最強者のVRMMO活動記 ~トラブルに愛されるとあるプレイヤーのトラブルシューティング記~

火の無い灰

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4章「哀れな死者たちの世界」

燻りの湖

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【ダンジョン詳細】くすぶりの湖

『ダンジョン属性』
メイン属性:闇・大地 サブ属性:水・風
『難易度』
☆9
『出現モンスター系統&レベル帯』
・アンデッド(マッドモンスター系)【410~500】
・植物系【209~401】
・昆虫系【528~580】
『階層』
なし(自然包囲型ダンジョンのため)
『条件など、他備考』
・秘境・他ダンジョンとの連結アリ
・人数制限:1パーティ(6人)まで


―そこは、一言でいえば「広く浅い地下湖」だった。
岩肌と複雑に絡み合う枯れた木々の根と蔦が壁と天井として存在し、足元はくるぶしの少し上までの水が満たされている。右方の奥には蔦と木の根に纏わりつかれた古びた石の塔が建っており、その塔に接する大きな樹の根の坂が妙な存在感を放っていた。
天井部分に生えるヒカリコケが煌々と光を放ち、ぼんやりとした明るさではあるが地下にしては不自然な程明るい。
乾いた音と天井から滴る水滴の音をBGMとしながら、入り口の一定範囲にだけ存在する石床の上で小休止を取る4人。エヴァンは武具の修理に精を出し、フレイは石床セーフティエリアの外で見張りをしている。
ヒビキは素材を使って薬アイテムづくりの最中だ。
ライアはヒビキやエヴァンの作業をじっと見ている。
ヒビキが作業を続けながら、エヴァンに話しかけた。

「エヴァン」
「何でしょうか?」
「この湖な、少しばかり厄介なんだよ」
「……厄介、ですか」
「まあモンスターは大したことないんだけどな。大半は。でもこの湖だけの特殊な罠があってな」
「どんなものか知っているんですか?」
「まあな」
「…………うわッ!?」

2人の会話を遮る形で唐突に響く轟音。見張りをしていたはずのフレイの声がその轟音に続いて聞こえた。

「フレイ?どうした?」
「いや、何かが飛んできたのだ」

そういったフレイの方を見ると、彼女が最初いたはずの場所に巨大な1本の矢が突き刺さっていた。
矢は半ばほど地面に突き刺さっており、あれだけの轟音に見合う衝撃がかかったはずなのに折れてもいないところをみるに、相当頑丈な素材でできているようだ。

「…フレイ、この中入っておいてくれ、説明するから」
「ああ」

フレイが石床に座ったことを確認し、作業の手を止めてヒビキは矢について説明をはじめる。

「あの矢の発射元はあそこにある石の塔の天辺だ。要するにあそこに辿り着いて巨大アヴェリンの仕掛けを止めない限り、巨大矢は飛んでくる。壊そうにもあの石の塔は全体に破壊不能属性が付いていて、どんな攻撃でも壊れねぇ」
「つまり、矢を止めたいならあの塔に接する樹の根の坂道を上って天辺にいくしかないってことですね」
「そういうこった。塔には入り口がねぇから、行く道はあの樹の根しかねぇ」
「ふむ、巨大な矢は防げるものなのか?」
「まあ生粋のタンカーなら真っ向勝負で防げねぇこともねーだろうけど、普通は無理だな。俺もあれを真っ向から受けようとは思わねぇよ」
「じゃあ、走りながら行きます?」
「そうするのがセオリーだな。だがそう簡単に行かせてももらえねぇ。これは見た方が早いな」
「了解」
「じゃ、もう少し待ってください。なるべく早く終わらせますので」
そう言ってエヴァンは作業を再開する。自分の愛弓【天衝の魔煉弓】の補修は終わらせたようで、今はヒビキが預けた【風華シルフィステア】の刃を砥ぎ直している。

…まあヒビキ自身も【鍛冶術】スキルを取っている上熟練度もそこそこ高レベルなのだが、本職ではないため経験者に預けたというところである。

ちなみにライアの【アストラの血の直剣】は特殊で、自動修復機能が付いているため砥ぎ直す必要はない。
5分程度で刃の砥ぎ直しが終わり、【風華】は持ち主に返された。
今度はフレイの【灰燼の猛炎剣】を受け取って状態を見ている。

「ヒビキさん」
「何だ?」
「フレイさんの剣、魔導回路と精霊石が結構へばってきてるんですけど、今自分に手持ちがないんですよ」
「何だそんなことか」

エヴァンの言おうとしたことを察したようで、ヒビキはアイテムボックスから炎精石と希少金属の一種である陽炎真銀ミラージュミスリルのアイテムカードを出してエヴァンに投げて寄越す。

「ありがとうございます」

キャッチしたカードを実体化させ、陽炎真銀を携帯炉に放り込んで更に精製を行う。
その間にエヴァンは炎精石を槌で打って変形させ、剣の鍔元の飾りと同じ形にしたてるとその嵌っていた元の炎精石と取り換えた。

「相変わらずヒビキ殿のアイテムボックスの中身はどうなっているのか謎だな」
「ん?大体のレアアイテムなら大量に揃ってるぜ。金属なら陽炎真銀ミラージュミスリル水晶金属オリハルコン、何種類かの星夜金属キメラダイトや各種その他希少金属。植物系や精霊石系、料理の各種原材料とかもあるぞ」
「やはり常識はずれだな…」

フレイは若干引き気味である。それから暫くはヒビキはライアに紋章術の講義をしていた。
……フレイの剣の修理も、二十分程度で終わった。

「よし、じゃ行くか」

エヴァンが道具を片付けたのを確認し、ヒビキは視線を前に向ける。
しかしそこには何もいない浅瀬の湖が広がっているだけだ。
だが、そうだからといって無警戒に走り出したりなどは絶対にしない。辺りを警戒しながら、先へと歩を進める。
水に足が突き入れられ、たぷんという音と共に波紋が水面を伝わっていく。
その瞬間だった。
ヒビキが何かに気づき、叫び声をあげたのとその何かが穿

「来るぞ!全力で避けろおおおおおおぉぉおぉおおおお!!!」

―ズズズッ、ドガアアァァァァアア―――…ン!!!!

ド派手に辺りの土を巻き上げ、抉じ開けられた大穴から出現したのはその大穴と同じくらいの胴幅をもつ超巨大なワームだった。
薄めの土色の体表はぬらりと光り、巨大な円形の口の縁には鋭い牙がずらりと生え揃っている。
人やモンスターどころか家屋も簡単に一飲みに出来るであろうその超巨大ワームに対して、【解析アナリシス】が発動した。

―【地中よりの襲撃者 ブラッディサンドワーム  Lv602】

「何ですかあの気持ち悪い巨大ワームは」
「ここの中ボスだ。捕まえられて丸呑みにされないように気をつけろよ!」
「属性は大地属性か?」
「その通りだ」

――――――巨大モンスターの中でもワームは、人やモンスターを比喩抜きで本当に丸呑みにすることがある。というか噛み砕かれるか巨躯に押しつぶされるかじゃなければ、かなりの確率でそうしようとしてくる。丸呑みにされること自体はどんなに実力があろうが油断していると防げない。
もしそうなってもHPかVITが高ければ暫くは死なずに済む。実力のある上級プレイヤーならその間にワームの腹を掻っ捌いて脱出を果たすなんていう話はよくあることだ。

…精神的にはあまりよろしくないのは間違いないが。

「ワームなら輪切りにでもするか!」
「うえっ…まさか料理するわけじゃないですよね?」
「当たり前だ!ユリィの飼っているテイムモンスターの餌に丁度よさそうだからな!」
「至極全うな活用法でよかったです…」

ユリィ所有のギルドハウス【五式惑燐園ファランシア】には各種錬金素材を育てる畑エリアだけでなく、テイムモンスター用のだだっ広い牧場が備えられている。
餌は勿論【蒼穹】の狩った獲物…というか最低限それぐらいのランクのモンスターの素材でないとテイムモンスターが満足しないのだ。

「なら炎で焼き焦がすわけにもいかなさそうだな」

頷いてフレイはメインウェポンを仕舞い、濃い赤に煌く一つの宝石を取り出す。宝石には複雑なカットが施されており、上手く加工すればさぞや立派なアクセサリーになりそうな程美しい。
だがしかしその宝石はアクセサリーの素材になるようなものではない。

「ヒビキ殿!私は空から行かせてもらう。貴方は貴方で遠慮なくやってほしい!」
「応。了解した!ライアはエヴァンと遠距離攻撃に徹してくれ」
「了解」

フレイは前に進み、宝石を投げ上げる。宝石はくるくると回転しながら真上に上がり、落ちてくる過程でその姿を変えていく。
それはやがて2対4枚の深い赤の翼に変わると、宙に飛び立ったフレイの背でその存在感を誇示している。
彼女の右手には翼と同じ色合いの刀身を持つ片手直剣が握られていた。

「その天翼は初めて見ました」
「そりゃ使ってるやつ少ないもんな」

超遺物級オーパーツクラス天翼カテゴリ【神剣グラム】。天翼カテゴリの最高級武器だ。
天翼カテゴリの武器は使いこなせれば途轍もない機動力を与えてくれるのだが、不慣れだと飛行をミスって盛大に墜落することが多く使いこなせる者は少ない。

特に【神剣グラム】は要求ステータスも高く、炎属性に適性が無いと扱う事すら許されない。使い手が非常に少ないのはこういう理由からだ。

この地下湖なら十分な空間があるため、天翼武器も使える。

「それじゃ、始めますか」

【風華】を音も無く抜き放ち、だらりと自然体に構える。
エヴァンとライアもそれぞれの武器を構えて攻撃準備万全の様子だ。

「GYUEEAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

甲高い咆哮を迸らせながら身体をうねらせて迫ってくる巨大ワームに、ヒビキは姿が掻き消える程の加速で、フレイは光状にした自らの持つ剣を振るうことで、答える。

さてさて、足元は水に濡れた砂。大穴からは地下水脈にでもぶち当たったか水が絶えることなく湧き出している。
地形条件は?――正直最悪。
魔法は?――聖魔・光闇・風属性以外は体表で弾かれるだけだ。特にここのモンスターは〈燻り(くすぶりorいぶり)〉の名通り炎属性に強い耐性を持っている。
物理攻撃は?――打撃?効きにくい。斬撃?かなり有効。刺突?まあ有効。
もし飲み込まれても?――一瞬で腹を掻っ捌くだけだ。
負ける要素は?―――どう考えても、全く見当たらないね。
久しぶりに戦闘狂バトルジャンキーの本能のを、意図的に外した彼の口元には見る者を退かせるほどに獰猛な笑みが刻まれていた。



――――――残像すら残さない程の、圧倒的な加速力。
それがシステムに許されているのだから、驚愕の一言に尽きる。
ちなみにヒビキたち程強力なステータスを有していなくても、武器と種族の組み合わせによっては反則じみた攻撃が行える。例えば【獣人族ミグミィ】が「血界解放」を使ってステータスを上げ、射程伸長系の能力が付いた弓でキメル単位以遠からの超遠距離からの狙撃などが挙げられる。

「ヒビキ殿!行くぞ!」
「おう!」

フレイの声が響いた瞬間、宙から無数の光剣が降り注いだ。

―光・魔属性複合魔法スキル【あまつ杭】。

よく見れば剣というより杭に似た形のその光は、半径1メル程の範囲に隙間なく突き刺さる。

「GYUUEAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

耳を劈く絶叫が上がった。ギリギリで効果範囲外に飛び退いたヒビキの目の先で、ブラッディサンドワームが無数の杭に打たれ、動きを拘束されのたうち回っている。
巨躯が地を打つ度に、大量の砂と水がまき上がり周囲に撒き散らかされて地形に損害をじわじわと与えつつある。
そんな中、次は後方より幾本の魔矢と青き斬撃が飛んだ。

―弓術系戦技スキル【魔弾の射手】。

紋章で強化された斬撃はワームの体の一部分を斬り飛ばし、死角から襲い掛かった魔矢はワームの口を地面に縫い付けた。
そして再加速したヒビキの刀が振り下ろされる。

―刀術系戦技スキル【圧斬り】。

自らの体重をかけて圧し切る。これでワームの半分が斬り落とされたが、まだワームは散っていない。

「「本当に、昆虫モンスターはしぶとい」」

憮然とした顔で同じことを呟くヒビキとフレイが同時にワームの上半分へと襲い掛かった。

―刀術系風・雷属性複合スキル【迅雷】。
―飛翔術系風属性複合スキル【エアリエル・シュート】。

水飛沫を散らし、地上から襲い掛かる雷と風を纏った刃と空から襲い掛かる風の槍。全く同時に放たれた2種類の異なる方向からの攻撃を受けて、一瞬ワームは対処に迷ったように見えた。
モンスターに情けなどかけるような面子ではない。そして一瞬の迷いの代償として、ついにその命を散らせた。
自動回収された戦利品のドロップアイテムには目もくれずに天翼を解除したフレイとヒビキは身を翻す。

「巨大弓矢がバッチリ狙ってきてますから早く行きましょう」

【遠視】でその方を見ているエヴァンが早口で言う。

「そうだな!」

ヒビキが返答した数秒後にまた次の矢が発射され、彼らの付近に轟音を伴って突き刺さる。
撒き散らされた大量の水をまともに浴びる寸前にその場から退避した。

「あれが所謂フィールドトラップというものなのか!?」
「その通りだ!初めて見たのか!?」
「そうだ。ああいう大掛かりな仕掛けなぞ初めて見たぞ!!」

走りながら大声でそんなことを言い合うヒビキとフレイ。
およそ2秒間隔で追尾してくるように位置を細かく変えながら発射される巨大矢。
…少しでも立ち止まれば餌食になる。
全員が同じ事を思っていた。実際、塔との距離が近づく程に精度が増していっている。

…フィールドトラップとは一部の自然包囲型ダンジョンに仕掛けられるとてつもなく大掛かりな罠であり、原則破壊不能属性を与えられていて仕掛けそのものを止めない限り稼働し続ける。
【燻りの湖】に仕掛けられた石の塔の巨大アヴェリンもその一種。

「しかし、ここは走りにくいですね」
「それは仕方ないさ」

水を吸って重くなった細やかな砂は気を抜けば足を取られて盛大に転倒しかねない。もし転倒すれば即座に巨大矢が襲い掛かってくるだろう。

「…矢が来なくなったぞ?」
「そりゃここからでは狙えないからだと思いますよ。後はモンスターだけです」

樹の根の坂道に足をかけるあたりになって、矢の発射は止まった。
ただし先には随分と個性的なスケルトンやらグールやらが待ち構えているのがここから見える。

「あの骨、車輪に乗っている…?」
「あ、本当ですね」
「あまり油断するなよ」
「わかってます」

木製の車輪に身を絡ませたスケルトンや小さな台車に乗ったグール等々。姿が個性的なものばかり。
興味深そうにそれらを見ていた4人に、正確には先頭にいたヒビキに襲い掛かる影が空を走った。
―…左右2体。後ろ1体。一撃で殺せる。

「ちょっとかがんでおけ」

いうが早いや、キインッ!という音が鳴り2条の銀光が一瞬だけ空を奔る。
その後襲い掛かってきた車輪スケルトン3体は、黒いガラスへと変じて四散した。

「ヒビキ殿、確か車輪骸骨からは車輪盾がドロップしたと記憶しているのだが…」
「ああ、これのことな」

そういってヒビキが出したのは、さっきの車輪スケルトンからドロップした木製車輪だった。

「…………そんなにボロボロでスカスカなのに盾って自分、正直謎に思っているのですが…」
「気にしちゃだめだと思うんだが…。まあ性能はなかなか優秀だし」

…見た目はまんまボロボロの木製車輪。ただしその見た目に反して性能はかなり優秀で、限界まで強化すれば物理ダメージを100パーセントカットできる。魔法ダメージのカット率もなかなかのもの。
まあ見た目がぼろ過ぎて、使うのは変わり者に限られるのだが…

その後は主にヒビキがモンスターを斬撃で斬り飛ばしながら走り、数分程度で塔の天辺に辿り着いた。
ガタンゴトンと鳴り響き続けるのは間違いなく巨大弓矢の仕掛けの音。

「…………あんなの動かせるんですか?」
「頑張ればできる」
「いやそんなこと言われましても…」

仕掛けの近くに備え付けられているのは横に動かす巨大な石製のレバーで、見ただけでも相当重そうだ。
それを見て絶句するエヴァンにヒビキが返答し、それに若干引き気味でさらにエヴァンが返した。

「というか俺も速度特化な分、力にはあまり自信がねぇんだよなぁ」
「何言ってるんだこの人は」
「バッチリ999まで行っちゃっているはずなのに何を」
「まあこういうのはカイがやってたし」
「あー…」
「怪力どころじゃすまなかったような気がしたな。あいつは」
「あとルキ」
「頑丈さにかけては並ぶところなしだからですか」
「まあな。挑戦はすっけどよ」

そういってヒビキは巨大レバーの柄を掴む。そして力を込め始めた途端、僅かずつではあるがレバーが動き出した。
やがてその動きは加速度的に大きくなっていき、最終的には左端にあったレバーが右端にまで到達して仕掛けは停止した。

「やっぱりできたじゃないですか」
「…………次行くぞ」
「了解」

若干気まずげに目線をそらしながら、ヒビキは塔の先の台地部分の奥に設えられた通路へと目を向ける。エヴァンがやや楽し気に言った。






「さてと、次はいよいよ秘境へとなりますね!」
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