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第六章 あざとい男子の正体
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「いや、失礼。君は大人っぽくみえてもやっぱり大学生なんだなと思って。男と女といえば、すぐ惚れた腫れたなどという次元の低い話に持ち込む」
弓削は真顔に戻って話し始めた。
「君は本当に何も分かっていない。萩野さんはWin-tecの稼ぎ頭なんだ。それと同時にアキレスでもある。今彼女が扱っているプロジェクトでは君が想像もつかないような額の金が動いているんだよ。その萩野さんの手を止めたらどうなる? 冗談ではなく会社が傾くかもしれない。会社の命運、大勢の社員の生活、君に責任が取れるのか?」
流れるような弓削の弁舌は、口を挟むことを許さない。
「あの家は社宅扱いだから、勝手に同居人を増やすのは契約違反だ。オーナーである社長にこのことが知られたら、君はもちろん萩野さんもあの部屋から追い出されるだろう。社長はやる時は徹底的にやる男だ。それだけじゃ済まないかもな。素直に出て行くなら、社長には報告しないでおいてやる。君が萩野さんに少しでも恩を感じているなら、何も言わずに今すぐ彼女の前から消えるんだな」
硬軟織り交ぜた弓削の攻撃に、キキはあえなく降参した。
これ以上みさをに迷惑はかけられない。部屋を出て行くしか選択肢はなかった。
長く留守にしていたボロアパートの部屋はかび臭く、冷蔵庫の中のように何もかも冷たくなっていた。
魔法が解けた後のシンデレラはこんな気持ちだったのだろう。かぼちゃの馬車も白馬も煙のように消え、みじめな現実だけが目の前にあった。
みさをは無事に退院しただろうか。せめて傷が治るまでは側に居たかった。
顔に跡が残らないといいが……。
あの時どうしてあんなことをしてしまったのだろう。キキはみさをに無理やりキスしたことを悔やんでいた。
楽園に土足で上がりこんできた由愛が許せなかったからか?
いや、それだけではない。可愛い顔して強欲で、何もかも思い通りになると思っている由愛は、まるで自分を鏡で見ているようで気持ちが悪かった。同族嫌悪ってやつだ。
どうしても由愛を懲らしめたくなり、彼女の本性に気づかないみさをにも苛々して、つい姑息な手段を使ってしまったのだ。
みさをと一緒に暮らすうちに、自分も良い人間になったつもりでいたが、しょせん育ちの悪いガキだ。何かあればすぐにあざとい本性が顔を出してしまう。
せっかく築いてきた良い関係を、一瞬で台無しにしてしまった。
それにしてもあいつ……。恐ろしいほど頭が切れて、育ちも良さそうな弓削の顔を思い浮かべた。
たぐいまれな才能を持ったみさをには、ああいう男が相応しいのかもしれない。
元々みさをとは住む世界が違ったのだ。もう忘れるしかない。
ポケットの中でチャリと金属がこすれる音がした。合鍵を帰りにポストに入れるのを忘れ、持ってきてしまったようだ。
「みさをさん」
せめて夢の中で逢えたら……。
キキは薄っぺらな冷たい布団の上、小さな子供のように背中を丸め、鍵を握りしめて寝た。
弓削は真顔に戻って話し始めた。
「君は本当に何も分かっていない。萩野さんはWin-tecの稼ぎ頭なんだ。それと同時にアキレスでもある。今彼女が扱っているプロジェクトでは君が想像もつかないような額の金が動いているんだよ。その萩野さんの手を止めたらどうなる? 冗談ではなく会社が傾くかもしれない。会社の命運、大勢の社員の生活、君に責任が取れるのか?」
流れるような弓削の弁舌は、口を挟むことを許さない。
「あの家は社宅扱いだから、勝手に同居人を増やすのは契約違反だ。オーナーである社長にこのことが知られたら、君はもちろん萩野さんもあの部屋から追い出されるだろう。社長はやる時は徹底的にやる男だ。それだけじゃ済まないかもな。素直に出て行くなら、社長には報告しないでおいてやる。君が萩野さんに少しでも恩を感じているなら、何も言わずに今すぐ彼女の前から消えるんだな」
硬軟織り交ぜた弓削の攻撃に、キキはあえなく降参した。
これ以上みさをに迷惑はかけられない。部屋を出て行くしか選択肢はなかった。
長く留守にしていたボロアパートの部屋はかび臭く、冷蔵庫の中のように何もかも冷たくなっていた。
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みさをは無事に退院しただろうか。せめて傷が治るまでは側に居たかった。
顔に跡が残らないといいが……。
あの時どうしてあんなことをしてしまったのだろう。キキはみさをに無理やりキスしたことを悔やんでいた。
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いや、それだけではない。可愛い顔して強欲で、何もかも思い通りになると思っている由愛は、まるで自分を鏡で見ているようで気持ちが悪かった。同族嫌悪ってやつだ。
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元々みさをとは住む世界が違ったのだ。もう忘れるしかない。
ポケットの中でチャリと金属がこすれる音がした。合鍵を帰りにポストに入れるのを忘れ、持ってきてしまったようだ。
「みさをさん」
せめて夢の中で逢えたら……。
キキは薄っぺらな冷たい布団の上、小さな子供のように背中を丸め、鍵を握りしめて寝た。
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