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第六章 あざとい男子の正体
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キキはみさをとの幸せな生活が、一日でも長く続くことを願っていた。
しかし災難は思わぬところからやってきた。大学の後輩が突然押しかけてきて、トラブルを起こし、そのせいでみさをは怪我を負い、入院することになってしまったのだ。
無断欠勤はまずいだろうと思って、キキが会社に電話すると、みさをの同僚だという弓削がすぐに飛んできた。
弓削はとにかく仕事が早かった。医者に金はいくらかかってもいいからと、精密検査を依頼し、大部屋に入れられていたみさをを個室に移した。
そして、一通りやることを済ますと、キキと話がしたいと言って、ひと気のない場所に連れて行った。
「阿倍野基季くんだね? サマーインターンに来ていた」
弓削は鋭い眼差しを向けてきた。面接官のように人を審査する目だ。
「はい」
「単刀直入に言おう、今すぐ萩野さんの家から出て行ってもらいたい」
弓削が敵意を向けてくるのは、キキがみさをに暴力を振るったと勘違いしているからだと思った。状況からするとDVを疑われてもおかしくない。
「ちょっと待って下さい。みさをさんに怪我させたのは俺じゃありません」
「でも君がいなかったら萩野さんはこんな目に遭わなかった。そうだね?」
「それは……そうだけど。こんなことは二度と起きないようにします。だけど俺はみさをさんと……」
「なんだ? 愛し合っているとでもいうのか?」
それまで淡々としていた弓削の声に、少しだけ怒りの感情が混じった。
「君が興味があるのは高級マンションと小遣いだけじゃないのか? お人好しの萩野さんを騙して甘い汁を吸っているだけだろう」
「違う!」
キキは思わず大声を出した。
そんなんじゃない。最初はそうだったかもしれないけど、一緒に暮らすうちに、二人の間には恋愛ではないが、特別な絆が芽生えている。少なくともキキはそう思っていた。でもみさをの気持ちは確認したことはないし、人に主張するほどの自信はなかった。
「困ったことにあの人は、すぐ人に同情して厄介ごとを抱え込む癖がある。だから私が代わりに言わせてもらう。君は迷惑でしかないんだよ」
弓削に容赦ない言葉を浴びせられ、キキは切れ味鋭いナイフで刻まれているような気分だった。
「弓削さんはみさをさんのことが好きなんですか?」
以前みさをに聞いたことがある。弓削は細かいことまでよく見ていてダメ出しをしてくると。その時みさをには言わなかったが、それは気があるからだろうと思っていたのだ。
どう考えても弓削の発言は、同僚という立場を遥かに超えている。
弓削は驚いたように目を見開いた。そして次の瞬間、ポーカーフェイスを崩し、声を上げて笑い出した。
「何がおかしいんですか?」
キキはむっとして聞いた。
しかし災難は思わぬところからやってきた。大学の後輩が突然押しかけてきて、トラブルを起こし、そのせいでみさをは怪我を負い、入院することになってしまったのだ。
無断欠勤はまずいだろうと思って、キキが会社に電話すると、みさをの同僚だという弓削がすぐに飛んできた。
弓削はとにかく仕事が早かった。医者に金はいくらかかってもいいからと、精密検査を依頼し、大部屋に入れられていたみさをを個室に移した。
そして、一通りやることを済ますと、キキと話がしたいと言って、ひと気のない場所に連れて行った。
「阿倍野基季くんだね? サマーインターンに来ていた」
弓削は鋭い眼差しを向けてきた。面接官のように人を審査する目だ。
「はい」
「単刀直入に言おう、今すぐ萩野さんの家から出て行ってもらいたい」
弓削が敵意を向けてくるのは、キキがみさをに暴力を振るったと勘違いしているからだと思った。状況からするとDVを疑われてもおかしくない。
「ちょっと待って下さい。みさをさんに怪我させたのは俺じゃありません」
「でも君がいなかったら萩野さんはこんな目に遭わなかった。そうだね?」
「それは……そうだけど。こんなことは二度と起きないようにします。だけど俺はみさをさんと……」
「なんだ? 愛し合っているとでもいうのか?」
それまで淡々としていた弓削の声に、少しだけ怒りの感情が混じった。
「君が興味があるのは高級マンションと小遣いだけじゃないのか? お人好しの萩野さんを騙して甘い汁を吸っているだけだろう」
「違う!」
キキは思わず大声を出した。
そんなんじゃない。最初はそうだったかもしれないけど、一緒に暮らすうちに、二人の間には恋愛ではないが、特別な絆が芽生えている。少なくともキキはそう思っていた。でもみさをの気持ちは確認したことはないし、人に主張するほどの自信はなかった。
「困ったことにあの人は、すぐ人に同情して厄介ごとを抱え込む癖がある。だから私が代わりに言わせてもらう。君は迷惑でしかないんだよ」
弓削に容赦ない言葉を浴びせられ、キキは切れ味鋭いナイフで刻まれているような気分だった。
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どう考えても弓削の発言は、同僚という立場を遥かに超えている。
弓削は驚いたように目を見開いた。そして次の瞬間、ポーカーフェイスを崩し、声を上げて笑い出した。
「何がおかしいんですか?」
キキはむっとして聞いた。
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