最強者のVRMMO活動記 ~トラブルに愛されるとあるプレイヤーのトラブルシューティング記~

火の無い灰

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9章「開かれた外交、狂気の戦場」

蝕気氾濫を鎮圧せよ!

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―そこそこ長い話だったが、今残っている古文書より詳しい話を聞けた。

『魔導機人は他には造られなかったのか?』
「今活動状態にある、あなた含めた5人以外にも未起動状態の魔導機人は数人います。しかし伝説となるまでに名を挙げたのは5人だけです」
「…………」

その時、慌てた様子の一人の海民族ウェンティの若い男性が駆け込むようにして入ってきた。

「た、大変ですシフィさん、ルルイエの蝕気がまた活発化して、モンスターが溢れかけているみたいです!」
「……なんですって?前の蝕気氾濫から半月ぐらいしか経っていないのに…」
「………蝕気氾濫って何だ…?」
「…ああ、ルルイエから溢れる蝕気が活発化して、冒されたモンスターたちが大量発生する現象のことです。このまま放っておくと街が危ない…!」
「何か手伝えることはないか?」
「ルルイエから溢れてくるモンスターを倒してもらえると嬉しい。その間に私含めた数人が沈静化の魔法を発動して、抑え込むわ。行くならこれを持って行って」

そういって渡されたのは、星模様の浮かぶ水色の石が嵌め込まれた腕輪。

「水による呼吸阻害と抵抗を無くす魔導具よ」
「ありがとう、終わったら無論返す。行こうぜスコール」
『了解』

外に出て周りを見回すと。濃紫の蝕気が湧き出る、明らかにおかしい一帯があった。あそこが間違いなくルルイエだろう。迷いなく走り、シャボン玉の外に出る。街を覆うシャボン玉の外は当然海水だが、腕輪のおかげか【潜水ダイブ】スキルも水着も使っていないのに活動に不自由は感じない。

「この魔導具すげぇな」
『そうだな。間違いなく他種族用のものだろうが、前にもこんなことあったのか…』



ルルイエの周辺は、蝕気に侵されたモンスターが蠢いていた。
とりあえず種類を見極めるため岩陰から【解析アナリシス】で見てみると、今まで遭遇してきたモンスターとはかなり異質だった。

―【沈黙の谷の外征騎士・半蝕魔ハーフデーモン Lv601 狂獣族】
―【冒涜の都の司祭・半蝕魔ハーフデーモン   Lv593 不死族】
―【冒涜の都の指狩り・半蝕魔ハーフデーモン  Lv595 不死族】

とにかく人型。見た限りほとんどがぱっと見人型モンスターである。そして悉く蝕気に侵されて半ば蝕魔になりかけている状態だ。

「……よし、行くか…とその前に挨拶代わりに弓使うか」

ヒビキはアイテムボックスから超遺物級オーパーツクラス覇弓カテゴリの大弓【隼の魔眼弓】を取り出す。瞬時に雷精石が使われた矢を番え、適当な相手を標的に撃った。

真っ直ぐ放射状に飛ぶ矢は3本。【隼の魔眼弓】は矢に追尾属性を持たせ、しかも1本の矢で3本分の攻撃力が得られるとても便利で有用な弓なのだ。上位プレイヤーの大弓使いに人気の武器である。

着弾した点からバリバリバリバリィ!!と雷のスパークが派手に散る。金属鎧を纏っていた近くの外征騎士はもろに影響を受け《気絶スタン》し、指狩りや司祭も《行動遅延ディレイ》に追い込まれる。

「さぁ、行くか!」
『よし』

その隙に双刀を抜き放ったヒビキと、血晶の自動剣を数本展開し自らは双魔剣を携えるスコールが動く。


蝕気に邪魔されて見えにくいが鎧の隙間に刀を滑り込ませ、銀の刃は容赦なく騎士の四肢を断ち切る。スコールの展開した自動剣に至っては、そんなこと関係ないと言わんばかりに少しでも装甲の薄い箇所を狙って連撃を叩き込む。

相手もなかなかの強さだった。
物理攻撃と防御、近接戦に長けた外征騎士。
身軽ですばしこい、主に短剣などの暗器を装備した指狩り。
そしてそれらに支援効果バフや回復を行う司祭。
他にも魔法職もおり、全体的に見てバランスのいい構成になっていた。
………………軍隊か何かのような…?

とにかくバッタバッタと手あたり次第にモンスターを切り倒していたわけだが、周囲で戦闘中だった兵士のうちの一人(もちろん海民族ウェンティ)が驚愕の色を交えた大声を上げた。

「なんだこいつ!?獣が鎧着て歩いてたっていうのか!?」

その声につられて視線を向けると、兵士の向かいにいた、今の今まで二足歩行をしていたはずの外征騎士が四つん這いになり、獣のような唸り声を発していた。

「獣…狂獣族ってそういうことかよ」

ヒビキは憮然とした表情になる。勿論外征騎士も元は人間だったのだろうが、何らかの要因でこうなったのか。文字の通り狂った獣。正体を現すトリガーは十中八九HPの減り具合だろう。

まあ外征騎士の変貌に驚いていた兵士もすぐに立ち直り、獣の正体を現した外征騎士をまもなく屠った。流石禁忌都市の傍にある街だけあって、兵士の練度も高いらしい。
そんなことをつらつら考えながらも目の前の敵を切り倒していると、頭の中に声が響いた。占い師の女性の声だ。

「もうすぐ蝕気沈静化の魔法の準備が整います!もう少し持ちこたえてください!」

それに応じるように、騎士たち、兵士たちも気勢をあげた。

『意外と早いな』
「対処に慣れてるんじゃねーの。口ぶりから察するに何回もこういうことはあったみたいだからな」
『……だろうな。じゃあ最後までやりきるか』

それぞれ視線を眼前の敵に戻し、戦いに戻る。

かれこれそれから十数分。ルルイエから一つの背の高い黒い影が蝕気の奥より現れた。
眼前の司祭を切り捨てた後、ヒビキはつられてそちらに目を向ける。そしてその人影の正体を認識した瞬間、原因不明の荒々しい感情が心の奥から湧き上がるのを自覚した。

―【冒涜の王??? Lv900? 上位不死族???】

よくよく見てみれば月神の悪夢で遭遇したものと姿形は違う。しかし感じる気配は弱いものの同じだ。

背中合わせで自分の裏側にいる、顔が黒く塗りつぶされて見えない誰か。真冬の深海の如く冷たく深い憎悪が澱のように溜まっている。

…心の底から湧き上がるその誰かが持つ原因不明の感情は際限なく強まり、やがて荒波の如く荒れ狂い始める。意識が暗い色に塗りつぶされ、思考が徐々に呑まれ、冷えていく。

頼むから、暴れすぎるなよ?と裏側の誰かに捨て台詞のように念じて、理性は意識の制御を手放した。


***


――――手近な場所にいた獣化した外征騎士を踏み砕き、一直線に冒涜の王へ切りかかる。が、双魔剣を携えた王に剣で防がれた。ギィィィィイインー…!と甲高い金属音が空気を震わせる。

王の双魔剣からはそれぞれ炎と紫電が噴き出し、それに蝕気が加わってより厄介さが増している。一方【風華シルフィステア】の刀身は蝕気より暗い闇を伴う鋭い風を纏っている。

まさに幽霊のような立ち姿の冒涜の王。ぼろぼろの黒フードの奥に瞳の如く輝く暗い炎がヒビキ?を射抜く。

その炎を真っ向から見返すのは、。その瞳の奥には憎悪の黒い炎が激しく燃えている。

「…………よくもあの時、を喰ってくれたな。何度蘇ろうが貴様だけは許さない」

虚ろな光を放つ蝶と、血でできた紅い蝶が付き従うようにあたりをひらひらと美しく舞う。異変に気付いたスコールと海民族の騎士たち、兵士たちが唖然としたように視線を向けてきているが、あまりに精神構造が似通いすぎて波長ががっちり一致したヒビキもとい裏人格として宿った暗月神様はそれを無視して目の前の冒涜の王のみを見据えている。

―――深淵・血属性魔法スキル【昏き血の剣翼】。

倒された外征騎士や指狩り、司祭の血が凝集されてできた剣翼が背に現れ、同時に血でできた従者(剣や斧槍、杖などを装備している)が無数に現れる。同時にスキル【覇軍統制】が発動し、無数の血の従者たちは完璧に統制下に置かれた。

「かかるぞ」

言い放たれたのは一言。それで血の従者たちは皆一斉に動き始めた。一部は占い師の女性たちの護衛に、一部は残るモンスターの掃討に、残る一部は暗月神と共に冒涜の王へ武器の矛先を向けた。

「我らも続けー!お客人にばかり功を取られていては、海民族ウェンティの名折れぞ!」

我に返った騎士の一人が叫びをあげ、周囲のモンスターを倒しにかかる。どうやらその声には騎士系や戦士系の職業固有スキルの一つである【戦場の歌ウォークライ】が乗せられていたようで、周囲の騎士たち・兵士たち、スコールや疑似生命たる血の従者たちにまでバフの効果が及んでいた。呼応するように気勢をあげ、殲滅に動く。スコールも殲滅を再開した。

「それに、蝕気の沈静化に長けた者たちの魔法がもうすぐ完成するぞ?いいのか貴様自身が出張ってきても」

変わらず鍔迫り合いを続けながら、冷静さを保ったまま言う。変わらず冒涜の王は何も言わないが、ぼろフードの奥の眼窩に燃える暗い炎がちらとルルイエの方に向けられる。するとふと双魔剣を外し、退こうとする意志が見えた。
追おうとする血の従者を「いい。どうせ奴は殺してもそのうち蘇るからな」と制止し、蝕気沈静化の魔法が発動したのを見て剣翼を解除した。

ルルイエに蔓延していた蝕気がすっかりおとなしくなると同時に、蝕気で生み出されていた人型モンスターたちも魔素の塵となって消え去った。
それを見た騎士と兵士の人たちは歓声をあげる。なんせ今回はいつも数人の犠牲が出てしまうところを犠牲者なしで乗り切れたのだから、無理もないだろう。その中、スコールはやや躊躇いつつも話しかける。

『……………あーっと、大丈夫、なのか?』
「…………………ああ、大丈夫。行こうか」
『…本当にヒビキなのか……?』
「それは後で説明する」

まだ説明義務を果たしていないからなのか意識の主導権を戻す気配のない暗月神が身を翻す。若干慌ててその後をスコールがついていきアカシアの街へ戻る。
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