とうもろこし畑のダイヤモンド

文月 青

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再会編

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後続の板倉ヘタレと板倉ハニーが倒れ、二回表の攻撃が終了したところで、突然大粒の雨に見舞われた。とりあえず一旦アパートに戻って、止むのを待ってみたけれど、雨足は少しも弱まらない。靴の先で描いたベースも流された。

「仕方ねえ。また次に持ち越しだな」  

窓枠から離れて、小沢のおっちゃんがため息をついた。残念そうな、安堵したような複雑な表情だ。

「先延ばしになった分、楽しみは持続するものね」

座椅子に座って空を眺めるお祖父ちゃんの傍らで、お祖母ちゃんがゆったりと頷く。本当に病み上がりではあるが、それでも仮病かと思われた元気さは鳴りを潜め、ぐったりと背を預けている。もしかしたら無理をしてくれたのかもしれない。

「そうそう、こっちも負けたままでは終われないわよ」

静まりかけたみんなを鼓舞するように、小沢のお祖母ちゃんが声を張り上げた。試合は依然荒木、上福元チームが二点のリードを守っている。

「じゃあ勝ち飯の準備といきましょうか」

上福元のお祖母ちゃんが腰を上げた。

「私も手伝う」

急いで立ち上がった私に、彼女はこそっと耳打ちする。

「いいから。文緒ちゃんはお祖母ちゃんと一緒に、お祖父ちゃんの傍にいてあげて」

板倉のお祖母ちゃんも小沢のお祖母ちゃんも任せてと言って、私の体を回れ右させた。

「疲れてない? お祖父ちゃん」

みんなの好意に甘えて、私はお祖母ちゃんの反対側から、お祖父ちゃんの顔を覗き込んだ。キッチンからは水を流す音や、野菜を刻む音が聞こえてくる。

「大丈夫だ。久しぶりに動いて、逆に気持ちがいい」

お祖父ちゃんはこちらに視線を移して、皺が深くなった笑みを見せた。その弱々しい姿に、実家の両親の話を思い出す。

「お父さんは頑固だから、いくら頼んでも来てくれないのよね」

ダム建設で立ち退くことが決まったときから、両親はお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに同居、若しくは近所で暮らして欲しいと持ちかけていたのだそうだ。

「奴らと離れる気はない」

でも二人とも少しでも村の仲間の近くにいたいと、頑として首を縦に振らなかったらしい。今回の入院を機に再び説得を試みても、やはり結果は同じだった。

「俺にもしものことがあったら、母さんを頼む」

ただお祖父ちゃんは母に、こっそりそんなお願いをしていた。だから母は私をすぐにお祖父ちゃん達の元に向かわせたのだ。

「文緒は野球を続けているのか?」

笑みを浮かべたまま、お祖父ちゃんが優しく訊ねた。

「今のところはトレーニングのみかな」

そこで大輔が口を挟んだ。

「嘘つけ。野球部に殴り込みかけたくせに」

おそらく石井さんとの対決を指しているのだろう。

「こいつうちのピッチャーに、いきなり一発かましやがったんだよ。キャッチャーは要らないとか抜かして」

「五年前と同じじゃねーか」

小沢のおっちゃんがお祖父ちゃんの足元で喚く。つられたように板倉、上福元の両お祖父ちゃんが、わらわらとお祖父ちゃんの周囲を取り囲む。

「そうそう。あのときは小沢がキャッチャーやろうとして、外野に回れって言われたんだよね」

懐かしそうに上福元さんが頷いた。

「大学でもみんな目を剥いたんじゃないのか」

苦笑する板倉のお祖父ちゃんに、大輔が憮然として答える。

「そうだよ。お陰で部員達が文緒を入部させろって煩い」

「大袈裟な。あれは石井さんが緩い球を投げてくれたからだよ」

くどいようだが私にはブランクがある。本来なら現役の選手から簡単に打てるわけがない。

「そういえば高校のときは、女子の野球部を作っていたな。大学でもまたやるのか?」

期待に満ちた目でお祖父ちゃんが問う。お祖母ちゃんもうんうんと頷いた。

「女の子だけの野球チームなんて、昔なら考えられなかったのにね」

実際自分が立ち上げた、高校の同好会が廃会したことを考えると、地域によっては女子だけのチームを存続させるのは難しい。うちの大学もいい例だ。しっかり組織化しているチームもあるのだろうが、私は何故かそういうところにご縁がない。

「まだ迷ってる最中。決まったら動くつもりだけど」

「大輔と一緒にはやらないの?」

美味しそうな匂いと共に、キッチンから板倉のお祖母ちゃんの声が届いた。

「軟式野球部は部員がまとまっているし、個人の意識も高いし、凄くいい環境なんだけど」

そう。先日急遽紅白戦をしたメンバーも、飛び入りの私を弾くことなく、そして楽しみながらも、己の弱点の見直しを図っていた。女子部員が新たに参加したことで、学年のみならず、性別の枠を超えているのも好ましい。

「でも野球が好きでも、始めることすらできない人がいると聞いたから、まずそっちを確かめたいんだよね」

「例のサークルか」

大輔が呟く。

「文緒の思うようにやってみるといい。後悔だけはしないようにな」

そう言ってお祖父ちゃんは目を閉じた。



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