とうもろこし畑のダイヤモンド

文月 青

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再会編

21

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野球部に二階さんを訪ねていくと、私の姿を見つけた大輔が彼女と話すのを止めてくるっと背中を向けた。そのままむすっとした表情でランニングを始める。あまりにも露骨な態度に、二階さんだけではなく水野さんや石井さんまでが私に寄ってきた。

「また喧嘩でもしたの?」

代表して石井さんが訊ねる。つい数日前までも口をきいていなかったのが、お祖父ちゃんの元に行った私を大輔が追いかけたことで、周囲は仲直りしたものと思っていたようだ。正確には一度はした。でも昨日の帰りの電車の中で大輔は再び怒ってしまい、その後今日までだんまりを続けているのだ。

「一方的にへそを曲げているだけです」

「気持ちいい程の放置プレイ」

口元をグローブで隠して石井さんが苦笑する。

「板倉くんは桂さんが好きなんだと思うけど」

本人に伝えられたことのない言葉を、遠慮がちに二階さんが呟いた。彼女は大輔が好きなのに何故そんなことを言うのだろう。

「どんな話をしていても、最終的には文緒が文緒がって」

「解せない」

そこで私と水野さんの声がハモった。石井さんが出たダブル水野と、食パンの宣伝のような台詞を零す。

「大輔の本音がどうあれ、あいつが何も言ってこないのに、私が先回りするというのもおかしいです。それに二階さんもわたしに塩を送ってどうするんです」

「確かに。そもそも二階に対しては板倉も相当鈍い。なのに自分の行いを棚に上げて、桂を責める筋合いはなかろう」

おそらく予想外の展開だったに違いない。二階さんは顔を赤くしたり青くしたり忙しい。でも年上の人だけれどその反応はとても可愛い。

「そんなすぱっと割り切れるのは、あんたらぐらいのもんですって。普通は親しければ親しい程、振られるのも告って気まずくなるのも怖いよ。友達でもいられなくなる可能性があるんだし」

諭すような石井さんに二階さんがこくこくと頷いている。

「分からない」

私と水野さんはこれまた同時にぼやいた。

「そもそも文緒ちゃんさ、冷静なところを見ると板倉の気持ちに薄々気づいてるんでしょ?」

「二階さんとつきあってるんだと思って、それを言ったら口をきかなくなったから、もしかしてただの過保護じゃなかったのかな、とは」

「過保護…」

石井さんも二階さんも呆然と私を眺めている。

「で、でもそこまで気づいてるんなら、文緒ちゃんから歩み寄っても罰は当たらないよね?」

それを二階さんの前で言うのはどうなのだろう。私は躊躇しつつも、石井さんの一縷の望みをぶった切った。

「そういうの面倒です。好きなら好き、嫌いなら嫌いでいかないと」

「それでこそ桂」

同意する水野さんとハイタッチを交わす私を見て、石井さんは板倉が哀れだと嘆き、二階さんも私は諦めるべきなのか否かと半泣きになっていた。




翌日の午後、私は二階さんに連絡を取ってもらった、女子軟式野球サークルの会長に会いに行った。部室はないので、第ニグラウンドで落ち合うことにしたのだが、乗りかかった船だからと水野さんと、何故か石井さんまで着いてきた。

「板倉に頼まれたんだよ。文緒ちゃんが困っていたら助けてやってって。自分で来ればいいのに、変に意固地になっちゃってさ」

ソフトボール部の練習が休みなので、バックネット裏で三人でかたまっていると、お手上げというふうに両手を上げた石井さんが軽く私を睨んだ。

「でもやっぱり文緒ちゃんもちょっと酷いよ? 板倉にはっきりした態度を望むなら、君も思わせぶりな言動ばかり取っていないで、きちんと意思表示してあげないと」

「思わせぶり?」

「だって毎日のようにデートして、お互いの部屋に顔パスで入れて、ご飯も一緒に食べてるんだよ? デートの中身がトレーニングってのは無しだけど、俺だったら相手に期待するよ、確実に」

今となってはそうなのかもしれないと思う。でも私達にとっては村での最後の六日間、お祖父ちゃんの家で合宿状態で過ごした延長で、凄く当然のことでしかないのだけれど。

「逆に男女の意識がない故という場合もあるがな」

昼寝の時間を潰したせいで、欠伸しまくりの水野さんが口を挟む。

「水野さんが喋るとややこしくなる」

憮然とする石井さん。

「考えてみろ。もし桂が板倉を好きだとしても、今度は二階をどうする。万々歳でつきあえるのか」

「それは…」

そこが困りものでと石井さんも唸っている。

「当事者が決着をつけるしかないんだ。周りが気を揉んでも仕方なかろう」

「水野さんに恋愛ごとで説教喰らうとは。何だか屈辱」

自分のことでもないのに石井さんがいじけてしまったとき、背後から複数の足音が近づいてきた。会長だけではなく、会員揃って足を運んでくれたのだろうか。

「おいでなすったな」

やはり欠伸混じりで洩らした、時代劇がかった水野さんの台詞に、私達三人はゆっくり振り返った。



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