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9章「開かれた外交、狂気の戦場」
闇との接触と、次なる開放。そして、巨人墓場再び
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―――あの後ヒビキの意思が戻り、そして次の日。
…
――――不意に脳がぐらつき、激しい眩暈と痛みを覚える。
周りは何もない、ただただ漆黒の真っ暗闇。真の死へと繋がる、真の深淵。
また眩暈がする。頭がガンガン痛みを訴えてくる。意識を保つので一苦労だ。
―――いや、無理矢理呼んですまないな。陰の太陽神よ。話があってな、《血に酔った狩人の瞳》にこちらからパスを繋いで貴公が宿っていた身体ごと呼ばせて頂いた。
目の先に、巨大な蛇の姿がある。一対の世界蛇の片割れ、不死を唆す闇霊の統率者。
「何の話だ?」
瞬きした直後、すり替わるように色が変わった紫の瞳が冷たく輝く。
―――主に銀羽の天使族の対処だな。あと火の封の不死人についてだ。
「ああ…あの傲慢と強欲が過ぎた者どもか。長きにわたって罪なき人々の命を悪趣味な賭け事や娯楽の玩具として遊んできた罪は重い。冥府では間違いなく最低数千年はタルタロス行きだな。
…………話が逸れた。本題を聞こう」
―――まず頼みがあるんだが、人化の術を覚えたい。俺たち世界蛇も銀羽の天使族に少なからず大事な眷属を玩具にされて殺された恨みがあるからな、しかしそのまま出ても地上が滅亡する。何とかならないかと思ってな。
「そのことなら、墓守修道女に伝えておく。祭壇のパスを頭部が通る分だけその時のみ開いておけば、問題はないだろう」
―――申し訳ないな。
「復讐したい、そういう奴を援助して背を後押ししてやるのも、私の仕事だ」
今はまだあまり大々的ではないが、神代のころには”誓約”なるシステムがあった。それぞれの神との間で交わされるある種の契約で、目の前の世界蛇とその眷属も、誓約によって成された関係だ。
―――銀羽の天使族の長は、自らのことを神と称しているとか。
「…そのようだな。冥界に堕ちたらタルタロスよりさらに深い地獄に半永久的に閉じ込めることになりそうだ」
暗月神の言ったことは、主に冥界での中での特別な罰だ。基本的に死が存在しない冥界において堕ちた神や天使を永遠に閉じ込めることのできる凄まじい煉獄。
また、先ほどから銀羽の天使族、と言っているが、彼ら含め今現在「天翼族」として認知されている種族は天使ではない。いや、その力の至極一端は扱えるものの、天界の聖天使たちと冥府の冥天使たちのような「本物」の足元にも及ばない。そもそも天使というものは、神の僕もとい従者なのだ。自ら神になろうとはしない。
―――あと、彼らは様々な国の闇部を唆して不要な悲劇を起こしているそうだ。早いうちに根絶しておくのがいいと思う。呪いの霧の国を返り撃った後、動くのがいいだろう。
「そうだな。その時は貴公らの眷属の力を借りれるか?」
―――お安い御用だ。フラムトにも伝えておこう。…次は祭壇の不死人についてだが…
「ああ、私が今まで目を付けた者の中でも段違いの潜在能力を秘めていたな……”心石”は戻されたのか?」
―――そのようだ。今は墓守修道女が様子を見ているみたいだな。
「潜在能力は歴代最高、の代わりに生前の影響か警戒心と心傷が非常に強いようだから、無理して外に出す必要もあるまい。………………ろくでなしどもを封じる火の封は今は問題ないか」
ふっと視線を外す。
―――ならこちらの用は済んだ。重ねて言うがいきなり呼び出して申し訳なかった。
「別にいい。じゃ、そちらもフラムトに伝えて準備を進めておいてくれ」
―――了解した。
…………視界が眩む。
***
―――目覚める直前の夢に似たやり取りの後、ヒビキは目覚めた。
壁際のソファーではスコールが寝こけている。そーっと起こすと、暫くぼーっとした様子を晒した後に完全に覚醒したらしい。
「おい、あの女王様が早速仕事をやり切ったみたいだぜ」
『…どれ?』
《イベントハイライト》
平素よりザ・ファイナルリコード・オンラインをプレイして頂き、誠にありがとうございます。今回のメンテナンスの補填のため、全プレイヤーの皆様に以下のアイテムをお贈りいたします。
第2章となりますイベント、【繁栄の大陸】におきまして、前回の開放に続いて【海民族領】と【獣人族領】が開放されました。無論新エリアに応じたモンスターとアイテムも追加されております。
また、それに従いそれに従い、【メニュー】の「ワールドマップ」に【海民族領】と【獣人族領】が追加記載されます。
次回のメンテナンスでは、【森妖精族領】と【竜燐族領】が開放される予定です。
全プレイヤーの皆様に、海民族領と獣人族領への通行証を配布いたします。
海民族領の大部分は海底ですので、それ相応の準備をしていくことをお勧めいたします。また、獣人属領の過半数のエリアではまともな灯りがございません。夜間行動する際は灯りを用意していくべきでしょう。
皆様のご武運をお祈りいたしております。
Re:ザ・ファイナルリコード・オンライン運営チーム
海民族領の大半は海底云々は、まあ誰もが予測できることだろう。運営は秘密主義。これはプレイヤー全員に共通した認識になっている。
『……ああ、確かに早いな。徹夜でもしたのか…?』
「ま、それは大丈夫だろ。で、どうするかだが……てかこれも、マジでどうしよう」
あの時からアイテムボックスに仕舞いこんだままの《血に酔った狩人の瞳》。なんだか手放してはいけない気がするのでボックスに仕舞ったが、地味に対処に困っていた。
『まず他の仲間を呼ばないのか?』
「んーにゃ、あいつらはあいつらで色々やってるだろ。カイとかユリィとか特に」
新しい素材に嬉々として金槌を取るカイと錬金セットを使って薬草・毒草・霊草・薬花・妖花・霊花を弄るユリィの姿が容易に想像できてしまった。特にカイはダインスレイフの銃を見てしまってから熱意が一層跳ね上がったような気がする。
唐突に、ピロンと音が鳴った。前置きの如く鳴ったその音の直後、女性の声が聞こえる。…囁きチャットと呼ばれる機能で、聞こえてきたのは聞き覚えのある声だ。
《…今、よろしいですか?》
《ああ、どうした?》
《お時間があれば、巨人墓場に来てください。ちょっとこまったことがいくつか発生していまして…》
《わかった。どうせ暇だったしすぐ行く》
《ありがとうございます。……ああ、一人で来てくださるとありがたいです。貴方にいつも同行している血晶精霊の方だと、魔力の残滓をもろに受けかねませんので》
《……わかった》
チャットが切れた。
『…………どうした?』
「んぁ、悪ぃ。ちょっと巨人墓場に呼ばれたから行ってくるわ。ここで待っててもいいし、自由行動してても別に構わないぜ。まあ困ったらすぐチャット繋げよ?取り返しのつかないことにしたくはねぇからな」
『了解した』
取り合えず後はそれぞれ行動に移すことにする。
…
――【巨人墓場】に転移する。相変わらず中は視界に不自由するほど暗いが、ヒビキには問題ない。
あっという間に最奥につき、篝火がぱちぱちと燃える脇の霧を潜る。
「…………?」
「申し訳ありません。この場所に少なからず、無法者が入ってきているようで…助けを借りたく、呼ばせていただきました」
「無法者…?」
「……普通に攻略している方々にはこちらも文句はないのですが、一部の者が棺を縛る鎖を壊したり、散らばる神器の破片の価値を知っているのか本来入ってはならない場所にまで踏み込んで破片を集めようとしたり、他の攻略者を見つけては殺して所持品を奪ったり…数え上げれば切りがありません。…暗月の末席に座らせて頂いている身としては、見逃すわけには参りません。しかし私はこの場を離れるわけにはいかないので……」
暗月の誓約。平たく言えば罪人を裁き、取り締まる警察の役目と、侵入者から青教の信徒を助ける守護者の役目を併せ持つ契約だ。故に暗月の誓約者たちは、暗月神に対する忠誠心と正義感が非常に強い。
目の前の修道女も、古くに誓約を結んだ一人だ。
「…………そうか。ここは私の領域だ。あまり身勝手な真似は控えて貰わねばな」
息をするように自然に、ほんの一瞬だけすり替わった。
「…………!?」
目を見開く修道女に背を向けて、頼まれごとを片付けるために薄暗闇の奥へ姿を眩ます。
…
――――移動する間に幾つかのパーティとすれ違ったが、特に問題はなかった。
だが、【浮かぶ光】と光精石のカンテラを掲げたプレイヤーのパーティ。レベル帯が大体400~500であることと、ステータスの見合わなさから見て明らかにここに来るには無謀。しかし暗闇に満ちる魔力でデバフにかかることも無く、歩いてきている。それだけではただの無謀な集団なだけかもしれないが、彼らの話し声が疑惑に真実性を持たせた。
「――しっかし、ここの墓場はいい素材がたくさん取れるな!ただの欠片だと最初は思ってたが、これを持ち帰って武器を作れば俺たちは無敵だぜ!」
「そうだね。あとここに来れるような人からはレア防具もアイテムも獲り放題だよ」
「さっき奪った腕輪があれば、ここの中でも問題ないしな」
げらげらと、喧しい笑い声が聞こえる。先頭の金属鎧を着た男性プレイヤーが持っているのは、墓碑の周りに散っている神器の破片。確かに武器防具を作るときに一緒に使えば、性能を大幅に引き上げる。が、鍛冶屋の腕が未熟だと制作時に魔力の暴走を招き、もし出来上がっても武具には死んだ神々のある種の怨念が宿り、強力な呪いを纏った呪われた武具になる。
それを防ぐには類稀なる才能を持つ浄化師に浄化してもらってから使うしかないが、そんな才能を持った浄化師は今現在どこにもいn……あ、いや、1人だけいるが、彼は常に居場所を変えるので見つけることからして非常に困難だ。
それだけではない。奪った、とさっきはっきり明言していた。明らかに有罪だ。
ヒビキは黒いトレンチコートのフードをすっぽり被り、完璧に正体を隠している。そのまま彼らの横を通り過ぎようとした瞬間、彼らの中にいた盗賊姿の男性プレイヤーが何かを察知したのか、瞬時に前に回り込んでくる。
「おい、てめぇ。プレイヤーみてぇだが、とびっきりの宝をたんまり持ってんな?ごまかさねぇでよこせ」
(…………こいつ、馬鹿か?)
ヒビキは心底そう思った。そういうロールプレイをしているだけかもしれないが、こいつはダンジョン探索に精を出す技術系の盗賊ではない。他の面々もいわゆる悪党プレイヤーなのだろう。
「俺の【解析】じゃ性能までは見えねぇが、その防具は相当なレアもんだ。逃がさねぇぜ?今までこの墓場で遭った奴らからは所持品を全部おいしくいただいてるんだ。てめぇもおとなしく宝を差し出した方がいいぜ。俺たちはレアな宝のためならなんだってやるからなぁ」
盗賊男プレイヤーの言に、他も「そうそう。そんなひょろっちいナリで冒険者よくやれんなぁ」「あたしらはしつこいんだ、早く宝をよこしな」などと追従する。……この言から見るに、リコード世界の住人も混じっている。
確かにヒビキの纏う黒い軍服【冥府竜シリーズ】は見た目と性能の両方で有名な防具だ。特に闇属性魔法を扱う技量戦士や弓使い、見た目的には軍服がドストライクゾーンにクるマニアなどに人気がある。しかしヒビキが纏う軍服はカイの魔改造とヒビキの刻印術、ユリィの合成錬金によってもはやオリジナルとは別物と化している。
(さて、どうするか)
暗月神に入れ替わってやってもらうのも手だが、やりすぎる可能性が否めない。こいつらを殺してしまうと意味がないのだ。まあ出方次第でいいか、と考え直す。
(じゃ、ちょっとより証拠を揃えるために……【解析】)
スキル【解析】では、レベル差に応じて名前、職業、ステータス、状態異常、あと、”賞罰欄”なる項目が実は最近追加された。名の通り、”賞”は今までのある程度以上大きい貢献や与えられた名誉が記録される。”罰”は今まで犯した罪と、それに課された罰が記録される。
結果。
(おーおー。救いようもないほどやらかしてんなぁこいつらは)
正直、心底呆れてしまった。
…
――――不意に脳がぐらつき、激しい眩暈と痛みを覚える。
周りは何もない、ただただ漆黒の真っ暗闇。真の死へと繋がる、真の深淵。
また眩暈がする。頭がガンガン痛みを訴えてくる。意識を保つので一苦労だ。
―――いや、無理矢理呼んですまないな。陰の太陽神よ。話があってな、《血に酔った狩人の瞳》にこちらからパスを繋いで貴公が宿っていた身体ごと呼ばせて頂いた。
目の先に、巨大な蛇の姿がある。一対の世界蛇の片割れ、不死を唆す闇霊の統率者。
「何の話だ?」
瞬きした直後、すり替わるように色が変わった紫の瞳が冷たく輝く。
―――主に銀羽の天使族の対処だな。あと火の封の不死人についてだ。
「ああ…あの傲慢と強欲が過ぎた者どもか。長きにわたって罪なき人々の命を悪趣味な賭け事や娯楽の玩具として遊んできた罪は重い。冥府では間違いなく最低数千年はタルタロス行きだな。
…………話が逸れた。本題を聞こう」
―――まず頼みがあるんだが、人化の術を覚えたい。俺たち世界蛇も銀羽の天使族に少なからず大事な眷属を玩具にされて殺された恨みがあるからな、しかしそのまま出ても地上が滅亡する。何とかならないかと思ってな。
「そのことなら、墓守修道女に伝えておく。祭壇のパスを頭部が通る分だけその時のみ開いておけば、問題はないだろう」
―――申し訳ないな。
「復讐したい、そういう奴を援助して背を後押ししてやるのも、私の仕事だ」
今はまだあまり大々的ではないが、神代のころには”誓約”なるシステムがあった。それぞれの神との間で交わされるある種の契約で、目の前の世界蛇とその眷属も、誓約によって成された関係だ。
―――銀羽の天使族の長は、自らのことを神と称しているとか。
「…そのようだな。冥界に堕ちたらタルタロスよりさらに深い地獄に半永久的に閉じ込めることになりそうだ」
暗月神の言ったことは、主に冥界での中での特別な罰だ。基本的に死が存在しない冥界において堕ちた神や天使を永遠に閉じ込めることのできる凄まじい煉獄。
また、先ほどから銀羽の天使族、と言っているが、彼ら含め今現在「天翼族」として認知されている種族は天使ではない。いや、その力の至極一端は扱えるものの、天界の聖天使たちと冥府の冥天使たちのような「本物」の足元にも及ばない。そもそも天使というものは、神の僕もとい従者なのだ。自ら神になろうとはしない。
―――あと、彼らは様々な国の闇部を唆して不要な悲劇を起こしているそうだ。早いうちに根絶しておくのがいいと思う。呪いの霧の国を返り撃った後、動くのがいいだろう。
「そうだな。その時は貴公らの眷属の力を借りれるか?」
―――お安い御用だ。フラムトにも伝えておこう。…次は祭壇の不死人についてだが…
「ああ、私が今まで目を付けた者の中でも段違いの潜在能力を秘めていたな……”心石”は戻されたのか?」
―――そのようだ。今は墓守修道女が様子を見ているみたいだな。
「潜在能力は歴代最高、の代わりに生前の影響か警戒心と心傷が非常に強いようだから、無理して外に出す必要もあるまい。………………ろくでなしどもを封じる火の封は今は問題ないか」
ふっと視線を外す。
―――ならこちらの用は済んだ。重ねて言うがいきなり呼び出して申し訳なかった。
「別にいい。じゃ、そちらもフラムトに伝えて準備を進めておいてくれ」
―――了解した。
…………視界が眩む。
***
―――目覚める直前の夢に似たやり取りの後、ヒビキは目覚めた。
壁際のソファーではスコールが寝こけている。そーっと起こすと、暫くぼーっとした様子を晒した後に完全に覚醒したらしい。
「おい、あの女王様が早速仕事をやり切ったみたいだぜ」
『…どれ?』
《イベントハイライト》
平素よりザ・ファイナルリコード・オンラインをプレイして頂き、誠にありがとうございます。今回のメンテナンスの補填のため、全プレイヤーの皆様に以下のアイテムをお贈りいたします。
第2章となりますイベント、【繁栄の大陸】におきまして、前回の開放に続いて【海民族領】と【獣人族領】が開放されました。無論新エリアに応じたモンスターとアイテムも追加されております。
また、それに従いそれに従い、【メニュー】の「ワールドマップ」に【海民族領】と【獣人族領】が追加記載されます。
次回のメンテナンスでは、【森妖精族領】と【竜燐族領】が開放される予定です。
全プレイヤーの皆様に、海民族領と獣人族領への通行証を配布いたします。
海民族領の大部分は海底ですので、それ相応の準備をしていくことをお勧めいたします。また、獣人属領の過半数のエリアではまともな灯りがございません。夜間行動する際は灯りを用意していくべきでしょう。
皆様のご武運をお祈りいたしております。
Re:ザ・ファイナルリコード・オンライン運営チーム
海民族領の大半は海底云々は、まあ誰もが予測できることだろう。運営は秘密主義。これはプレイヤー全員に共通した認識になっている。
『……ああ、確かに早いな。徹夜でもしたのか…?』
「ま、それは大丈夫だろ。で、どうするかだが……てかこれも、マジでどうしよう」
あの時からアイテムボックスに仕舞いこんだままの《血に酔った狩人の瞳》。なんだか手放してはいけない気がするのでボックスに仕舞ったが、地味に対処に困っていた。
『まず他の仲間を呼ばないのか?』
「んーにゃ、あいつらはあいつらで色々やってるだろ。カイとかユリィとか特に」
新しい素材に嬉々として金槌を取るカイと錬金セットを使って薬草・毒草・霊草・薬花・妖花・霊花を弄るユリィの姿が容易に想像できてしまった。特にカイはダインスレイフの銃を見てしまってから熱意が一層跳ね上がったような気がする。
唐突に、ピロンと音が鳴った。前置きの如く鳴ったその音の直後、女性の声が聞こえる。…囁きチャットと呼ばれる機能で、聞こえてきたのは聞き覚えのある声だ。
《…今、よろしいですか?》
《ああ、どうした?》
《お時間があれば、巨人墓場に来てください。ちょっとこまったことがいくつか発生していまして…》
《わかった。どうせ暇だったしすぐ行く》
《ありがとうございます。……ああ、一人で来てくださるとありがたいです。貴方にいつも同行している血晶精霊の方だと、魔力の残滓をもろに受けかねませんので》
《……わかった》
チャットが切れた。
『…………どうした?』
「んぁ、悪ぃ。ちょっと巨人墓場に呼ばれたから行ってくるわ。ここで待っててもいいし、自由行動してても別に構わないぜ。まあ困ったらすぐチャット繋げよ?取り返しのつかないことにしたくはねぇからな」
『了解した』
取り合えず後はそれぞれ行動に移すことにする。
…
――【巨人墓場】に転移する。相変わらず中は視界に不自由するほど暗いが、ヒビキには問題ない。
あっという間に最奥につき、篝火がぱちぱちと燃える脇の霧を潜る。
「…………?」
「申し訳ありません。この場所に少なからず、無法者が入ってきているようで…助けを借りたく、呼ばせていただきました」
「無法者…?」
「……普通に攻略している方々にはこちらも文句はないのですが、一部の者が棺を縛る鎖を壊したり、散らばる神器の破片の価値を知っているのか本来入ってはならない場所にまで踏み込んで破片を集めようとしたり、他の攻略者を見つけては殺して所持品を奪ったり…数え上げれば切りがありません。…暗月の末席に座らせて頂いている身としては、見逃すわけには参りません。しかし私はこの場を離れるわけにはいかないので……」
暗月の誓約。平たく言えば罪人を裁き、取り締まる警察の役目と、侵入者から青教の信徒を助ける守護者の役目を併せ持つ契約だ。故に暗月の誓約者たちは、暗月神に対する忠誠心と正義感が非常に強い。
目の前の修道女も、古くに誓約を結んだ一人だ。
「…………そうか。ここは私の領域だ。あまり身勝手な真似は控えて貰わねばな」
息をするように自然に、ほんの一瞬だけすり替わった。
「…………!?」
目を見開く修道女に背を向けて、頼まれごとを片付けるために薄暗闇の奥へ姿を眩ます。
…
――――移動する間に幾つかのパーティとすれ違ったが、特に問題はなかった。
だが、【浮かぶ光】と光精石のカンテラを掲げたプレイヤーのパーティ。レベル帯が大体400~500であることと、ステータスの見合わなさから見て明らかにここに来るには無謀。しかし暗闇に満ちる魔力でデバフにかかることも無く、歩いてきている。それだけではただの無謀な集団なだけかもしれないが、彼らの話し声が疑惑に真実性を持たせた。
「――しっかし、ここの墓場はいい素材がたくさん取れるな!ただの欠片だと最初は思ってたが、これを持ち帰って武器を作れば俺たちは無敵だぜ!」
「そうだね。あとここに来れるような人からはレア防具もアイテムも獲り放題だよ」
「さっき奪った腕輪があれば、ここの中でも問題ないしな」
げらげらと、喧しい笑い声が聞こえる。先頭の金属鎧を着た男性プレイヤーが持っているのは、墓碑の周りに散っている神器の破片。確かに武器防具を作るときに一緒に使えば、性能を大幅に引き上げる。が、鍛冶屋の腕が未熟だと制作時に魔力の暴走を招き、もし出来上がっても武具には死んだ神々のある種の怨念が宿り、強力な呪いを纏った呪われた武具になる。
それを防ぐには類稀なる才能を持つ浄化師に浄化してもらってから使うしかないが、そんな才能を持った浄化師は今現在どこにもいn……あ、いや、1人だけいるが、彼は常に居場所を変えるので見つけることからして非常に困難だ。
それだけではない。奪った、とさっきはっきり明言していた。明らかに有罪だ。
ヒビキは黒いトレンチコートのフードをすっぽり被り、完璧に正体を隠している。そのまま彼らの横を通り過ぎようとした瞬間、彼らの中にいた盗賊姿の男性プレイヤーが何かを察知したのか、瞬時に前に回り込んでくる。
「おい、てめぇ。プレイヤーみてぇだが、とびっきりの宝をたんまり持ってんな?ごまかさねぇでよこせ」
(…………こいつ、馬鹿か?)
ヒビキは心底そう思った。そういうロールプレイをしているだけかもしれないが、こいつはダンジョン探索に精を出す技術系の盗賊ではない。他の面々もいわゆる悪党プレイヤーなのだろう。
「俺の【解析】じゃ性能までは見えねぇが、その防具は相当なレアもんだ。逃がさねぇぜ?今までこの墓場で遭った奴らからは所持品を全部おいしくいただいてるんだ。てめぇもおとなしく宝を差し出した方がいいぜ。俺たちはレアな宝のためならなんだってやるからなぁ」
盗賊男プレイヤーの言に、他も「そうそう。そんなひょろっちいナリで冒険者よくやれんなぁ」「あたしらはしつこいんだ、早く宝をよこしな」などと追従する。……この言から見るに、リコード世界の住人も混じっている。
確かにヒビキの纏う黒い軍服【冥府竜シリーズ】は見た目と性能の両方で有名な防具だ。特に闇属性魔法を扱う技量戦士や弓使い、見た目的には軍服がドストライクゾーンにクるマニアなどに人気がある。しかしヒビキが纏う軍服はカイの魔改造とヒビキの刻印術、ユリィの合成錬金によってもはやオリジナルとは別物と化している。
(さて、どうするか)
暗月神に入れ替わってやってもらうのも手だが、やりすぎる可能性が否めない。こいつらを殺してしまうと意味がないのだ。まあ出方次第でいいか、と考え直す。
(じゃ、ちょっとより証拠を揃えるために……【解析】)
スキル【解析】では、レベル差に応じて名前、職業、ステータス、状態異常、あと、”賞罰欄”なる項目が実は最近追加された。名の通り、”賞”は今までのある程度以上大きい貢献や与えられた名誉が記録される。”罰”は今まで犯した罪と、それに課された罰が記録される。
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