったし、ソファーで寝たりしなかったし、あんな夢も見なかった。
 奏汰に避けられる事もなかっただろう。
 升谷を抱いてれば、今までの女たちみたいに奏汰から引き離せていたかもしれない。
 考えてまた落ち込んでしまう。
 「ね、新汰くん。今日ひま?杏菜お礼にいーっぱいサービスしちゃおうかなって思ってて」
 まだ抱きついたままの杏菜が上目遣いでこちらを見てきた。
 更に強く腕を抱かれ、襟まわりが広く開いた服の隙間から胸の谷間がチラチラ覗いている。
 杏菜の言うサービスの意味はすぐわかった。
 「もちろん、ホテル代も杏菜持ちだよ」
 今日もたっぷりグロスの塗られた唇があやしげな笑みを見せてくる。
 全く下品な女だ。
 新汰は心の中で顔を歪めた。
 杏菜はこのサービスとやらを新汰だけにしているわけじゃない。
 気に入った男に何かと理由をつけて誘っているのを人づてに聞いている。
 しかもホテル代はパパ活で稼いでるとか。
 そんな杏菜を見ていると虫酸が走る。
 「ありがとう。気持ちは嬉しいけど今日は用があるからまた今度ね」
 新汰の言葉に杏菜は残念そうな表情をするが、すぐににこりと微笑んだ。
 「わかった、じゃあいつでも連絡して。杏菜本命のためならすぐに飛んでいくから」
 杏菜はそう言うと、レジュメを持って去っていった。
 

 
 
 
 
 
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