とうもろこし畑のダイヤモンド

文月 青

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再会編

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「文緒は今でも男になりたいのか?」

ランニング中にふと大輔が洩らした。中学時代からの習慣で、私は朝、夕アパートの近所を走っている。ずっと運動をしていたせいか、体を動かしていないと落ち着かないし、何よりなまってしまうのが怖かった。

ところが朝はともかく夕方一人で走るのはもっての外だと、過保護な親よろしく大輔から禁止令が出され、こうして一緒に走る羽目に陥っている。

「文緒ちゃんを悪い虫からしっかり守るのよ」

板倉のお祖母ちゃんからの厳命が下り、ついでにそのまま離さないで連れ帰ってくるよう、じい様四人組が面白がってけしかけているらしい。どうもそれまで年齢と共に希薄になりつつあった繋がりが、

「試合の続きを必ずやるぞ」

この合言葉で一気に復活を遂げたようで、そのためには私と大輔が不可欠だと、お盆を目安に集まれないか計画を練っている最中なのだとか。一体あんたら何歳いくつだ。

「これで長年の夢が叶うわね」

おまけに荒木・板倉両家のお祖母ちゃんはまた別路線で、孫の結婚の準備をしなければと張り切り出したというから驚きだ。その夢を諦めていなかったのはさすが。

「男がどうこうじゃなくて、強くなりたい」

不安そうに私の横顔を窺う大輔に、真っすぐ前を向いたまま私は答えた。

「自分の力を試せる場所で、思う存分野球に励んでみたかった」

自らが置かれた環境から、夢に向かって努力をする以前に、大きな壁に阻まれたのはお祖父ちゃん達。

「自分の敵は自分だ」

そう司に教えたのは岸監督。その言葉通り父親に甘えずに、一人頑張っていた子供の司。

「倍の練習をしても追いつけないものもあるからな」

自分のことをそう認めながらも、軟式野球部で活動を続け、主将という立場にいる水野さん。

たぶん壁は誰にでもある。女子軟式野球部の人達も、これから男子の中で野球をするつもりなら、少なからず感じている筈だ。それでも好きなことを続ける努力を惜しまない。

ならば私も言い訳ばかりを並べるのはやめて、男とか女とか関係なく、強い体とそれに見合うだけの強い精神こころが欲しい。

「また一人で解決したのか」

何周か走ったところで、いつもキャッチボールをする公園で揃って足を止めた。

「今でも俺じゃ頼りにならない?」

この公園には子供用の遊具の他に、野球やサッカーで遊べるような広場が備わっていて、大人達も犬の散歩や軽い運動に訪れている。私達はその隅の方を使って、ゆっくりと体を解し始めた。

「何のこと?」

「昔も荒木のじいさんの前で泣いてたろう」

嫌なことを憶えている。野球をやりたくて、でも中学校でも地域でも私を受け入れてくれる所はなくて、どうしていいのかもがいていた頃。お祖父ちゃん達と過ごした時間の中で、自分が本当に望んでいたことに気づいた。

「泣こうと思って泣いたんじゃないよ」

でも振り返ると結局私は、同じ場所で足踏みをしていることになる。つまり成長していない。

「意味が違う。辛いことがあったり、泣きたくなったりしたら、真っ先に俺のところに来て欲しいんだよ」

中学の時は荒木のじいさんで、今回は水野さんだろ、と大輔は口をへの字に曲げる。おまけに司もいるしと、妙な恨みも忘れない。子供の頃よりよく拗ねる。

「お祖父ちゃんのときはともかく、水野さんの前では泣いてないんだけど。別に辛くもないし」

「相変わらず鈍いな、文緒」

体が解れたのを見計らって、私の頭にグローブを被せる大輔。司や真琴じゃあるまいし、鈍いとはずいぶんな言い草だ。

「どこが」

後ろ歩きで下がりながら、距離を開けてゆく私に、大輔はいきなり速いボールを投げてくる。

「そういうところが」

パシッと音を立ててグローブに収まるボール。訳が分からないまま、私も勢いよく投げ返す。

「気づいてないだろ? 俺は妬いてるんだぞ。昔も今も」

更に本気のボールが向かってくる。私もむかついて燻る思いをぶつけるように、捕るなり幻の一塁に送る。

「昔はただの経験の差じゃない。でも今は大輔の方が遥かに上手いでしょ。妬くのは、悔しいのは私の方だよ!」

「だから話の方向が違うだろ。たまには人の話を聞け!」

怒鳴りながら投げ合う私達に、もはやキャッチボールの様相はなく、おそらくデートのつもりで、学校帰りに立ち寄った中学生カップルが、怖いと慄いて足早に通り過ぎていく始末。

「ちょっとたんま。休憩させろ」

やがて肩で息をしながら、大輔がその場に座り込む。私も汗だくの顔を服の袖で拭ってから、彼の隣にごろんと横になった。

「すっきりした」

「俺は結構びびったぞ。本気の文緒、初めて見た」

嘯いて自分も寝転ぶと、ゆっくりと私の方に頭を寄せる。

「手加減してない、俺は。これで分かっただろ?」

「今日はね」

「天邪鬼め」

笑顔であかんべーをしてやると、チッと舌打ちして大輔は私の鼻をつまんだ。



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