借りてきたカレ

しじましろ

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第十一章 魔性の女とレンタル彼氏

(13)

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 駅に着き、コインロッカーからトランクを出すと、当たり前のようにキキが持ってくれる。

 このまま流されて家にまで行って良いのだろうか。ほろ酔いの頭でいくら考えても答えは出なかった。

 電車で数駅先の駅まで行き、十分ほど歩いてキキの家に着いた。

 白い壁の可愛らしいアパートは、一人暮らし向けというより若いファミリー向けのように見えた。実際、隣の部屋には小さい子がいるのだろう、玄関脇に幼児用のカラフルな自転車が立てかけられている。

 前の古いアパートの印象が強烈に残っていたので、キキがこんな住まいを選ぶなんて意外だった。

 室内にはベッドやテーブルが置かれ、サッカーの応援グッズや映画のパンフレットなどが飾られている。
 部屋は人の心を映すというから、ちゃんと心豊かな生活をしているのだなと安心した。

「疲れたでしょ。シャワー浴びて着替えたら?」

 少し緊張しているみさをに、キキが優しく声をかける。

「うん」

 キキにはすっぴんどころか裸も見られたことがあるというのに今更だとは思うが、湯上りの姿を見られるのが恥ずかしくて躊躇してしまう。
 でも中華屋でしみついた油の臭いは気になるし……。

「じゃ、お言葉に甘えて」

「着替えとタオルはそこにあるから適当に使って」

 言われるがままにキキが指差した扉を開けたみさをは、そのまま硬直してしまった。

「これって……」

 扉の先はクローゼットだと思っていたが、もう一つ部屋があって、そこには段ボールが山積みになっていた。箱には一個一個黒マジックで「みさを・洋服」「みさを・本」などと書かれている。

「それマンションにあったみさをさんの荷物だから。パジャマも下着もあるはずだよ」

「な……んで?」

 とっくに処分されたと思っていた物が突然目の前に現れ、みさをの頭は混乱した。

「一人で荷造りするの結構大変だったんだぜ」とキキがぼやく。

 そうだったのか。キキがこの荷物を詰めた姿を想像すると、胸が苦しくなり、涙が溢れてきた。

 この数か月、キキはこれを見ながらどんな気持ちで生活してきたのだろう。

「捨ててくれてよかったのに」

 まずは謝らなきゃいけないのに、逆のことを口走ってしまう。

「そんなこと出来るわけないでしょ」

 キキは憂いを帯びた目で子供に諭すように言った。
 本当にキキにはかなわない。
 いくらみさをが理屈を積み上げて壁を作っても、この子はいつだって軽々とそれを乗り越えてくるのだ。
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