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6章「傲慢の報いを」
ラストスパート(聖神殿の巫女)
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―ギルド戦最終日。
昨日、メッセージを受けたアリスはイヴという名前らしい幼女を居間の椅子に寝かせ、ギルド戦最終日に解禁される飛行可能ギルドハウスの飛行機能を使ってその「天使たちの島」に住む一族とやらの場所に向かっていた。
見下ろせば地面は遥か下、1キメルは軽く超している。
「またユリィはあたしに面倒事を押し付けてきて…まあいいけどさ」
アリスは不満げだが任されたことは果たそうと、戦艦を走らせる。すると突然、船内に警報が鳴り響いた。続いて機械音声のアナウンスが流される。
『緊急連絡、緊急連絡。前方およそ2時の方向に艦影確認。他ギルドの拠点と思われます。迎撃許可を』
「んにゃ、ちょっと待ってー」
アリスがその方向に目を凝らすと、確かにアリスの戦艦と似た形の艦が近づいてくるのが分かる。様子を窺っていると、いきなり相手から砲撃が来た。
「来たね。じゃ、返礼として容赦なくぶっ放しちゃってー」
『了承致しました。どの属性砲撃に致しますか?』
「雷」
『承知しました。迎撃システムを起動します』
機械音声のアナウンスが止んだ直後、艦橋の後ろにある砲塔に備え付けられた魔砲が火を噴いた。だが厳密に言えば、雷を噴いた、の方が正しい。黄色に輝く砲撃はスパークを散らしながら空を突き進み、容赦なく相手戦艦に突き刺さった。さらに連続で放たれた雷砲撃に耐えきれず相手戦艦は戦闘設備を壊され、逃げていった。
ギルド戦ポイント清算結果ウィンドウは消しておいて、アリスは更に虚空に向かって問いかける。
「ねぇ、この付近に浮かぶ島の中で、この子と同じ種族の人がいる島ってある?」
『検索します……………………………1件引っ掛かりました。そちらを目的地に設定いたしますか?』
「うん」
『了承致しました』
アナウンスが止み、魔法コアを中心とした半永久機関の魔法エンジンが出す音以外は何も音がしなくなった。
アリスは艦橋の椅子に座り、暫くうつらうつらと微睡んでいた。
―アリスが再び目を覚ました時は、もう目的地の浮遊島のすぐそばまで来ていた。
だからか【危機感知】レーダーには艦の周囲を飛び回る幾つもの反応が映っている。
「そこの艦、止まりなさい!如何なる理由で我らの住み処に近づくのか?」
甲板に出たアリスに、エルダーレッドドラゴンに乗った一人の狼人が鋭く問いかけてくる。
「あたしは、地上の貴方たちの仲間からこの子を任されてきたんです。とにかく中に入れてもらえませんか?」
中から連れてきた幼女を彼らに見せるように抱きかかえる。
すると周囲がざわめくのが感じられ、問いかけた狼人は「我らについてこい」と言いドラゴンの方向を変えた。
言われた通り、大きな港に似た場所に艦をつけて降りてから歩いてついていく。
案内されたのは周りより大きいある家だった。
中ではローブをすっぽり被った老婆が椅子に座っている。その周りを固めるように狼人の護衛と鳥人の護衛が並んで立っていた。
「地上の同胞の子を連れてきてくれたと言うが…彼女かえ?」
「そうです」
「誰に頼まれたんじゃ?」
「この子の母親からです」
「今は?」
「この子の母親は亡くなられてしまいましたと…どうやら住み処としていた都市が吸血鬼の総襲撃に遭い、ほとんどが殺されてしまったそうなので」
アリスがそう答えると、周りにいた狼人‐種族は勿論【天狼星の獣人族】‐がざわめいた。そのざわめきには怒りが混じっているのが感じられる。
「他の生き残りはいるのか?」
「…………今、他の仲間がいるんですけど訊いてみていいですか?」
「ああ、構わん」
アリスはすぐに音声チャットをヒビキにつなぐ。
『…………アリスか?どうした?』
『手短に訊くんだけど、ヒビキのところに【天狼星の獣人族】の人って来た?』
『……来たぞ?』
『わかった、ありがと』
一度保留状態にし、前に向き直る。
「いるみたいです」
「…そうじゃな……「匣」をつけ狙う忌々しい吸血鬼どもをこちらから倒しに行こうとしても、我らはあまりにも数が少ない。……………………あの双子が生きていれば…こちらから「匣」を先に取りに行くことも出来なくはないのじゃが」
「……ちょっと待って下さい」
保留状態を解く。
『ヒビキ、ヒビキ。その人のこと詳しく教えてくれない?』
『吸血鬼の群れに追われて俺のとこに逃げてきてたから、雨魔法使って吸血鬼だけ殺ってやった。共感覚を持ったアルビノの双子だったぞ』
『ありがとー』
音声チャットを切った。
「その双子って、アルビノだったりします?」
「何故そのことを知っておるんじゃ?」
アルビノという言葉も通じるらしい。
「あたしの仲間が助けたのがアルビノの双子だったそうです。今は恐らく一緒にいるから大丈夫だと思います」
「…………かといえ、「匣」への唯一の手掛かりを持つあの双子の元には強力な吸血鬼が来る可能性が高い。本当に大丈夫なんじゃな?」
「はい。あたしたちは吸血鬼の真祖クラスであろうと後れをとることは決してありませんので」
自信漲る笑顔のまま堂々とそうのたまったアリスに、相手は一瞬呆気にとられたように沈黙したがすぐ我に返った。
「じゃが…」
「長老、ちょっと待ってください」
横から声をかけたのは、後ろ腰に弓と剣を吊るした若い狼人の青年だった。さっきからアリスの顔を…正確にはアリスの右半身に走る露出した白い回路模様を穴が開くほど見ていた青年である。
彼は話し始めた。
「これは先日又聞きして、裏を取った話なのですが……聖歌街リュケスの「歌壇の王」が不審な賊に攫われた時に救出した3人組のうち2人にも、そこの彼女と似た模様が右半身にあったと聴き…」
「もっと詳細な事は分かるか?」
「黒髪に鮮血色の目をした軍人と、同じく黒髪に蒼と銀の目をした氷装の者と、血晶精霊らしき黒髪に青い目の者でした」
「(軍人ェ…)」
前、とある街の古文書を調べてみると昔にあったある国に確かに軍人というものが存在したらしい。そこから連想したのだろう。だがこの様子だと【魔導機人族】については長老は知らなさそうだ。
「これは別口なのですが、地上のある街々の内で【魔導機人族】なる者たちの噂が最近根強くなってきたとか」
「彼らはとっくの昔に絶えたはずじゃろ?」
「私も古文書でしか知らないのですが…何よりそこの彼女がその【魔導機人族】の可能性が高いです」
「!?」
前言撤回、知ってはいたがアリスがそれだと気づかなかっただけだ。
確かに街々の図書館に保存されている古文書には【魔導機人族】のことが書かれているものがあったが、その記述は非常に少なく、精々「種族説明」と同レベルのことぐらいまでしか書かれていない。
北欧神話「神々の黄昏」他諸々を基にしたのかその内容もまたとんでもなかった。
曰く「主に終焉戦争で敗北し、死んだ神々の力と意思の一部が機械の国の人間を基にして作られた生体魔法人形に溶け込んでできた種族。しかしごく一部は強力な神の欠片を有し、ハイエルフより遥かに長命であり、完全に壊れるまで決して死なない。
宿す魔力は膨大であり、その力は天にも届きうる」
「(絶対運営に盛大に患ってる人がいたはずだよ…)」
周りの住民の人々からはしばしば万能の神扱いされることもあるが、決してそうではない。プレイヤーはまだしも完全に死んだ住民は甦らせれないし、治せない病や毒もある。彼ら5人は自分が万能だと驕ったことはなかった。というより現実ではただのハイゲーマーである。他4人は知らないが少なくとも自分はそうだ。
そんな思考を巡らせていたアリスに向けて長老がまた口を開いた。
「とにかく、その子は我らが責任もって守る。地上の同胞のために遠路はるばる、ご苦労じゃった」
「いえいえ、気にしなくていいですよ。それではあたしはこれで」
そういってアリスはイヴを傍にいた女性の狼人に任せ、退出した。彼女の腕に絡む薄紫のベールの長帯がひらりと残光を反射したが、数瞬後にはそれも消えた。
―神様、ねぇ。
再び艦上の人となったアリスは、少し前の思考を思い出しおかしげにくすくす笑っている。
暇を持て余したときは古文書や魔導書を買い漁る彼女はこの世界の仕組みについて少しは知っている。というよりプレイヤーが最初にキャラメイクする時にいる場所で天から声をかけてくる若い女性らしき存在がいるのだが、それこそこのゲーム世界を管理する神様AIの内の一人、創造の女神ミューズ(厳密に言えばそれを模したAI)だ。
完全オリジナルの神話は主神たる彼女だけで、後は現実にも存在する神話が「ある程度」基になっている。
ちなみに少し前のとあるイベントで実装された未だ制覇者のいない難易度☆20の地下ダンジョン【巨人墓場】がそうらしい。いずれヒビキあたりが制覇しに行くと思うが。あそこも色々いわくつきだと聞く。
現実世界では彼女ら5人は只人でしかないのに、この世界では頂点と言っていい場所にまで上り詰めかつそこからどんどん「一般人(笑)」になっていくばかりでつい笑いたくなった。
不意にふきつけた突風が、彼女の被るベールを揺らした。
一瞬見えた景色の奥に、ちらりと黒い光が瞬いたような気がした。気になって【危機感知】レーダーを調べてみると、案の定ドラゴン、しかもアンデッド族のろくでもない代物だった。
「ドラゴンゾンビがなんでこんな高空を飛んでるのー!?」
蝕気により甦らされたドラゴン、それがドラゴンゾンビ。既に死んでいるため自由意志はとっくに消えてドラゴンとしての誇りを全て捨て去り、蝕魔の駒となり果てたもの。
「まあいいか…」
位置があまりに遠かったため、放置しておこうと身を翻した瞬間、レーダーに引っ掛かるドラゴンゾンビと以下従属魔たちの反応が消え去った。
「ってぇ………………ヒビキー!一体何してんのー!?」
こちらに気づいて近づいてくるのは確かにヒビキだった。それも何にも騎乗していない状態である。
「お、アリスじゃねーか。【索敵】で調べたら蝕魔の反応が真上にあったからちょっと倒しに来ただけだ」
「って普通は何かに乗ってくるべきでしょ!」
「【隠蔽】かけたから大丈夫だろ」
「…ってそういうことじゃなくて!」
彼の足下と周辺には猛烈な上昇する風が渦巻いている。要するに風に乗っているわけだ。
「流石って言うべきかなぁ」
「でもこれ結構MP喰うんだよなぁ」
風を攻撃に使うだけなら何も代償はいらないが、ここまでやるとなるとそれなりのMPを払う必要がある。こんな真似をするなら風の大型精霊に乗せてもらえばいいということだが、そこは、ね…?ロマンというやつで。
ヒビキは風に乗ったまま空を移動し、すとんと甲板の上に降り立った。
「…………はぁ、とにかく地上に戻るよ」
「おう」
大体手の届く範囲の蝕魔とその眷属は見つけたら有無を言わさず殺さなければとは言え、流石に地上から上空にいる蝕魔を追って倒せるやつはそうそういないだろう。
できるからただやっただけ、のスタンスのヒビキを、若干呆れを含んだ様子でアリスは見た。
―ギルド戦最終集計結果は、1位【蒼穹】2位【滅蝕の雪】3位【月竜の王】となった。
言わずもがな、ルキとカイ、それにヒビキが暴れ回った所為である。
昨日、メッセージを受けたアリスはイヴという名前らしい幼女を居間の椅子に寝かせ、ギルド戦最終日に解禁される飛行可能ギルドハウスの飛行機能を使ってその「天使たちの島」に住む一族とやらの場所に向かっていた。
見下ろせば地面は遥か下、1キメルは軽く超している。
「またユリィはあたしに面倒事を押し付けてきて…まあいいけどさ」
アリスは不満げだが任されたことは果たそうと、戦艦を走らせる。すると突然、船内に警報が鳴り響いた。続いて機械音声のアナウンスが流される。
『緊急連絡、緊急連絡。前方およそ2時の方向に艦影確認。他ギルドの拠点と思われます。迎撃許可を』
「んにゃ、ちょっと待ってー」
アリスがその方向に目を凝らすと、確かにアリスの戦艦と似た形の艦が近づいてくるのが分かる。様子を窺っていると、いきなり相手から砲撃が来た。
「来たね。じゃ、返礼として容赦なくぶっ放しちゃってー」
『了承致しました。どの属性砲撃に致しますか?』
「雷」
『承知しました。迎撃システムを起動します』
機械音声のアナウンスが止んだ直後、艦橋の後ろにある砲塔に備え付けられた魔砲が火を噴いた。だが厳密に言えば、雷を噴いた、の方が正しい。黄色に輝く砲撃はスパークを散らしながら空を突き進み、容赦なく相手戦艦に突き刺さった。さらに連続で放たれた雷砲撃に耐えきれず相手戦艦は戦闘設備を壊され、逃げていった。
ギルド戦ポイント清算結果ウィンドウは消しておいて、アリスは更に虚空に向かって問いかける。
「ねぇ、この付近に浮かぶ島の中で、この子と同じ種族の人がいる島ってある?」
『検索します……………………………1件引っ掛かりました。そちらを目的地に設定いたしますか?』
「うん」
『了承致しました』
アナウンスが止み、魔法コアを中心とした半永久機関の魔法エンジンが出す音以外は何も音がしなくなった。
アリスは艦橋の椅子に座り、暫くうつらうつらと微睡んでいた。
―アリスが再び目を覚ました時は、もう目的地の浮遊島のすぐそばまで来ていた。
だからか【危機感知】レーダーには艦の周囲を飛び回る幾つもの反応が映っている。
「そこの艦、止まりなさい!如何なる理由で我らの住み処に近づくのか?」
甲板に出たアリスに、エルダーレッドドラゴンに乗った一人の狼人が鋭く問いかけてくる。
「あたしは、地上の貴方たちの仲間からこの子を任されてきたんです。とにかく中に入れてもらえませんか?」
中から連れてきた幼女を彼らに見せるように抱きかかえる。
すると周囲がざわめくのが感じられ、問いかけた狼人は「我らについてこい」と言いドラゴンの方向を変えた。
言われた通り、大きな港に似た場所に艦をつけて降りてから歩いてついていく。
案内されたのは周りより大きいある家だった。
中ではローブをすっぽり被った老婆が椅子に座っている。その周りを固めるように狼人の護衛と鳥人の護衛が並んで立っていた。
「地上の同胞の子を連れてきてくれたと言うが…彼女かえ?」
「そうです」
「誰に頼まれたんじゃ?」
「この子の母親からです」
「今は?」
「この子の母親は亡くなられてしまいましたと…どうやら住み処としていた都市が吸血鬼の総襲撃に遭い、ほとんどが殺されてしまったそうなので」
アリスがそう答えると、周りにいた狼人‐種族は勿論【天狼星の獣人族】‐がざわめいた。そのざわめきには怒りが混じっているのが感じられる。
「他の生き残りはいるのか?」
「…………今、他の仲間がいるんですけど訊いてみていいですか?」
「ああ、構わん」
アリスはすぐに音声チャットをヒビキにつなぐ。
『…………アリスか?どうした?』
『手短に訊くんだけど、ヒビキのところに【天狼星の獣人族】の人って来た?』
『……来たぞ?』
『わかった、ありがと』
一度保留状態にし、前に向き直る。
「いるみたいです」
「…そうじゃな……「匣」をつけ狙う忌々しい吸血鬼どもをこちらから倒しに行こうとしても、我らはあまりにも数が少ない。……………………あの双子が生きていれば…こちらから「匣」を先に取りに行くことも出来なくはないのじゃが」
「……ちょっと待って下さい」
保留状態を解く。
『ヒビキ、ヒビキ。その人のこと詳しく教えてくれない?』
『吸血鬼の群れに追われて俺のとこに逃げてきてたから、雨魔法使って吸血鬼だけ殺ってやった。共感覚を持ったアルビノの双子だったぞ』
『ありがとー』
音声チャットを切った。
「その双子って、アルビノだったりします?」
「何故そのことを知っておるんじゃ?」
アルビノという言葉も通じるらしい。
「あたしの仲間が助けたのがアルビノの双子だったそうです。今は恐らく一緒にいるから大丈夫だと思います」
「…………かといえ、「匣」への唯一の手掛かりを持つあの双子の元には強力な吸血鬼が来る可能性が高い。本当に大丈夫なんじゃな?」
「はい。あたしたちは吸血鬼の真祖クラスであろうと後れをとることは決してありませんので」
自信漲る笑顔のまま堂々とそうのたまったアリスに、相手は一瞬呆気にとられたように沈黙したがすぐ我に返った。
「じゃが…」
「長老、ちょっと待ってください」
横から声をかけたのは、後ろ腰に弓と剣を吊るした若い狼人の青年だった。さっきからアリスの顔を…正確にはアリスの右半身に走る露出した白い回路模様を穴が開くほど見ていた青年である。
彼は話し始めた。
「これは先日又聞きして、裏を取った話なのですが……聖歌街リュケスの「歌壇の王」が不審な賊に攫われた時に救出した3人組のうち2人にも、そこの彼女と似た模様が右半身にあったと聴き…」
「もっと詳細な事は分かるか?」
「黒髪に鮮血色の目をした軍人と、同じく黒髪に蒼と銀の目をした氷装の者と、血晶精霊らしき黒髪に青い目の者でした」
「(軍人ェ…)」
前、とある街の古文書を調べてみると昔にあったある国に確かに軍人というものが存在したらしい。そこから連想したのだろう。だがこの様子だと【魔導機人族】については長老は知らなさそうだ。
「これは別口なのですが、地上のある街々の内で【魔導機人族】なる者たちの噂が最近根強くなってきたとか」
「彼らはとっくの昔に絶えたはずじゃろ?」
「私も古文書でしか知らないのですが…何よりそこの彼女がその【魔導機人族】の可能性が高いです」
「!?」
前言撤回、知ってはいたがアリスがそれだと気づかなかっただけだ。
確かに街々の図書館に保存されている古文書には【魔導機人族】のことが書かれているものがあったが、その記述は非常に少なく、精々「種族説明」と同レベルのことぐらいまでしか書かれていない。
北欧神話「神々の黄昏」他諸々を基にしたのかその内容もまたとんでもなかった。
曰く「主に終焉戦争で敗北し、死んだ神々の力と意思の一部が機械の国の人間を基にして作られた生体魔法人形に溶け込んでできた種族。しかしごく一部は強力な神の欠片を有し、ハイエルフより遥かに長命であり、完全に壊れるまで決して死なない。
宿す魔力は膨大であり、その力は天にも届きうる」
「(絶対運営に盛大に患ってる人がいたはずだよ…)」
周りの住民の人々からはしばしば万能の神扱いされることもあるが、決してそうではない。プレイヤーはまだしも完全に死んだ住民は甦らせれないし、治せない病や毒もある。彼ら5人は自分が万能だと驕ったことはなかった。というより現実ではただのハイゲーマーである。他4人は知らないが少なくとも自分はそうだ。
そんな思考を巡らせていたアリスに向けて長老がまた口を開いた。
「とにかく、その子は我らが責任もって守る。地上の同胞のために遠路はるばる、ご苦労じゃった」
「いえいえ、気にしなくていいですよ。それではあたしはこれで」
そういってアリスはイヴを傍にいた女性の狼人に任せ、退出した。彼女の腕に絡む薄紫のベールの長帯がひらりと残光を反射したが、数瞬後にはそれも消えた。
―神様、ねぇ。
再び艦上の人となったアリスは、少し前の思考を思い出しおかしげにくすくす笑っている。
暇を持て余したときは古文書や魔導書を買い漁る彼女はこの世界の仕組みについて少しは知っている。というよりプレイヤーが最初にキャラメイクする時にいる場所で天から声をかけてくる若い女性らしき存在がいるのだが、それこそこのゲーム世界を管理する神様AIの内の一人、創造の女神ミューズ(厳密に言えばそれを模したAI)だ。
完全オリジナルの神話は主神たる彼女だけで、後は現実にも存在する神話が「ある程度」基になっている。
ちなみに少し前のとあるイベントで実装された未だ制覇者のいない難易度☆20の地下ダンジョン【巨人墓場】がそうらしい。いずれヒビキあたりが制覇しに行くと思うが。あそこも色々いわくつきだと聞く。
現実世界では彼女ら5人は只人でしかないのに、この世界では頂点と言っていい場所にまで上り詰めかつそこからどんどん「一般人(笑)」になっていくばかりでつい笑いたくなった。
不意にふきつけた突風が、彼女の被るベールを揺らした。
一瞬見えた景色の奥に、ちらりと黒い光が瞬いたような気がした。気になって【危機感知】レーダーを調べてみると、案の定ドラゴン、しかもアンデッド族のろくでもない代物だった。
「ドラゴンゾンビがなんでこんな高空を飛んでるのー!?」
蝕気により甦らされたドラゴン、それがドラゴンゾンビ。既に死んでいるため自由意志はとっくに消えてドラゴンとしての誇りを全て捨て去り、蝕魔の駒となり果てたもの。
「まあいいか…」
位置があまりに遠かったため、放置しておこうと身を翻した瞬間、レーダーに引っ掛かるドラゴンゾンビと以下従属魔たちの反応が消え去った。
「ってぇ………………ヒビキー!一体何してんのー!?」
こちらに気づいて近づいてくるのは確かにヒビキだった。それも何にも騎乗していない状態である。
「お、アリスじゃねーか。【索敵】で調べたら蝕魔の反応が真上にあったからちょっと倒しに来ただけだ」
「って普通は何かに乗ってくるべきでしょ!」
「【隠蔽】かけたから大丈夫だろ」
「…ってそういうことじゃなくて!」
彼の足下と周辺には猛烈な上昇する風が渦巻いている。要するに風に乗っているわけだ。
「流石って言うべきかなぁ」
「でもこれ結構MP喰うんだよなぁ」
風を攻撃に使うだけなら何も代償はいらないが、ここまでやるとなるとそれなりのMPを払う必要がある。こんな真似をするなら風の大型精霊に乗せてもらえばいいということだが、そこは、ね…?ロマンというやつで。
ヒビキは風に乗ったまま空を移動し、すとんと甲板の上に降り立った。
「…………はぁ、とにかく地上に戻るよ」
「おう」
大体手の届く範囲の蝕魔とその眷属は見つけたら有無を言わさず殺さなければとは言え、流石に地上から上空にいる蝕魔を追って倒せるやつはそうそういないだろう。
できるからただやっただけ、のスタンスのヒビキを、若干呆れを含んだ様子でアリスは見た。
―ギルド戦最終集計結果は、1位【蒼穹】2位【滅蝕の雪】3位【月竜の王】となった。
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