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第2章 親友の言葉、ラブホの夜、そして二人の変化
2.7.二人の変化★(4,893字)
しおりを挟む沙月の身体がサテンのダブルベッドに沈み込んだ。汗と蜜に濡れた白い肌が、ひんやりとしたシーツに触れ、ぞくりとした感触が背中に染み渡る。
まだ収まりきらない荒い息遣いに合わせて、豊かな胸がゆっくりと上下した
隣に横たわる絢斗の体温を、すぐそばに感じる。
部屋に充満していた香水の香りは薄れ、代わりに二人の汗と熱、そして余韻の残り香が静かに漂っていた。
鏡張りの壁に映る二人は、さっきまで獣のように絡み合っていた姿とは違い、寄り添い合う穏やかな影になっている。
絢斗が枕に頭を預け、沙月の方へと身体を傾ける。
茶色い髪が汗で額に張りつき、チャラい笑みを浮かべながらも、その瞳には誠実な光が宿っていた。
「俺さ、沙月さんに憧れてたんすよ」
ふいに、そんな言葉が零れた。
「特に怒ってるときの声が好きで。わざとだらしなく振る舞って……職場のみんなの前で怒鳴られるたび、ゾクゾクしてたっす」
冗談めかしながらも、照れたように打ち明ける絢斗に、沙月は思わず目を丸くした。
指先がシーツをぎゅっと握り、掌に滑らかな感触が染み込む。
心臓がドクンと跳ね、胸の内側に驚きと戸惑いが波紋のように広がった。
「……そんなふうに、私を見てたの?」
頬がじんわりと熱くなる。
汗で濡れた黒髪が首筋に張りつき、白濁の痕が淡い光に艶めいていた。
沙月の視線を受け止めながら、絢斗はさらに続ける。
チャラい口調のまま、だが、そこには隠しきれない真剣さが滲んでいた。
「一緒にラブホ来て、いいムードになって。でも、沙月さんが処女じゃないって言うから、意地悪しちゃった。……だって、葛西課長とは何もないって言ってたのに、ちょっとだけ、疑っちゃったから」
その名前が出た瞬間、沙月はぎゅっとシーツを掴んだ。赤いサテンが小さく波打ち、彼女の動揺を物語る。
絢斗は、笑いながらもどこか切なげに続けた。
「でも、沙月さん、あんなふうに必死で俺に応えてくれて。……もう俺、嬉しくて、たまんなかったっす」
言葉が胸に染み込み、沙月の瞳が潤む。
彼の嫉妬も、意地悪も、全部、自分への思いだったのだと、今ならわかる。
沙月は目を伏せ、小さく震える声で呟いた。
「葛西課長とは……周りの勧めで交際を始めたの。食事はするけれど、まだ肉体関係を持つほどの段階じゃないわ。でも……あなたが、そんなに私を見てくれてたなんて……」
消え入りそうな声。けれど、それを受け止めるように、絢斗はふわりと笑った。
彼の指先が伸び、汗ばんだ沙月の頬をそっと撫でる。
硬くも優しい掌の感触に、また心臓がドクンと跳ねた。
「まあ……過去はいいっすよ。今、沙月さんはちゃんと、俺のものっすから」
低く甘いささやきが耳をくすぐり、ビクンと身体が跳ねる。秘部に残る疼きが、また静かに疼き出す。
沙月は照れ隠しに、顔をシーツにうずめながら呟いた。
「バカ……チャラ男のくせに…… 意外と真剣なんだから……」
それを聞いた絢斗は、くすくすと笑った。笑い声さえも、今はどこか優しい。
赤いサテンのシーツが、二人の熱と汗と、まだ冷めきらない思いを包み込んでいく。
沙月は、髪をシーツに預けながら、そっと口を開いた。
「私があなたに厳しかったのは……それだけ期待してたからよ。最初はね、こんなチャラ男が現実にいるの? なんて思ったわ。まるで、真夏のビーチで雪男でも見たみたいに」
掠れた声に、かすかな笑みが滲む。けれどその響きには、たしかな真剣さが宿っていた。
「でも……あなたは、気遣いもできるし、飲み込みも早かった。社会人としての基礎を身につけたら、営業マンとして大きく成長するって…… 心のどこかで、ずっと期待してたの」
視線を絢斗に向けると、茶色い瞳がまっすぐに彼女を見つめていた。
沙月の胸が小さく締めつけられ、言葉にすることで、ずっと抱えていた苛立ちの裏にあった期待が、ようやく解き放たれていくのを感じた。
絢斗は枕に頭を預けたまま笑う。
チャラい口調はそのままに、しかしどこか感謝の色が滲んでいた。
「ありがたいっすねぇ。じゃあ、職場ではじゃんじゃん、しごいてください。でも……また二人で会えたときは、俺が沙月さんをしごく番ですよ? 立場逆転っす」
その言葉に、沙月は思わず目を見開いた。
「はぁ!?」
目の前で揺れる絢斗のチャラい笑みに、また心臓がドクンと跳ねる。
絢斗はくすぐったそうに笑いながら、上半身を起こし、さらに顔を近づけた。
汗で濡れた茶色い髪が額に張りつき、熱い吐息が、沙月の頬にふわりと触れる。
「だってさー。沙月さん、フェラとか下手だったけど……ひょっとこみたいな顔して必死で頑張ってたっすよね? 鏡の前でプルプル震えながら、エッチな言葉でお願いしてる姿も……もう全部、可愛すぎてエロすぎて、最高だったっす」
絢斗の瞳が細められ、茶目っ気と情熱に満ちた光を宿す。
沙月の耳が一気に熱くなり、先ほどまでの情事の光景が、頭の中でフラッシュバックする。
汗と蜜に濡れ、快楽に震え、絢斗に懇願する自分の姿。鏡に映った、あまりに淫らな自分――。
「な、何よそれっ! 絢斗くん、反則!」
沙月は顔を真っ赤にして声を上げたが、怒鳴る代わりにシーツをぎゅっと掴み、身を震わせた。
恥ずかしさと同時に、胸の奥に芽生える妙な疼きに、彼女自身が戸惑った。
絢斗はそんな彼女を、心底楽しそうに見つめている。
年下で、軽薄で、支配的で――だけど、どこまでもまっすぐで、優しくて。
抗えない。
心のどこかで、そう認めてしまっていた。
絢斗が手を伸ばし、そっと汗ばんだ頬を撫でる。
硬い指先が、彼女の柔らかい肌にぴったりと馴染む。
「まぁ、次はもっと気持ちよくしてあげますよ。沙月さんの弱点、もう全部わかってるんで」
低く甘い声が耳元を撫で、そのたびに沙月の身体は、無意識に震えた。
胸の奥に、また秘めた疼きがじわりと広がる。
彼女は顔を逸らし、シーツに顔を埋めるようにして呟いた。
「絢斗くんって……危険なチャラ男よね、ほんとに……」
恥ずかしさを隠すように吐き捨てたその言葉に、絢斗はまたくすくすと、子供みたいに笑った。
彼は少し自虐的な口調で、話を続ける。
「当面は、葛西課長が本命、俺はキープって立場でいいっすよ。どう考えても、スペックじゃチャラ男の俺は敵わないし。でも、もし俺を選んでくれたら……」
絢斗は茶目っ気たっぷりに、しかしどこか本気の色を滲ませて続けた。
「快楽漬けにして、離れられなくしてあげますよ。安定したハイスペ男か、危険なチャラ男か。どっちを選ぶかは……沙月さん次第っす」
ふざけたようで、刺さる言葉だった。沙月の胸がきゅっと締めつけられ、
指先が赤いサテンのシーツをきゅっと摘む。
掌に伝わる冷たい感触が、火照った肌にじんわりと染み込む。
脳裏には、葛西課長の穏やかな笑顔がよぎった。
レストランでワインを傾けながら、落ち着いた声で仕事の話をする彼――。
何もかもが穏やかで安定した、沙月が選ぶべき正解のように思えた。
――けれど。
絢斗が身体を起こし、ぐっと顔を近づけてきた。男の匂いをまとった彼の吐息が、頬をなぞる。
「でも、沙月さん……」
絢斗は、いたずらっぽくささやく。
「今夜、エッチしてわかったんすよ。沙月さん、ドMっすね。まぁ、職場で強い女の人ほど、プライベートでは甘えたくなるって、よくある話だけど――俺にしごかれて、ドキドキしたでしょ?」
耳元で低く掠れる声。続けざまに、絢斗の唇が耳たぶに触れ、甘噛みされた。
濡れた感触と軽い刺激に、身体が跳ねる。
「やだっ、そんなこと……んっ……!」
小さく漏れた声に、自分でも驚いた。背筋にゾクゾクとした快感が走り、汗ばんだ肌がまた熱を帯びていく。
視線を上げれば、絢斗のチャラい笑みが、すぐ目の前にある。その奥には、拭いきれない情熱と、少しばかりの嗜虐心が光っていた。
葛西課長の穏やかな未来と、絢斗の危うく甘美な快楽――。
二つの選択肢が、沙月の中でせめぎ合う。
シーツを握る手に、自然と力がこもった。
赤い布が指の間で小さく波打つ。
「やめてよ。絢斗くん、ドMだなんて、そんなことは……」
抗議しようとした声は、掠れて途切れた。否定しきれない。むしろ、絢斗の指摘が図星であることを、身体が証明していた。
熱い疼きが秘部から広がり、蜜がわずかに滲むのを感じる。
絢斗が汗に濡れた指先で、そっと沙月の頬を撫でる。
「顔に出てるっすよ。俺にしごかれるの、嫌いじゃないでしょ?」
「それは……絢斗くん、ここで今、そんな風に言うのは、やっぱりフェアじゃないわ」
耳元で掠れる声。彼女は必死に視線を逸らし、シーツに目を落とした。
(安定した未来と、危険な誘惑。理性と、本能。……私は、どちらを選ぶ?)
絶対に、安定を選ぶべきだ。彼女の理性がそう告げている。
けれど、耳たぶを噛まれた感触、甘く支配する声――彼のすべてが、沙月の心をぐらぐらと揺らしていた。
年下のチャラ男。軽薄そうに見えて、熱くて、強くて、優しい彼。
気づけばもう、沙月の心は、抗えないほど傾いていた。
甘い熱と汗の香りが漂う室内。静かな緊張感だけが、二人の間に流れている。
絢斗は小さく息を吐き、沙月に言った。
「まぁ、急がなくていいですよ。沙月さん、今日はもう寝ましょう。……おやすみなさい」
いうやいなや、絢斗は目を閉じる。よほど疲れているようだ。すぐに寝息が聞こえてきた。
(もう、絢斗くんったら……ああ、私ったら、絢斗くんに翻弄されっぱなしね)
沙月は赤いサテンのシーツに身体を預けたまま、目を閉じても眠りに落ちることができなかった。
隣で寝息を立てる絢斗の体温が近く、かすかに漂う汗とシトラスの残り香が、夜の静けさに溶け込んでいる。
シーツの冷たい感触が、汗ばんだ背中にしっとりと染み込む。
鏡張りの壁には、ぼんやりと映る自分たちの影。
さっきまでの激しさは跡形もなく、静かに寄り添う二つの影だけが、穏やかな時間を映している。
けれど、沙月の胸の内は静まらなかった。
(どうして、こんなことになったのかしら)
脳裏に浮かぶのは、葛西課長の穏やかな笑顔。
同じ職場、隣のチームの管理職。
品のあるレストランで過ごした夜、キャンドルの灯りに照らされながら、落ち着いた声で語られる仕事の話。
ワイングラスを持つ指先も、端正で隙がない。
誰から見ても、将来を約束された男だった。
彼となら、穏やかで堅実な家庭が築ける――。
理性では、そうわかっている。
――それでも。
心は、絢斗に向かってしまう。
社会的には、比べるべくもない。
ヤンチャな新人。ノリだけで生きていそうなチャラ男。
シャツの襟元が乱れたまま、だらしなく笑う彼に、最初は嫌悪すら覚えた。
なのに――。
絢斗の熱い視線。鏡越しに絡みついた情熱と嗜虐心に満ちた瞳。耳たぶを甘く噛まれた感触。押し倒されたときの、容赦ない熱。
それらすべてが、肌に、心に、刻み込まれている。
肉体が先に彼を覚えてしまった。否応なく。
胸の奥で、疼きがふたたび芽吹く。秘めた場所にじんわりと広がる熱。
葛西課長との未来を選べば、平穏でたしかなものを得られる。
だが、絢斗となら――。
沙月は確実に、破滅的な快楽と、抗えない熱に堕ちていく。
「……どうして」
小さく零れた呟きが、部屋に虚しく響いた。
隣から聞こえる絢斗の寝息は、安らかで、無防備で、そしてどこか甘えたような響きを持っている。
そんな彼が、ひとたび本気になったときの熱を、今夜、沙月は知ってしまった。
理性は、葛西課長を推す。
本能は、絢斗を求める。
揺れ動く心を抱えたまま、乱れたベッドの上で、静かに、夜が更けていく。
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