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第73話・守ると決めたから
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澪との会話を終え、室内に一瞬の静けさが戻った。
その空気の中で、崇徳がふと崇雅を見た。
「……崇雅、澪さんと——結婚するつもりなんだろう?」
唐突とも思える問いに、澪の肩が一瞬だけびくりと揺れた。
崇雅はその動揺に気づきながらも、落ち着いた声で応える。
「ああ。……そのつもりだ」
それは迷いのない肯定だった。
真正面から返された言葉に、崇徳はゆっくりと息をついた後、淡く笑みを浮かべた。
「……そうか。なら、あの二人のことは——俺に任せろ」
「……兄さん?」
崇雅の眉がわずかに上がる。
崇徳は真っ直ぐ弟を見つめ、いつになく柔らかい声で言った。
「二人が、誰にも邪魔されず幸せな人生を歩めるよう、俺ができる限りのことはする。……これは約束だ」
その言葉に、崇雅は小さく目を見開いた。
兄・崇徳。
常に冷静で、感情をあらわにせず、必要最低限の言葉しか交わしてこなかった兄。
弟である自分にも関心があるようには見えず、父や母が口にする「優秀な長男」という称号のもと、常に結果だけを求められていた存在。
その兄が今——
初めて、“弟である自分”と、その隣にいる“彼女”を守ろうとしている。
「……兄さんが、そこまで……?」
「……迷惑をかけたお詫びもある」
崇徳は一度目を伏せて、苦笑する。
「それと……打算的な話をするなら、ふたりが結婚して子どもができれば、それだけで父も母も黙るだろう。……俺には、もうその役目は果たせないからな」
「……」
「……もう、誰かと結婚する気もない。正直、子どもを育てる未来も想像できない。……でも、お前たちなら、きっと大丈夫だと思う。——だから、応援させてくれ」
淡々と語られるその言葉の一つ一つに、重みがあった。
そして——
隣でそれを聞いていた澪は、顔を真っ赤にしていた。
「……っ」
ふいに俯き、視線を膝の上に落とす。
崇徳の話はどれも現実的で、決して悪意も皮肉もないのに、
「子どもができれば」という一言が頭から離れなかった。
(な、なんで私がこんなことで……)
隣にいる崇雅は、驚きつつも無言だったが、ちらりと澪の様子に気づき、小さく口元を緩めていた。
崇徳はそれを見ても特に何も言わず、淡々とカップを手に取り、最後の一口を飲み干すと、静かに立ち上がった。
「じゃあ、今日はこの辺で。……崇雅、澪さん、来てくれてありがとう。——また、何かあったら連絡してくれ」
「……ああ。ありがとう、兄さん」
崇雅の短い返事に、崇徳はひとつだけ頷き、個室を後にした。
残された澪はまだ顔を赤くしたまま、崇雅の顔を見れずにいた。
ホテルのロビーを出た後も、澪はまだ少しだけ顔を赤くしたまま、横に並ぶ崇雅と視線を合わせられずにいた。
エントランスに向かって歩きながら、崇雅がちらりと澪の様子を伺う。
「……顔、赤いけど大丈夫か?」
「だ、大丈夫です……!」
慌てた声で答えたものの、明らかに動揺している澪に、崇雅はわかりやすく口元を緩めた。
「……子ども、の話、されたから?」
「ち、違います!」
「じゃあ、なにが?」
「…………」
返せない澪に、崇雅はそれ以上からかうことはせず、静かに車のドアを開けてくれた。
車がホテルの敷地を出たあたりで、ようやく澪がぽつりと口を開いた。
「……すごく、優しいお兄さんでしたね」
「……そう見えたか?」
「はい。……なんていうか、もっと厳しいというか、東條家の人って怖いのかなって、勝手に想像してたので……意外でした」
崇雅は片手でハンドルを持ちながら、ほんの少しだけ息をついた。
「兄さんは……昔から変わらない。冷静で、感情を出さない。だけど、優しいって言われると……そうかもしれないな」
「……崇雅さんと、似てます」
「……そうか?」
「ええ。不器用だけど、言葉の端々に、ちゃんと想いがこもってる。今日、お兄さんの言葉に、すごく救われた気がしました」
信号待ちで車が止まり、崇雅が静かにこちらを見た。
「澪、俺と……本当に一緒にいて、後悔しないか?」
「……しません」
即答だった。
崇雅の瞳に、優しい光が宿る。
「これからも、逃がさないからな」
「……はい」
窓の外、街路樹の葉が風に揺れている。
その音が、ふたりの間に流れる静かな時間を、より穏やかなものにしていた。
その空気の中で、崇徳がふと崇雅を見た。
「……崇雅、澪さんと——結婚するつもりなんだろう?」
唐突とも思える問いに、澪の肩が一瞬だけびくりと揺れた。
崇雅はその動揺に気づきながらも、落ち着いた声で応える。
「ああ。……そのつもりだ」
それは迷いのない肯定だった。
真正面から返された言葉に、崇徳はゆっくりと息をついた後、淡く笑みを浮かべた。
「……そうか。なら、あの二人のことは——俺に任せろ」
「……兄さん?」
崇雅の眉がわずかに上がる。
崇徳は真っ直ぐ弟を見つめ、いつになく柔らかい声で言った。
「二人が、誰にも邪魔されず幸せな人生を歩めるよう、俺ができる限りのことはする。……これは約束だ」
その言葉に、崇雅は小さく目を見開いた。
兄・崇徳。
常に冷静で、感情をあらわにせず、必要最低限の言葉しか交わしてこなかった兄。
弟である自分にも関心があるようには見えず、父や母が口にする「優秀な長男」という称号のもと、常に結果だけを求められていた存在。
その兄が今——
初めて、“弟である自分”と、その隣にいる“彼女”を守ろうとしている。
「……兄さんが、そこまで……?」
「……迷惑をかけたお詫びもある」
崇徳は一度目を伏せて、苦笑する。
「それと……打算的な話をするなら、ふたりが結婚して子どもができれば、それだけで父も母も黙るだろう。……俺には、もうその役目は果たせないからな」
「……」
「……もう、誰かと結婚する気もない。正直、子どもを育てる未来も想像できない。……でも、お前たちなら、きっと大丈夫だと思う。——だから、応援させてくれ」
淡々と語られるその言葉の一つ一つに、重みがあった。
そして——
隣でそれを聞いていた澪は、顔を真っ赤にしていた。
「……っ」
ふいに俯き、視線を膝の上に落とす。
崇徳の話はどれも現実的で、決して悪意も皮肉もないのに、
「子どもができれば」という一言が頭から離れなかった。
(な、なんで私がこんなことで……)
隣にいる崇雅は、驚きつつも無言だったが、ちらりと澪の様子に気づき、小さく口元を緩めていた。
崇徳はそれを見ても特に何も言わず、淡々とカップを手に取り、最後の一口を飲み干すと、静かに立ち上がった。
「じゃあ、今日はこの辺で。……崇雅、澪さん、来てくれてありがとう。——また、何かあったら連絡してくれ」
「……ああ。ありがとう、兄さん」
崇雅の短い返事に、崇徳はひとつだけ頷き、個室を後にした。
残された澪はまだ顔を赤くしたまま、崇雅の顔を見れずにいた。
ホテルのロビーを出た後も、澪はまだ少しだけ顔を赤くしたまま、横に並ぶ崇雅と視線を合わせられずにいた。
エントランスに向かって歩きながら、崇雅がちらりと澪の様子を伺う。
「……顔、赤いけど大丈夫か?」
「だ、大丈夫です……!」
慌てた声で答えたものの、明らかに動揺している澪に、崇雅はわかりやすく口元を緩めた。
「……子ども、の話、されたから?」
「ち、違います!」
「じゃあ、なにが?」
「…………」
返せない澪に、崇雅はそれ以上からかうことはせず、静かに車のドアを開けてくれた。
車がホテルの敷地を出たあたりで、ようやく澪がぽつりと口を開いた。
「……すごく、優しいお兄さんでしたね」
「……そう見えたか?」
「はい。……なんていうか、もっと厳しいというか、東條家の人って怖いのかなって、勝手に想像してたので……意外でした」
崇雅は片手でハンドルを持ちながら、ほんの少しだけ息をついた。
「兄さんは……昔から変わらない。冷静で、感情を出さない。だけど、優しいって言われると……そうかもしれないな」
「……崇雅さんと、似てます」
「……そうか?」
「ええ。不器用だけど、言葉の端々に、ちゃんと想いがこもってる。今日、お兄さんの言葉に、すごく救われた気がしました」
信号待ちで車が止まり、崇雅が静かにこちらを見た。
「澪、俺と……本当に一緒にいて、後悔しないか?」
「……しません」
即答だった。
崇雅の瞳に、優しい光が宿る。
「これからも、逃がさないからな」
「……はい」
窓の外、街路樹の葉が風に揺れている。
その音が、ふたりの間に流れる静かな時間を、より穏やかなものにしていた。
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