みっしょん!! ~異世界で生き返ったから、自由気ままに生きてやれ!~ ~狭い世界を飛び出して、最強無敵をめざしちゃえ!~

蟒蛇シロウ

文字の大きさ
18 / 37
第2章「新たな地、灯ノ原」

第18話「赤い瞳の恐怖 ラグーの静かな怒り」

しおりを挟む
 若矢はタイニーを地面に寝かせると、女性を睨みつける。女性はクスリと笑う。
「……私の名前は『魅月みづき』。高位の鬼の1人よ」
 魅月と名乗ったその鬼は、ゆっくりと若矢の元へと近づいてくる。
 若矢は彼女の赤い瞳を見た瞬間、背筋が凍るような恐怖を覚えた。それは今までに感じたことのない強いものであった。
(こ……怖い!)
 だがそれでも若矢は立ち向かう。タイニーを傷付けられた怒りが彼を奮い立たせていたのだ。

「タイニーをお前なんかに喰わせるかっ!」
 と叫びつつ、若矢は拳を突き出す。しかしそれは簡単に避けられてしまう。
「単純ねぇ」
 嘲笑する魅月の爪が襲いかかる。若矢は慌ててそれを躱すが体勢を崩してしまった。
 そしてそこに蹴りを入れられてしまいその場に倒れ込む。そんな若矢に馬乗りになると、魅月はニヤリと笑う。

 だが次の瞬間、その魅月の首が刎ね飛ばされた。
「——!?」
 若矢は一瞬、何が起きたのか理解できなかったが、魅月の首を刎ねたのはフラフラと苦しそうに立ち上がったタイニーだった。
「若矢は殺させない! 絶対に!!」
 タイニーは再び槍を巨大化させると、それを魅月の体に突き刺す。若矢は体が自由になり、後ずさりした。
「や、やった……タイニー」


 が、しかし……。
「ざ~んねん。あなたはもう味見したから、あとでゆっくり食べてあげる……。そこで寝ててね?」
 その声は刎ね飛ばされた、魅月の首から発されている。次の瞬間、残った体の手から放たれた突風を受け、タイニーは地面に転がった。
「わ、わか……や……」
 すでに限界だったタイニーはそのまま、気を失ってしまったようだ。

 「タイニー! よくも、この!!」
 若矢は起き上がろうとするも、いつものように力が発揮できない。
 そうしている間に、地面に転がった魅月の首は溶けるように地面に消えていき、残った胴体に再び頭部が形成されていく。その様子に思わず絶句する若矢。
「な……く、首がっ——!? ば、化け物か……」
 若矢は恐怖で足がすくんでしまっている。
「あの猫ちゃんは後回し。それよりも早くあなたを食べたいのよ。私」
 そういいながらゆっくりと歩み寄ってくる魅月に対して、若矢は恐怖で動くことが出来ない。


「う……うわぁあああ!!」
 恐怖に駆られた若矢は、なんとか立ち上がると同時に思わずその場から逃げ出した。
(な、なにやってるんだ俺は!? タイニーを置いていけないのに……体が……!!)
 本能が思考よりも先に、目の前の恐怖から逃げようと彼の体を動かしていたのだ。だが恐怖で足がもつれてしまい、早く走ることができない。必死に足を動かしているつもりだが、まるで鉛を引きずっているかのように体が重いのだ。

 「うふふ、鬼ごっこ? いいわよ、付き合ってあげる……」
 そんな若矢の後ろからゆっくり歩いてくる魅月。
「はぁっ、はぁ……」
 若矢は息を切らしながらも足を止めずに走り続けるが、一向に前に進んでいる気がしない。
(なんなんだ!? なんなんだ、アイツは——!! これまで出会ったどんな奴よりも恐ろしい……。でも……!! でも、ここで俺が逃げたらタイニーが!)
 若矢は深呼吸をすると、ようやく覚悟を決めた。そして立ち止まり振り返ると、魅月を睨みつけた。

 「あらぁ? やっと観念してくれたの?」
 魅月は嬉しそうに笑う。
「俺はもう逃げない! お前をここで倒してタイニーを助けるんだ!」
 と叫び、拳を握りしめる若矢。だがその体は震えている。
 そんな若矢を見て、魅月はさらに笑みを深める。
「……いいわね、その表情」
 と言いながら舌なめずりをした。

 若矢の体がビクッと跳ね上がる。
(な、なんなんだ!あの赤い瞳を見てから、俺はおかしくなってる……。この恐怖はなんだ?)
 魅月の瞳に魅入られたかのように体の自由が利かなくなるのだ。それでも必死に耐えながら拳を構え続ける若矢だったが……。
「転生者は、どんな味がするのかしらねぇ?」
 若矢のことを超人的な身体能力を誇る転生者だと知っていて襲ってくるということは、かなり戦闘に自信があるという証拠だ。
 
「う、うおぉおおっ!!」
 若矢は恐怖を払拭するように叫びながら走り出すと、魅月に向かって拳を放つ。だがその攻撃はいとも簡単に避けられてしまった。
 続けて目にも留まらぬ速さで拳を突き出し続けるも、ただの一発も当たらず、魅月は口元に笑みを浮かべながら避け続ける。
「うふふ、結構いい拳持ってるのね?」
 と余裕を見せ、魅月は若矢の攻撃を全て避けきっている。

(くそっ! なんで当たらないんだ!!)
 焦りを見せる若矢だったが、その隙を魅月が見逃すはずもなく……。
「じゃあそろそろ私から行くわよ」
 そう言うと魅月はゆっくりと近づいて来る。
「く、来るなぁあ!!」
 そんな叫びも虚しく、若矢は一瞬で間合いを詰められてしまう。
 魅月は目にも留まらぬ速さで若矢に蹴りを入れると、彼の体は吹き飛び壁に激突した。
「ぐはっ!?」
 若矢はそのまま地面に倒れ込む。
(な、なんて威力なんだ……。一撃で意識を失いそうだ……)


 朦朧とする意識の中、若矢はゆっくりと立ち上がるものの足がふらついてしまう。
 そんな彼に魅月は、なおもゆっくりと近づいてくる。
「あら?まだ立てるんだぁ」
 迫って来る彼女を見て、背筋が凍るような感覚に襲われる若矢。
「うふふ、じゃあ次は……」
 と魅月は地面を蹴って一瞬で距離を詰めてきた。若矢は慌てて回避しようとするが間に合わず、再度、蹴りを喰らってしまう。
「ぐっ……!」
 そのまま地面に倒れ込む若矢だったが、すぐに立ち上がろうとする彼の体の上に馬乗りになり押さえつけられる。

「あら?まだ立ち上がるの?すごいわねぇ」
 と言いながら彼女は顔を近づけてくる。その瞳はとても妖しく輝いていた。
 必死に抵抗するものの力が入らず抜け出せないでいると彼女はその赤い瞳を爛々と輝かせ、鋭い牙をむき出しにしながら口を開けた。
「うふふ、いただきまぁす……」
 魅月が舌を伸ばし、若矢の首筋を舐めようとした時だった。何かの気配を感じ取った魅月は、若矢から離れて距離を取る。


 「本能に従うことで活路を見出せる場合もあるが、恐怖は思考を鈍らせる。そんなに怯えておっては本来の力は出せんぞ?」
 夜の闇からカツッカツッという靴音と共に聞こえてくる声に対して、魅月は警戒を緩めずにいる。
 一方の若矢は、聞き覚えのあるその声に驚きを隠せない。

 「……まったく。鬼宴週じゃから夜は出歩くなとあれ程言っておいたのに……。若矢くんもタイニーも、聞き分けが悪いのぅ」
 暗闇の中からゆっくりと姿を見せたのは、ラグーだった。
「ラグーさん!」
 と驚きの声を上げる若矢に、優しく微笑み返すとタイニーの元へと歩み寄る。そして地面に転がったまま気を失っているタイニーを抱える。
「油断したようじゃな、タイニーよ」

 その背後から迫る魅月。若矢が危ない、と叫ぼうとしたが、魅月の攻撃に対しラグーは背を向け、見ることもなく躱していた。
 そしてタイニーを地面に置くと魅月の方へゆっくりと振り返る。
「ふむ、高位の鬼じゃな? どうじゃ? ワシの相手をしてみるかの?」
 ラグーはいつもの柔和な表情を崩していないが、その体から漂うオーラは凄まじいものがあった。その迫力に魅月も思わず一歩後ずさりをするほどだ。

 「……いいえ、私は相手しないわ……。代わりにこいつが——」
 魅月の言葉と共に倒れていたはずの太鬼が起き上がりラグーに飛び掛かるが、魅月が言い終わる前に裏拳一発で太鬼の顔を叩き割り消滅させてしまう。その圧倒的な力に魅月も言葉を失っているようだ。
 だが、次の瞬間には口元に笑みを浮かべた。そんな魅月にラグーは呆れたようにため息を吐く。
「孫をこんな目に遭わせたことは決して許せん。……が、今はこやつの傷の治療が大事じゃ。このまま退くというのであれば、ここは見逃すぞ? ワシは無駄な殺生をするつもりはないからの」

 静かな怒りを灯すラグーを、笑みを浮かべながら見ていた魅月だったが戦闘の構えを解く。
 「はぁ~残念。せっかく転生者を味見するチャンスだったのに、思わぬ超強敵……。まぁ鬼宴週は始まったばかりだし、気長にいこうかしら。じゃあね、転生者の坊や」
 それだけ言って、若矢を一瞥すると魅月は笑いながら闇の中へと消え去った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...