【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな

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番外編・酔いにほどけて、愛に包まれる ③

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崇雅の腕に寄りかかったままの澪に、沙耶がそっと声をかけた。

「……澪、今日はほんとにありがとう。幸せのおすそ分け、もらったよ」

「……うん……またね、沙耶……梨花、ひなも……みんな、ありがと……」

澪は崇雅の腕の中からふにゃっとした笑顔を浮かべながら、ぽつぽつと名前を呼んでいく。
普段ならきちんと頭を下げて挨拶するところだが、今夜はどう見ても戦力外だ。

その様子に3人が顔を見合わせて苦笑していると、崇雅が一歩前に出て、軽く会釈した。

「今日は澪がお世話になりました。楽しい時間を、ありがとうございました」

低く落ち着いた声と、自然な礼儀正しさに、3人は思わず背筋を伸ばしてしまう。

「あ、いえ、こちらこそ! 初めてお会いします、私たち大学からの友人で……」

沙耶が急いで説明を添えると、崇雅は小さく微笑み、穏やかに言葉を重ねた。

「……ええ、澪から伺っています。澪が楽しめたなら、それだけで十分です。今夜の分、こちらで」

そう言って、すでに店員に声をかけ、伝票を手に取る。

「えっ、でも――澪の分だけで十分ですからっ」

梨花が慌てて口を開くが、崇雅は柔らかな笑みを崩さずに応じた。

「いえ。澪がここまで気を許せる方々に会えたことが、私にはとても嬉しいので。ぜひごちそうさせてください」

「……マジで、王子様なんじゃ……?」

「ちょ、ひな、声出てる……!」

「いや……こんなにしてもらっていいの? なんか恐縮すぎて戸惑うんだけど……」

ひな、梨花、沙耶はそれぞれ呟きながら、思わず崇雅の横顔をちらりと見つめていた。
澪が惚れ込むのも無理はない。
そう思わされる“説得力”が、彼にはあった。

「それでは、失礼します。澪、行こうか」

「……はい……崇雅さん……」

澪はふにゃふにゃのまま、ぴったりと崇雅の腕に身を預けたまま、出口へと向かっていく。

その背中を見送りながら、沙耶がぽつりと漏らした。

「……うん、あれは本物だわ」

「ほんと。愛されてるの、あれだけで全部伝わったね」

「ちょっと、式の日……絶対泣くわ私」

「私もう泣いてる……」

静かに盛り上がる友人たちの声を背に、ふたりは夜の街へと歩み出した。


車のドアを閉めた瞬間、夜の喧騒が遮断され、車内に静寂が満ちる。

「……澪、シートベルト」

運転席から崇雅が穏やかに促すと、澪は小さくうなずいて動こうとした――が、うまく手が動かず、止まった。

「……ん、なんか……うまく……できない……」

言葉も動作も、ほんの少しだけ緩い。

崇雅は微かに笑いを含んだ息を吐き、身を乗り出して助手席のシートベルトを手に取る。

「ほら、こっち向いて」

「……すみません……」

そう言いながら、澪はおとなしく身体を向ける。
目を細め、どこかぼんやりした表情で、けれどその頬はほんのり紅を差していた。

「……ごめんなさい。ふわふわしてて……」

「……大丈夫。ちゃんと連れ帰るから」

カチリとシートベルトが固定された瞬間、澪は少し照れたように笑った。

「……こうしてもらうの、久しぶりですね」

「そうだな。酔ってる澪は、珍しい」

崇雅はそう言いながらも、内心では少し驚いていた。
ここまで崩れた澪を見るのは、久しぶりだ。
普段はきちんとして、どこか隙のない彼女が――今日はまるで、誰よりも無防備に自分に身を預けている。

それが、たまらなく愛おしい。

「……なんか、変な感じです。頭がぼんやりしてて、でも崇雅さんがそばにいると安心するというか……」

「それは、ありがたいが……くっつくのは帰ってからだ」

「……うん」

子どもみたいに素直な声。
澪はそれでも名残惜しそうに崇雅の袖を指先でつまむと、シートに小さく身を縮めた。

信号待ちの合間、ちらりと視線を向けると、彼女はとろんとした目で窓の外を見ていた。

「崇雅さん……今日は、ありがとうございました」

「……うん?」

「こうして、迎えに来てくれて。安心しました……私、ちょっとだけ……崩れそうだったから」

その言葉があまりにも澪らしくて、崇雅は思わず口元を緩める。

「……何があっても、俺は迎えに行く。澪が崩れても、全部受け止める」

「……うれしいです」

ぼそっと呟いた澪は、まぶたを少し閉じたまま、ゆるく微笑んだ。
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