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第九章 降って湧いた婚約者
(14)
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先ほど内線をくれた秘書に声をかけると、すぐに社長の部屋に通された。
しかし部屋に入ると、まだ先客が残っていた。
「萩野、来たか。まあ、座れ」
勝俣はそう言ったが、客の前を横切るわけにはいかず、みさをはドアの近くで待機する。
「社長、どうかもう一度ご検討いただけませんか」
取引先と思われるその客は、そう言って食い下がったが、勝俣に「話はもう終わったはずだ。帰ってくれ」とすげなく追い出されてしまった。
あの人の話を聞くよりも、こちらの方が大事な用なんだろうか。みさをはますます緊張した。
「萩野、おまえ俺に何か報告があるんじゃないか?」
二人きりになると、勝俣は鋭い視線をみさをに向けながら、応接セットのソファにドカッと腰を下ろした。
みさをも対面の席に座り、その何かを頭をフル回転させて探す。下手なことは言えない。答えを間違えたりしたら、勝俣は烈火のごとく怒りだすだろう。
そうしてみさをが考え込んでいると、勝俣が先に答えを言った。
「小耳に挟んだんだが、おまえ結婚するそうじゃないか」
そんなこと? みさをは唖然とした。しかもなぜ勝俣がそのことを知っているのだ。
みさをが会社で結婚にまつわる話をした覚えがあるのは、奈美江だけだ。先日、たまたま奈美江と廊下で会った時、一般的にプロポーズの返事はどれくらいでするものかと聞いてみたのだ。もちろん自分のこととは言わなかったのだが、奈美江は驚いて「みさをさん、結婚するんですか?」と大きな声を出した。
もしかして、それを聞いていた社内の誰かが話を広めたのだろうか。それがもう勝俣の耳に? 人の噂とは怖いものだ。
「いえ、まだ決まったわけでは……」
「でも、そういう相手はいるってことだな?」
「はあ、まあ」
「相手は誰だ? 社内のやつか?」
勝俣は質問を畳みかけてくる。まるで尋問だ。みさをは逃げ出したい気持ちで一杯になった。
「違います」
「同業者か?」
「いいえ。全く異業種の方です」
「そうか、それは良かった。おめでとう! 結婚祝いは何がいい? 何でも買ってやるぞ」
勝俣は急に機嫌が良くなり、立ち上がって手を叩いた。
だから、まだ結婚するなんて言ってないのに、気が早すぎる。
しかし部屋に入ると、まだ先客が残っていた。
「萩野、来たか。まあ、座れ」
勝俣はそう言ったが、客の前を横切るわけにはいかず、みさをはドアの近くで待機する。
「社長、どうかもう一度ご検討いただけませんか」
取引先と思われるその客は、そう言って食い下がったが、勝俣に「話はもう終わったはずだ。帰ってくれ」とすげなく追い出されてしまった。
あの人の話を聞くよりも、こちらの方が大事な用なんだろうか。みさをはますます緊張した。
「萩野、おまえ俺に何か報告があるんじゃないか?」
二人きりになると、勝俣は鋭い視線をみさをに向けながら、応接セットのソファにドカッと腰を下ろした。
みさをも対面の席に座り、その何かを頭をフル回転させて探す。下手なことは言えない。答えを間違えたりしたら、勝俣は烈火のごとく怒りだすだろう。
そうしてみさをが考え込んでいると、勝俣が先に答えを言った。
「小耳に挟んだんだが、おまえ結婚するそうじゃないか」
そんなこと? みさをは唖然とした。しかもなぜ勝俣がそのことを知っているのだ。
みさをが会社で結婚にまつわる話をした覚えがあるのは、奈美江だけだ。先日、たまたま奈美江と廊下で会った時、一般的にプロポーズの返事はどれくらいでするものかと聞いてみたのだ。もちろん自分のこととは言わなかったのだが、奈美江は驚いて「みさをさん、結婚するんですか?」と大きな声を出した。
もしかして、それを聞いていた社内の誰かが話を広めたのだろうか。それがもう勝俣の耳に? 人の噂とは怖いものだ。
「いえ、まだ決まったわけでは……」
「でも、そういう相手はいるってことだな?」
「はあ、まあ」
「相手は誰だ? 社内のやつか?」
勝俣は質問を畳みかけてくる。まるで尋問だ。みさをは逃げ出したい気持ちで一杯になった。
「違います」
「同業者か?」
「いいえ。全く異業種の方です」
「そうか、それは良かった。おめでとう! 結婚祝いは何がいい? 何でも買ってやるぞ」
勝俣は急に機嫌が良くなり、立ち上がって手を叩いた。
だから、まだ結婚するなんて言ってないのに、気が早すぎる。
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