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4章
敗北宣言
しおりを挟む「その……確かに、俺は、その、えっと……き、気持ち、悪いと…思うが、ルイは、見ての通り神化しても、美しい神で……」
「なぁ……レイ、俺は………ルイに添い遂げられるだろうか…」
「え…」
ルイの幸せのためになんとか慣れないフォローを入れようと、口をもぐもぐ動かすレイに片喰が言葉を被せる。
その心配があまりにも的外れで、レイは一瞬押し黙った。
「……添い遂げ、られるか?……愛せるか、では、なくて?」
「愛せるか?いや、それはルイが人かどうかでは変わらないだろ。でも、俺は少なくともただの人だからルイと同じ時間では生きられない」
「…………」
真剣な表情で俯き、思考を巡らせる片喰をレイはぽかんとした表情で見つめる。
そして堪らず吹き出した。
「は、はは……、あ、あ、悪い…唾液は飛んでない……?ごめん、つい」
「え?あぁ……大丈夫だが、何がそんなに…」
「その、気持ちがある限りは……大丈夫だ。それに、藤が、死んでも、俺が…ルイを愛するから、大丈夫だ」
レイは真っ直ぐに片喰を見た。
ルイと同じ文様が浮かんだ紫の瞳と作り物の薄い水色の瞳は嘘を言っていない。
ルイを残して死ぬことになるかもしれないという恐怖は胸の内にこそあるが、レイの目を見ていれば大丈夫だという気持ちにもなれた。
レイは少しだけ微笑んで片喰を安心させる。
この微笑みは、レイの得意な人心掌握をするためのものではない。信頼の証であり、敗北宣言でもあった。
「…だから、藤が生きてる……間は、藤が……ルイを、愛してくれ。俺は……順番を、待つよ」
「レイ……」
人ではないとわかって、今までどれだけの者がその存在を恐れ拒んだだろうか。
自分たちを気持ち悪くて不浄で、ただただ都合のいい存在として使ってきた家族だったものの記憶が数百年経った今でも鮮明に思い出せる。
人間なんか皆がそうだと思っていた。
城にいる信者もレイが治療をできなくなったら、利用価値がなくなったら、一体何人が離れていってしまうことか。
麻耶ですらそうだろうと思っていた。
だからこそ同じ境遇のルイは絶対に手元に置いて、自分からは離れないと、そして自分もルイからは離れないと証明したかった。
でも、片喰であれば大丈夫だ。
そう思った途端にレイの心はすっとしがらみから解放された気がした。
もう、守らなくても愛さなくてもルイは幸せになれるのだ。
レイの乏しい表情から片喰がどれだけその複雑な思いを読み取れたかはわからないが、何か憑き物が落ちたようにレイは落ち着いて穏やかだった。
「…………………!」
「ん?」
どちらともなく沈黙を味わいふたりでただただお茶を啜っていると、不意に病院へ続く庭側の廊下が騒がしいことに気がついた。
何かが下手くそに走っているかのようなバタバタとした音と必死に呼ぶような声が聞こえ、サチルが何事かで焦っているのではないかと片喰は慌てて扉を開けた。
「レイ………!」
「ぴぃ…」
「麻耶!?」
「!」
廊下でたくあんに引きずられるような形で辛うじて立っていたのは麻耶だった。
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