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第1章 心を惑わす新入社員
1.7.スパイスと触れる熱(3,632字)
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夜の街を抜けると、爽やかな夜の風が沙月のシャツの胸元を揺らし、ジャケットの裾がスカートに触れてかすかな音を立てた。肩下まで伸びた黒髪が風に揺れる。パンプスがカツカツと音を立てた。街灯の光が彼女の白い肌に落ち、薄い桃色の頬を照らす。薄づきのメイクが、その端正な横顔をいっそう引き立てていた。
隣を歩く絢斗は、スーツに身を包み、シャツの胸元を少し開けて、気だるげな雰囲気を漂わせている。ウェーブのかかった茶色い髪が額に落ち、彫りの深い整った顔立ちに街灯が陰影を刻んでいた。涼しげな瞳と通った鼻筋、笑みを浮かべる薄い唇。その少し日焼けした肌からふわりと漂うシトラス系の香りが、沙月の鼻腔をくすぐる。
「到着しました。ここがそのタイ料理屋ですよ、沙月さん」
絢斗が弾む声で言うと、細い路地に佇むタイ料理屋の看板が目に入った。木製のドアを開けると、スパイシーなカレーとレモングラスの爽やかな香りが一気に押し寄せる。
「わぁ……一気に旅行気分ね」
無意識のうちに、沙月の胃がきゅるりと鳴った。
案内されたのは、木の仕切りで囲われた半個室の席だった。暖かなオレンジ色の照明が小さな空間を包み、テーブルの上の花瓶からはジャスミンの甘い香りが漂う。壁に飾られた色鮮やかな織物がゆらりと揺れ、遠くから流れる異国の旋律が耳を優しくくすぐった。
(絢斗くん、センスがいいわね)
沙月が腰を下ろすと、スカート越しに椅子の冷たい感触が脚にじわりと伝わる。黒革のバッグをテーブル脇の籐籠に入れる。
絢斗はといえば、スーツのジャケットを脱いで椅子の背にかけ、シャツの袖をくるくると捲り上げた。陽に焼けた腕の筋が光に浮かび上がり、シトラスの香りがぐっと濃くなる。
「じゃ、とりあえずタイのビールで乾杯しましょ。沙月さん、ビールはお好きですもんね? 料理は……この店のおすすめを、俺が頼んでおきます」
「ええ……って、絢斗くん……私がビール好きだって、なんで知ってるの?」
「そりゃ、わかりますよ! 新人歓迎会のとき、だいぶ飲んでたじゃないですか」
沙月は目を丸くした。彼がそんなことまで見ていたとは。
(絢斗くんは、想像以上に私の好みを把握しているみたいね)
ほどなくしてビールが運ばれてくる。グラスの水滴が光り、泡の弾ける音が心地よく耳を満たす。沙月がグラスを持つと、ひんやりとした感触が掌に染みていく。
「乾杯!」
「乾杯! 沙月さんと俺の絆に感謝して」
「もう……絢斗くん、何? 大げさだわ」
ひと口、喉を鳴らして飲む。苦みと冷たさが舌に広がり、胃へと落ちるたび、小さく震えた。
ほどなくして、料理が運ばれてきた。トムヤムクンと、タイ風焼きそばのパッタイだ。どうやら、彼のおすすめ料理というのは、提供スピードも考慮してのものだったらしい。
トムヤムクンを口へと運ぶ。赤いスープからは、エビの甘い香りと唐辛子の鋭い刺激が立ち上る。スプーンでそれをすくい口へ運ぶと、舌を焼くような熱と辛さが喉を突き抜けて、額にうっすら汗が滲んだ。
「美味しいね。スパイスが効いていて、本場の味っぽいというか。私、このお店の味、好きだな」
沙月が顔をほころばせると、絢斗が小さくガッツポーズをする。
「よかったぁ! じゃあ俺も食べます。うーん、相変わらず、スパイシー!」
無邪気に喜ぶ絢斗が、微笑ましい。素直な感情表現は、沙月が忘れかけていたものだ。
「……そうだ! 沙月さん、今度は恋人の葛西課長と来てみてください」
その軽い一言に、沙月のスプーンを握る手がピクリと震えた。
(えっ? 絢斗くん、何を言っているのよ)
胸の奥に小さな棘が刺さる。彼女は目を伏せ、少し間を置いて答える。
「うーん、葛西課長とは、そういう感じじゃないんだよね」
言葉が半個室の空間にふわりと漂い、静寂が広がった。沙月の中で、何かがふいに引っかかる。
(葛西課長は穏やかで、優しくて、居心地もいい。でも、何かが……違う)
トムヤムクンの辛さが舌の奥に残り、その違和感をはっきりと浮かび上がらせる。
絢斗が、その空気を察したのか、グラスを手に取って笑顔を作った。
「あ、変なことを言ってすみませんでした! さぁ、呑んでください! グラスが空ですよ」
そして、沙月のグラスへビールを注ごうと手を伸ばす。そのとき――指先が、ふいに重なった。
冷えたグラス越しに、沙月の白い指に絢斗の、ほんのり色づいた日焼け肌の指が触れる。はっきりと、熱を感じた。ぞわりとした衝撃が指先から駆け上がり、背筋に電流のような感覚が走る。息がふっと漏れる。
「ひゃっ……ご、ごめんなさい」
シトラスの香りがぐっと鼻腔を満たし、スパイシーな料理の香りと溶け合って、彼女の五感を深く揺らした。
頬がさらに紅潮し、肌の奥まで熱が満ちる。胸の鼓動が一段と速くなり、耳の奥で心臓の音が響いた。絢斗の瞳が沙月を捉え、口元に笑みが浮かぶ。指が離れても、その熱の余韻は沙月の肌に残り、彼女は小さく息を呑んだ。
嫌いなはずだった。軽そうで、適当そうで、絶対好きになるわけないと思っていたのに。触れた一瞬が、心を揺らす。
甘く、熱を孕んだ空気が二人を包んでいくいく。沙月の唇がビールの泡に濡れ、わずかに震えた。
胸の奥で、何かが焦げるように、ゆっくりと燃え始める。
(もう、いい! とりあえず、ここは呑みましょう)
グラスを傾けると、冷たいビールが喉を滑り落ちていく。刺激的なトムヤムクンがまだ舌に残っていて、その苦みさえ甘く感じられた。
絢斗が、気まずくなった空気を変えるように、ふいに口を開いた。
「そうだ……俺、大学時代、バックパッカーでいろんな国を旅してたんですよ」
軽やかに語られる言葉に、沙月は思わず目を上げた。リラックスした様子で背もたれに寄りかかった彼は、ストライプのシャツの襟元を無造作に緩めている。日焼けした首筋、光に浮かぶ鎖骨のライン。そこからふわりと漂うシトラスの香りが、ほんのり汗の混じった香りと絡まり、沙月の胸をくすぐった。
「そうなんだ。……たしか、履歴書にも書いてあったものね。どこが一番印象に残ってるの?」
ここぞとばかりに、沙月は話にとびつく。早くこの、気まずい空気を消し去りたかった。
しかし沙月の食いつきが予想外だったようで、絢斗は嬉しそうに目を細めた。
「やっぱり、タイですね。屋台の料理が美味すぎて、毎晩いろんな味を試してました。パクチーも最初は無理だったけど、気づいたら中毒になってて」
ふっと笑ったその顔に、沙月の頬が緩む。薄い唇が笑みに形を変えるたび、その奥に熱を感じるようで、視線が自然と彼の口元に吸い寄せられた。
「帰国してからも再現しようとして、自炊、けっこう頑張ったんですよ。ほら、今ってネットでもレシピがたくさんヒットするじゃないですか? ……でもぜんぜんうまくいかなくて。そしたら、ここの店を見つけたんです」
まるで秘密の宝物を教えるように話す彼の声が、沙月の胸の奥に静かに響く。彼の話に引き込まれながら、グラスを持つ手に自然と力が入った。指先を伝う水滴が、じわりと掌を濡らす。
「料理、するんだ……意外」
「先輩も、自分のイメージで人を決めつけちゃうタイプっすか?」
茶目っ気のある笑いを浮かべながら、絢斗が挑発するように沙月を見る。
(決めつけ、か。そうだ、私、絢斗くんを、勝手に決めつけていたかも)
軽く見えるのに、どこか真剣な目をしていて、そのギャップに喉が鳴る。
「そうかも。もし私がそう見えていたなら、ごめんね。絢斗くんの意外性、悪くないと思う」
グラスを口元に運びながら、沙月は小さく笑った。泡に濡れた唇がかすかに震え、火照った頬が照明に照らされて色を増す。彼の視線を感じた。逸らさず、ただじっと見ている。
心が、じんわり熱くなっていく。
「でも沙月さん、料理する男はNGってタイプじゃないですか? これは俺の決めつけなんですけど」
「……たしかに。そうかもしれない」
公に交際している葛西課長は、昔ながらの男性だ。家で自炊もしないだろう。なんとなく、沙月自身がそういった男性を求める傾向もあるかもしれない。
「じゃあ、これからは?」
その問いは軽く笑いながら投げられたはずなのに、沙月の心に落ちたとき、妙に深く響いた。絢斗の視線が、まっすぐに彼女を射抜く。ふざけたように笑うくせに、目だけは真面目で、ずるいと思った。
「え? ……さあ、どうでしょうね」
息を吐きながら、沙月は視線をテーブルに落とした。けれど、顔の火照りはごまかせない。首筋に一筋の汗が伝い、ストッキングに包まれた足先まで体温が広がっていく。
いつのまにか、彼の話す声が心地よくて、クセになっていた。
(絢斗くんのこと、嫌いだと決めつけていた。だけど……)
気づけば、彼の言葉ひとつ、視線ひとつに、心が跳ねている。
半個室の空気は穏やかで、照明は柔らかく揺れていた。いつのまにか皿は空になり、グラスの中のビールも残り少ない。
二人の間には、駆け引きが生まれていた。
隣を歩く絢斗は、スーツに身を包み、シャツの胸元を少し開けて、気だるげな雰囲気を漂わせている。ウェーブのかかった茶色い髪が額に落ち、彫りの深い整った顔立ちに街灯が陰影を刻んでいた。涼しげな瞳と通った鼻筋、笑みを浮かべる薄い唇。その少し日焼けした肌からふわりと漂うシトラス系の香りが、沙月の鼻腔をくすぐる。
「到着しました。ここがそのタイ料理屋ですよ、沙月さん」
絢斗が弾む声で言うと、細い路地に佇むタイ料理屋の看板が目に入った。木製のドアを開けると、スパイシーなカレーとレモングラスの爽やかな香りが一気に押し寄せる。
「わぁ……一気に旅行気分ね」
無意識のうちに、沙月の胃がきゅるりと鳴った。
案内されたのは、木の仕切りで囲われた半個室の席だった。暖かなオレンジ色の照明が小さな空間を包み、テーブルの上の花瓶からはジャスミンの甘い香りが漂う。壁に飾られた色鮮やかな織物がゆらりと揺れ、遠くから流れる異国の旋律が耳を優しくくすぐった。
(絢斗くん、センスがいいわね)
沙月が腰を下ろすと、スカート越しに椅子の冷たい感触が脚にじわりと伝わる。黒革のバッグをテーブル脇の籐籠に入れる。
絢斗はといえば、スーツのジャケットを脱いで椅子の背にかけ、シャツの袖をくるくると捲り上げた。陽に焼けた腕の筋が光に浮かび上がり、シトラスの香りがぐっと濃くなる。
「じゃ、とりあえずタイのビールで乾杯しましょ。沙月さん、ビールはお好きですもんね? 料理は……この店のおすすめを、俺が頼んでおきます」
「ええ……って、絢斗くん……私がビール好きだって、なんで知ってるの?」
「そりゃ、わかりますよ! 新人歓迎会のとき、だいぶ飲んでたじゃないですか」
沙月は目を丸くした。彼がそんなことまで見ていたとは。
(絢斗くんは、想像以上に私の好みを把握しているみたいね)
ほどなくしてビールが運ばれてくる。グラスの水滴が光り、泡の弾ける音が心地よく耳を満たす。沙月がグラスを持つと、ひんやりとした感触が掌に染みていく。
「乾杯!」
「乾杯! 沙月さんと俺の絆に感謝して」
「もう……絢斗くん、何? 大げさだわ」
ひと口、喉を鳴らして飲む。苦みと冷たさが舌に広がり、胃へと落ちるたび、小さく震えた。
ほどなくして、料理が運ばれてきた。トムヤムクンと、タイ風焼きそばのパッタイだ。どうやら、彼のおすすめ料理というのは、提供スピードも考慮してのものだったらしい。
トムヤムクンを口へと運ぶ。赤いスープからは、エビの甘い香りと唐辛子の鋭い刺激が立ち上る。スプーンでそれをすくい口へ運ぶと、舌を焼くような熱と辛さが喉を突き抜けて、額にうっすら汗が滲んだ。
「美味しいね。スパイスが効いていて、本場の味っぽいというか。私、このお店の味、好きだな」
沙月が顔をほころばせると、絢斗が小さくガッツポーズをする。
「よかったぁ! じゃあ俺も食べます。うーん、相変わらず、スパイシー!」
無邪気に喜ぶ絢斗が、微笑ましい。素直な感情表現は、沙月が忘れかけていたものだ。
「……そうだ! 沙月さん、今度は恋人の葛西課長と来てみてください」
その軽い一言に、沙月のスプーンを握る手がピクリと震えた。
(えっ? 絢斗くん、何を言っているのよ)
胸の奥に小さな棘が刺さる。彼女は目を伏せ、少し間を置いて答える。
「うーん、葛西課長とは、そういう感じじゃないんだよね」
言葉が半個室の空間にふわりと漂い、静寂が広がった。沙月の中で、何かがふいに引っかかる。
(葛西課長は穏やかで、優しくて、居心地もいい。でも、何かが……違う)
トムヤムクンの辛さが舌の奥に残り、その違和感をはっきりと浮かび上がらせる。
絢斗が、その空気を察したのか、グラスを手に取って笑顔を作った。
「あ、変なことを言ってすみませんでした! さぁ、呑んでください! グラスが空ですよ」
そして、沙月のグラスへビールを注ごうと手を伸ばす。そのとき――指先が、ふいに重なった。
冷えたグラス越しに、沙月の白い指に絢斗の、ほんのり色づいた日焼け肌の指が触れる。はっきりと、熱を感じた。ぞわりとした衝撃が指先から駆け上がり、背筋に電流のような感覚が走る。息がふっと漏れる。
「ひゃっ……ご、ごめんなさい」
シトラスの香りがぐっと鼻腔を満たし、スパイシーな料理の香りと溶け合って、彼女の五感を深く揺らした。
頬がさらに紅潮し、肌の奥まで熱が満ちる。胸の鼓動が一段と速くなり、耳の奥で心臓の音が響いた。絢斗の瞳が沙月を捉え、口元に笑みが浮かぶ。指が離れても、その熱の余韻は沙月の肌に残り、彼女は小さく息を呑んだ。
嫌いなはずだった。軽そうで、適当そうで、絶対好きになるわけないと思っていたのに。触れた一瞬が、心を揺らす。
甘く、熱を孕んだ空気が二人を包んでいくいく。沙月の唇がビールの泡に濡れ、わずかに震えた。
胸の奥で、何かが焦げるように、ゆっくりと燃え始める。
(もう、いい! とりあえず、ここは呑みましょう)
グラスを傾けると、冷たいビールが喉を滑り落ちていく。刺激的なトムヤムクンがまだ舌に残っていて、その苦みさえ甘く感じられた。
絢斗が、気まずくなった空気を変えるように、ふいに口を開いた。
「そうだ……俺、大学時代、バックパッカーでいろんな国を旅してたんですよ」
軽やかに語られる言葉に、沙月は思わず目を上げた。リラックスした様子で背もたれに寄りかかった彼は、ストライプのシャツの襟元を無造作に緩めている。日焼けした首筋、光に浮かぶ鎖骨のライン。そこからふわりと漂うシトラスの香りが、ほんのり汗の混じった香りと絡まり、沙月の胸をくすぐった。
「そうなんだ。……たしか、履歴書にも書いてあったものね。どこが一番印象に残ってるの?」
ここぞとばかりに、沙月は話にとびつく。早くこの、気まずい空気を消し去りたかった。
しかし沙月の食いつきが予想外だったようで、絢斗は嬉しそうに目を細めた。
「やっぱり、タイですね。屋台の料理が美味すぎて、毎晩いろんな味を試してました。パクチーも最初は無理だったけど、気づいたら中毒になってて」
ふっと笑ったその顔に、沙月の頬が緩む。薄い唇が笑みに形を変えるたび、その奥に熱を感じるようで、視線が自然と彼の口元に吸い寄せられた。
「帰国してからも再現しようとして、自炊、けっこう頑張ったんですよ。ほら、今ってネットでもレシピがたくさんヒットするじゃないですか? ……でもぜんぜんうまくいかなくて。そしたら、ここの店を見つけたんです」
まるで秘密の宝物を教えるように話す彼の声が、沙月の胸の奥に静かに響く。彼の話に引き込まれながら、グラスを持つ手に自然と力が入った。指先を伝う水滴が、じわりと掌を濡らす。
「料理、するんだ……意外」
「先輩も、自分のイメージで人を決めつけちゃうタイプっすか?」
茶目っ気のある笑いを浮かべながら、絢斗が挑発するように沙月を見る。
(決めつけ、か。そうだ、私、絢斗くんを、勝手に決めつけていたかも)
軽く見えるのに、どこか真剣な目をしていて、そのギャップに喉が鳴る。
「そうかも。もし私がそう見えていたなら、ごめんね。絢斗くんの意外性、悪くないと思う」
グラスを口元に運びながら、沙月は小さく笑った。泡に濡れた唇がかすかに震え、火照った頬が照明に照らされて色を増す。彼の視線を感じた。逸らさず、ただじっと見ている。
心が、じんわり熱くなっていく。
「でも沙月さん、料理する男はNGってタイプじゃないですか? これは俺の決めつけなんですけど」
「……たしかに。そうかもしれない」
公に交際している葛西課長は、昔ながらの男性だ。家で自炊もしないだろう。なんとなく、沙月自身がそういった男性を求める傾向もあるかもしれない。
「じゃあ、これからは?」
その問いは軽く笑いながら投げられたはずなのに、沙月の心に落ちたとき、妙に深く響いた。絢斗の視線が、まっすぐに彼女を射抜く。ふざけたように笑うくせに、目だけは真面目で、ずるいと思った。
「え? ……さあ、どうでしょうね」
息を吐きながら、沙月は視線をテーブルに落とした。けれど、顔の火照りはごまかせない。首筋に一筋の汗が伝い、ストッキングに包まれた足先まで体温が広がっていく。
いつのまにか、彼の話す声が心地よくて、クセになっていた。
(絢斗くんのこと、嫌いだと決めつけていた。だけど……)
気づけば、彼の言葉ひとつ、視線ひとつに、心が跳ねている。
半個室の空気は穏やかで、照明は柔らかく揺れていた。いつのまにか皿は空になり、グラスの中のビールも残り少ない。
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