とうもろこし畑のダイヤモンド

文月 青

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再会編

13

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翌日の午後。私は中庭のベンチで一人ぐったりしていた。昨日は散々だった。元を正せば悪いのは自分だが、それにしても芋蔓式に次から次へといろんなことが重なって、複雑なことに対処できない大輔曰く単細胞の私は、正直久々に疲れを感じた。

「あ、文緒ちゃんが来てる」

水野さん監視の下、石井さんとランニングに励んでいると、やはり個人練習に戻ってきた女子部員さん達に見つかってしまった。てっきり気を悪くされるかと身構えていたのに、

「石井くんを打ち負かしたバッティングを披露してよ」

微妙にタイムリーな催促をされた。

隣でげんなりする石井さんを余所に、もう一度紅白戦をしようという話が持ち上がり、部室で道具の手入れをしていた一年生まで巻き込んで、結局全員が一巡する、三回までの試合をする羽目になったのだ。

「これは練習ではない。気楽に行け、桂」

水野さんが言えば、石井さんも納得したように頷く。

「そうだね。逆に文緒ちゃんが気づいたことを、素直に指摘してくれるとありがたい」

この中で一番ブランクがあって、一番素人に近い私に、筋違いなお願いまでしてくる。

「分かりました。でも役に立つとは限りませんよ?」

というわけで女子部員と一年生部員を半々に分け、私と水野さんの二人と石井さんがそれぞれ入った即席チームが出来上がった。しかも水野さんは二塁手だったそうで、私をショートの守備に就けて「お手並み拝見と行こう」と涼しい顔で宣っている。

謀られた。そう思ったら怒りが湧いて、気づいたら好き放題やりまくった後だった。さすがにホームランとはいかなかったけれど、石井さんからスリーベースヒットを放ち、傷口に塩を擦り込む行為をしたのだから言葉もない。

「逆に吹っ切れた。ちょっと力を抜いて投げてみるよ」

ところが意外にも石井さんはさばさばした表情で笑っていた。春季リーグで押し出しで負けた試合があり、それ以来四球を意識しすぎてコントロールを乱していたのだそうだ。自分の失投のせいで勝てる試合を落としたことが、心の中に沈んでいたらしい。一見おちゃらけているが、根は真面目というのは本当だったのだ。

「それに文緒ちゃんがあんまり楽しそうだから、つられて打たれるのが気にならなくなった。こっちも負けるもんかって」

「うわあ、すみません」

慌ててぺこぺこ頭を下げていたら、周囲からも同様の声が上がった。

「練習だから楽しいだけじゃ駄目だけど、でも三回だけなのに最初の紅白戦より断然白熱した。何なんだろうね、この違い」

「そういえば殺伐とした雰囲気がありませんでしたね」

女子部員や一年生部員が口々に洩らす中、私はずっと黙って聞き役に徹していた水野さんを振り返った。

「何だ?」

「水野さんが殺伐としているなんて、一言も言っていませんよ私」

うっかり正直に答えた瞬間、グラウンド中に大きな笑い声が響き渡った。

しかし途中まで部員みんなと喋りながら、ほくほくした気持ちでアパートに帰ると、ドアの前で不安げな大輔が待ち構えていた。何度連絡しても電話もメールも返ってこないので、心配でその辺を探し回ってくれていたというのだ。スマホをバッグに突っ込んだまま、野球部に混じって紅白戦をしてきたと正直に話したら、大輔の顔が見る見るうちに般若に変わっていった。

「馬鹿たれ! お前は俺のいない隙に何をやらかしてるんだ!」

部屋に入るなり正座で説教を始める大輔。

「練習後だったし、水野さんからちゃんと許可が出てるから」

「そういう問題じゃない!」

怒りが収まらないのか私の頭をぺしっと叩く。水野さんからも拳骨を食らっているのに。

「大体どうしてグラウンドに行ったんだ。それに今日は水野さんは練習の途中で抜けていたんだぞ。何故文緒と一緒にいる」

「ぐれて勝手な行動を取って叱られた」

「はあ?」

当然訳が分からない大輔は更に私を睨んだ。

「あのね、大輔。お祖父ちゃん達に頼まれたからって、私に責任感じなくていいんだからね。ちゃんと好きなようにしてよ?」

「責任? 好きなように?」

ますます困惑したように繰り返す大輔に、私は心得顔でゆっくりと頷いた。

「二階さんを放って私を探していたんでしょ? ごめん」

いくら察しが悪くても、二人が一緒に帰っていく姿を見た後では、自分が邪魔をした事実に思い当る。ところが何が火に油を注ぐ原因になったのか、大輔はいきなり立ち上がって吠えた。

「ふざけんなこの鈍感女! やってられん。俺は帰る!」

そのまま大股で部屋を横切り、ドアを勢いよく閉めて出ていってしまう。珍しく気遣いができたと自負していた私は、ぽかんと口を開けて見送るしかなかった。結局その後は電話もメールも拒否されて、今日になっても怒りは持続中なのである。

「何がいけなかったのかな」

そっとぼやいてから、私は梅雨が近づきつつある空を眺めた。




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