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7章「叡智神の匣と天狼族」
北西の寒村
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―もうそろそろ「匣」の最寄り村に着く。圏内村と呼ばれるシステムに保護されたその寒域にある村の名はルミノ村と言う。主街区ほどではないが、冒険者の拠点とするには十分な機能を備えている。
「匣」があるのはその村から数キメルほど離れた山岳タイプのダンジョン【融雪の紅珠殿】の中らしい。このあたりはかなり前、ステータスカンストする以前に数回程訪れたことがある程度であり、記憶自体が相当怪しい上転移可能範囲に入った時にはもう夕暮れ時だった。故にこの村で一晩泊まって明日朝一に出発する。
その目標地点付近には見張り役として幾つかの魔道具を放ってある。
宿屋でチェックインを済ませて鍵を2つ受け取り、片方はルキに投げ渡す。危なげもなく右手で受け取ったルキは即座にアイテムボックスにしまいこんだ。
「さて、夕食ついでに消耗品の買い足しでもするか」
「ですね」
「だよー」
非常にのほほんとした雰囲気漂う様子で近くにあった店で夕食を済ませ、武具屋や装飾屋、アイテム屋を見て回る。ある程度消耗品を買い足してから、宿屋に戻る。
4人パーティ用の部屋を2つ、3人ずつで使う。先ほどヒビキがルキに渡した部屋の鍵には105、ヒビキが持つ鍵には104と書いてある。無論部屋番号だ。
それぞれ部屋に分かれ、カイは早速部屋の隅に備え付けられた小さな鍛冶場に携帯炉や鍛冶道具を広げて何か打ち始めた。スコールは自身の持つ双剣の手入れを始めている。ヒビキもメインウェポンの【風華】の手入れを始めた。
これまで数多の存在を斬り屠ってきた双刀の刃の銀の輝きは微塵も掠れていない。が、やはり武器である以上手入れは必要だ。布を動かす手元に黙りこくったまま集中する。
―日が完全に沈んで暫く経った頃には、武器の手入れを終えベッドにもたれかかって眠りに入ったらしいスコールと鍛冶場の壁に寄りかかってすっかり夢の世界に旅立っているカイ、部屋の電気を消して、小さなソファにもたれかかり眠るヒビキの姿があった。
辺りはすっかり暗くなり、静寂に満ちている。村の間をすり抜ける風の音とそれに揺れる梢の音以外は、何も辺りに動くものは見当たらない。夜行性のモンスター以外の生き物たちも、すっかり眠りについていた。
そんな中、何かに追われているのか息を切らしながらも全速力で走る青年と少女、植物でできた竜を引き連れてその2人を追う魔女の装いをした女の姿が夜闇に紛れ、ルミノ村に近づきつつあった。
青年は少女を護るために行動しているのか、もう満身創痍といった様子の青年を少女が必死に治癒している。植物の竜は触手の様に体を構成する樹の根を伸ばし、青年の方を狙って攻撃を容赦なしに加えるため治癒魔法が追い付いていない。
「――、あそこに村があるわ、助けを求めましょう!」
「…………あいつを引っ張ったまま、無関係な者たちを巻き込むことはできません。何とか迂回します」
とはいうものの、実際問題受けた傷が多すぎて意識を保つことすらもうギリギリだ。
「無茶だよ、もう私の魔力も尽きかけてる。このままじゃ…!」
…その様子を、村にある樹の梢にとまる一体の闇属性のフクロウの姿をした精霊が見ていた。昼間、ヒビキに吸血鬼どもを見張る斥候役を頼まれたうちの一体である。
フクロウは自身の見たものをヒビキに伝えるべく、音も無く羽を広げた。
――ぺちぺちと頬を叩かれる感触を覚え、ヒビキは目を覚ました。
瞼を開けると、昼間斥候役になってもらった精霊のうちの一体がいる。フクロウ姿のその精霊は焦ったようにせわしなく羽を羽ばたかせておりホウホウと慌てた様子で鳴き、ヒビキを急かしてくる。
「何があった?」
問うと、先ほどフクロウが見た光景の映像が目の前で投影された。
「……………これは行くべきだろうな」
寝ているカイとスコールを起こさないよう、ヒビキは宿屋の外に出て現場に向かう。
―風を呼び、空からその植物の竜を見下ろす。使役している女をよく見ると吸血鬼の特徴を持っており、【解析】の結果かなり高位の吸血鬼だと分かった。
「(風じゃ余波を抑え込めねぇし、闇だと即効力がねぇ。どうしたモンか…)」
頭を悩ませていると、不意にウィンドウが開いた。
―闇属性精霊との親和性が一定以上に高まりました。加えて解放条件【闇夜血命】【月霊使徒】【■■宣言】【■■許可】がクリアされましたので、特殊スキル【精霊招来】の闇属性の上位属性【深淵属性】が解放されました。有効化しますか?
YES/NO
「……………?何だ…………?」
とにかく直感に従って「YES」。すると新しく鳥型系の、濃い紫色基調の精霊が現れた。その黒い目を一瞥し、あの樹の竜を消してくれ、とだけ伝える。
すると、彼らは闇より濃く黒い、「そこだけ空間が切り取られたような」ブラックホールに似た弾を幾つも撃つ。
弾は音も無く着弾すると、まさにブラックホールよろしく竜の体を構成する樹の根を吸い込み、喰らっていく。空恐ろしさすら感じる程その喰らう速度は速く、竜は悲鳴を上げる間すらなくその黒い闇に食らい尽された。後には何も残らない。
しかもその黒い闇‐深淵はそれだけでは飽き足らず、まだ己の使役獣が喰らわれたことに気づいていない吸血鬼の女にまるで意思を持つように動き、瞬く間に喰らい尽した。
地面に降りると、呆気にとられた様子の少女と目が合った。
「…………貴方、何者………?」
「ただの冒険者兼傭兵だ。大丈夫……ではないようだな」
女吸血鬼と植物竜がいなくなったからか、もう立つのが精いっぱいといった体の青年が糸の切れた操り人形の様に地面に頽れ、倒れた。慌てて魔法を使おうとする少女を制止し、万能薬を取り出す。
「これで取りあえず傷は治せる。お前もそれ飲んどけ。それ以上魔法を使おうとしたら魔力欠乏症でぶっ倒れるぞ」
限界を超えて魔力を使い続けた場合に起きるのが魔力欠乏症である。プレイヤーは問題ないのだが、NPCには起きうる病気だ。とはいっても魔力回復薬を飲んで暫く休んでいれば自然に治る。
傾けられた小瓶から零れ出た黄金色の液体は光の粒となって、青年の体を癒していく。一分も経たぬうちに、HP的には全快した。
少女が万能薬を飲んだのを確認して、話を聞こうと口火を切る。
「何で追われてたか、よければ教えてくれないか?」
「…………」
長い沈黙の後、少女が話し出した。
「私は彼に助けてもらったんです。自分の眼を吸血鬼どもに狙われているのに、私という足手まといを連れてここまで逃げてきたんです」
「………眼、だと?」
「吸血鬼どもは神々に近づくため、今は各地に散らばっている神の力を宿す品々【神器】を集めているらしいのです。【神器】のほとんどは物品ですが、彼の眼もまた【神器】と呼ばれる神の力を宿すモノの一つでした。それも特に強力な、【暗月神】の力を宿す通称「黄昏の神眼」という眼です。それを狙われたのです」
「……………【暗月神】だと?」
前、スコールに聞いた話曰く大昔の神々と蝕魔神の大戦争でほとんどの神が死に、残った神々も力を失った。で残った神様の中で一番強い力を持っているのが【暗月神】だそうだ。ここでも名を聞くとは。
…また並々ならぬ事態が水面下で動こうとしていた。ヒビキは少女にもっと話を聞くべく、青年を背負って泊まっている宿屋へ向かう。
「匣」があるのはその村から数キメルほど離れた山岳タイプのダンジョン【融雪の紅珠殿】の中らしい。このあたりはかなり前、ステータスカンストする以前に数回程訪れたことがある程度であり、記憶自体が相当怪しい上転移可能範囲に入った時にはもう夕暮れ時だった。故にこの村で一晩泊まって明日朝一に出発する。
その目標地点付近には見張り役として幾つかの魔道具を放ってある。
宿屋でチェックインを済ませて鍵を2つ受け取り、片方はルキに投げ渡す。危なげもなく右手で受け取ったルキは即座にアイテムボックスにしまいこんだ。
「さて、夕食ついでに消耗品の買い足しでもするか」
「ですね」
「だよー」
非常にのほほんとした雰囲気漂う様子で近くにあった店で夕食を済ませ、武具屋や装飾屋、アイテム屋を見て回る。ある程度消耗品を買い足してから、宿屋に戻る。
4人パーティ用の部屋を2つ、3人ずつで使う。先ほどヒビキがルキに渡した部屋の鍵には105、ヒビキが持つ鍵には104と書いてある。無論部屋番号だ。
それぞれ部屋に分かれ、カイは早速部屋の隅に備え付けられた小さな鍛冶場に携帯炉や鍛冶道具を広げて何か打ち始めた。スコールは自身の持つ双剣の手入れを始めている。ヒビキもメインウェポンの【風華】の手入れを始めた。
これまで数多の存在を斬り屠ってきた双刀の刃の銀の輝きは微塵も掠れていない。が、やはり武器である以上手入れは必要だ。布を動かす手元に黙りこくったまま集中する。
―日が完全に沈んで暫く経った頃には、武器の手入れを終えベッドにもたれかかって眠りに入ったらしいスコールと鍛冶場の壁に寄りかかってすっかり夢の世界に旅立っているカイ、部屋の電気を消して、小さなソファにもたれかかり眠るヒビキの姿があった。
辺りはすっかり暗くなり、静寂に満ちている。村の間をすり抜ける風の音とそれに揺れる梢の音以外は、何も辺りに動くものは見当たらない。夜行性のモンスター以外の生き物たちも、すっかり眠りについていた。
そんな中、何かに追われているのか息を切らしながらも全速力で走る青年と少女、植物でできた竜を引き連れてその2人を追う魔女の装いをした女の姿が夜闇に紛れ、ルミノ村に近づきつつあった。
青年は少女を護るために行動しているのか、もう満身創痍といった様子の青年を少女が必死に治癒している。植物の竜は触手の様に体を構成する樹の根を伸ばし、青年の方を狙って攻撃を容赦なしに加えるため治癒魔法が追い付いていない。
「――、あそこに村があるわ、助けを求めましょう!」
「…………あいつを引っ張ったまま、無関係な者たちを巻き込むことはできません。何とか迂回します」
とはいうものの、実際問題受けた傷が多すぎて意識を保つことすらもうギリギリだ。
「無茶だよ、もう私の魔力も尽きかけてる。このままじゃ…!」
…その様子を、村にある樹の梢にとまる一体の闇属性のフクロウの姿をした精霊が見ていた。昼間、ヒビキに吸血鬼どもを見張る斥候役を頼まれたうちの一体である。
フクロウは自身の見たものをヒビキに伝えるべく、音も無く羽を広げた。
――ぺちぺちと頬を叩かれる感触を覚え、ヒビキは目を覚ました。
瞼を開けると、昼間斥候役になってもらった精霊のうちの一体がいる。フクロウ姿のその精霊は焦ったようにせわしなく羽を羽ばたかせておりホウホウと慌てた様子で鳴き、ヒビキを急かしてくる。
「何があった?」
問うと、先ほどフクロウが見た光景の映像が目の前で投影された。
「……………これは行くべきだろうな」
寝ているカイとスコールを起こさないよう、ヒビキは宿屋の外に出て現場に向かう。
―風を呼び、空からその植物の竜を見下ろす。使役している女をよく見ると吸血鬼の特徴を持っており、【解析】の結果かなり高位の吸血鬼だと分かった。
「(風じゃ余波を抑え込めねぇし、闇だと即効力がねぇ。どうしたモンか…)」
頭を悩ませていると、不意にウィンドウが開いた。
―闇属性精霊との親和性が一定以上に高まりました。加えて解放条件【闇夜血命】【月霊使徒】【■■宣言】【■■許可】がクリアされましたので、特殊スキル【精霊招来】の闇属性の上位属性【深淵属性】が解放されました。有効化しますか?
YES/NO
「……………?何だ…………?」
とにかく直感に従って「YES」。すると新しく鳥型系の、濃い紫色基調の精霊が現れた。その黒い目を一瞥し、あの樹の竜を消してくれ、とだけ伝える。
すると、彼らは闇より濃く黒い、「そこだけ空間が切り取られたような」ブラックホールに似た弾を幾つも撃つ。
弾は音も無く着弾すると、まさにブラックホールよろしく竜の体を構成する樹の根を吸い込み、喰らっていく。空恐ろしさすら感じる程その喰らう速度は速く、竜は悲鳴を上げる間すらなくその黒い闇に食らい尽された。後には何も残らない。
しかもその黒い闇‐深淵はそれだけでは飽き足らず、まだ己の使役獣が喰らわれたことに気づいていない吸血鬼の女にまるで意思を持つように動き、瞬く間に喰らい尽した。
地面に降りると、呆気にとられた様子の少女と目が合った。
「…………貴方、何者………?」
「ただの冒険者兼傭兵だ。大丈夫……ではないようだな」
女吸血鬼と植物竜がいなくなったからか、もう立つのが精いっぱいといった体の青年が糸の切れた操り人形の様に地面に頽れ、倒れた。慌てて魔法を使おうとする少女を制止し、万能薬を取り出す。
「これで取りあえず傷は治せる。お前もそれ飲んどけ。それ以上魔法を使おうとしたら魔力欠乏症でぶっ倒れるぞ」
限界を超えて魔力を使い続けた場合に起きるのが魔力欠乏症である。プレイヤーは問題ないのだが、NPCには起きうる病気だ。とはいっても魔力回復薬を飲んで暫く休んでいれば自然に治る。
傾けられた小瓶から零れ出た黄金色の液体は光の粒となって、青年の体を癒していく。一分も経たぬうちに、HP的には全快した。
少女が万能薬を飲んだのを確認して、話を聞こうと口火を切る。
「何で追われてたか、よければ教えてくれないか?」
「…………」
長い沈黙の後、少女が話し出した。
「私は彼に助けてもらったんです。自分の眼を吸血鬼どもに狙われているのに、私という足手まといを連れてここまで逃げてきたんです」
「………眼、だと?」
「吸血鬼どもは神々に近づくため、今は各地に散らばっている神の力を宿す品々【神器】を集めているらしいのです。【神器】のほとんどは物品ですが、彼の眼もまた【神器】と呼ばれる神の力を宿すモノの一つでした。それも特に強力な、【暗月神】の力を宿す通称「黄昏の神眼」という眼です。それを狙われたのです」
「……………【暗月神】だと?」
前、スコールに聞いた話曰く大昔の神々と蝕魔神の大戦争でほとんどの神が死に、残った神々も力を失った。で残った神様の中で一番強い力を持っているのが【暗月神】だそうだ。ここでも名を聞くとは。
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