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第七章 きょうだいごっこ
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「最低な家に産まれ、卑屈で嘘つきでどうしようもない男。これが本当の俺だよ。笑えるだろ?」
キキは自虐的に言って、無理に笑顔を作った。
「笑えないよ。笑うわけないでしょ」
今まで一緒に暮らしてきて、キキの何を見ていたのだろう。自分の鈍感さに腹が立つ。
「お父さんは?」
「いないよ。顔も知らない。他に家族はいない」
あの母親と二人きり、他に頼れる人もいないのか。それはキツイな……。
世間の風がどんなに冷たくても、親だけは子供の味方、普通の家庭はそうだ。それなのに親が敵だったら、子供にはどこにも逃げ場がないじゃないか。考えるだけで地獄だ。
キキは今までどれだけ光のない闇の中を歩いてきたんだろう。
そう思うと目の前にいるキキが、膝を抱えて泣いている小さな男の子に見えてきた。
気がつくとみさをは、自分の胸にキキの頭を抱き寄せていた。
「一緒にうちに帰ろう、キキ」
キキの髪に顔をうずめながら、そう言った。
キキは何も答えなかったが、嗚咽しているのか肩が細かく震えている。
しばらくするとキキはみさをの腕をすり抜け、部屋の隅に移動した。泣いた顔を見られたくないのだろう。ずっと横を向いている。
「ね、また一緒に暮らそう。キキがいてくれたら私も助かるし」
こんな状態のキキを一人にはさせられない。
その後、みさをは何度も強く誘ったが、キキは「ちょっと考えさせて」と言って、最後まで首を縦には振らなかった。
それから一週間、キキからは連絡がなかった。
みさをは心配で仕事も手につかず、こんなことなら無理にでも引っ張ってくれば良かったと何度も後悔した。
だから数日後、キキがばつの悪そうな顔をしてみさをのマンションに現れた時は、飛び上がるほど嬉しかった。
「卒業まで住むところは心配しなくていいからね」
玄関で躊躇しているキキの手から荷物を取り上げ、いそいそと奥に運んだ。
「あと、これ」
この日のためにみさをは現金を用意していた。キキがかおるに渡したのと同じくらいの厚みの一万円の束。あの日キキが言ったことが本当だとしたら、キキは一文無しのはずだ。それではいくら住むところがあっても暮らしてはいけないだろう。
「これはあげるんじゃなくて、貸すだけだから」
本当はあげても構わないのだが、キキの負担にならないようそう言った。
「ありがとう。少しづつでも必ず返します」
キキは鞄からレポート用紙を取り出して、律儀に借用書を作った。
キキは自虐的に言って、無理に笑顔を作った。
「笑えないよ。笑うわけないでしょ」
今まで一緒に暮らしてきて、キキの何を見ていたのだろう。自分の鈍感さに腹が立つ。
「お父さんは?」
「いないよ。顔も知らない。他に家族はいない」
あの母親と二人きり、他に頼れる人もいないのか。それはキツイな……。
世間の風がどんなに冷たくても、親だけは子供の味方、普通の家庭はそうだ。それなのに親が敵だったら、子供にはどこにも逃げ場がないじゃないか。考えるだけで地獄だ。
キキは今までどれだけ光のない闇の中を歩いてきたんだろう。
そう思うと目の前にいるキキが、膝を抱えて泣いている小さな男の子に見えてきた。
気がつくとみさをは、自分の胸にキキの頭を抱き寄せていた。
「一緒にうちに帰ろう、キキ」
キキの髪に顔をうずめながら、そう言った。
キキは何も答えなかったが、嗚咽しているのか肩が細かく震えている。
しばらくするとキキはみさをの腕をすり抜け、部屋の隅に移動した。泣いた顔を見られたくないのだろう。ずっと横を向いている。
「ね、また一緒に暮らそう。キキがいてくれたら私も助かるし」
こんな状態のキキを一人にはさせられない。
その後、みさをは何度も強く誘ったが、キキは「ちょっと考えさせて」と言って、最後まで首を縦には振らなかった。
それから一週間、キキからは連絡がなかった。
みさをは心配で仕事も手につかず、こんなことなら無理にでも引っ張ってくれば良かったと何度も後悔した。
だから数日後、キキがばつの悪そうな顔をしてみさをのマンションに現れた時は、飛び上がるほど嬉しかった。
「卒業まで住むところは心配しなくていいからね」
玄関で躊躇しているキキの手から荷物を取り上げ、いそいそと奥に運んだ。
「あと、これ」
この日のためにみさをは現金を用意していた。キキがかおるに渡したのと同じくらいの厚みの一万円の束。あの日キキが言ったことが本当だとしたら、キキは一文無しのはずだ。それではいくら住むところがあっても暮らしてはいけないだろう。
「これはあげるんじゃなくて、貸すだけだから」
本当はあげても構わないのだが、キキの負担にならないようそう言った。
「ありがとう。少しづつでも必ず返します」
キキは鞄からレポート用紙を取り出して、律儀に借用書を作った。
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