とらぶるチョコレート

文月 青

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橋本編  鬼畜の片想い

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まだ梅雨入りはしていないものの、六月になると何となくカタツムリの季節だなと感じる。雨の日は特に気を使って仕事をするが、それでも嫌だと思わないのは社名故か。ふいにそんなことが頭に浮かんだのは、仕事帰りに立ち寄った緑地公園で、まだ咲いていない紫陽花の葉に小さなカタツムリを見つけたせいかもしれない。

「おーい、橋本」

最近耳障りなくらい聞いている声に名を呼ばれ、俺は散歩している足を止めた。小さな運動場やサイクリングコースが設えられたこの公園は、市内で一番大きな川の側に作られた市民の憩いの場だ。普段時間に追われて働いていることもあり、俺は早番の日や休日を利用して時々訪れている。

「のんびりするつもりが台無しじゃねーか」

迷惑な気持ちを明確に顕しながら、運動場で走り回る藪の姿にため息をつく。彼女もどうやら仕事帰りのようだが、何故かスカートの裾を振り乱して小学生数人とサッカーに興じている。

「何やってんだよ、あんた」

「そんなの後々。助っ人に入って」

人の話を簡単に流して藪は俺の腕を引っ掴んだ。態度のでかさに比べて、意外にも小さなその手に驚いているうちに、勝手にサッカーのメンバーに加えられてしまったらしい。すぐにパスが回ってきた。

「ったく、この老け女が!」

つい本気でドリブルを始めると、小学生から歓声が上がり、一斉にボールを狙って集まってくる。敵も味方も分からないので、お情けで置いてあるネットの破れかけたゴールにボールを蹴り込んでやったら、

「よし、橋本対全員で行くよ」

藪の阿呆がろくでもない提案をしたため、疲れた体に鞭を打って本気で遊ぶ羽目になった。

「サッカー、上手い、じゃん」

満足して帰途に着く小学生を見送り、お世辞にも美しいとは言えない芝の上に座り込んで、藪は息も切れ切れに笑った。

「高校までやってたからな」

普段も体を使っている俺は藪程のダメージはなく、とりあえずシャツの裾で汗だけ拭う。

「あんたはばばあのくせに、無駄に体力を消耗させてどうすんだ」

「ばばあは余計」

文句は垂れているが機嫌を損ねたふうもない。しかも奈央と比べて高いと感じていた身長は、俺の隣ではさほど目立たない。態度の悪さと親分というあだ名が、この女をでかく見せているのだろう。

「しょっちゅうガキどもと遊んでんのか?」

「たまに」

「老化防止か」

せせら笑ってやったら見事に足を蹴っ飛ばされた。

「口の減らない男だね」

「どっちが」

睨み合っていたところにメールの着信音が鳴った。むすっとしたままポケットのスマートフォンを確認すると、一緒に早番で上がった茂木からの飯の誘い。藪のバッグからも微かに着信音が漏れている。

「耳が遠いんだから、もっと音を高くしとけ」

親切はご丁寧に鉄拳で返された。手も足も早い女だ。

「奈央ちゃんだね」

おそらくそっちも内容は一緒なのだろう。藪はあえて口に出す代わりに別のことを訊ねてきた。

「橋本は一人暮らしなのかい?」

「まぁな」

茂木と同様、俺の実家も長男が結婚して親と同居している。だから三男坊の俺は高校卒業と同時に一人暮らしを始めていた。これからコンビニ弁当でも買って帰ることを考えれば、ありがたい申し出には違いないが。

「私が嫌なら行かないから、遠慮なくご馳走になってきな」

「何だよ、いきなり」

「栄五郎さんは本気で橋本と私をどうにかしようと思ってるんじゃないよ」

とりあえず藪も店長に何か魂胆があって、俺達を揃って招んでいることは気づいていたらしい。

「奈央ちゃんとあやめさんは天然。湊くんは先輩ラブ。悪気なく橋本を誘ってるんだろうけどさ。言っただろ? あんた極たまにだけど面に出てるんだよ」

「何が」

「奈央ちゃんへの想い、というのかね。あー、こっぱずかしい」

こんな台詞口にしたの何年振りだよと、藪は両手で顔を仰いでいたが、俺は一瞬にして汗が引いた気がした。

「それ、もの凄い勘違いなんだけど」

「私はめくらましのための人員だから、そこは気にしなくていい」

相変わらず人の話を聞いていない藪に、俺は無性に苛々して怒鳴っていた。

「違うって言ってんだろうが!」








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