バツイチの恋

文月 青

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私よりも年上なのだろうと見当はつけていたが、何と香さんは修司さんの六歳上で、ちょうど富沢くんと咲さんと同じ年齢差なのだという。男三人兄弟の富沢家と、女三人姉妹の田坂家の子供達は、それぞれが同い年で上から順に六歳差なのだそうだ。

両家のお母さん達は同年齢カップルを予定していたものの、最初に香さんが、次いで修司さんが家に関わりのない人を選んで結婚したため、その夢は一旦暗礁に乗り上げた。ところがその後まんまと長男と三女、三男と次女が纏まったため、今度は香さんと修司さんを娶せようと画策しているらしい。

「修司と私の家庭を壊そうとしていた非常識な親なのよ」

香さんは怒りが冷めやらぬ様子で吐いた。

「最初は取り合っていなかったんだけど、どんどんエスカレートしてきてね。そんなときに別の理由で修司が離婚したものだから、信じられないことに喜んじゃったのよ。今度は私を離婚させようと、雅治、うちの夫なんだけど、彼に他の女性とのお見合い写真を送ってきたわけ。ありえないわよね」

お母さん達のやり口に堪忍袋の緒が切れた香さんは、冠婚葬祭以外では滅多に帰省しない実家に、苦情を申し入れるために今日は戻ってきたのだそうだ。でも全く話にならなかったと悔しがっている。

正直頭がこんがらがってきた。要するにお母さん達は自分の希望を叶えるために、結婚している娘と息子を離婚させ、尚且つ再婚に結びつけることに心血を注いでいるというのだろうか? 円満に暮らしている子供の幸せをわざわざ奪ってまで。

「だから言ったろ? うちの親も相当だって。本人達に自覚がないだけによけい性質タチが悪い」

苦笑する修司さん。もしかして好きでもない相手と結婚したのは、お母さん達の魔の手(?)から逃れるのが目的だったのだろうか。

「うちの家族でまともなのは修司だけなのよ。なのに実家に住むなんて」

唯一のオアシスに会いに来ることもできないと、香さんは心底嘆いていた。話の内容から察するに、その表現は決して過大なものではないに違いない。

「何かしでかさないように、親達を見張るつもりだったんだけどね。ごめん。結局役に立てなかった」

謝る修司さんに香さんはふっと笑んだ。

「あんたのせいじゃないでしょ、馬鹿修司」

馬鹿という響きの優しさに、同じ言葉でも使い方でこんなに心が和むんだと初めて知った。私の親が口にする馬鹿に愛情は欠片もない。

その後車で一緒に帰ろうと言ってくれた二人の気持ちだけもらい、私は一人バスに揺られて帰ったのだけれど、修司さんの用事は何だったのだろうと、車窓の景色を眺めながらぼんやり思った。




翌週の日曜日。修司さんは桜屋のお風呂に入りに来た。仕事が休みだった咲さんも一緒に訪れたので、私と富沢くんの勤務終了後に四人でドライブに行こうという話になった。幸い雨は小降りだったが、じめじめした蒸し暑さが肌に張りついて不快指数が上がった。

「香姉だ」

特に行先も決めずに、ハンドルを握る修司さんに任せて一時間程走っていると、後部座席から富沢くんが声を出した。

「そういえば香姉の家、この辺だものね」

振り返ると咲さんが頷いている。私は助手席から左側の歩道に目を向けた。おそらくご主人とお子さんなのだろう。そこには可愛らしい女の子を挟んで、三人で歩いている香さんの姿があった。あちらは修司さんの車に気づかなかったようで、追い越しても楽しそうに笑っているだけだった。

お母さん達からのお見合い攻撃は大丈夫だったのかな。ふとそんな考えが浮かんで運転席に視線を移したら、修司さんは当然ながら前を向いたまま黙って運転に集中していた。

「母さん達からの嫌がらせにも負けず、仲よくやっているみたいだね」

安堵したような富沢くんの台詞に、ほんの微かにだけれど修司さんの表情が動いた。まるで誰かを慈しむように口元が綻ぶ。私はその温かな笑みに目を奪われた。

「でもお母さん達は香姉と修司をどうにかしようと、また何か企んでるみたいよ」

「懲りないよな」

ため息をつく咲さんと呆れる富沢くんを余所に、赤信号で車を止めた修司さんが私をちらっと一瞥した。私の様子に何かを察した彼は、顔の前にそっと人差し指を立てる。

「修兄、お腹空いたから少し早いけどご飯にしない?」

信号が青く点ったところで富沢くんが言った。

「そうだな。奢ってくれる奴もいるし、俺の行きつけの店に行くとするか」

いつも通りぶっきら棒に答えて、修司さんは車を再び発進させる。

「その話冗談じゃなかったんですか!」

うっかり叫んだ私に車内は笑いに包まれた。でも何か釈然としない。さっきの人差し指にはどんな意味があったのだろう。やがて内心もやもやする私の目に、前に一度連れてきてもらった食堂が映った。そのとき閃くように女将さんの何気ない一言が脳裏に蘇った。

「香ちゃん以来ね」

その名前を思い出したとき、私の中ですとんと落ちるものがあった。他の女性を遠去ける修司さんの、本当に存在する「心に秘めた人」は香さんなのだと。



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