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2章 一人のアルファで一人の兄で
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その部屋は一ヶ月以上にわたり主が不在で、明かりもつけられていなかった。
玄関からリビングルームに向かう廊下に並ぶ二つのドア。玄関に近いほうが潤の私室、リビングに近いほうが颯真の私室だ。
潤は、風呂から上がると、リビングルームのエアコンとテレビを消して、自室に寄ってから、久しぶりに颯真の部屋に足を踏み入れた。
大晦日に颯真が出て行ってから、この部屋は潤にとって気にはしていたものの近づけない場所だった。気持ちが落ち着くまで、部屋を覗くこともできなかったが、リビングをねぐらにしていたことを江上と尚紀に知られて以来、少し気持ちが落ち着いてきたこともあり、定期的にクリーニングを入れている。
部屋の中の配置や私物はそのままにしていた。いつか、どんな形であれ颯真はここに戻ってくるとは思った。そうであってほしいと願っていた。
部屋の明かりではなく、間接照明を点けて、エアコンのスイッチを入れた。
この部屋に入るのは本当に久しぶりだ。
少し迷ってベッドの上に腰掛ける。
そのベッドカバーを撫でる。
ネイビーのリネンカバー。肌触りからしておそらく自分の部屋のブライトグリーンのものと色違いだ。
リネン類のカラーの好みは颯真と潤はかなり異なる。颯真は基本的にネイビーやチャコールといったダーク系の色を好むため、ホワイトトーンのこの部屋では、色合いのコントラストが際立つ印象。対して潤は、グリーンやオフクリームといった明るい色味が強いため、自然と室内は柔らかい印象になる。
昔から、颯真のものはダークトーン、潤はライトトーンと好みが分かれることが多い。
顔を上げて、部屋を見渡す。
クローゼットにデスクと書棚があるのは、自分の部屋と同じ。颯真がこの部屋に押しかけてきてから、全くおそろいのブランドのものを取り揃えてきた。統一感は必要だろ、と言って。ちなみにベッドもお揃いだ。
しかし、リネンの色は違うし、書棚に並ぶ本の背表紙は、互いの専門が異なるため、書籍の種類はもちろん、厚さや言語も全く被らない。
同じ家具を揃えても、好みや育ちで同じ部屋にはならないし、人間にはなり得ない。
僕たちは違う人間だ。
潤は少し躊躇いつつも、そのベッドカバーに身体を横たえてみる。腕を投げ出して、仰向けになり天井を仰いだ。
これが颯真が毎日見ていた光景だったんだと思う。
下からせり上がるように、壁には間接照明の明かりが迫り、消灯している天井のライトに当たって影を作る。そしてダークトーンのカーテンが目に入り、その上にはエアコン。
ここまできて、なお躊躇っている自分に少し呆れていた。踏み込めない自分がいるのは潤も分かっていた。こんなに頭の中と心は、颯真のことでいっぱいなのに。
身体を横に向けると、ネイビーの寝具の向こうに同じ色の枕があった。それを手に取り抱きしめた。
「颯真……」
思わず名前を口に出す。
すると、その声に呼応するように、その枕から颯真の香りが、わずかにした気がした。
潤は瞳を閉じて、頬を寄せて、その匂いを辿る。颯真の気配を追い、自分の気持ちを素直に晒す道を探すように。
颯真の枕を抱いて、顔を押しつけた。
颯真の香りがふわりと鼻孔に伝わった気がする。
気のせいかと思ったが違う。彼の匂いはこの部屋に染みついている。
それに、潤は何も考えずに身を任せようと思った。
枕を抱き締めて、目を閉じる。
颯真の匂いを感じる。まるで温かくて広い背中のようで、安心できる。
颯真の匂いは、潤を昔の記憶を揺り戻すのだ。
幼少時は、颯真の背中は潤にとって特別な場所だった。颯真は自分よりも常に背が高かったし、何かあると隠れる場所であり、不安を取り除ける場所。何も言わずにくっ付いていても、面倒臭がらずに受け入れてもらえる場所だった。
「ん? どうした?」
そう言って颯真は、潤の身体を優しく抱き留めてくれた。
あれから成長して、自分はもうあの頃の弱い子供ではないし、颯真の背中に隠れなくても立ち向かえる人間になったと思っていた。
すると今度は、颯真が潤の背中を頼るようになっていた。一緒に部屋にいると、例えばソファの上ではわざと自分の背中を潤の背中に預けてくる。二人で互いに背中を合わせて座り、それぞれ好きなことをする。
母は仲が良いわねと呆れた口調を隠さなかったが、互いが互いの背中を頼っているという関係は、潤は嫌いではなかった。
「ん? どうした?」
颯真の枕を抱いていると、昔の記憶が蘇ってくる。
彼の深くて優しい眼差し。無条件で受け入れてくれる、唯一無二の関係。
「颯真……」
潤は名を呼ぶ。
颯真がすぐに呼んでくれるような気がしたけど、もちろんそんなことはない。
彼をもっと感じたくて、潤は溜まらず枕をぎゅっと抱き締めた。
……なんか、身体が熱い。
気持ちの高ぶりに呼応するように、身体の奥が、もぞもぞと熱を持ち始めた。それが少しずつ呼吸をするたびに近づいてきている気がする。
その変化に潤とて気がつかないわけではなかった。
少しずつ変わる身体を自覚しながら、その感覚に身を任せる。
そわそわと迫ってくるものに、何も考えずに身体が求めるままに委ねようと、潤は決めていた。
颯真の香りはそれまでずっと気持ちが落ち着く香りだった。好きだった。
こんなに官能が煽られるものではなかったのに。
発情期でもないのに、身体が覚えているのだ。自分がどんな香りに煽られて、身体を熱くし、開いたのか。
あの時の本能に嘘はつけなかった。快楽を、身体は忘れていない。
枕に顔を埋めたまま、ベッドの上に身を投げ、寝間着の上から、身体をさする。敏感になっていて、指を沿わせるだけでぞわりと快感が駆け抜ける。
「……んっ」
胸の突起は見なくとも先端が敏感に尖り、触ると強い感覚を伝えてきた。思わず、耐えるような吐息が漏れる。
その息の中にさえ、颯真の香りで煽られた官能が漏れているような気さえした。
「俺の香りで感じてるのか?」
耳元で颯真の声が聞こえた気がした。
そんなはずはないし、これまでの颯真ならば絶対に言わない一言だ。いや、今の颯真ならば言いそうな気がするが。
そして悔しいことに、それは本当のことだ。悔しくて、潤は答えなかった。
潤は、寝間着の裾から手を入れる。敏感なその胸の突起に触れ、指の腹で先端に触れる。しだいにそれでは物足りなくなり、コリコリと弄る。すると、ぞわりと腰の奥から何かが駆け抜け、思わず身体を丸めた。
刺激が欲しいという率直な欲求だ。
手探りで指で胸を愛撫しつつ、そのもう一方の手は、腰を上げて下半身に伸びる。寝間着の上から触るなんて、まどろっこしいことはしなかった。そのままズボンの中に手を入れた。
「んっ……」
すでにその場所は少し興奮していて、硬くなりかけている。香りだけで、声だけでこんなふうになってしまう自分はどうかしていると、わずかな理性では思うのだが、官能を追いかけることが止められない。
その無防備な場所をそわりと触る。指で形をなぞる。その手の動きが、次第に颯真の指のように思えてきてしまい、潤の官能は一気に引き上げられた。
「あ……あぁっ」
耳元で颯真に気持ちがよかったら声に出してと言われたことを不意に蘇った。
「……気持ちよかったら声に出して。感じてる声が聞きたい」
潤のなかのオメガの部分が、ぐしゅりと水気を帯びた気がした。
その感覚を、もう潤はすでに知っている。
颯真が欲しい、という欲望だ。
颯真の枕に顔を埋めたまま、潤は寝間着のズボンに手をかける。うつ伏せの状態で、膝をついて腰を上げ、その場所まで一気にズボンを下ろした。
エアコンが室内を適温にしてくれていて、いきなり外気に触れてもさほどに寒さを感じない。身体が火照り始めているのかもしれなかった。
あらわになった自分の性器が枕の隙間からちらりと見えた。すでにゆったりと力を持っていて、この後の得られるであろう快楽を心待ちにしているようにも見える。
現金なものだ。年末からほとんど反応はなかったのに、颯真のことを考え、彼の匂いに身を委ねたら、容易に元気な姿を見せ始めた。
潤は自分の部屋から、この間の発情期で使ったローションを持ち込んでいて、それを手にする。少し躊躇ったけど、膝を立てて無防備にあらわになったヒップの奥のその場所に、中指の腹で塗り込んだ。
「んっ……」
中指がずぶりと入り、その中が思った以上に熱くて驚いた。
その熱さが、アルファを求める熱のようにも思えてくるから不思議だ。
指はぬめりをもって容易に入り、なじんだ。すぐに物足りなくなって、指を増やした。すると腰から前にかけて快感が駆け抜ける。
「あ……あん」
思わず声が漏れる。
「そう、潤。上手にできてるね。もっと大胆に指を動かしてごらん。
大丈夫、怖くないよ」
颯真の声に煽られて、潤は中指と人差し指をそのなかで広げてぐるりと内壁をなで回してみる。そして指を曲げて、中の潤いを搔くように指を動かすと、ぐしゅりと濃度の高そうな卑猥な音がした。
たまらない。
気持ちがいい。
颯真にそうやって誘導されて、自分を慰める行為に潤は夢中になった。
「自分で中を愛撫する潤は、可愛くて最高だな。
でも、前も弄ってあげて。ほら、ひくひくしてる。本当なら俺が口で可愛がってあげたい……」
颯真の艶を含んだ声に誘われて、潤はほとんど触れていないにも関わらず、高く反り返る自分の性器に触れる。ローションのぬめりを借りて、そのささやかな猛りを指でしごくと、溜まらないほどの快感が駆け抜けた。
「ああ……!」
潤の意識は快感を追うことに夢中になっていた。両肩を颯真の枕に預け、左手ははち切れそうな自分の性器、左指はその奥のアルファの熱を受け止める奥蕾を突っ込み、身体が求めるままに、快楽の階段を駆け上がる。
「あ……そう……ま。イく……」
そう呟いた潤に、脳内の颯真が一緒に行こうと言ってくれた。
「中の自分のいいところを刺激してごらん?」
俺に散々攻められた場所だよ、分かるよね? と颯真の声が艶やかに潤を誘う。
潤も無意識に頷いた。入り口近くにあるその場所は、颯真に攻められると潤はおかしくなるほどに気持ちがよくなり、腰の揺れが止まらなくなる。
「潤、愛してるよ」
颯真の言葉に、思わず潤は頷いた。
「……僕……も」
潤はその場所を刺激した。
「あっ……あぁぁー」
自分の指で前立腺を刺激した。潤のはちれそうなほどの性器がとぷとぷと白濁の精を吐き出す。
颯真のネイビーのリネンの上に、白濁がぼたぼたと落ちる。
潤は、自分の中に指を入れたまま、脚が震え膝が崩れ落ちた。
「はぁはぁ……」
息が荒い。
「あ……ふ」
不意に視界が歪んだ。
なんだ……? と思うと、温かい涙が溢れてきた。
歪んだ視界の中、はたはたとネイビーのリネンの上に落ち、濃いしみを作る。
気持ちは後からついてくる……。そんなものかと半信半疑であったのは確か。でも、間違っていなかった。本能と気持ちは繋がっている。
僕は今、颯真のことを愛おしいと感じている。
そんな恋情が潤の胸中で、驚くほどあっさり、すとんと落ちてきた。
僕の片割れで、僕のアルファ。
声が、口から漏れる。
「颯真……」
潤は、涙に濡れた目を瞑った。
玄関からリビングルームに向かう廊下に並ぶ二つのドア。玄関に近いほうが潤の私室、リビングに近いほうが颯真の私室だ。
潤は、風呂から上がると、リビングルームのエアコンとテレビを消して、自室に寄ってから、久しぶりに颯真の部屋に足を踏み入れた。
大晦日に颯真が出て行ってから、この部屋は潤にとって気にはしていたものの近づけない場所だった。気持ちが落ち着くまで、部屋を覗くこともできなかったが、リビングをねぐらにしていたことを江上と尚紀に知られて以来、少し気持ちが落ち着いてきたこともあり、定期的にクリーニングを入れている。
部屋の中の配置や私物はそのままにしていた。いつか、どんな形であれ颯真はここに戻ってくるとは思った。そうであってほしいと願っていた。
部屋の明かりではなく、間接照明を点けて、エアコンのスイッチを入れた。
この部屋に入るのは本当に久しぶりだ。
少し迷ってベッドの上に腰掛ける。
そのベッドカバーを撫でる。
ネイビーのリネンカバー。肌触りからしておそらく自分の部屋のブライトグリーンのものと色違いだ。
リネン類のカラーの好みは颯真と潤はかなり異なる。颯真は基本的にネイビーやチャコールといったダーク系の色を好むため、ホワイトトーンのこの部屋では、色合いのコントラストが際立つ印象。対して潤は、グリーンやオフクリームといった明るい色味が強いため、自然と室内は柔らかい印象になる。
昔から、颯真のものはダークトーン、潤はライトトーンと好みが分かれることが多い。
顔を上げて、部屋を見渡す。
クローゼットにデスクと書棚があるのは、自分の部屋と同じ。颯真がこの部屋に押しかけてきてから、全くおそろいのブランドのものを取り揃えてきた。統一感は必要だろ、と言って。ちなみにベッドもお揃いだ。
しかし、リネンの色は違うし、書棚に並ぶ本の背表紙は、互いの専門が異なるため、書籍の種類はもちろん、厚さや言語も全く被らない。
同じ家具を揃えても、好みや育ちで同じ部屋にはならないし、人間にはなり得ない。
僕たちは違う人間だ。
潤は少し躊躇いつつも、そのベッドカバーに身体を横たえてみる。腕を投げ出して、仰向けになり天井を仰いだ。
これが颯真が毎日見ていた光景だったんだと思う。
下からせり上がるように、壁には間接照明の明かりが迫り、消灯している天井のライトに当たって影を作る。そしてダークトーンのカーテンが目に入り、その上にはエアコン。
ここまできて、なお躊躇っている自分に少し呆れていた。踏み込めない自分がいるのは潤も分かっていた。こんなに頭の中と心は、颯真のことでいっぱいなのに。
身体を横に向けると、ネイビーの寝具の向こうに同じ色の枕があった。それを手に取り抱きしめた。
「颯真……」
思わず名前を口に出す。
すると、その声に呼応するように、その枕から颯真の香りが、わずかにした気がした。
潤は瞳を閉じて、頬を寄せて、その匂いを辿る。颯真の気配を追い、自分の気持ちを素直に晒す道を探すように。
颯真の枕を抱いて、顔を押しつけた。
颯真の香りがふわりと鼻孔に伝わった気がする。
気のせいかと思ったが違う。彼の匂いはこの部屋に染みついている。
それに、潤は何も考えずに身を任せようと思った。
枕を抱き締めて、目を閉じる。
颯真の匂いを感じる。まるで温かくて広い背中のようで、安心できる。
颯真の匂いは、潤を昔の記憶を揺り戻すのだ。
幼少時は、颯真の背中は潤にとって特別な場所だった。颯真は自分よりも常に背が高かったし、何かあると隠れる場所であり、不安を取り除ける場所。何も言わずにくっ付いていても、面倒臭がらずに受け入れてもらえる場所だった。
「ん? どうした?」
そう言って颯真は、潤の身体を優しく抱き留めてくれた。
あれから成長して、自分はもうあの頃の弱い子供ではないし、颯真の背中に隠れなくても立ち向かえる人間になったと思っていた。
すると今度は、颯真が潤の背中を頼るようになっていた。一緒に部屋にいると、例えばソファの上ではわざと自分の背中を潤の背中に預けてくる。二人で互いに背中を合わせて座り、それぞれ好きなことをする。
母は仲が良いわねと呆れた口調を隠さなかったが、互いが互いの背中を頼っているという関係は、潤は嫌いではなかった。
「ん? どうした?」
颯真の枕を抱いていると、昔の記憶が蘇ってくる。
彼の深くて優しい眼差し。無条件で受け入れてくれる、唯一無二の関係。
「颯真……」
潤は名を呼ぶ。
颯真がすぐに呼んでくれるような気がしたけど、もちろんそんなことはない。
彼をもっと感じたくて、潤は溜まらず枕をぎゅっと抱き締めた。
……なんか、身体が熱い。
気持ちの高ぶりに呼応するように、身体の奥が、もぞもぞと熱を持ち始めた。それが少しずつ呼吸をするたびに近づいてきている気がする。
その変化に潤とて気がつかないわけではなかった。
少しずつ変わる身体を自覚しながら、その感覚に身を任せる。
そわそわと迫ってくるものに、何も考えずに身体が求めるままに委ねようと、潤は決めていた。
颯真の香りはそれまでずっと気持ちが落ち着く香りだった。好きだった。
こんなに官能が煽られるものではなかったのに。
発情期でもないのに、身体が覚えているのだ。自分がどんな香りに煽られて、身体を熱くし、開いたのか。
あの時の本能に嘘はつけなかった。快楽を、身体は忘れていない。
枕に顔を埋めたまま、ベッドの上に身を投げ、寝間着の上から、身体をさする。敏感になっていて、指を沿わせるだけでぞわりと快感が駆け抜ける。
「……んっ」
胸の突起は見なくとも先端が敏感に尖り、触ると強い感覚を伝えてきた。思わず、耐えるような吐息が漏れる。
その息の中にさえ、颯真の香りで煽られた官能が漏れているような気さえした。
「俺の香りで感じてるのか?」
耳元で颯真の声が聞こえた気がした。
そんなはずはないし、これまでの颯真ならば絶対に言わない一言だ。いや、今の颯真ならば言いそうな気がするが。
そして悔しいことに、それは本当のことだ。悔しくて、潤は答えなかった。
潤は、寝間着の裾から手を入れる。敏感なその胸の突起に触れ、指の腹で先端に触れる。しだいにそれでは物足りなくなり、コリコリと弄る。すると、ぞわりと腰の奥から何かが駆け抜け、思わず身体を丸めた。
刺激が欲しいという率直な欲求だ。
手探りで指で胸を愛撫しつつ、そのもう一方の手は、腰を上げて下半身に伸びる。寝間着の上から触るなんて、まどろっこしいことはしなかった。そのままズボンの中に手を入れた。
「んっ……」
すでにその場所は少し興奮していて、硬くなりかけている。香りだけで、声だけでこんなふうになってしまう自分はどうかしていると、わずかな理性では思うのだが、官能を追いかけることが止められない。
その無防備な場所をそわりと触る。指で形をなぞる。その手の動きが、次第に颯真の指のように思えてきてしまい、潤の官能は一気に引き上げられた。
「あ……あぁっ」
耳元で颯真に気持ちがよかったら声に出してと言われたことを不意に蘇った。
「……気持ちよかったら声に出して。感じてる声が聞きたい」
潤のなかのオメガの部分が、ぐしゅりと水気を帯びた気がした。
その感覚を、もう潤はすでに知っている。
颯真が欲しい、という欲望だ。
颯真の枕に顔を埋めたまま、潤は寝間着のズボンに手をかける。うつ伏せの状態で、膝をついて腰を上げ、その場所まで一気にズボンを下ろした。
エアコンが室内を適温にしてくれていて、いきなり外気に触れてもさほどに寒さを感じない。身体が火照り始めているのかもしれなかった。
あらわになった自分の性器が枕の隙間からちらりと見えた。すでにゆったりと力を持っていて、この後の得られるであろう快楽を心待ちにしているようにも見える。
現金なものだ。年末からほとんど反応はなかったのに、颯真のことを考え、彼の匂いに身を委ねたら、容易に元気な姿を見せ始めた。
潤は自分の部屋から、この間の発情期で使ったローションを持ち込んでいて、それを手にする。少し躊躇ったけど、膝を立てて無防備にあらわになったヒップの奥のその場所に、中指の腹で塗り込んだ。
「んっ……」
中指がずぶりと入り、その中が思った以上に熱くて驚いた。
その熱さが、アルファを求める熱のようにも思えてくるから不思議だ。
指はぬめりをもって容易に入り、なじんだ。すぐに物足りなくなって、指を増やした。すると腰から前にかけて快感が駆け抜ける。
「あ……あん」
思わず声が漏れる。
「そう、潤。上手にできてるね。もっと大胆に指を動かしてごらん。
大丈夫、怖くないよ」
颯真の声に煽られて、潤は中指と人差し指をそのなかで広げてぐるりと内壁をなで回してみる。そして指を曲げて、中の潤いを搔くように指を動かすと、ぐしゅりと濃度の高そうな卑猥な音がした。
たまらない。
気持ちがいい。
颯真にそうやって誘導されて、自分を慰める行為に潤は夢中になった。
「自分で中を愛撫する潤は、可愛くて最高だな。
でも、前も弄ってあげて。ほら、ひくひくしてる。本当なら俺が口で可愛がってあげたい……」
颯真の艶を含んだ声に誘われて、潤はほとんど触れていないにも関わらず、高く反り返る自分の性器に触れる。ローションのぬめりを借りて、そのささやかな猛りを指でしごくと、溜まらないほどの快感が駆け抜けた。
「ああ……!」
潤の意識は快感を追うことに夢中になっていた。両肩を颯真の枕に預け、左手ははち切れそうな自分の性器、左指はその奥のアルファの熱を受け止める奥蕾を突っ込み、身体が求めるままに、快楽の階段を駆け上がる。
「あ……そう……ま。イく……」
そう呟いた潤に、脳内の颯真が一緒に行こうと言ってくれた。
「中の自分のいいところを刺激してごらん?」
俺に散々攻められた場所だよ、分かるよね? と颯真の声が艶やかに潤を誘う。
潤も無意識に頷いた。入り口近くにあるその場所は、颯真に攻められると潤はおかしくなるほどに気持ちがよくなり、腰の揺れが止まらなくなる。
「潤、愛してるよ」
颯真の言葉に、思わず潤は頷いた。
「……僕……も」
潤はその場所を刺激した。
「あっ……あぁぁー」
自分の指で前立腺を刺激した。潤のはちれそうなほどの性器がとぷとぷと白濁の精を吐き出す。
颯真のネイビーのリネンの上に、白濁がぼたぼたと落ちる。
潤は、自分の中に指を入れたまま、脚が震え膝が崩れ落ちた。
「はぁはぁ……」
息が荒い。
「あ……ふ」
不意に視界が歪んだ。
なんだ……? と思うと、温かい涙が溢れてきた。
歪んだ視界の中、はたはたとネイビーのリネンの上に落ち、濃いしみを作る。
気持ちは後からついてくる……。そんなものかと半信半疑であったのは確か。でも、間違っていなかった。本能と気持ちは繋がっている。
僕は今、颯真のことを愛おしいと感じている。
そんな恋情が潤の胸中で、驚くほどあっさり、すとんと落ちてきた。
僕の片割れで、僕のアルファ。
声が、口から漏れる。
「颯真……」
潤は、涙に濡れた目を瞑った。
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