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1章
内科医の存在
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片喰からすれば大問題だ。ルイのことが好きなのは外見だけではないが、推しと同じDNAで同じ見た目の人間がいるならば話は変わってくる。
「…まぁ、似てるねぇ。似てるというか…同じ顔の男だよぉ。髪が黒いから印象は違うけど」
黒髪のルイを想像して片喰は大きく天を仰ぎ布団に倒れこむ。
黒髪にするか白髪にするかは迷いに迷った結果だ。
「最高の双子だ…」
「でもぉ、レイは陰気な感じで笑顔もないし、似てるのは顔と背格好だけかなぁ」
「最高の双子だ…」
ベッドで仰向けに寝込んで震えながら同じことしか言わなくなった片喰をアスクは虫を見る目で見下す。
「…話を戻すけど、そのレイとドクター、今はあんまり仲が良くなくてね。能力の詳細が違うとか性格や価値観が違うとか色々あるけど…」
「そうなのか。レイ…レイね…俺にはルイが……でもレイ…」
笑顔のルイと暗いレイを思い浮かべて片喰は口角を引き上げる。
外科医と内科医で分かれているのも最高で、双子というのも最高で、ルイが弟なのも最高だ。
白黒で性格が真反対なのも最高である。
なんなら仲が悪いというのも最低ながらなんとなくいいスパイスのような気がした。
オタクの妄想二次創作くらい都合のいい展開だ。
今筆と紙があれば最高のものが書けるだろう。
目を閉じてめくるめく妄想の世界に旅立った片喰はふと引っかかりを覚えて目を開けた。
「そういえば…レイ?レイって、洞窟で会ったエクリプサーはその名前を口にしていた気がするな。ルイって言った途端に戦闘になった感じだったし、仲悪いのと関係あんのかな」
エクリプサーが放つ強烈な光を思い出しながら呟く。
アスクは眉間に皺を寄せて片喰に顔を近づけた。
「エクリプサーが、レイと?」
「あぁ。ルイの顔を見て、レイって取り乱してたぞ。あとはルイを殺さねば…みたいなこと言ってたし。なんかルイと言い合ってたような…」
アスクは片喰がい終わるや否や脱力して大きな頭を布団に落とす。
腹部を圧迫された片喰は呻きを上げた。
片喰が文句を言う前にアスクは顔を布団にうずめたまま小さく呟く。
「…レイのところのエクリプサーだったのか…いや、その様子ならもう…くそっ…」
「アスク?」
「…かたばみ、お前、ドクターのこと守れるか?」
「え?」
アスクは顔を上げようともしない。頭を布団越しに片喰の腹に押し付けて掠れた声で輝く鱗を擦る様子は捉えようによっては甘えているか懇願しているようにも見える。
「ドクターは…孤独だ。皆に愛されていて、誰からも愛されないし受け取らない。皆を守っていて、誰からも守られない…でも、かたばみなら、あるいは…」
話の流れや状況がつかめない片喰はしばらく困惑したが、すぐに身を起こした。
その拍子に頭がずれてアスクはゆるゆると面を上げる。表情のわかりやすい蛇だ。
自分の何倍もの大きさがある蛇が今にも泣き出しそうな顔をしているのを見て片喰の脳裏には意識を手放す寸前に目にしたルイの泣き出しそうな顔が浮かんでいた。
片喰は手を伸ばすとアスクの鱗を優しく撫でる。
ひんやりと冷たく、艶のある見た目に反して指が引っかかるような硬い鱗の感触が手のひらをくすぐった。
アスクははっと一瞬身をすくめたがすぐにまた頭を預けて上目遣いで片喰を見た。
「…かたばみって、見た目ほど怖くないねぇ」
「まぁ…見た目が怖いとはよく言われるが…」
複雑そうに気まずい顔をした片喰にアスクは目を細め甘えるように撫でられている手に絡みついた。
シーツにまで夕焼けが落ち、光を反射しながら嬉しそうに甘えるアスクがルイに被る。
片喰はその様子を見ながらぽろっと言葉をこぼした。
「…他の誰が愛さなくたって、守らなくたって…俺はルイを愛するし守るよ」
「は…」
「とはいえまだ弱いんだが…これからその、修行?とかするから…」
アスクが鳩ならまさしく豆鉄砲が直撃したとしか思えないほど目が点になる。
しばらく固まったアスクは次第に笑みを浮かべ、声を上げて笑った。
「あっはっは!かたばみは変わってるね!ちょっとびっくりしちゃったぁ。そんなこと言う人が現れるなんてドクターも思ってなかっただろうなぁ」
アスクは身をよじって大声上げて笑う。何を笑われたのかわからない片喰は顔を赤くしてアスクの鱗を引っ張った。
「お、おい、何が面白いんだ。俺は本気で…」
「かたばみって、なんなの?ドクターのなに?会ってすぐでなんでそんなにドクターのこと思ってるの?」
ひとしきり笑ったアスクは今度は茶化すようににやにや笑いながら片喰との距離を詰める。
片喰は反射で古参の推しだと言いかけてホテルでのやましい出来事を思い出し口を閉じる。
本当に推しか?推しにあんなことができていいのか?言葉に詰まって逡巡した後、小声でぽつりと漏らした。
「ただの居候だ。今は…」
「今は?ふぅ~ん、へぇ~、ほんとかなぁ?あんなドクターみたことないしなぁ!」
アスクは面白さと嬉しさがおさまらない様子で片喰を追い詰めながら胴体をベッドに寄せて巻き付く。
「…まぁ、似てるねぇ。似てるというか…同じ顔の男だよぉ。髪が黒いから印象は違うけど」
黒髪のルイを想像して片喰は大きく天を仰ぎ布団に倒れこむ。
黒髪にするか白髪にするかは迷いに迷った結果だ。
「最高の双子だ…」
「でもぉ、レイは陰気な感じで笑顔もないし、似てるのは顔と背格好だけかなぁ」
「最高の双子だ…」
ベッドで仰向けに寝込んで震えながら同じことしか言わなくなった片喰をアスクは虫を見る目で見下す。
「…話を戻すけど、そのレイとドクター、今はあんまり仲が良くなくてね。能力の詳細が違うとか性格や価値観が違うとか色々あるけど…」
「そうなのか。レイ…レイね…俺にはルイが……でもレイ…」
笑顔のルイと暗いレイを思い浮かべて片喰は口角を引き上げる。
外科医と内科医で分かれているのも最高で、双子というのも最高で、ルイが弟なのも最高だ。
白黒で性格が真反対なのも最高である。
なんなら仲が悪いというのも最低ながらなんとなくいいスパイスのような気がした。
オタクの妄想二次創作くらい都合のいい展開だ。
今筆と紙があれば最高のものが書けるだろう。
目を閉じてめくるめく妄想の世界に旅立った片喰はふと引っかかりを覚えて目を開けた。
「そういえば…レイ?レイって、洞窟で会ったエクリプサーはその名前を口にしていた気がするな。ルイって言った途端に戦闘になった感じだったし、仲悪いのと関係あんのかな」
エクリプサーが放つ強烈な光を思い出しながら呟く。
アスクは眉間に皺を寄せて片喰に顔を近づけた。
「エクリプサーが、レイと?」
「あぁ。ルイの顔を見て、レイって取り乱してたぞ。あとはルイを殺さねば…みたいなこと言ってたし。なんかルイと言い合ってたような…」
アスクは片喰がい終わるや否や脱力して大きな頭を布団に落とす。
腹部を圧迫された片喰は呻きを上げた。
片喰が文句を言う前にアスクは顔を布団にうずめたまま小さく呟く。
「…レイのところのエクリプサーだったのか…いや、その様子ならもう…くそっ…」
「アスク?」
「…かたばみ、お前、ドクターのこと守れるか?」
「え?」
アスクは顔を上げようともしない。頭を布団越しに片喰の腹に押し付けて掠れた声で輝く鱗を擦る様子は捉えようによっては甘えているか懇願しているようにも見える。
「ドクターは…孤独だ。皆に愛されていて、誰からも愛されないし受け取らない。皆を守っていて、誰からも守られない…でも、かたばみなら、あるいは…」
話の流れや状況がつかめない片喰はしばらく困惑したが、すぐに身を起こした。
その拍子に頭がずれてアスクはゆるゆると面を上げる。表情のわかりやすい蛇だ。
自分の何倍もの大きさがある蛇が今にも泣き出しそうな顔をしているのを見て片喰の脳裏には意識を手放す寸前に目にしたルイの泣き出しそうな顔が浮かんでいた。
片喰は手を伸ばすとアスクの鱗を優しく撫でる。
ひんやりと冷たく、艶のある見た目に反して指が引っかかるような硬い鱗の感触が手のひらをくすぐった。
アスクははっと一瞬身をすくめたがすぐにまた頭を預けて上目遣いで片喰を見た。
「…かたばみって、見た目ほど怖くないねぇ」
「まぁ…見た目が怖いとはよく言われるが…」
複雑そうに気まずい顔をした片喰にアスクは目を細め甘えるように撫でられている手に絡みついた。
シーツにまで夕焼けが落ち、光を反射しながら嬉しそうに甘えるアスクがルイに被る。
片喰はその様子を見ながらぽろっと言葉をこぼした。
「…他の誰が愛さなくたって、守らなくたって…俺はルイを愛するし守るよ」
「は…」
「とはいえまだ弱いんだが…これからその、修行?とかするから…」
アスクが鳩ならまさしく豆鉄砲が直撃したとしか思えないほど目が点になる。
しばらく固まったアスクは次第に笑みを浮かべ、声を上げて笑った。
「あっはっは!かたばみは変わってるね!ちょっとびっくりしちゃったぁ。そんなこと言う人が現れるなんてドクターも思ってなかっただろうなぁ」
アスクは身をよじって大声上げて笑う。何を笑われたのかわからない片喰は顔を赤くしてアスクの鱗を引っ張った。
「お、おい、何が面白いんだ。俺は本気で…」
「かたばみって、なんなの?ドクターのなに?会ってすぐでなんでそんなにドクターのこと思ってるの?」
ひとしきり笑ったアスクは今度は茶化すようににやにや笑いながら片喰との距離を詰める。
片喰は反射で古参の推しだと言いかけてホテルでのやましい出来事を思い出し口を閉じる。
本当に推しか?推しにあんなことができていいのか?言葉に詰まって逡巡した後、小声でぽつりと漏らした。
「ただの居候だ。今は…」
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