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7章「叡智神の匣と天狼族」
空を行く者たち
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―ヒビキへの伝言を伝え終わると、クロハは基地内の彼専用の部屋に去って行った。
「吸血鬼どもか。恐らくそのペンダントと双子が目当てなんだろうが、攻める方法を間違えたな」
腕を組み、呆れたように言う。正面突破なぞヒビキたち相手には愚の骨頂だ。
『どうするんだ?』
「ランクの高い奴がいるようだが関係ねぇ。敵なら殺るだけだ」
基地の周りを随行する浮遊砲台群に指令を飛ばしてレベル400にも満たない雑魚を撃たせ、自分は第一次大規模メンテ明けに全プレイヤーに配布されたスキルの進化版【精霊招来】を使う。
浮遊砲台群は星夜金属でコーティングされている上、施設の専用コアからの潤沢な魔力が常に過不足なく供給されているので砲撃に一切の無駄がない。
ヒビキ自身が風と闇に親和性が高いからか、やってきたのも風と闇の精霊たちだった。しかしその中に1体だけ妙な精霊が混じっているのが目に留まった。闇の精霊は普通紫基調なのだが、それよりさらに濃く暗めの色をした鳥型の個体だ。
「…なんか変なの混じってるがまあいい。外を飛んでる吸血鬼を撃ち落とすか切り裂くかしてくれ」
了解、というように頷いて外へ行った精霊たちを見送り、ヒビキはソファにどさりと座りこむ。
「ここの運営は基本、必要な通知しかしないからなぁ…………」
イベントやメンテナンスなどの通知はするが、いつの間にやら実装されていたダンジョンも数知れず。そういうものはプレイヤーに発見されないとそれ関連の通知はこない。
…景色を見るため外に出、空を見渡すともう辺りには何もなかった。あっという間に討伐されたのだろう。
暫くヒビキはゆっくりと動く外の景色を眺めていた。
―【蒼穹】メンバーは、モンスターには容赦しないし対戦するプレイヤーにも手加減はしない。もし対話可能なモンスターに会った場合は様子を見るが、「こんにちは、死ね!」というような奴であればこれもまた容赦しない。
能力構成の違いも担当する生産分野の違いも性格の違いが生み出したほぼ偶然で、今のレベルカンストもパワーレベリングの結果としか言いようがない。
現在は住民の頼み事をしょっちゅう聞いているせいか住民からの人気が高い。…便利屋的な?
とにかくそういうわけで、今もそれぞれ自由に動いている訳である。故に統制が取れているとはいいがたい。
…ゆっくりと動く景色と爽やかな微風にゆられる中、ヒビキの思考は別方向へ逸れ始める。
こちらの人々からすれば、「死んでも生き返ることができる」というイカサマ級能力を持った自分たちプレイヤーは訪問者である。でももう今は大部分のプレイヤーはすっかり馴染んできているし、幾つか現実世界から持ち込まれた半ば余計()ともいえるカレーや将棋・プロレスなんかの知識も広められている。…ちなみにその原因の1人がエヴァンだ。
まだプレイヤーに発見されていないだけの種族、というのも恐らく存在するだろう。だからこそそういう未知の相手や迷宮を見つける楽しみというものがあるのだ。
双刀の刀身を布で拭きながら、そんなことをつらつらと考えていた。
ふと隣を見れば、レイヴンとヴィントはすっかり眠っている。疲れとこの気候の影響もあっただろうし、そのままそっとしておくことにした。
暫くヒビキは、ゆっくりと流れていく白い雲と太陽の光に彩られた無限の蒼穹をじっと見上げていた。
…
―地下世界のどこか、プレイヤーには難易度☆20のダンジョンとして運営が解放している広大無辺な墓場【巨人墓地】。中には並大抵の者なら一瞬で狂死する、そうでなくてもただでは済まされないほど非常に濃密な魔力が混じり合って満ちており、出現するアンデッドモンスターもその魔力で普通から見て尋常ではないほど強化されている。
上位か最上位以外のプレイヤーもあまりの異常さに近寄りがたくなっているようで、クリア者は今のところいない。
それはある意味当然の話だ。……何故か?前にも言った通り、この墓地に葬られているのは過去の大戦争又はそれ以後に死んだ神々だからだ。
乱立する巨大墓碑にはそれぞれの名が記されている。
そしてこの墓地を統括するのが、【暗月神】である。
…………死んだ、というが、神々は大体肉体は死んでも完全に消滅する訳ではなく意思だけの存在になって生き残ることが多い。堕落した神々が地上に出たら何をしでかすか分からないので、【暗月神】はこの墓地を統括すると同時に他の神々の魂をこの【巨人墓地】に固く縛り付けているのだ。元々万物の死を司る神たる彼の本業でもある。
…当の彼は最奥にある蓋のない巨大棺の中でいつ醒めるとも分からぬ眠りについていた。彼がここからいなくならない限り、堕落した神の魂が地上に出る事は絶対にない。そして【暗月神】はモンスターではない上ただのNPCでもないのでプレイヤーやNPCが傷つけることはかなわない。
…要するに、ここには通常のボスはいないのだ。
…
――ヴィントの持つペンダントが示す光の先、「匣」が封じられているとある神殿。
入るのも難しい奥深くに、赤い靄が薄く満ちた大きな部屋がある。丸い池には赤い水が満ち、周囲に生えるのは紅い輝きを宿す六角柱のクリスタルだ。
その池の奥には、白い石で彫られた天使の像が池を見下ろしている。天使の像にも壁にも蔦が絡まり、永い時代がたっていることを窺わせる。天使は祈るように両手を組み、琥珀が嵌められた黒い両目はただ池を見下ろしている。
水が赤いため分かりづらいが、池の中央には紅い水精石が埋まっている。【天狼星の獣人族】の中でも特殊な人しか、この部屋の先にある「匣」のある部屋には行けない。とある古文書には、確かにそう書いてある。
…吸血鬼はどうやらレイヴンとヴィントを利用する気満々らしいが、ヒビキがそれに気づくかどうか…
気づいても止まらなさそうではあるが。
「吸血鬼どもか。恐らくそのペンダントと双子が目当てなんだろうが、攻める方法を間違えたな」
腕を組み、呆れたように言う。正面突破なぞヒビキたち相手には愚の骨頂だ。
『どうするんだ?』
「ランクの高い奴がいるようだが関係ねぇ。敵なら殺るだけだ」
基地の周りを随行する浮遊砲台群に指令を飛ばしてレベル400にも満たない雑魚を撃たせ、自分は第一次大規模メンテ明けに全プレイヤーに配布されたスキルの進化版【精霊招来】を使う。
浮遊砲台群は星夜金属でコーティングされている上、施設の専用コアからの潤沢な魔力が常に過不足なく供給されているので砲撃に一切の無駄がない。
ヒビキ自身が風と闇に親和性が高いからか、やってきたのも風と闇の精霊たちだった。しかしその中に1体だけ妙な精霊が混じっているのが目に留まった。闇の精霊は普通紫基調なのだが、それよりさらに濃く暗めの色をした鳥型の個体だ。
「…なんか変なの混じってるがまあいい。外を飛んでる吸血鬼を撃ち落とすか切り裂くかしてくれ」
了解、というように頷いて外へ行った精霊たちを見送り、ヒビキはソファにどさりと座りこむ。
「ここの運営は基本、必要な通知しかしないからなぁ…………」
イベントやメンテナンスなどの通知はするが、いつの間にやら実装されていたダンジョンも数知れず。そういうものはプレイヤーに発見されないとそれ関連の通知はこない。
…景色を見るため外に出、空を見渡すともう辺りには何もなかった。あっという間に討伐されたのだろう。
暫くヒビキはゆっくりと動く外の景色を眺めていた。
―【蒼穹】メンバーは、モンスターには容赦しないし対戦するプレイヤーにも手加減はしない。もし対話可能なモンスターに会った場合は様子を見るが、「こんにちは、死ね!」というような奴であればこれもまた容赦しない。
能力構成の違いも担当する生産分野の違いも性格の違いが生み出したほぼ偶然で、今のレベルカンストもパワーレベリングの結果としか言いようがない。
現在は住民の頼み事をしょっちゅう聞いているせいか住民からの人気が高い。…便利屋的な?
とにかくそういうわけで、今もそれぞれ自由に動いている訳である。故に統制が取れているとはいいがたい。
…ゆっくりと動く景色と爽やかな微風にゆられる中、ヒビキの思考は別方向へ逸れ始める。
こちらの人々からすれば、「死んでも生き返ることができる」というイカサマ級能力を持った自分たちプレイヤーは訪問者である。でももう今は大部分のプレイヤーはすっかり馴染んできているし、幾つか現実世界から持ち込まれた半ば余計()ともいえるカレーや将棋・プロレスなんかの知識も広められている。…ちなみにその原因の1人がエヴァンだ。
まだプレイヤーに発見されていないだけの種族、というのも恐らく存在するだろう。だからこそそういう未知の相手や迷宮を見つける楽しみというものがあるのだ。
双刀の刀身を布で拭きながら、そんなことをつらつらと考えていた。
ふと隣を見れば、レイヴンとヴィントはすっかり眠っている。疲れとこの気候の影響もあっただろうし、そのままそっとしておくことにした。
暫くヒビキは、ゆっくりと流れていく白い雲と太陽の光に彩られた無限の蒼穹をじっと見上げていた。
…
―地下世界のどこか、プレイヤーには難易度☆20のダンジョンとして運営が解放している広大無辺な墓場【巨人墓地】。中には並大抵の者なら一瞬で狂死する、そうでなくてもただでは済まされないほど非常に濃密な魔力が混じり合って満ちており、出現するアンデッドモンスターもその魔力で普通から見て尋常ではないほど強化されている。
上位か最上位以外のプレイヤーもあまりの異常さに近寄りがたくなっているようで、クリア者は今のところいない。
それはある意味当然の話だ。……何故か?前にも言った通り、この墓地に葬られているのは過去の大戦争又はそれ以後に死んだ神々だからだ。
乱立する巨大墓碑にはそれぞれの名が記されている。
そしてこの墓地を統括するのが、【暗月神】である。
…………死んだ、というが、神々は大体肉体は死んでも完全に消滅する訳ではなく意思だけの存在になって生き残ることが多い。堕落した神々が地上に出たら何をしでかすか分からないので、【暗月神】はこの墓地を統括すると同時に他の神々の魂をこの【巨人墓地】に固く縛り付けているのだ。元々万物の死を司る神たる彼の本業でもある。
…当の彼は最奥にある蓋のない巨大棺の中でいつ醒めるとも分からぬ眠りについていた。彼がここからいなくならない限り、堕落した神の魂が地上に出る事は絶対にない。そして【暗月神】はモンスターではない上ただのNPCでもないのでプレイヤーやNPCが傷つけることはかなわない。
…要するに、ここには通常のボスはいないのだ。
…
――ヴィントの持つペンダントが示す光の先、「匣」が封じられているとある神殿。
入るのも難しい奥深くに、赤い靄が薄く満ちた大きな部屋がある。丸い池には赤い水が満ち、周囲に生えるのは紅い輝きを宿す六角柱のクリスタルだ。
その池の奥には、白い石で彫られた天使の像が池を見下ろしている。天使の像にも壁にも蔦が絡まり、永い時代がたっていることを窺わせる。天使は祈るように両手を組み、琥珀が嵌められた黒い両目はただ池を見下ろしている。
水が赤いため分かりづらいが、池の中央には紅い水精石が埋まっている。【天狼星の獣人族】の中でも特殊な人しか、この部屋の先にある「匣」のある部屋には行けない。とある古文書には、確かにそう書いてある。
…吸血鬼はどうやらレイヴンとヴィントを利用する気満々らしいが、ヒビキがそれに気づくかどうか…
気づいても止まらなさそうではあるが。
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