借りてきたカレ

しじましろ

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第十一章 魔性の女とレンタル彼氏

(2)

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「私は透さんとは結婚できません。これはお返しします」

 机の上に指輪の箱を置いた。

「どうして?」

 平森はみさをの心の奥を覗き込むようにじっと見ると「もしかして、弟さんのこと?」と聞いた。

「えっと、あの子は私の本当の弟ではないんです。嘘をついていてごめんなさい」

「それは知ってたよ。レンタル彼氏? とかいう仕事の人なんだよね。いやー、日本には変わったサービスがあるんだね」

 なぜそんなことを知っているんだ。探偵でも雇ったのだろうか。

「最初はそうだったんですけど……」

 みさをは今のキキとの関係をなんと表現してよいか分からず、言葉を濁した。

「彼と……なんかあった?」

 平森はなんでもお見通しのようだ。

 昨晩の記憶が頭をよぎり、冷や汗がでてきた。みさをはうまくごまかすことが出来ずゆっくり頷くと、平森は少しだけ口元を歪めた。

「じゃあ彼と結婚するの?」

「いえ、それはありません」

 みさをが首を横に振ると、平森はさもありなんという顔をした。

「だったら問題ないじゃないか。嘘をついていたのはお互い様だし。過去のことを言えば、私だっていろいろあるさ。大人なんだからそんなことは当たり前だ。結婚前のことは目をつぶるよ」

 平森はどこまでも寛大で、他に男がいようと最終的に自分を選ぶなら許すつもりらしい。しかしそれは愛情というより、着手したからには必ず結果を求める経営者の習性がそうさせているような気がした。

 勝俣に見放され生活の基盤を失った今、キキからも離れなくてはならないが、あの子を忘れるなんて絶対に出来ない。キキは雰囲気に流されただけかもしれないが、昨日みさをを優しく抱きしめながら「愛している」と言ってくれた。それだけでもう、人生の幸運を全て使い切ったと思えるほど満足だった。
 そんな身に余るほど甘美な一夜の思い出だけを胸に、これから生きていくと決めたのだ。この先一生独りでも構わない。

「どうしても無理なんです。ごめんなさい」

「そうか。残念だ」

 みさをがこれ以上下げられないというほど頭を下げると、平森はついに諦めたようで、肩を落とした。

 それでも最後に「何か困ったことがあったら、いつでも連絡して」と平森が笑顔を見せてくれたので、少しだけ救われた気持ちになった。
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