お見合い以前

文月 青

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番外編

長女の災難 2

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リビングに姿を現した修司はやはり一人だった。孝之が挨拶もそこそこに奥さんについて訊ねると、案の定季節外れの風邪をひいたとさらっと言ってのける。あんたを見ていると心底ほっとするよ、修司。私の心のオアシスと定義づけてもオーバーじゃない。

「これはまたお揃いで。香姉、よく耐えました」

私の隣に座るなり、笑いを噛み殺して耳元で囁く修司。おそらく青筋が浮いていたに違いない。えぇえぇ我慢しましたとも。

「恋愛は自由だけどね。でも自分は関わりたくないとは思うよ」

きっと己の母親から離婚と私との再婚を匂わされたのだろう。仲睦まじいいわく付きの四人を見ながら、困ったように肩を落とした。

両家の母親達はともかく、父親達は至ってまとも、真面目に会社勤めに勤しむ常識人である。ただし二人とも自分が望んで婿入りしたものだから、甘いの半分逆らえないの半分で結局暴走を止められない。まぁ最近は諦めもあるようだが、要するに当てにならないのだ。

「ところで親達は?」

周囲を見回しながら修司が眉を顰めた。そういえば呼んでおいて二人とも声すら聞かせていない。そもそも結婚祝いも家で食事をするのか、お店でも予約しているのか全く知らされていない。とりあえずお祝いは包んできたものの、それを渡してこのまま帰りたくなってきた。

とりあえず咲に段取りを確認しようとしたところで、私と修司のスマートフォンがほぼ同時に音を奏でた。

「やられたね」

修司が素早くメールの返事を打ちながら苦笑する。私も画面の文字とご丁寧に添付された写真に奥歯を噛む。おそらく差出人はお互いの配偶者。それぞれの姑から送り付けられたものを、そっくり返してきたのだ。

「二人の為に別れて下さい」

いきなり要件だけが書かれたメッセージと、並んで言葉を交わす私と修司の写真。見ようによっては寄り添っていると誤解されかねない角度。きっとさっきの様子を収めたのだろう。どうりで隠れていたわけだ。本当にろくなことをしない。

「うちの方は大丈夫だったけど、そっちは?」

「何とか」

すぐに事実無根だというメールをすると、心得ていると答えてはくれたけれど、こんな馬鹿げたことに旦那を巻き込んでいるのが申し訳ない。修司の奥さんにしたってそうだ。事情を説明されていても決していい気持ちはしないだろう。何故いつまでも子供じみた真似を繰り返すのだ、あの母親達は。

「放っておけばいい。怒ればますます喜ぶよ」

そう言って修司は次に孝之に声をかけた。馴れ初めを教えろと催促している。お見合いのようなそうでないようなと言葉を濁す孝之に、これ以上聞きたくなくて私はトイレに立った。



お祝いの食事会は、駅前のホテルのレストランで夕方から行われた。結衣と孝之、咲と悟のお見合いの会場でもあり、縁結びの場所でもあると強調されたけれど、相手にせずにスルーしておいた。

「いけずなところが、二人ともそっくりなのに」

賑やかな会話が飛び交う中、黙々と食事をする私の隣りで、ぶつぶつ文句を垂れる母親。私も修司も既婚者なのだから、発想自体が異常なことに早く気づいて欲しい。

「どんな経緯だったにせよ、せっかく縁があったんだから、末永くお幸せに」

母親達に対する嫌味をさらりと込め、修司が結衣と孝之を祝福した。言外に上手くいっている家庭に水差すな、と脅しているのだが、果たして気づいているのかどうか。

「その通りだ。家のことは心配いらないから、自分達の生活の基盤を整えなさい」

富沢のおじさんが小声で呟き、うちの父親が黙って頷いている。お酒が入って少し気が大きくなっているらしい。

「何言ってるの。孝之と結衣ちゃんには、いずれうちを継いでもらいます」

「もちろん、我が家は咲と悟君に任せます」

父親達をピシリと叱りつけた後、母親達は私と修司を見据えて声を揃えた。

「どこぞの長女と次男が責任放棄しちゃうんだものねぇ」

私は馬鹿馬鹿しくてふんと鼻を鳴らした。

「長女はともかく、次男は関係ないんじゃない?」

「それ以前にもう継ぐ家はないでしょ」

苦笑しながら修司が口を挟む。全くだ。どうしても私に長女としての責任を負わせたいなら、考えるのは修司と結婚することじゃない。非常に不本意で絶対嫌だけれど、旦那と子供を連れて家に戻ってくることだ。

富沢家にしても然り。孝之と結衣が家に入れないなら、修司と奥さんにきちんとお願いするのが筋だ。間違っても離婚を企てることじゃない。

「ほらぁ。あんた達、やっぱり阿吽の呼吸なのよね」

これはごく当たり前の話。ただ母親達にはその当たり前がないから、阿吽の呼吸に見えるだけ。現に周囲は呆れて食事に集中している。

「じゃあせっかくだから、母さん達が頑張ってもう二人でも三人でも子供を作りなよ。それなら誰も不幸にはならないし、夢もまだまだ叶うかもしれないよ?」

凄まじいくらいの愛想の良さで、修司がのんびりと提案した。それに対し焦ったのは父親達。よもやこんな形で矛先が向くとは思っていなかったのだろう。

「自分の嫁は自分で制御して貰わないとね」

こっそり耳打ちする修司に拍手を送りたい。さすがだ。あんたがいるだけで、この無法地帯もどうにか出来そうな気がするよ。

「年だから」

「無理だから」

母親達が間に受けないよう、慌てて言い募る二人の父。いくら何でもそのくらいは分かっているだろうと、ようやく美味しそうなお肉を頬張ったところで、母親達があっけらかんと笑った。

「そんなのとっくにやってるわよ」

わざとらしく咳込む父親達に、大人になった子供六人の視線が注がれたのは言うまでもない。あんたら一体いくつだ。





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