みっしょん!! ~異世界で生き返ったから、自由気ままに生きてやれ!~ ~狭い世界を飛び出して、最強無敵をめざしちゃえ!~

蟒蛇シロウ

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第2章「新たな地、灯ノ原」

第17話「猛るタイニー 高位の鬼」

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 鬼たちは、やはり町のあちこちで人間を喰らっているようだ。若矢はその拳で次々と鬼たちを殴り倒していくが、それでも犠牲者は1人、また1人と増えていく。
(ここの警察組織や政府は何をやってるんだ! なんでこんなにも鬼が野放しに! 人々が襲われているんだぞ!)
 若矢は心の中で叫びながら、鬼たちを殴り倒していく。
「この小僧やるな」
「まぐれに決まってる。人間ごときに俺たちの相手なんか務まるわけがねぇぜ」
と、口々に言い合う鬼たちだったが、若矢の勢いに押されていた。

 そんな時だ。鬼に囲まれている若い女性を見つけた若矢。彼女は恐怖に足がすくんでいるのか、動けずにいる。
「おりゃあっ!!」
 若矢は勢いのままに鬼たちを殴り倒すと、すぐさま女性の元へと駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
 すると彼女はホッとしたのか、若矢に抱きつき泣き出す。
「こ……怖かった! 私、死ぬかと思った……」
 そんな彼女をしっかりと受け止めると、優しく声を掛ける。
「もう大丈夫です。俺の傍を離れないでください」
 女性は涙を拭き頷くが、彼女が安心したのも束の間のことだった。

 次の鬼が現れたのだ。それは先程の鬼よりも更に体格が大きい鬼で、その身長は5メートル近くあり、他の鬼と違ってかなりの肥満体であった。
「な、なんだ? あいつも鬼か?」
 若矢は女性を守るように立ち塞がり、その鬼を睨みつける。だが、その鬼は他の鬼たちとは明らかに様子が違っていた。
「グバババババ! 美味そうな人間みっけた。グバ! 今日はご馳走だな!」
「ひ、ひぃいい!」
 その鬼の唸り声に女性は震え上がる。
 だが若矢は怯むことなく、その鬼と対峙するのだった。

「太った鬼か……」
 若矢は拳を握り締め、身構える。
「うぉおおおお!!!」
 雄叫びを上げながら鬼へと突進する若矢。そして渾身の一撃を繰り出した。しかし……。
「グバァアア!!」
 巨大な鬼はその巨体に見合ったタフさを誇るようで、若矢の攻撃が効いている様子がなかった。それどころか逆に、若矢を殴り飛ばす。

「ぐわぁ!!」
 あまりの衝撃に吹き飛ばされる若矢。頑強な若矢の体も傷つくことはなかったが、相手の反撃を喰らうのは久しぶりのことだった。
 若矢は立ち上がり再び鬼へと突進する。だが、何度殴っても倒れる様子がない。
(ちぃっ! まるで岩でも殴ってるみたいだ……)
 このままでは分が悪いと踏んだ若矢は一旦距離を取り体勢を立て直そうとするが、背後から殺気を感じる。

 そこには、今戦っている太い鬼とは対照的に、異様なほど細身の鬼が立っていた。その身長は2メートルにも満たず、腕も細くヒョロっとしている。
(なんだ? こいつも他の連中とは気配が違う……)
 細身の鬼は他の鬼たちと違い、静かに若矢を見つめていた。そしてゆっくりと口を開いた。
「おい、協力しよう!!」
 甲高い声で細身の鬼は、巨大な鬼に声を掛けた。
「グババ! 細鬼、俺に命令するのか? お前は1人では肉を食べることも出来ない半端者だろう!」
 その細身の鬼、細鬼は怒りで顔を歪ませた。
「黙れ!! 貴様こそまともに走れない弱者じゃないか!!」

 2体の言い合いを聞いて若矢はあることを思いついた。それはこの2体を戦わせることで、注意を分散させてどちらか一方の隙を突く作戦だ。
(このまま戦うよりも、俺も一対一の方が戦いやすい)
 しかし、その作戦を試す機会は無かった。口では言い争いながらも2体の鬼は仲が良いらしく、息の合った動きで若矢を挟み込んだ。
「さぁ小僧! グバァア!!」
 巨大な鬼がその腕で殴りかかってくる。
 それを若矢は何とか躱すが、次は細鬼の方が攻撃を仕掛けてきた。
「どうした小僧? もう限界か?」
と、細鬼が余裕を見せる。
(なにか手があるはずだ……。考えろ……)
 若矢が策を考えている時だった。


「大丈夫か、若矢!!」
という聞き覚えのある声と共に駆け付ける影があった。
 声の主はタイニーだ。
「タ、タイニー! どうしてここに?」
 その質問には答えず、タイニーは若矢の隣に並び立つ。
「若矢、敵は2体いる。1体を相手している隙にもう片方の攻撃を喰らったら危険だ。だからタイニーが戦う」
 タイニーの言葉に若矢は驚いた。
「で、できるのか?」
 すると、タイニーはニヤリと笑う。
「タイニーを誰だと思ってる? タイニーは最強の獣戦士さ!」

 タイニーは、鬼たちに向けて拳を構えた。
「猫が1匹増えたところでなんだというんだ! おい、行くぞ太鬼! あの猫から先に噛み殺してやれ!」
 太鬼と呼ばれた巨大な鬼はタイニーへと狙いを定めると、勢いよく突進してきた。
 だがタイニーはその攻撃をひらりと避けると、そのまま太鬼の後頭部に蹴りを入れる。そして体勢を崩した太鬼をもう1体の細身の鬼の方へと蹴り飛ばした。
 同時に吹き飛ばされた2体の鬼はすぐに立ち上がると、タイニーに向かって飛びかかるが、タイニーの鋭い爪が細鬼を切り裂く。
「ぐわぁああ!」
 細鬼は悲鳴を上げ、その場に倒れ込む。
「な、なんだと! あの小僧もそうだが、この猫も強いだと!?」
 太鬼は驚きの声を上げる。

「タイニーが相手だ。覚悟しろ」
 そういうとタイニーは鋭い牙を剥き出しにして笑った。その笑みには余裕さえ感じられる。
(タ、タイニー……凄いな)
 立ち上がった細身の鬼は素早いスピードで駆け回り、タイニーに噛みつこうとする。……が、タイニーは懐から取り出した小さい針のようなものを巨大化させ、槍にするとそのまま細鬼を貫いた。
「ぎゃぁああ!!」
 細鬼の悲鳴が響き渡る。だが、それで終わりではなかった。今度は槍に火を宿し、とどめと言わんばかりに大きな火球を放ったのだ。
 その炎に包まれた細鬼は悲鳴を上げながら焼かれていく。やがて魔族が消滅したときと同じように、霧散するのだった。
 一方、残った太鬼に対しても若矢とタイニーが力を合わせ、同時に飛び蹴りを喰らわせる。
「グバァア!!」
という叫びと共に、太鬼は近くを流れる川に勢いよく転落していった。


「ふぅ、これで片付いたみたいだな若矢」
 タイニーが槍を回してポーズを決めながら若矢に声を掛ける。
「タイニーって、あんなに強いんだな。……ビックリしたよ」
 若矢は興奮交じりに、素直な感想を口にした。
「ふふん、あんなの大したことないよ。タイニーは強いからね!」
 自慢げに言いながら、若矢に手を差し出すタイニー。
「でも若矢はもっと凄かった。ヒューマン種であれだけの威力の蹴りを放てる奴なんて、そうそういないと思うぞ! タイニーも驚いた」
 若矢は照れくさそうにしながらも、その手を握り返す。
「ありがとう、タイニー。これからもよろしくな」
「うん! これからも頼むぞ、若矢!」
 2人はお互いの顔を見合って、微笑みあった。

 だがその時であった。タイニーの腹部から突然、血が噴き出す。
「——ニャ……こ、これは……?」
「——な、なんだ?」
 若矢は倒れたタイニーを慌てて抱き上げる。すると腹部に何者かの攻撃を受けた跡が残っていた。
(攻撃!? でも誰が?)
 周囲を見渡すが敵の姿はない。するとその時であった。


「……獣人族の血は濃くて少し苦いのねぇ、うふふ……」
 その声を聞くと同時に、間一髪刃物のような一撃を躱し、タイニーを抱えて後ろへと飛び退く若矢。視線の先にいる声の主は、若矢が先ほど助けた若い女性であった。
 彼女は手にした短刀に付いたタイニーの血をペロリと舐めながら、不気味な笑みを浮かべる。
「あら? よく躱したわねぇ。やるじゃないの」
 その瞳は闇の中で赤く光っている。
「そ、そんな……。あなたも……鬼? でも……」
 若矢は驚きのあまり言葉を失う。

「そ、私も鬼。でもそこらの鬼と一緒にしないでよ? 私は選ばれた鬼なんだから」
 そう言いながら、舌なめずりをする。その姿はまるで獲物を狙う蛇のようだ。
「どうせ美味しそうな奴はいないと思って期待してなかったんだけど、まさか初日からこんな上物に出会えるなんてね。私って幸運だわ」
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