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7章「叡智神の匣と天狼族」
蝕気地帯を抜けて
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――次の日。相変わらず基地は空を行く。
今は大体5主街区のある大陸の中央から北西方面への境目あたりぐらいだ。明日には「光」の指し示す場所の最寄りの村に到着するだろう。転移機能があるため基地はこのままでも問題はない。
そして今現在、罠研究に勤しむルキと鍛冶作業に精を出すカイ、各種精霊石と【爆裂鉱石】の粉を持ちだして爆弾作りを始めたレイヴンとヴィント、暇を持て余したヒビキとスコールがそれぞれ思い思いに過ごしていた。
……外にいたヒビキが進行方向上に大規模な蝕気が発生しているのを目視したのは、暫く経ってからだった。どうやら蝕気発生地帯の上に差し掛かったらしい。
位置的には比較的広大な魔属性森林型ダンジョン【蝕みの病い森】の上にあたるので多少蝕気が見受けられるのは仕方がないのだが、明らかに通常より濃い蝕気だった。…その蝕気に紛れて分かりにくいが、ヒビキたちの目の前にボロボロの大きな船が滞空状態にあるのが見て取れた。
「なんだありゃ、幽霊船か?」
呟き、試しに【解析】をかけてみたところ、当たりだった。
―【虚妄の怨霊船 性能Lv801 強化ランク★3】
「ああ、確かアリスがそんなことを言ってたような」
空にたまに出没するアンデッドとして有名な幽霊船。性能Lvは単純な船自体の性能を表し、強化ランクは中に乗っているモンスターをどれだけ強化しているか、を示す。
それに照らし合わせれば、目の前の幽霊船はなかなかの強さを持っているといえる。が、近づかれる前に攻撃してしまえば何の問題も無いと言わんばかりに基地周辺を飛び回る浮遊砲台群が一斉に火を噴いた。
砲台群はざっと数えても十数以上はある。数と質の暴力に物を言わせた凄まじい力技だ。怨霊船はそのままどこかに消えてしまった。
「よし」
一つ頷く。【索敵】にも船の反応はもう無‥…………?
「いや、まだ何かいるな」
ある一点に鋭い視線を向ける。そこには無数の宙を飛ぶ何かの群があった。
あちらもこちらを狙ってきているのかその群は段々と近づいてきている。しかしそのまま接近を許す彼ではない。
―【屍典混合群アポクリファ】
これまた簡素な一文だった。群体を一つのモノとして認識した場合、このように全体に共通する特徴を表す簡素な文だけが表示されることがほとんどである。
「しかし、屍典ってなんぞ」
首を傾げながらも、浮遊砲台に指令を飛ばして撃ち落とさせる。
『確か吸血鬼側の魔法科学者が作った屍兵のことだ』
「成程な、じゃあもうすぐか」
―大陸にはところどころ、自然に蝕気が発生しているところがある。今からヒビキたちの向かう「光」の終着点である「匣」が封じられた神殿周辺にも、蝕気が発生している領域がある。
大体そういう場所は何かを護るため、近寄らせないため誰かが蝕気を発生させた場合が多い。
……蝕気は生き物に悪影響を及ぼすが、それが発生した経緯は必ずしも悪とは言い切れないのだ。あまり知られていない蝕気のちょっとした裏事情である。
…
―カイの生産した武器防具の刻印強化を終え、居間に戻ってきたヒビキ。
先にいたルキはプレイヤーの立てた掲示板を眺めている。それを横目にアイテムボックスのチェックをしていると、いきなりルキが驚いたような声を上げて立ち上がった。
「どうした、ルキ」
「いやちょっと、これ見てくれよ」
そう言って飛ばしてきた1枚のウィンドウには先ほど緊急で立てられたらしき掲示板が表示されていた。
「大陸北、南、西、東、中央で大規模PK事件発生、住民も巻き込まれている模様…て嘘だろおい」
【ザ・ファイナルリコード・オンライン】内の情報屋ギルドが出どころらしいその情報が本当ならただ事ではない。
「PKギルドが幾つか絡んでるみたいだな。目的は…主に初心者狩りか」
「今後も起きうるのか?」
「さあ?時間的にまだ犯人は発生場所近くにいる可能性大だけれども」
「……エヴァンからか」
軽やかな電子音とともに自動で開かれたウィンドウには、エヴァンからの新着メッセージが表示されている。
書かれているのはその大規模PK事件に絡んでいるPKギルド名や詳しい場所、規模などあらゆる詳細だった。相変わらず妙な交友関係だよなあいつと心の中で呟きながら、目を通す。
「【悪食の贄】、【堕ちた螺旋蛇】…あーっと、後はいいか。
…対処は「匣」の件が片付いた後でいいかな」
明日朝早くには目的地最寄りの圏内村に着くのだ。こちらを優先しておくべきだと判断したヒビキは、取りあえずそれまでの対策としてあるアクセサリを大量に添付し、エヴァン宛にメッセージを添えて送る。
アクセサリはカイが以前に大量に作りすぎて鍛冶倉庫のインベントリに死蔵状態だった「即死ダメージを一度だけ無効化する」ものだ。頭や心臓部など弱点部位を攻撃された時に発生するHP残量無視の即死判定にも反応する、案外優れものである。彼と親交のあるギルドに頼んでもらって配ってもらえば、少々ぐらいは何とかなるだろう。
続けてメッセージをアリスとユリィに送っておく。暇ができ次第最寄りの事件現場に向かってもらうように頼む内容だ。
ヒビキがメッセージを打っている間狼耳をピンと立てて、興味津々と言った様子で覗き込もうとしてくるヴィントをスコールが止めさせていた。
「………………敵には容赦しねぇよ」
つい硬くなる表情を戻し、メッセージを送信し終わるとヒビキはレイヴンとヴィント、スコールに向かって言う。
「目的地近くにいるであろう吸血鬼は恐らくランク4か5の個体ばかりだろうから、一応対策しておくべきだな」
「何するの?」
「状態異常対策だ」
3人は戦闘能力的には十二分すぎる程高い。でも万が一に備えるため、いくつかのアイテムを渡す。
「あ、そっか」
「…その通りだ。【洗脳】やら【魅了】やらをもし喰らえば、厄介なことになるからな」
『精神攻撃は奴らの常套手段だ。……何故か同胞の中でも俺だけ効果が非常に薄かったがな』
「まあ、それは、なぁ……」
…現在、この世界に存在する状態異常の中でも特に厄介なのが精神攻撃だ。回復薬は第3級回復薬以上のものか一定以上の製作評価の専用治療薬でないと効かず、効果時間も結構長い。操られて味方に全力攻撃を仕掛けてしまうことになるため、精神攻撃を主な攻撃手段とするボスモンスターは揃ってプレイヤーに嫌われていた。
しかし精神系状態異常は少々特殊で、耐性が高いほど効きにくいのは当然なのだがもう一つ、「自我が薄い対象ほど効きにくい」という特徴がある。
……つまりはまあ、そういうことだ。
―アイテムボックスから保管しておいたままの翡翠石と風精石を取り出したヒビキが良く通る大声でカイを呼びながら鍛冶房へ向かった後、居間にはルキ・レイヴン&ヴィント・スコールだけが残された。
「何しに行ったんだ?」
「…………恐らく魔導具にするつもりだと思うぞ」
「へ?何で翡翠と風精石で魔導具ができんの?」
『…………』
…【蒼穹】メンバーの得意生産分野は大体このようになっている。
ヒビキが《刻印強化》《魔道具制作》《魔導機械製作》
カイが《鍛冶》《魔法人形制作》
ルキは《建築》《罠制作》
ユリィは《錬金術》《調合》
アリスは《木工細工》《石彫刻》《金属細工》
など。
魔導具はほとんどの職業が装備可能な自由度の高い武器のため、需要は高い。
ヒビキが作れるのはあくまで魔導具にする仕上げ工程なので、材料は他のメンバーの手を借りなくてはならない。だからこそカイの鍛冶工房の方へ行ったのだろうが。
「へー」
「流石と言うべきか」
「あ、戻ってきたよー」
足音が聞こえて数秒後、下への出入り口に薄緑色に輝く半透明の瓶を持ったヒビキが姿を現した。瓶の大きさは丁度この場にいる誰もが片手で持てるほど、かといって小さいともいえないレベルのサイズ。
「よっしゃ後は仕上げだっ」
意気込んでいるようなので声はかけずに作業を見ていると、ヒビキは新たにボックスからハーブらしき草を大量に取り出し、瓶にぎゅうぎゅうに詰め始めた。
魔草から漏れる魔力が風を起こしているのを見るに、ハーブらしき魔草は風属性のものらしい。小瓶にぎゅうぎゅうに魔草を詰め終わると今度はぴっちり小瓶と同じ素材の翡翠の蓋をして、白銀と白金のリボンと飾り用パーツで器用に縛ったり飾ったりする。作業自体はそんなに時間もかからず終わった。
出来上がったのは綺麗にリボンでラッピングよろしく縛られた小さな翡翠の小瓶。よく見れば小瓶の表面に魔法回路によってひとつの複雑精緻な魔法紋章が描かれているのがわかる。
「できたのか?」
「ああ。使うか?」
「武器名は……【翠草の小瓶】、神話級魔導具…こりゃまた結構なものができたな。オレはいいや」
「そうか」
「じゃ俺に使わせてー」
「…使うんならいいが」
興味津々な様子でヴィントがのりだしてくる。それにちょっと引きながらヒビキは今しがた作ったばかりの魔導具を差し出した。ヴィントはその魔道具を受け取り、ボックスにしまう。
『あの鍛冶師は魔法人形も作れるといっていたが、こういうのか?』
スコールが丁度横を通りかかった「人形」を指差して言う。
「まあな。命令しなきゃ動かねぇやつか、ただただ単調なアルゴリズムで動くやつかだな」
といっても、今のところかなり数の少ないレア職業【人形造作師】の作る人形は結構需要がある。カイの作った戦闘用のものならエンダードラゴン族・エルダードラゴン族とも余裕で殴り合える。
一応言っておくが前にヒビキが会った【魔法人形族】のライアは【人形造作師】の作る人形とは別物だ。
…【魔法人形族】や【魔導機人族】は古代にあった国が作った代物が起源とされているため、今の時代それらを再現することは至難の業と言われている。
そのあたりをスコールと双子に説明している間、ルキはルキでパーツを取り出して何か建物の模型らしきものを作っていた。ヒビキは横目でそれを見たが詮索はせず、視線を前に戻した。
…基地は今日も空を行く。明日にはもう到着するだろう。
今は大体5主街区のある大陸の中央から北西方面への境目あたりぐらいだ。明日には「光」の指し示す場所の最寄りの村に到着するだろう。転移機能があるため基地はこのままでも問題はない。
そして今現在、罠研究に勤しむルキと鍛冶作業に精を出すカイ、各種精霊石と【爆裂鉱石】の粉を持ちだして爆弾作りを始めたレイヴンとヴィント、暇を持て余したヒビキとスコールがそれぞれ思い思いに過ごしていた。
……外にいたヒビキが進行方向上に大規模な蝕気が発生しているのを目視したのは、暫く経ってからだった。どうやら蝕気発生地帯の上に差し掛かったらしい。
位置的には比較的広大な魔属性森林型ダンジョン【蝕みの病い森】の上にあたるので多少蝕気が見受けられるのは仕方がないのだが、明らかに通常より濃い蝕気だった。…その蝕気に紛れて分かりにくいが、ヒビキたちの目の前にボロボロの大きな船が滞空状態にあるのが見て取れた。
「なんだありゃ、幽霊船か?」
呟き、試しに【解析】をかけてみたところ、当たりだった。
―【虚妄の怨霊船 性能Lv801 強化ランク★3】
「ああ、確かアリスがそんなことを言ってたような」
空にたまに出没するアンデッドとして有名な幽霊船。性能Lvは単純な船自体の性能を表し、強化ランクは中に乗っているモンスターをどれだけ強化しているか、を示す。
それに照らし合わせれば、目の前の幽霊船はなかなかの強さを持っているといえる。が、近づかれる前に攻撃してしまえば何の問題も無いと言わんばかりに基地周辺を飛び回る浮遊砲台群が一斉に火を噴いた。
砲台群はざっと数えても十数以上はある。数と質の暴力に物を言わせた凄まじい力技だ。怨霊船はそのままどこかに消えてしまった。
「よし」
一つ頷く。【索敵】にも船の反応はもう無‥…………?
「いや、まだ何かいるな」
ある一点に鋭い視線を向ける。そこには無数の宙を飛ぶ何かの群があった。
あちらもこちらを狙ってきているのかその群は段々と近づいてきている。しかしそのまま接近を許す彼ではない。
―【屍典混合群アポクリファ】
これまた簡素な一文だった。群体を一つのモノとして認識した場合、このように全体に共通する特徴を表す簡素な文だけが表示されることがほとんどである。
「しかし、屍典ってなんぞ」
首を傾げながらも、浮遊砲台に指令を飛ばして撃ち落とさせる。
『確か吸血鬼側の魔法科学者が作った屍兵のことだ』
「成程な、じゃあもうすぐか」
―大陸にはところどころ、自然に蝕気が発生しているところがある。今からヒビキたちの向かう「光」の終着点である「匣」が封じられた神殿周辺にも、蝕気が発生している領域がある。
大体そういう場所は何かを護るため、近寄らせないため誰かが蝕気を発生させた場合が多い。
……蝕気は生き物に悪影響を及ぼすが、それが発生した経緯は必ずしも悪とは言い切れないのだ。あまり知られていない蝕気のちょっとした裏事情である。
…
―カイの生産した武器防具の刻印強化を終え、居間に戻ってきたヒビキ。
先にいたルキはプレイヤーの立てた掲示板を眺めている。それを横目にアイテムボックスのチェックをしていると、いきなりルキが驚いたような声を上げて立ち上がった。
「どうした、ルキ」
「いやちょっと、これ見てくれよ」
そう言って飛ばしてきた1枚のウィンドウには先ほど緊急で立てられたらしき掲示板が表示されていた。
「大陸北、南、西、東、中央で大規模PK事件発生、住民も巻き込まれている模様…て嘘だろおい」
【ザ・ファイナルリコード・オンライン】内の情報屋ギルドが出どころらしいその情報が本当ならただ事ではない。
「PKギルドが幾つか絡んでるみたいだな。目的は…主に初心者狩りか」
「今後も起きうるのか?」
「さあ?時間的にまだ犯人は発生場所近くにいる可能性大だけれども」
「……エヴァンからか」
軽やかな電子音とともに自動で開かれたウィンドウには、エヴァンからの新着メッセージが表示されている。
書かれているのはその大規模PK事件に絡んでいるPKギルド名や詳しい場所、規模などあらゆる詳細だった。相変わらず妙な交友関係だよなあいつと心の中で呟きながら、目を通す。
「【悪食の贄】、【堕ちた螺旋蛇】…あーっと、後はいいか。
…対処は「匣」の件が片付いた後でいいかな」
明日朝早くには目的地最寄りの圏内村に着くのだ。こちらを優先しておくべきだと判断したヒビキは、取りあえずそれまでの対策としてあるアクセサリを大量に添付し、エヴァン宛にメッセージを添えて送る。
アクセサリはカイが以前に大量に作りすぎて鍛冶倉庫のインベントリに死蔵状態だった「即死ダメージを一度だけ無効化する」ものだ。頭や心臓部など弱点部位を攻撃された時に発生するHP残量無視の即死判定にも反応する、案外優れものである。彼と親交のあるギルドに頼んでもらって配ってもらえば、少々ぐらいは何とかなるだろう。
続けてメッセージをアリスとユリィに送っておく。暇ができ次第最寄りの事件現場に向かってもらうように頼む内容だ。
ヒビキがメッセージを打っている間狼耳をピンと立てて、興味津々と言った様子で覗き込もうとしてくるヴィントをスコールが止めさせていた。
「………………敵には容赦しねぇよ」
つい硬くなる表情を戻し、メッセージを送信し終わるとヒビキはレイヴンとヴィント、スコールに向かって言う。
「目的地近くにいるであろう吸血鬼は恐らくランク4か5の個体ばかりだろうから、一応対策しておくべきだな」
「何するの?」
「状態異常対策だ」
3人は戦闘能力的には十二分すぎる程高い。でも万が一に備えるため、いくつかのアイテムを渡す。
「あ、そっか」
「…その通りだ。【洗脳】やら【魅了】やらをもし喰らえば、厄介なことになるからな」
『精神攻撃は奴らの常套手段だ。……何故か同胞の中でも俺だけ効果が非常に薄かったがな』
「まあ、それは、なぁ……」
…現在、この世界に存在する状態異常の中でも特に厄介なのが精神攻撃だ。回復薬は第3級回復薬以上のものか一定以上の製作評価の専用治療薬でないと効かず、効果時間も結構長い。操られて味方に全力攻撃を仕掛けてしまうことになるため、精神攻撃を主な攻撃手段とするボスモンスターは揃ってプレイヤーに嫌われていた。
しかし精神系状態異常は少々特殊で、耐性が高いほど効きにくいのは当然なのだがもう一つ、「自我が薄い対象ほど効きにくい」という特徴がある。
……つまりはまあ、そういうことだ。
―アイテムボックスから保管しておいたままの翡翠石と風精石を取り出したヒビキが良く通る大声でカイを呼びながら鍛冶房へ向かった後、居間にはルキ・レイヴン&ヴィント・スコールだけが残された。
「何しに行ったんだ?」
「…………恐らく魔導具にするつもりだと思うぞ」
「へ?何で翡翠と風精石で魔導具ができんの?」
『…………』
…【蒼穹】メンバーの得意生産分野は大体このようになっている。
ヒビキが《刻印強化》《魔道具制作》《魔導機械製作》
カイが《鍛冶》《魔法人形制作》
ルキは《建築》《罠制作》
ユリィは《錬金術》《調合》
アリスは《木工細工》《石彫刻》《金属細工》
など。
魔導具はほとんどの職業が装備可能な自由度の高い武器のため、需要は高い。
ヒビキが作れるのはあくまで魔導具にする仕上げ工程なので、材料は他のメンバーの手を借りなくてはならない。だからこそカイの鍛冶工房の方へ行ったのだろうが。
「へー」
「流石と言うべきか」
「あ、戻ってきたよー」
足音が聞こえて数秒後、下への出入り口に薄緑色に輝く半透明の瓶を持ったヒビキが姿を現した。瓶の大きさは丁度この場にいる誰もが片手で持てるほど、かといって小さいともいえないレベルのサイズ。
「よっしゃ後は仕上げだっ」
意気込んでいるようなので声はかけずに作業を見ていると、ヒビキは新たにボックスからハーブらしき草を大量に取り出し、瓶にぎゅうぎゅうに詰め始めた。
魔草から漏れる魔力が風を起こしているのを見るに、ハーブらしき魔草は風属性のものらしい。小瓶にぎゅうぎゅうに魔草を詰め終わると今度はぴっちり小瓶と同じ素材の翡翠の蓋をして、白銀と白金のリボンと飾り用パーツで器用に縛ったり飾ったりする。作業自体はそんなに時間もかからず終わった。
出来上がったのは綺麗にリボンでラッピングよろしく縛られた小さな翡翠の小瓶。よく見れば小瓶の表面に魔法回路によってひとつの複雑精緻な魔法紋章が描かれているのがわかる。
「できたのか?」
「ああ。使うか?」
「武器名は……【翠草の小瓶】、神話級魔導具…こりゃまた結構なものができたな。オレはいいや」
「そうか」
「じゃ俺に使わせてー」
「…使うんならいいが」
興味津々な様子でヴィントがのりだしてくる。それにちょっと引きながらヒビキは今しがた作ったばかりの魔導具を差し出した。ヴィントはその魔道具を受け取り、ボックスにしまう。
『あの鍛冶師は魔法人形も作れるといっていたが、こういうのか?』
スコールが丁度横を通りかかった「人形」を指差して言う。
「まあな。命令しなきゃ動かねぇやつか、ただただ単調なアルゴリズムで動くやつかだな」
といっても、今のところかなり数の少ないレア職業【人形造作師】の作る人形は結構需要がある。カイの作った戦闘用のものならエンダードラゴン族・エルダードラゴン族とも余裕で殴り合える。
一応言っておくが前にヒビキが会った【魔法人形族】のライアは【人形造作師】の作る人形とは別物だ。
…【魔法人形族】や【魔導機人族】は古代にあった国が作った代物が起源とされているため、今の時代それらを再現することは至難の業と言われている。
そのあたりをスコールと双子に説明している間、ルキはルキでパーツを取り出して何か建物の模型らしきものを作っていた。ヒビキは横目でそれを見たが詮索はせず、視線を前に戻した。
…基地は今日も空を行く。明日にはもう到着するだろう。
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