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6章「傲慢の報いを」
予期せぬ来客(苛烈な魔女&最速の戦闘狂)
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―――
ギルド戦3日目。まだ夜は明けていない。
前日のカイとルキの暴れっぷりにより、【蒼穹】のポイントは凄まじいことになっていた。
一方、まだどこにも攻めこまれていないユリィとアリスのギルドハウスでの様子はというと…。
―――――――――
五式惑燐園ファランシア。
外のガーデンでは多種多様な妖花や薬草がのびのびと各々の存在を主張している中、ユリィはまた錬金作業に熱中していた。恐らく緊急警報でも鳴らない限りはこのマイペースぷりは崩さないつもりだろう。
その途中、彼女の耳に来客を告げるチャイムの音が届いた。
「はいはーい」
返事をしながら急いで玄関扉の方へ向かう。そして扉をいきなりバーンと開けた。
無論いつでも撃てるように軽い魔法は既に準備済みである。
…扉の前にいたのは、黒いローブを頭から被って姿を隠している謎の人物だった。ユリィと同じくらいの身長の人物が、口を開く。
「すみません。この子が怪我をしてしまったのですが、何か治療できるものはありませんか?あれば分けていただきたいのですが…私の持ち合わせは切らしてしまっていて…」
声からして若い女性だ。しかも頭部に獣耳らしき三角のとんがりがある事から見て、十中八九【獣人族】の系譜だろう。彼女は同じくローブで姿を隠した幼子を抱いていた。
「いいですよ~。怪我の程度はどの位ですか?」
「既に【第5級回復薬】は飲ませたのですが、全く効き目がなくて…」
「そうですか~。大体わかりましたわ」
幼子のローブの隙間から垣間見える肌は裂け傷だらけで、出血が酷い。よくみれば女性も、幼子以上に出血が酷かった。
ユリィはアイテムボックスから【万能薬】の瓶を取り出すと、幼子に丁寧な手つきで飲ませる。
暖かな光粒が幼子の体を包んだかと思えば、裂け傷がみるみる癒えていく。数秒後には、幼子の傷はすっかり癒えていた。
「もう大丈夫ですよ~。安心してくださいね」
「あ、ありがとうございます…」
そう言い終わるか言い終わらないうちに、女性がくずおれるように倒れる。慌てて支えたユリィが【解析】で見たところ、状態異常欄に【闇の系譜の邪毒(解除不能)】と表示されていた。
「私はもう、永くありませんから…」
「最後に教えてください。一体誰に、いや、何にやられたんですか?」
「………闇の吸血鬼の系譜……助けてもらった上、申し訳ないのですが…その子を、どうか天使たちの島にいる、一族の主へ…」
そう言って女性は息絶えた。黒いガラスに変じて砕け、消えていく。
例え万能薬や猛毒の薬、それに類する数々のアイテムを素材さえあれば自由に作り出せる彼女と言えど人間だ、すべては救えない。無力さを押し殺し、すうすうと寝息を立てている幼子を館の居間のソファーに寝かせておき、ユリィは得た情報で推測をはじめた。
女性と幼子のカーソルの種族表示は【天狼星の獣人族】となっていた。カーソルに表示された幼子の名前は「イヴ」…見た目も名前も紛れもない狼人の女の子だ、が黒い髪の一房が白く染まっている。
「現状じゃ、情報が少なすぎて推測のしようも無いわ。後で皆と相談しなきゃ」
この世界にも吸血鬼という存在はいる。彼らが何か大それたことを企んでいるという予測だけは立てることができた。しかしそれ以外は情報が少なすぎて類推のしようもない。
ユリィは暫く椅子の上で考え込んでいた。
―二式雨撃基地ファルトレイ。
ヒビキとスコールが丁度狩りから帰ってきて暫く経ったある時に、その予期せぬ客はやってきた。
主建物に併設されており、真ん中から突き出している見張り塔から外を眺めていたスコールが遠くから何かに追われているらしき二人の人影を見つけた。
『ヒビキ、誰かが2人こちらに向かってくるぞ。何かに追われているみたいだな』
「何に追われているかわかるか?」
『…………………………吸血鬼、のようだな』
「……………………ほぉ?じゃ、狙い撃ちしてもらおうか」
彼に付き従うように傍に浮遊しているドローンに似た魔法機械に命令を下す。【千里眼】と【解析】の併用で対象と距離を明確に割り出した上での指令のため、誤射はあり得ない。
ドローンに似た形をした、青い回路を持つ魔法機械は、この基地に備えられた防御兵器群の総司令塔の役割を成す。この基地にヒビキがいる間は彼の指令に従い、いない時は設定の通りに動く。
魔法コアが起動され、基地を中心とした広大な範囲に突如、雨が降った。
だがその雨は黒い水で構成されている。雨は吸血鬼のみを正確に攻撃対象とし、その能力を発動させた。
鋭利な針と化した黒い雨は、怒涛の如く吸血鬼に降り注ぎその身を刺し貫く。
―特殊系闇・魔属性混合スキル【虚針の雨】。
傷による大量出血により、吸血鬼はHPを枯渇させこの世界から消え去った。しかし追われていた二人ももう体力が尽きかけで今にも死にそうな満身創痍状態だった。恐らく逃げながら戦っていたと思われる。
門を開き、彼らを迎え入れる。ついでにその時に魔法コアに【万癒の雨】を降らせ、回復させた。
倒れこんだ拍子に彼らの被っているフードが脱げ、カーソルが自動的に表示された。カーソルの内容も彼らの外見も、少なくともヒビキは見たことがないものである。
カーソルの種族表示は【天狼星の獣人族】となっており、彼ら2人にも獣人族の系譜たる獣耳と尾が備わっている。
しかも2人の見た目は配色がやや違うだけで体格や身長・顔立ちはほぼそっくり。九分九厘双子である。
…二人を基地の建物内に運び込んだ後、ヒビキが訊いた。
「【天狼星の獣人族】って知ってるか?」
『……………………北の方の都市を住み処としていた一族だからあまり詳しくは知らないが、狼人が「天狼星」の加護を得て転生進化した一族だったはずだ。確か「匣」を護っていてあまり移動しないはず、だったんだけどな』
「「匣」?」
『何でも意思を持ち、主と認めた者の願いを何でも叶えてくれるんだそうだ。だが少しでも邪な意思を持っていればその場で魂ごと焼き尽くされるようだな』
「ふーん」
ファンタジーによくある「願いを何でも叶えてくれる魔法の道具」にもろ該当する代物だ。
「でも何で吸血鬼に追われていたんだろうな?」
『それは訊いてみた方が早いだろう』
「そうだな」
その後は暫く沈黙がその場を支配していた。
――――――
目を覚ました2人は混乱しており状況を理解するのに少々時間を要したが、状況が呑み込めると落ち着いた。
しかし今も2人の狼耳はあたりを警戒しているのかぴんと立っている。
「落ち着いたか?」
「…………ああ」
「何故吸血鬼に追われていた?あとここの近くには街があるんだが、何故そっちに行かなかった?敵か味方か判別しようのないここよりより安全だと思うが」
「……………」
少々の沈黙の後、話が切り出された。
「吸血鬼のやつらは「匣」を狙って、俺たちの住んでいた都市に総力を挙げて攻め込んできたんだよね。でも今の「匣」の詳しい在り処は俺たちは誰も知らない。ほとんどの仲間が殺されて……………俺たち含め何とか逃げるのに成功した人もいたけど」
「逃亡に成功した中にも【闇の系譜の邪毒】を喰らってしまった者がいた。今現在の【天狼星の獣人族】の人数は非常に少ない」
「そりゃまた質の悪い…」
【闇の系譜の邪毒】は吸血鬼や三つ首竜など闇・魔属性の系譜に連なるモンスターだけが使う【猛毒】より更に上位の特殊状態異常に該当する。最低でもHPが1残る通常の毒とは違い、何かしら対策を講じなければ容赦なくHPを喰らい尽す上、進行が結構早い厄介な毒だ。幸い二人にはかかっていないようだが。
「【天狼星の獣人族】が完全に絶えない限り、俺たち以外の誰かが「匣」に触れようとしても守護結界に拒絶される。だから吸血鬼は俺たちを皆殺しにしようとしてきた」
「別世界からやってきた者たちの中でも最強と謳われる【魔導機人族】の噂は少し前から耳に入っていたから、もしかしたら、と思って」
「少なくとも街になぞ行けば、間違いなく賊や興味本位の奴らに目をつけられる。余計な面倒事は避けたかった」
「俺たち、元々珍しい種族の中でも見た目が更に珍しいからねぇ」
………確かに、今ヒビキとスコールの真向かいに座っている双子は白い。ただ瞳色だけは灰白と蒼白の対称的なオッドアイであり、肩より少し長い髪の色は処女雪を思わせる汚れのない純白。
所謂、「アルビノ」というものだろう。確かにヒビキもスコールも今までここまでのアルビノの人物を現実でもこの世界でも滅多に見たことがない。
しかし不機嫌そうな表情と、好奇心の窺える微笑の浮かんだ表情を見るに双子と言えど性格はかなり違うようだ。
「名前は?」
「……レイヴン」
「ヴィント」
不機嫌そうな表情を崩さないがそれが素の表情であるらしいレイヴンと、誰に対してもフラットな性格かつ好奇心がやや強いヴィント。だが二人ともその瞳の奥にある眼前の相手に対する興味を隠しきれていない様子だ。
「行き場が無いんなら、暫くここにいてもいいぜ」
軽い調子でヒビキがさらりと言う。この基地は2人の他にたまに【第2将軍】とその仲間が使うぐらいで、正直スペースを持て余しているのだ。
「…だが」
「確かに借りをあまり重ねたくはないけど、レイヴン、ここはお世話になろう?どうせ俺たちに行き場なんて無いんだからさ」
「…そうだな」
躊躇い気味のレイヴンを、ヴィントが説得した。
「決まったみたいだな。じゃ、ここは自由に使ってもらって構わないからな。ああ、場所わからなかったらそこら辺うろついてる「人形」にでも訊いてくれ」
そう言うとヒビキは席を外した。ギルドハウスの転移に関する権限設定を変更するためである。
後に残された3人はそれを見送った後、ヴィントは早速今の今まで黙っていたスコールに話しかける。
「あんた、血晶精霊でしょ?俺たちの都市にもいたよ」
『そうだが』
「うぉ、喋れないって噂は本当だったんだ。俺たちは別にあんたが過去に神を殺してようが気にしないしそれはどうでもいいし。強いって言うから興味があるだけ」
『…………』
何とも言えない表情で固まったスコールを、ヴィントは興味津々の様子で見ている。レイヴンは興味ないとばかりにそっぽを向いている。
…丁度戻ってきたヒビキが、二人の腰に吊るされた幾つかの手榴弾のようなものに目をつけた。
「その腰に吊るしてあるのって、爆弾か?」
「そうだよ」
実は少し前、プレイヤーの一人が鉱脈で鉱石を採掘していた時にマグマを固めたような妙な鉱石を掘り当てた。それは【爆裂鉱石】という名前で、少しでも振動を加えると盛大に周囲を巻き込んで途轍もない威力の爆発を起こす非常に危ない天然爆弾だった。因みにそれを掘り当てたプレイヤーとそのパーティは運悪く【爆裂鉱石】の爆発に巻き込まれてみんな仲良く死に戻りしたらしい。
それを使って今、手榴弾に酷似したアイテムが既に開発されて流通しつつある。だが爆発は無差別に周囲を巻き込むため、使いどころは非常に限られてしまうが。
それを使いこなし、なおかつ爆弾製作に愛を注ぐ連中が集まったギルドも存在する。都市防衛戦なんかでは非常に貢献するのだが、半ば狂気じみた爆弾愛から、ついたあだ名が《爆弾魔ギルド》。
訊いたところ双子が持っているのはその【爆裂鉱石】と炎精石をベースにしたオリジナルの爆弾だそうだ。だが彼らが住んでいた北方で多く産出される精霊石は氷精石や水精石がメインのはずで、炎精石は滅多に取れないはず。
「街の地下に精霊石がたくさん取れるダンジョンがあったんだよね。炎、水、氷、風、大地、光、闇、聖、魔全属性のものがざっくざく」
…そういうことだそうだ。
「ほぉ」
「…………今は恐らく奴らが占拠しているだろうがな…」
「…それでさ、俺に何を助けて欲しいんだ?」
ヒビキが唐突に切り出した。
「「匣」を狙う奴らを何とかして殺してほしい。俺らと一緒に」
「「匣」の現在位置は分からないんだろ?」
「手がかりはある」
そういってヴィントは自分の胸に下がったペンダントを見せた。雪の結晶と月夜の空を模した美しい細工の施されたその蒼と紺色の混ざった水晶に彼が魔力を流すと、一筋の光がとある方向を指した。
よく見ればレイヴンも似たようなものを持っている。ただしそちらの水晶は赤い上、鍵のような形をしているが。
「特殊な方位磁石?」
「この光を辿ったその先に「匣」がある。母が息絶える寸前にくれた物」
「…………ともかく今すぐは無理だ。そっちで言うところの「あっちの世界から来た者」の間で行われる大事な祭りがあるからな。あとそのすぐ後にエルフの議会長から依頼が来てる」
「別に今すぐとは言わない」
「「匣」が見つかるまで俺らも協力するよー」
「そりゃ助かる」
けらけらとヒビキが笑う。話が済んだ後暫くして、レイヴンが突然ぼそりと呟いた。
「ヴィント、K190438」
「うぇ、またー?」
「どうした?」
「外の森の茂みの中に何か、いや誰かがいるんだ。数は軽く20超」
「そうか。確かに俺の【索敵】にも引っ掛かってるわ」
【索敵】の反応曰くそれらは全て吸血鬼。一応【隠蔽】で姿を隠しているらしくマーカーは半透明だが、【索敵】スキルレベルカンストしているヒビキのレーダーからは逃れられない。
「!動いた」
反応が一斉に動き出した。基地を囲む守護壁はどうするつもりなのかと見ていると、どうやら飛び越えるつもりらしい。そういえば吸血鬼だから飛べたよなと今更ながらに思い出す。
「どうしよ」
「ま、任せとけって」
ヒビキは傍を浮遊する機械に指令を飛ばす。吸血鬼が丁度守護壁を飛び越えた直後のタイミングで、内側にスタンバイしていた魔法罠を発動して拘束してからの【虚針の雨】。
外を見るとほとんどがうまく引っ掛かり絶命したようだが、素早く回避したものもいた。だがそういうやつは更にその内側で既にスタンバイ済みの戦闘狂の餌食になり果てるだけだ。
一瞬でついた決着に、レイヴンとヴィントは軽く目を瞠りヴィントは納得がいったように頷いた。
「流石だね」
「俺レベルは他に4人いるんだけどな。その中でもスピード&必殺特化が俺だ」
「他は?」
「力特化、魔法特化、防御特化、回復特化」
「凄まじいね」
「別に……あと、俺が【索敵】で気づくより前に気づいたよな。さっきのは何だ?」
「音を『色』で視ただけだ」
「……所謂「共感覚」てやつか」
「だよ。ついでに俺は一度視た『色』は忘れないから」
「……そっちも興味深いな」
「あんたらほどじゃないよ」
「…ま、中で休もうぜ」
そう締めて、4人は中の居間でそれぞれ好きなことをしはじめた。
ちなみにヒビキが【紋章術】を使えると知ったヴィントが手製の爆弾を強化してもらったあと、付近のモンスター相手に実験していてたまたま近くを通りかかったプレイヤーによって流通品より威力の高い謎の手榴弾アイテムについての掲示板がたてられたとか。
ギルド戦3日目。まだ夜は明けていない。
前日のカイとルキの暴れっぷりにより、【蒼穹】のポイントは凄まじいことになっていた。
一方、まだどこにも攻めこまれていないユリィとアリスのギルドハウスでの様子はというと…。
―――――――――
五式惑燐園ファランシア。
外のガーデンでは多種多様な妖花や薬草がのびのびと各々の存在を主張している中、ユリィはまた錬金作業に熱中していた。恐らく緊急警報でも鳴らない限りはこのマイペースぷりは崩さないつもりだろう。
その途中、彼女の耳に来客を告げるチャイムの音が届いた。
「はいはーい」
返事をしながら急いで玄関扉の方へ向かう。そして扉をいきなりバーンと開けた。
無論いつでも撃てるように軽い魔法は既に準備済みである。
…扉の前にいたのは、黒いローブを頭から被って姿を隠している謎の人物だった。ユリィと同じくらいの身長の人物が、口を開く。
「すみません。この子が怪我をしてしまったのですが、何か治療できるものはありませんか?あれば分けていただきたいのですが…私の持ち合わせは切らしてしまっていて…」
声からして若い女性だ。しかも頭部に獣耳らしき三角のとんがりがある事から見て、十中八九【獣人族】の系譜だろう。彼女は同じくローブで姿を隠した幼子を抱いていた。
「いいですよ~。怪我の程度はどの位ですか?」
「既に【第5級回復薬】は飲ませたのですが、全く効き目がなくて…」
「そうですか~。大体わかりましたわ」
幼子のローブの隙間から垣間見える肌は裂け傷だらけで、出血が酷い。よくみれば女性も、幼子以上に出血が酷かった。
ユリィはアイテムボックスから【万能薬】の瓶を取り出すと、幼子に丁寧な手つきで飲ませる。
暖かな光粒が幼子の体を包んだかと思えば、裂け傷がみるみる癒えていく。数秒後には、幼子の傷はすっかり癒えていた。
「もう大丈夫ですよ~。安心してくださいね」
「あ、ありがとうございます…」
そう言い終わるか言い終わらないうちに、女性がくずおれるように倒れる。慌てて支えたユリィが【解析】で見たところ、状態異常欄に【闇の系譜の邪毒(解除不能)】と表示されていた。
「私はもう、永くありませんから…」
「最後に教えてください。一体誰に、いや、何にやられたんですか?」
「………闇の吸血鬼の系譜……助けてもらった上、申し訳ないのですが…その子を、どうか天使たちの島にいる、一族の主へ…」
そう言って女性は息絶えた。黒いガラスに変じて砕け、消えていく。
例え万能薬や猛毒の薬、それに類する数々のアイテムを素材さえあれば自由に作り出せる彼女と言えど人間だ、すべては救えない。無力さを押し殺し、すうすうと寝息を立てている幼子を館の居間のソファーに寝かせておき、ユリィは得た情報で推測をはじめた。
女性と幼子のカーソルの種族表示は【天狼星の獣人族】となっていた。カーソルに表示された幼子の名前は「イヴ」…見た目も名前も紛れもない狼人の女の子だ、が黒い髪の一房が白く染まっている。
「現状じゃ、情報が少なすぎて推測のしようも無いわ。後で皆と相談しなきゃ」
この世界にも吸血鬼という存在はいる。彼らが何か大それたことを企んでいるという予測だけは立てることができた。しかしそれ以外は情報が少なすぎて類推のしようもない。
ユリィは暫く椅子の上で考え込んでいた。
―二式雨撃基地ファルトレイ。
ヒビキとスコールが丁度狩りから帰ってきて暫く経ったある時に、その予期せぬ客はやってきた。
主建物に併設されており、真ん中から突き出している見張り塔から外を眺めていたスコールが遠くから何かに追われているらしき二人の人影を見つけた。
『ヒビキ、誰かが2人こちらに向かってくるぞ。何かに追われているみたいだな』
「何に追われているかわかるか?」
『…………………………吸血鬼、のようだな』
「……………………ほぉ?じゃ、狙い撃ちしてもらおうか」
彼に付き従うように傍に浮遊しているドローンに似た魔法機械に命令を下す。【千里眼】と【解析】の併用で対象と距離を明確に割り出した上での指令のため、誤射はあり得ない。
ドローンに似た形をした、青い回路を持つ魔法機械は、この基地に備えられた防御兵器群の総司令塔の役割を成す。この基地にヒビキがいる間は彼の指令に従い、いない時は設定の通りに動く。
魔法コアが起動され、基地を中心とした広大な範囲に突如、雨が降った。
だがその雨は黒い水で構成されている。雨は吸血鬼のみを正確に攻撃対象とし、その能力を発動させた。
鋭利な針と化した黒い雨は、怒涛の如く吸血鬼に降り注ぎその身を刺し貫く。
―特殊系闇・魔属性混合スキル【虚針の雨】。
傷による大量出血により、吸血鬼はHPを枯渇させこの世界から消え去った。しかし追われていた二人ももう体力が尽きかけで今にも死にそうな満身創痍状態だった。恐らく逃げながら戦っていたと思われる。
門を開き、彼らを迎え入れる。ついでにその時に魔法コアに【万癒の雨】を降らせ、回復させた。
倒れこんだ拍子に彼らの被っているフードが脱げ、カーソルが自動的に表示された。カーソルの内容も彼らの外見も、少なくともヒビキは見たことがないものである。
カーソルの種族表示は【天狼星の獣人族】となっており、彼ら2人にも獣人族の系譜たる獣耳と尾が備わっている。
しかも2人の見た目は配色がやや違うだけで体格や身長・顔立ちはほぼそっくり。九分九厘双子である。
…二人を基地の建物内に運び込んだ後、ヒビキが訊いた。
「【天狼星の獣人族】って知ってるか?」
『……………………北の方の都市を住み処としていた一族だからあまり詳しくは知らないが、狼人が「天狼星」の加護を得て転生進化した一族だったはずだ。確か「匣」を護っていてあまり移動しないはず、だったんだけどな』
「「匣」?」
『何でも意思を持ち、主と認めた者の願いを何でも叶えてくれるんだそうだ。だが少しでも邪な意思を持っていればその場で魂ごと焼き尽くされるようだな』
「ふーん」
ファンタジーによくある「願いを何でも叶えてくれる魔法の道具」にもろ該当する代物だ。
「でも何で吸血鬼に追われていたんだろうな?」
『それは訊いてみた方が早いだろう』
「そうだな」
その後は暫く沈黙がその場を支配していた。
――――――
目を覚ました2人は混乱しており状況を理解するのに少々時間を要したが、状況が呑み込めると落ち着いた。
しかし今も2人の狼耳はあたりを警戒しているのかぴんと立っている。
「落ち着いたか?」
「…………ああ」
「何故吸血鬼に追われていた?あとここの近くには街があるんだが、何故そっちに行かなかった?敵か味方か判別しようのないここよりより安全だと思うが」
「……………」
少々の沈黙の後、話が切り出された。
「吸血鬼のやつらは「匣」を狙って、俺たちの住んでいた都市に総力を挙げて攻め込んできたんだよね。でも今の「匣」の詳しい在り処は俺たちは誰も知らない。ほとんどの仲間が殺されて……………俺たち含め何とか逃げるのに成功した人もいたけど」
「逃亡に成功した中にも【闇の系譜の邪毒】を喰らってしまった者がいた。今現在の【天狼星の獣人族】の人数は非常に少ない」
「そりゃまた質の悪い…」
【闇の系譜の邪毒】は吸血鬼や三つ首竜など闇・魔属性の系譜に連なるモンスターだけが使う【猛毒】より更に上位の特殊状態異常に該当する。最低でもHPが1残る通常の毒とは違い、何かしら対策を講じなければ容赦なくHPを喰らい尽す上、進行が結構早い厄介な毒だ。幸い二人にはかかっていないようだが。
「【天狼星の獣人族】が完全に絶えない限り、俺たち以外の誰かが「匣」に触れようとしても守護結界に拒絶される。だから吸血鬼は俺たちを皆殺しにしようとしてきた」
「別世界からやってきた者たちの中でも最強と謳われる【魔導機人族】の噂は少し前から耳に入っていたから、もしかしたら、と思って」
「少なくとも街になぞ行けば、間違いなく賊や興味本位の奴らに目をつけられる。余計な面倒事は避けたかった」
「俺たち、元々珍しい種族の中でも見た目が更に珍しいからねぇ」
………確かに、今ヒビキとスコールの真向かいに座っている双子は白い。ただ瞳色だけは灰白と蒼白の対称的なオッドアイであり、肩より少し長い髪の色は処女雪を思わせる汚れのない純白。
所謂、「アルビノ」というものだろう。確かにヒビキもスコールも今までここまでのアルビノの人物を現実でもこの世界でも滅多に見たことがない。
しかし不機嫌そうな表情と、好奇心の窺える微笑の浮かんだ表情を見るに双子と言えど性格はかなり違うようだ。
「名前は?」
「……レイヴン」
「ヴィント」
不機嫌そうな表情を崩さないがそれが素の表情であるらしいレイヴンと、誰に対してもフラットな性格かつ好奇心がやや強いヴィント。だが二人ともその瞳の奥にある眼前の相手に対する興味を隠しきれていない様子だ。
「行き場が無いんなら、暫くここにいてもいいぜ」
軽い調子でヒビキがさらりと言う。この基地は2人の他にたまに【第2将軍】とその仲間が使うぐらいで、正直スペースを持て余しているのだ。
「…だが」
「確かに借りをあまり重ねたくはないけど、レイヴン、ここはお世話になろう?どうせ俺たちに行き場なんて無いんだからさ」
「…そうだな」
躊躇い気味のレイヴンを、ヴィントが説得した。
「決まったみたいだな。じゃ、ここは自由に使ってもらって構わないからな。ああ、場所わからなかったらそこら辺うろついてる「人形」にでも訊いてくれ」
そう言うとヒビキは席を外した。ギルドハウスの転移に関する権限設定を変更するためである。
後に残された3人はそれを見送った後、ヴィントは早速今の今まで黙っていたスコールに話しかける。
「あんた、血晶精霊でしょ?俺たちの都市にもいたよ」
『そうだが』
「うぉ、喋れないって噂は本当だったんだ。俺たちは別にあんたが過去に神を殺してようが気にしないしそれはどうでもいいし。強いって言うから興味があるだけ」
『…………』
何とも言えない表情で固まったスコールを、ヴィントは興味津々の様子で見ている。レイヴンは興味ないとばかりにそっぽを向いている。
…丁度戻ってきたヒビキが、二人の腰に吊るされた幾つかの手榴弾のようなものに目をつけた。
「その腰に吊るしてあるのって、爆弾か?」
「そうだよ」
実は少し前、プレイヤーの一人が鉱脈で鉱石を採掘していた時にマグマを固めたような妙な鉱石を掘り当てた。それは【爆裂鉱石】という名前で、少しでも振動を加えると盛大に周囲を巻き込んで途轍もない威力の爆発を起こす非常に危ない天然爆弾だった。因みにそれを掘り当てたプレイヤーとそのパーティは運悪く【爆裂鉱石】の爆発に巻き込まれてみんな仲良く死に戻りしたらしい。
それを使って今、手榴弾に酷似したアイテムが既に開発されて流通しつつある。だが爆発は無差別に周囲を巻き込むため、使いどころは非常に限られてしまうが。
それを使いこなし、なおかつ爆弾製作に愛を注ぐ連中が集まったギルドも存在する。都市防衛戦なんかでは非常に貢献するのだが、半ば狂気じみた爆弾愛から、ついたあだ名が《爆弾魔ギルド》。
訊いたところ双子が持っているのはその【爆裂鉱石】と炎精石をベースにしたオリジナルの爆弾だそうだ。だが彼らが住んでいた北方で多く産出される精霊石は氷精石や水精石がメインのはずで、炎精石は滅多に取れないはず。
「街の地下に精霊石がたくさん取れるダンジョンがあったんだよね。炎、水、氷、風、大地、光、闇、聖、魔全属性のものがざっくざく」
…そういうことだそうだ。
「ほぉ」
「…………今は恐らく奴らが占拠しているだろうがな…」
「…それでさ、俺に何を助けて欲しいんだ?」
ヒビキが唐突に切り出した。
「「匣」を狙う奴らを何とかして殺してほしい。俺らと一緒に」
「「匣」の現在位置は分からないんだろ?」
「手がかりはある」
そういってヴィントは自分の胸に下がったペンダントを見せた。雪の結晶と月夜の空を模した美しい細工の施されたその蒼と紺色の混ざった水晶に彼が魔力を流すと、一筋の光がとある方向を指した。
よく見ればレイヴンも似たようなものを持っている。ただしそちらの水晶は赤い上、鍵のような形をしているが。
「特殊な方位磁石?」
「この光を辿ったその先に「匣」がある。母が息絶える寸前にくれた物」
「…………ともかく今すぐは無理だ。そっちで言うところの「あっちの世界から来た者」の間で行われる大事な祭りがあるからな。あとそのすぐ後にエルフの議会長から依頼が来てる」
「別に今すぐとは言わない」
「「匣」が見つかるまで俺らも協力するよー」
「そりゃ助かる」
けらけらとヒビキが笑う。話が済んだ後暫くして、レイヴンが突然ぼそりと呟いた。
「ヴィント、K190438」
「うぇ、またー?」
「どうした?」
「外の森の茂みの中に何か、いや誰かがいるんだ。数は軽く20超」
「そうか。確かに俺の【索敵】にも引っ掛かってるわ」
【索敵】の反応曰くそれらは全て吸血鬼。一応【隠蔽】で姿を隠しているらしくマーカーは半透明だが、【索敵】スキルレベルカンストしているヒビキのレーダーからは逃れられない。
「!動いた」
反応が一斉に動き出した。基地を囲む守護壁はどうするつもりなのかと見ていると、どうやら飛び越えるつもりらしい。そういえば吸血鬼だから飛べたよなと今更ながらに思い出す。
「どうしよ」
「ま、任せとけって」
ヒビキは傍を浮遊する機械に指令を飛ばす。吸血鬼が丁度守護壁を飛び越えた直後のタイミングで、内側にスタンバイしていた魔法罠を発動して拘束してからの【虚針の雨】。
外を見るとほとんどがうまく引っ掛かり絶命したようだが、素早く回避したものもいた。だがそういうやつは更にその内側で既にスタンバイ済みの戦闘狂の餌食になり果てるだけだ。
一瞬でついた決着に、レイヴンとヴィントは軽く目を瞠りヴィントは納得がいったように頷いた。
「流石だね」
「俺レベルは他に4人いるんだけどな。その中でもスピード&必殺特化が俺だ」
「他は?」
「力特化、魔法特化、防御特化、回復特化」
「凄まじいね」
「別に……あと、俺が【索敵】で気づくより前に気づいたよな。さっきのは何だ?」
「音を『色』で視ただけだ」
「……所謂「共感覚」てやつか」
「だよ。ついでに俺は一度視た『色』は忘れないから」
「……そっちも興味深いな」
「あんたらほどじゃないよ」
「…ま、中で休もうぜ」
そう締めて、4人は中の居間でそれぞれ好きなことをしはじめた。
ちなみにヒビキが【紋章術】を使えると知ったヴィントが手製の爆弾を強化してもらったあと、付近のモンスター相手に実験していてたまたま近くを通りかかったプレイヤーによって流通品より威力の高い謎の手榴弾アイテムについての掲示板がたてられたとか。
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癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
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加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜
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VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。
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スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
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これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
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ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
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【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
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まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
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