最強者のVRMMO活動記 ~トラブルに愛されるとあるプレイヤーのトラブルシューティング記~

火の無い灰

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9章「開かれた外交、狂気の戦場」

翌日9の刻より、”水の神獣”探索

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―――宿屋に泊まり、朝7の刻にチェックアウトした。
宿屋から出ると、なかなかに大通りは賑わっている。勿論道行く人は9割9分海民族ウェンティだが、極稀に獣人族ミグミィから派生する種族、魚人族や人魚族が混じっている。どちらにしろ海にて大きなアドバンテージを得る種族であり、そんな中に普通海では活動が制限される種族が混じっていれば当然目立つ。やはり好奇の視線を集めることになった。

集まる視線を努めてスルーし、まだ少し時間があるので鍛冶屋らしき槌の看板を掲げる店に向かう。

「いらっしゃい」

店の中に入ると、カウンターにいた若い海民族の男性がこちらに向き直った。

「こちらの武器の修繕を頼みたい。できれば8の刻までに済ませて貰えると嬉しいのだが」

そういってヒビキが差し出したのはスコールが使う闇と炎の双魔剣【ダークブレッドチェイサー】と、自分のサブウェポンの一つである【ミルウッドの大弓】。
特に【ダークブレッドチェイサー】は今までよく持っていたなと言えるほどに損耗しており、損耗による武器威力低下のぎりぎりのラインで耐久値が踏みとどまっていた。

「えーと……………こちら2点のみで?」
「はい」
「承りました。少々お待ちを」

カウンターの上に置かれた武器を回収した男性は奥の方へと消える。「師匠ー!修繕依頼ですよ、試作品製作に没頭しすぎないでくださいって何度言ったら分かってくれるんですかー!!」と大声を張り上げている。これはまた自由人な師匠についた苦労人の弟子の匂いがする。

奥から女性らしきその師匠の声と先ほどの弟子の声が派手に聞こえてくる。

「依頼ぃ?ちょっと見せてみな!……………こりゃあレアな武器を持ってこられたわね、腕が鳴るわー」
「師匠!暴走しないでくださいよ!あくまで修繕ですからね!!」
「わかってるわよ。あんた、この武器を持ってた人はどんな人たちよ?…………へぇ、あの魔導機人カーディナルと血晶精霊の咎人ねぇ。なら納得だわ。ま、任されたからにはやるわよ」
「ならいいんですがね。暴走はしないでくださいよ!!」

「騒がしいこった」
『それだけ師弟仲がいいということなんだろう」

すると、奥から先ほどの男性が戻ってきた。

「はあ………すいません本当。では少し店内の陳列棚でも見て待っててください」

陳列された武具はどれも海底原産らしき金属でできた、洗練されたデザインの独特なフォルムを持つものばかり。これもこれで興味深い。カイを連れてくれば軽く数時間は入り浸るだろう。

頼んだ通りの8の刻の少し前に、修繕はできた。スコールの双魔剣の傷みが予想以上だったらしく、合計で5千ルーを払って鍛冶屋を去る。

もうやることも無いので9の刻まで王城の通用門前で待っておくことにした。



そのまま雑談を交えて待っていると、9の刻の少し前に女王様が現れた。

「申し訳ない、待ったか?」
「いや、俺たちはやることも無かったんで早めに来ただけだから、大丈夫です」
硬い敬語口調で話していたら「私には敬語はいらんぞ?」と言われたのである程度口調が素に戻っている。
「では早速行こうか。ここから少し遠いから、転移を使うぞ」
「了解」

…転移の結晶石で転移した先は、すぐ傍に半ばまで埋もれたからくりの巨大象、スコール曰く”水の神獣”があった。映像で見た通り”起動していない機械”の印象を受ける沈黙ぶりである。ここまで大きくなければ、そして女王様が強い水の魔力と濃い蝕気を感知していなければただの遺物として処置されそうでもある。

「あそこが入り口だ」

バルコニーっぽい入り口があった。その入り口からはぱっと見でもわかるほど濃い蝕気が漏れ出している。

「うわ蝕気濃すぎんだろ……」

まるでヘドロのようなそれを見て若干精神的に引くが、胸にかけた竜眼晶のペンダントは遺憾なく能力を発揮してくれた。白い光が放たれ、蝕気が根こそぎ浄化されていく。その光景にちょっと安堵したのは秘密。


中は蝕気の所為で淀んでいるが、確かに強い水の魔力がそれに交じって感じられる。

「スコール、何か他に知ってることってあったりするか?」
『…………たしか5つの制御端末、1つのメイン制御装置が備わっていた。ただ、起動させることができるのは搭乗者として登録された者か、古代人族のある遺物を持っている者ぐらいだったな。記憶している限りでは』
「へぇ」

ちなみにスコールの音声チャットはこの場ではヒビキにしか聞こえていない。不思議そうな顔をする女王様にスコールから聞いたことを伝える。

「……そういえば……昨日は忘れていたが、そんな記述が古文書にあったような。海民族の中で今も英傑として奉られているミア様が蝕魔神を打ち倒すため乗っていたのが、これだったとか」
(蝕魔神……?ああ、エクスマキナのあった頃よりかなり後の話か。定期的に復活するからな…)
「とりあえず、探索するか」

中の所々で清水が溜まっていたり噴き出していたり、それによって水車みたいなものが回っていたり。非常に内部は立体的だ。やはり蝕気は至る所に蔓延っており、蝕気浄化能力を持たない女王様とスコールを離れて行動させるわけにはいかない。

まず清水の溜まっていた場所の壁のハンドルを回すと、横で噴き出していた高圧の水が止まり灰色の石碑じみたものが現れた。形は正六角柱に近い。これが制御端末らしいが、動かし方はわからない。
根元には涙を流す眼を模した紋章が刻まれたICリーダーじみた丸い台が備えられている。ただ起動していないみたいで、紋章も石碑部分も完全に沈黙状態だ。

「…見つけたはいいが、どう起動させりゃあいいんだ?」

ヒビキの言は、他二人の内心も代弁していた。来たのはいいが、このあたりの手は全く打ちようがなかったのだ。暫く頭を悩ませていると、唐突にヒビキは自分の身体に異変を感じた。

「(……またか。別にいいけど、やりすぎないようにしてくれよ?)」

ヒビキ自身は暴走するよりこの方が結果的に良かったとも思っているので、特に抵抗しない。まあよく意識を失うのも問題かなとは思っているけども。
どんどん冷えていく。悪寒を感じるまでに冷えは強まり、ふっと意識が遠くなった。

***

――――ヒビキは不意に制御端末の根元の台座にがくりと倒れこむ。スコールは「またか」みたいな顔をしているが、女王様は驚いたようだった。

「……どうした!?」

すると何かのはずみか、ブオォォンと音が鳴り制御端末が青い光を放ち始めた。起動されたのだ。

「…………いや、こちらもそちらに迷惑はかけていると自覚はしているが…とかく、解決方法がこれしか浮かばぬというのも問題だな。これは古代の存在であれば結構誰にでも起動はできるのだが」

ぼそりと呟く。その瞳が紫に輝いていることから、暗月神が表に出てきたようだ。

「…………どういうことなのだ?というか、先ほどと明らかに纏う雰囲気も魔力も違うのだが、どういうことだ?」

女王様は只今絶賛混乱中らしい。まあ仕方ない。起動方法の分からなかった端末を起動させ、しかも醸し出す雰囲気が”行動的で荒々しい”から”物静かで厳格な”に様変わりすればそれは驚くだろう。

「………………………………ああ、そういうことか…教会の者たちがやけに狂喜していたなとは思ったが、まさかこんな形で降臨を果たすとはな……」

暫くたって、そんなことを呟く女王様。先ほど自分が言ったセリフの後半部分は自己完結したらしい。

「…あの忌々しい王に魂ごと半身喰われたからこそ、こんなことになったのだが。まあ私も天界に行くより地上と冥府の方が居心地がいいから、降臨の制限から解放された今の状態は正直ありがたい」
「……色々大変なのだな。この調子でいけば、目的も達せられるだろう。非常に申し訳ないが、このまま行こうか」
「構わないぞ」

他はそのまま、近くにあったギミックを動かしたりですんなり起動できた。ああ、一つだけ象の鼻の先端にある小さな足場にぽつーんとあったのを見た時は、流石にふざけんなと言いたくもなったが。

「あとは後ろの上の方にあるメイン制御装置の起動だな」
「……ここまでとんとん拍子で来すぎていて、正直怖いのだが」
『無理もないな』

象の背中の上、平らになった広い場所のど真ん中にまるでデコボコした大きめの玉ねぎをいくつかより合わせたかのような形をしたメイン制御装置は鎮座していた。その周りには下への穴が4つ前後左右に開いている。
しかし暗月神は近寄らない。

『…どうした?』
「しっ………下がれ、来るぞ」
「…これは………蝕魔か!」

女王様の言は正しかった。不意に周囲から湧き出した蝕気がシュウゥウウゥウ……と音を立てて凝集し、槍を持った一体の巨大な二本腕の異形に変化した。

―【水のカーススピリタ・蝕魔 Lv879 二重の影族ドッペルゲンガー

「こいつさえ倒せば、目的は達成だ。私も行くぞ!」

女王様は体格に不釣り合いなほどの特大剣を構え、突進していく。よく見れば持っている特大剣は神話級ミソロジークラス砕刃カテゴリの【水鳴の残滅剣】である。氷と水属性に親和性が高く、特大剣の中ではあまり重くないので取り回しがききやすいことで有名だ。

「じゃ、私たちも行くか」
『そうだな』

両腰の刀をすらりと抜き放つ。その刀は、普段纏っている鋭い風もなのだが刀身自体が明るい紫色に発光していた。何らかの付与術エンチャントなのだろうが、今現在プレイヤーが使える付与術エンチャント系スキルにそのようなものはない。そのまま斬りかかる。スコールも血晶の自動剣を展開し、自らも修繕してもらったばかりの双魔剣を構え前に出た。

簡単に言うが、戦い自体はそんなに苦労しなかった。暗月神の刀術も恐ろしいほどに器用で上手く、スコールの連撃と連携してスピリタの持つ槍を剣戟に巻き込み、高く弾き飛ばしたところに女王様が氷属性の魔法を乗せた特大の一撃を叩き込んだ。威力と重さの高さが売りな特大剣なだけあり、威力は半端なく高い。容赦なく定形を持たないスピリタを縦にぶった切った。問答無用で即死。恐ろしいものである。


蝕魔を倒した後、暗月神が問題なくメイン制御装置を起動させる。するとちょっとばかり予想外のことが起きた。
宙に薄らと霊体が現れる。上位海民族ハイウェンティの若い女性で、右手に白銀の洗練された美しい長槍を握っている。

「……………………ミア様!?なぜここに!?」

女王様が一番驚愕した声を上げる。

「………………………………」

霊体は何も言わない。ただ微笑んだだけ。しかし女王様は何らかのメッセージを受け取ったのか、最大限の尊敬の念と礼を示していた。
それで霊体は暗月神の方にも向き直ると、一礼して消えていった。

その後自動的に”水の神獣”の近くへと飛ばされ、女王様の「神獣の制御は任せてほしい。種族を守るためならできる限り戦おうとおっしゃっていた」との言で今回の探索が終わったことを察する。


******
刀使いに必要なのは筋力より器用さ。

魔術師も器用さが高いほど詠唱が速くなるので、刀を振るう技術さえあれば十分使えます。
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