借りてきたカレ

しじましろ

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第九章 降って湧いた婚約者

(3)

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「萩野さんはどうしてジョギングを? やっぱり健康のためですか?」

 別の日、再びコーヒーをご馳走になっていると、平森からそんなことを聞かれた。

「いえ、最近ちょっと太っちゃったから、婚活のために痩せようと思って」

 みさをが少しためらいながらそう答えると、「コンカツ? それなんですか?」と平森は意外な反応を示した。馬鹿にしているわけではなく、本当に言葉の意味が分からないようだ。婚活という言葉はもう標準語のように使われていると思ったが、そうでもないのだろうか。

「知りません? ええと、結婚相手を探す活動の略で、例えば結婚相談所に行ったり、ネットで相手を探したりすることです」

「すいません。私、外国暮らしが長かったんで、最近の日本語知らなくて」

「そうだったんですか。外国はどちらに?」

「アメリカです」

 なるほど、時々天然とも思える発言をするのもそのせいかと合点がいった。

「つまり萩野さんは結婚相手を探しているんですね?」

 一転、平森は婚活に興味を持ったようで目を輝かせた。しかしそうもはっきり言われると、こっちが恥ずかしくなる。

「ええ、まぁ」

「では、私も立候補していいですか?」

「えっ!?」

「萩野さんのお相手に」

「いや、でも……」

 平森の唐突な申し出にみさをは狼狽した。そんな何か行事に参加するかのように、気軽に言われても困ってしまう。

「平森さんとは、その、知り合ったばかりですし……」

「でもネットで出会う人も、知らない人なんですよね?」

 言われてみればその通りだ。むしろ平森の方が人となりを知っている。

「今度ぜひうちの店に来てください。もっと私のことを知ってもらって、それから考えてもらえればいいので」

 平森はやけに積極的で、みさをに断る隙を与えなかった。
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